古書カフェすみれ屋と本のソムリエ 里見蘭

●古書カフェすみれ屋と本のソムリエ 里見蘭

 古書カフェすみれ屋は玉川すみれがオーナー、店の奥は古書店になっており店長は紙野頁。カフェに来た客の悩みを聞いた紙野がその客に一冊の本をオススメしながら、客の悩みを解決していく「古書カフェすみれ屋」シリーズの第1作。以下の5編からなる短編集。

 

「恋人たちの贈りもの」

 常連客の高原君とその恋人美雪が相手に送るクリスマスプレゼントを考えていた。紙野は美雪に「Oヘンリ短編集(二)」を勧める。

 

「ランチタイムに待ちぼうけ」

 年配の男性客池本は常に待ち合わせだと言って来店するが、相手はいつも来なかった。ある時池本が写真集「センチメンタルな旅・冬の旅」に関して紙野と議論を始める。

 

「百万円の本」

 井上香奈子と健太親子が客として来店する。健太は学校でも香奈子の再婚相手にもひどい態度を取っていた。紙野は香奈子に「にんじん」を読むように勧める。

 

「火曜の夜と水曜の夜」

 店で知り合った男性二人馬場と本城。彼らの話を聞いていたすみれは、翌日店に来た女性客由貴子と愛理のうち、由貴子が馬場の妻であることに気づく。紙野は由貴子に「料理歳時記」を勧める。

 

「自由帳の三日月猫」

 店に置いた自由帳に猫のイラストと不思議な暗号文が書かれる。すみれはあまり気にしていなかったが、常連客たちが興味を示す。そんな中、女性客富永春香がその猫が自分が飼っていた猫だと告げる。彼女はストーカーに悩まされていた。紙野は「猫語の教科書」を彼女に勧める。

 

 最近読んでいた「日常の謎」系のシリーズ物をほぼ読みつくしてしまったため、新しいシリーズに手を出すことに。これまでのものと同様、店の客の持ち込む謎を解いていくというストーリーだが、本作は一捻りしてあって、カフェの奥に設置されている古書店の店主が探偵役となっており、さらに各話とも一冊の本を客に勧めるというパターン。その一冊がまさに客の悩みを解決に導いていく。しかもその本は実在する本であるというのがウリ。

 

 1話目の「恋人たちの贈りもの」が上手かった。恋人たちの贈りものとくれば「Oヘンリ」はもってこいの一冊で、「賢者の贈り物」が当然頭に浮かぶ。二人の関係もその通りで、読んでいるこちらとしては「あぁそんな感じの小説か」と思っていたら、見事に騙された。上手にミスリードされた、という感じ。昨年の夏にOヘンリーの短編集を8冊も読んでいたので、私の場合はなおさらだった。

 他の話も2話目を除けば、どれもミスリードが上手かったという印象。さらに言えば、実在する本の内容とストーリーが上手くリンクしているのも見事。

 紙野が読ませたかったOヘンリの短編に記憶がなかったので、ネットで調べてみたら、やはり昨年読んだ8冊の中にはない短編だった。悔しい(笑

 どの話に出てくる実在の本も、読んでみたくなってしまう。「猫語の教科書」を早速図書館で予約してしまった(笑