●菜の花食堂のささやかな事件簿 裏切りのジャム 碧野圭
前作に続く、菜の花食堂シリーズ4作目、以下の5編からなる短編集。
「春菊は調和する」
菜の花食堂の料理教室に新しい生徒水野裕美がやって来る。彼女は夫がダイエットしても痩せないことを心配していた…
「セロリは変わっていく」
菜の花食堂の前に犬が捨てられる。店の客としてきていた母娘がその犬を気に入り毎日散歩させることに。しかし意外なことから犬の持ち主が判明する…
「裏切りのジャム」
菜の花食堂が他の店に置いてもらっている瓶詰めのジャムがカビていたというクレームが入る。クレームは3件続く。不審に思った優希と靖子先生はクレームの出た店やジャムについて調べ始める…
「玉ねぎは二つの顔を持つ」
食堂の料理教室の生徒で新婚の小松原さつきが義母について話す。義母との同居を厭わない彼女だったが、なぜか義母は同居を拒む。その理由を靖子先生が推理する。
「タケノコは成長する」
前作で優希が料理を作ってあげることになった川島さん。しかし優希が彼の部屋に行くと野菜や調味料が減っていた。折しも川島から料理作りのバイトについて相談があると言われた優希は川島に恋人が出来たと考え落ち込んでしまい、その結果怪我をしてしまう。落ち込む優希に靖子先生があるアドバイスをするが…
前作に続きシリーズも4作目。優希も正式に菜の花食堂で働くことになるが、彼女が力を入れていた瓶詰めジャムで事件が起きる「裏切りのジャム」。それは悪質なものだった。また前作で登場した川島とのことについても優希は悩むことになる「タケノコは成長する」。シリーズの中の話が少しずつ展開していっているのがわかる。
「春菊は調和する」と「「玉ねぎは二つの顔を持つ」は食堂の料理教室の生徒が関わる話。どちらも生徒達が持つ悩みを靖子先生が見事に解決する。
「セロリは変わっていく」は本作の中ではちょっと変わった話。食堂前に捨てられていた犬の話。飼い主が見つからないが、菜の花食堂の皆や偶然居合わせた母娘客が犬の可愛さにハマっていくのだが、あることがきっかけで犬の飼い主が判明する。しかし犬を返せば良い、という展開にはならなかった。
最近読んでいる短編集は他に、「紅雲町珈琲屋」シリーズや「スープ屋しずく」シリーズなどがあるが、そのどちらも短編集の形をとりながら実は長編だったり、扱っているテーマが結構重かったり(話は面白い)。それに比べて、この「菜の花食堂」シリーズは純然たる短編集であり、ひとつ一つの話が重くなく気軽に読めるのが良いところ。中には「セロリは変わっていく」のようにちょっとしたカタルシスを感じる話もある。さすがに「書店ガール」の作者といったところか。
3作目まで1年ごとに発刊されていたシリーズだが、本作4作目は3年を経ての新刊。優希と川島の今後なども気になるが、次回作が読めるのはいつになるのだろう(笑