初秋の剣 大江戸定年組 風野真知雄

●初秋の剣 大江戸定年組 風野真知雄

 町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の5編からなる。

 

「隠れ家の女」

 霊岸島の油問屋布袋屋の主人幸蔵が藤村の家を訪ねてくる。彼の妻おちょうが何者かにさらわれ、投げ文があったとのこと。3人はおちょうを探し始めるが…

 

「獄門島

 「初秋亭」のそばにあった柳の木が切られる。話を聞けば30年前にも2本あったうちの1本が切られ、今回残っていた1本も切られたとのこと。藤村は柳の木にまつわるとある突飛もない想像をし、二人に話す。二人は笑うが、藤村の想像に近い真実が浮かび上がってくる。

 

「げむげむ坊主」

 江戸の町で「げむげむ坊主」を名乗る願人坊主が現れる。藤村はその件で評判の悪い岡っ引き鮫蔵と出会う。そんな中、げむげむ坊主が祈祷した飲み屋のおかみが亡くなってしまう。おかみの体には弁天様の彫り物があった。その後、げむげむ坊主がやくざ者に刺され死んでしまう。鮫蔵と藤村はげむげむ教にはまだ裏があると推理する。

 

「雨の花」

 仁左衛門が辻斬りを目撃する。男は紫の傘をさしていた。後日、夏木も辻斬りの現場に遭遇する。夏木は飲み屋で繁田という面白い男と知り合う。夏木は妾から聞いた話で紫色の傘を表具屋が作っていることを知り聞き込みに。問題の傘は十返舎一九が作ったものだと判明、しかも重田がその十返舎一九だとわかる。一九の話から傘を持った人間が辻斬りにあっていること、辻斬りの理由も判明する。そして一九が襲われそうになるが…

 

「昔の絵」

 少女の死体が見つかる。現場近くで白い着物を着た人間と黒い着物を着た人間が目撃されていた。間も無く下手人が捕まるが、白い着物を着ていた。藤村は黒い着物を着ていた人間が気にかかり調べ始めるが、その頃売れていた絵の絵師歌川重春の絵が現場の絵とそっくりであることに気づく。そして彼と話すが、重春の考えに藤村は驚くことになる。

 

 「日常の謎」系のシリーズものを多く読んできて、読むものがなくなりつつあったため、久しぶりに時代小説のシリーズものを読むことに。時代小説のシリーズは数多くあるので少し悩んだが、定年者という点に惹かれこのシリーズを選んだ。

 時代小説の隠居ものといえば、藤沢周平の「三屋清左衛門残日録」という大傑作があるのでそれをイメージして読み始めたが、少しイメージとは異なった。まずz主人公が3人であるということ。3人は身分もバラバラであるため、様々な展開があるかと思ったが、どうも謎解きが主体となりそうな予感。つまり主役は元同心の藤村ということになるのだろう。

 一方で残りの二人、旗本の夏木は若い妾に翻弄され、町人の仁左衛門は若い妻を気にかけている。3人の選んだ「初秋亭」は魅力的で、3人揃って俳句を始めるのも興味深い。シリーズ第1作の本作は地味な展開だったが、シリーズはまだまだ続くようだ。どんな展開を見せるか楽しみながら読んでみたい。