雀師流転 阿佐田哲也

●雀師流転 阿佐田哲也

 阿佐田哲也コレクションの中の1冊。未完となってしまった長編「雀師流転」と文庫本未収録のエッセイ「麻雀師渡世」から23編を精選。

 「これがオレの麻雀」以来、約2年ぶりに阿佐田哲也氏の本を読んだ。「雀師流転」は、昔近代麻雀の別冊が雑誌の形で出版され、その中で未収録作品ということで一部を読んだことがあるが、通しで読んだのは初めて。「麻雀放浪記」や「ドサ健ばくち地獄」などを彷彿とさせる麻雀小説で思わずニヤリとしてしまった。私とボッチの戦いがこれからだという場面で終わってしまっているのは非常に残念。久しぶりに阿佐田氏の闘牌場面を読むことができたことで満足しなければいけないか。

 エッセイの方も面白かった。阿佐田哲也のエッセイはほとんど読んでいるが、麻雀を題材にしたものは大きく二つに分けることができる。一つは氏が小説家となった時代を描いたもの、もう一つは氏の若い頃、つまり放浪している熱い時代の思い出を描いたもの。本作に納められたエッセイの多くが放浪している若い頃のもののため、非常に面白く読んだ。他のエッセイでも触れられているエピソードも多いが、「雀師流転」と同様、久しぶりに熱い麻雀が打ちたくなってくる(笑

 数多くのエッセイが掲載されているが、一つ二つ記録しておく。

「ネギカモ大社長の高笑い!」は数ページのエッセイだが、阿佐田哲也らしいどんでん返しのあるエッセイ。麻雀ボーイ(今で言う麻雀店のメンバー)の誕生の由来を描くものかと思いきや、カモ扱いされていた社長が見事なオチをつけてくれる。

「南郷元准尉・雀荘に戦死す」は戦後直後の雀荘の姿を描きつつ、戦争で人生を狂わされた男の悲しい物語。それでいてしっかりと麻雀小説になっているのが阿佐田哲也らしい。

 

 偶然だが、先日NHKの番組で和田誠さんのドキュメントを見て、彼が映画「麻雀放浪記」の監督になった経緯を知った。あー、「麻雀放浪記」を何十年かぶりで読んでみるか。