ちどり亭にようこそ 〜京都の小さなお弁当屋さん〜 十三湊

●ちどり亭にようこそ 〜京都の小さなお弁当屋さん〜 十三湊

 京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」を舞台にした短編集。店主花柚さんは20代半ば、毎週お見合いをしている。花柚さんに酔いつぶれた際に助けられた大学生彗太は店を手伝うことに。なぜか店に入り浸っている花柚さんの従兄弟美津彦さん、同じ大学に通うバイト仲間の菜月、花柚さんの昔の許嫁永谷総一郎、などが繰り広げる弁当屋での出来事の数々。以下の5編からなる。

 

「桜始開、花見といつかのオムライス」

 彗太は菜月に惚れていたが、菜月は同じサークルの先輩久我さんに恋していた。しかし彗太は久我が同じサークルの彩子と付き合っていると見抜いていた。

 謎は「彗太はなぜ久我が彩子と付き合っていると見抜いたのか」

 

「玄鳥至、「黄色い麻薬」とお礼状」

 総一郎がちどり亭に仕事絡みの弁当の発注にやってくる。仕事で書道家泰山に頼みごとをするためだった。花柚は泰山のことを調べ、彼の妻の好物が「黄色い麻薬」であることを突き止め、弁当にそれを入れようとする…

 謎は「『黄色い麻薬』とは何か」

 

「虹始見、飾り切りと青菜のおひたし」

 ちどり亭に小学2年生のゆうやが出入りするようになる。元気な男の子だったが、花柚は彼に食べ物を与えないように注意する。やがてゆうやが遠足に持って行く弁当の話をし始めるが。

 謎は「ゆうやに食べ物を与えない理由は何か」

 

「牡丹華、だし巻き卵と献立帖」

 花柚の料理の師匠藤沢吉野が病床に。その師匠からお見舞いに何か食べ物を作ってきて欲しいと要望される。花柚は高齢者向けの料理を作って持っていくが、師匠はあまり口にしなかった。残念がる花柚に彗太はあるアドバイスをするが。

 謎は「なぜ師匠は花柚の作った弁当をあまり食べなかったのか」

 

「紅花栄、練習帖と最後のお弁当」

 総一郎がちどり亭に弁当の発注に来る。発注書に「結婚」という理由が書かれていた。美津彦から総一郎の見合いが決まったと聞いた花柚は、彼のために作る最後の弁当だと気合を入れて作るが。

 謎はなし。

 

 初めて読むシリーズ。ミステリ短編のつもりで読み始めたが、どうやらそっち系の話ではなく、人情ものと言ったところ。これまでこのブログで読んできたものの中では、「おけら長屋」シリーズに近い。

 弁当が主役の料理となるストーリーなので、弁当について様々なことが語られる。弁当に対する考えも改めて知らされたという感じ。

 もう一つ、ストーリーのメインとなるのが、主人公花柚と昔の許嫁総一郎の物語。子供の頃から許嫁であった二人だったが、花柚の兄が失踪したため、花柚が家を継ぐことになり、婚約は解消されてしまった。それでも二人は相手を想う。最終章でその想いが爆発する。花柚が涙ながらに最後の弁当を作るシーンは泣けてきてしまった。

 花柚総一郎の恋がメインならが、サブとなるのが彗太と菜月の恋。第1章で菜月は先輩に失恋してしまう。彗太は彼女のために料理を作って慰める。これも良いシーンなのだが、これが最終章への伏線になっているのがニクい。

 ミステリ要素は少ないが、人情ものとしてのレベルは高い。「おけら長屋」が江戸の貧乏長屋が舞台なのに対し、本作は京都の歴史ある旧家の跡取りたちの話。全く正反対なのも面白い。

 シリーズ化されているようなのでぜひ続きも読んでみたい。