初夏の訪問者 吉永南央

●初夏の訪問者 吉永南央

 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ第7作。コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の76歳の女主人、杉浦草が主人公。彼女の周りで起きる問題を彼女が解決していく短編集。「初夏の訪問者」「蜘蛛の網」「ががんぼ」「遥かな水音」「風ささやく」の5編。

 

 5月。近所に住む草と同年代の石井が長野への移住を決める。また近所のもり寿司は怪しい団体と提携しおかしな商売を始めていたが、店の主人の妻江子は妊娠していた。草の家に何度か訪問客があったようだが、草は会えずにいた。

 そんな中、男が草の前に現れる。近所で話題の誰に対しても優しいその男は、丹野学。彼は草の死んだ息子良一だと名乗る。3歳の時に事故死したはずの息子を名乗る男が目の前に現れ草は動揺する。

 丹野と会うために訪ねたマンションで、草は病院経営をしている宇佐木と出会う。彼の弟はアル中で有名だった。丹野は草が書いた昔の手紙を持っており、差出人の草の名前の横に「学のじつの母」と書かれていた。

 混乱する草は、学の母親であり、草が結婚時代に世話になったキクに会いに行く決意をする。

 

 前作「黄色い実」では久実に辛い事件が起きたが、本作では主人公草さんにさらに辛い出来事が起こる。死んだはずの息子の名前を語る男、学。しかも彼の持っていた手紙には信じられないことが書かれていた。動揺する草さんが哀れ。シリーズでずっと影の主人公とも言えた死んだ息子が目の前に現れるとは。

 前作でも久実の身に起きた事件が信じられなかったが、著者はまたも試練をレgつらーメンバーに与えるのかと思ってしまった。しかし真実は意外な展開を見せ、シリーズ愛読者としては一安心。

 他にも、近所の石井や宇佐木兄弟など、問題を抱えた人々が登場するが、それぞれの道においてなんとか問題を解決していく様はシリーズの持つ優しさだろう。

 救いは前作で悲劇に見舞われた久実が一ノ瀬との仲を大切に育てているところか。この二人の中にも問題が起きるが、無言でそれを受け入れていく久実が頼もしい。

 

 草さんの息子問題、もり寿司の怪しい商売、と老人に対する詐欺事件がテーマかと思ったが、それはメインテーマではなかったようだ。小さな街?に住む普通の人々の人生に待つ様々な問題を、彼ら自身が、時には周りの人々の力も借りて、一歩ずつ解決していく、というシリーズ通してのテーマが本作でも描かれていた。