ちどり亭にようこそ 〜彗星の夜と幸福な日〜 十三湊

●ちどり亭にようこそ 〜彗星の夜と幸福な日〜 十三湊

 京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」を舞台にした短編集の4作目にして完結編。店主花柚さんは20代半ば、毎週お見合いをしている。花柚さんに酔いつぶれた際に助けられた大学生彗太は店を手伝うことに。なぜか店に入り浸っている花柚さんの従兄弟美津彦さん、同じ大学に通うバイト仲間の菜月、花柚さんの昔の許嫁永谷総一郎、などが繰り広げる弁当屋での出来事の数々。以下の5編からなる。

 

「閉塞成冬、「冷や飯食い」と彗星の夜」

 ちどり亭に総一郎の祖母が訪れる。挨拶に出た彗太に祖母は、夫が入院して病院に詰めなくてはいけないので、1週間自分のために弁当を作って欲しいと頼む。しかしそれは彗太が店を引き継ぐことの試験でもあった。さらに祖母は冷たくなる弁当が大嫌いな人でもあった。

 ポイントは「冷たくなるお弁当をいかにして美味しく食べてもらうのか」

 

「麋角解、松風焼きと年の暮れ」

 花柚さん結婚準備のため週末は店を休むことに。その間彗太は松園さんの店を手伝うことになった。松園さんの店の前には彼のことを憎む安藤さんが住んでいた。彼は何かにつけ松園さんを敵対視していた。ある時松園さんは安藤さんが飼っている犬の散歩をしてくれないかと彗太に頼む。

 ポイントは「なぜ松園さんは犬の散歩を頼んだのか」

 

「東風解凍、脅迫状と味卵」

 ちどり亭のブログに脅迫文が届く。しかしそれはブログをやめろというおかしな内容だった。さらに相手は2月10日の弁当に味玉を入れろと言ってくる。彗太は脅迫文を描いてくる相手を推理する。

 ポイントは「なぜ店を辞めさせるのではなく、ブログをやめろと言ってきたのか」

 

「桜始開、サムシングパープルと幸福な日」

 花柚さんと総一郎の結婚報告のための食事会が催される。彗太や松園さんをはじめ、皆が食事会のための準備に奔走するが、前日になりメニューに使うはずの食材が届かないというアクシデントが発生する。彗太は花柚さんの考えていた代案ではなく、自分の考えで別の料理を作ろうとする。

 

「番外編十年後の弁当 ウィークエンドにいちごシロップ」 

 10年前、花柚さんが総一郎のために初めてお弁当を作った際のエピソードが語られる。しかしそのお弁当をひっくり返してしまったため、花柚さんはそのお弁当を総一郎には出さなかった。

 そして現在。桜狩りの日に花柚さんはそのお弁当を10年ぶりに総一郎のために作ることに。

 

 楽しみに読んでいたシリーズが完結してしまった。軽い気持ちで読み始めたシリーズだったが、本当に良いシリーズでここ最近読んだ中のベストだと思う。

 花柚さんと総一郎の婚約破棄から始まったがラストは大団円となる。彗太の成長も見られ見事な結末だったと思う。ラストの大団円もシリーズの中で語られていた「初めてのお弁当」の秘話も明かされたし。

 

 食事会の後で美津彦が語ったゲーテの格言

「国王であれ、農民であれ、その家庭に平和を見いだせる者が、もっとも幸せである」

も良かったし、

 花柚さんの「みんな」のためのお弁当と、「だれか」のためのお弁当

という言葉も良かった。

 

 個人的には七十二候を知ることもでき、今ではスマホに今日の七十二候がわかるアプリを入れている。京都の名所が出てきたり、料理に関わる様々な知識が出てきて、本当に勉強にもなった。

 4冊で完結するには惜しいシリーズだと思うが仕方ない。著者の新しいシリーズに期待したい。