さとり世代探偵のゆるやかな日常 九頭竜正志

●さとり世代探偵のゆるやかな日常 九頭竜正志

 主人公田中綾高(ニックネーム、アヤタ)は幼馴染の灯影院(ほかげいん)と同じ大学に通っている。灯影院からの誘いで「探偵同好会」に所属し身の回りで起きた謎を解くことに。ある時、同好会の坂本先輩の実家に行くことになり、そこで起きた殺人事件に巻き込まれるが…。以下の6編からなる短編集。

 

「前向きに」

 授業を受けるために大学に行ったアヤタは入口で講師である教授の姿を見かけるが、その授業が休講となる。灯影院は教授が休講とした理由を大胆に推理するのだが…

 

「車は急に」

 アヤタは灯影院と共に自動車教習所に通う。一緒に路上講習と受けることになったが、教習所に戻ってきた時に灯影院が先行していたアヤタの車を強引に止める。その理由とは…

 

「買ったばかりの弁当を捨てる女」

 アヤタがバイトをしているコンビニで、買ったばかりの弁当を店の外に捨てる女性客が現れる。不思議に思ったアヤタはそのことを灯影院に相談すると彼は意外な推理を話し始める。

 

「七夕伝説と、坂本先輩の推理」

 学内で七夕のイベントが行われアヤタはイベントを行っている研究会の広瀬と出会う。坂本先輩も合流したが、広瀬は白紙の短冊が数枚飾られている謎について話し出す。

 

「流霊島事件」

 同好会の合宿をすることになり、坂本先輩の実家がある流霊島へ行くことに。しかし島での滞在中に殺人事件が発生、坂本先輩の弟が亡くなってしまう。犯人は捕まるが、アヤタは違和感を覚えていた。灯影院は意外な推理を語り出す。

 

「郵便受けの中に」

 灯影院の推理は驚くべきものだった。坂本先輩とはそれ以降連絡が取れなくなってしまう。文化祭が開かれアヤタは灯影院と共に無料探偵相談を開くが、そこにきた学生の言葉から、灯影院は坂本先輩の居所を推理、先輩のためにその恋人に連絡をすることになるが…

 

 タイトルから、若者が主人公のゆるい「日常の謎」系の推理小説だと思い読み始めた。全く思った通りの小説で、主人公二人のゆるい会話が中心の気楽なストーリーだった。

 第1章の灯影院の推理は見事に的外れであり、見事な展開。ホームズの推理力をパロディしたものはいくつも読んだが、そのうちの一つと言って良いだろう。しかし第2章ではちょっとした伏線もあり、まさに「日常の謎」が見事に灯影院により推理され、ちょっと驚く。第3章も同様、意外な推理であったが、なるほどね、と思わせてくれた。

 第4章が正直なところ、?と思う展開だったが、第5章となりそれまでとは全く異なる展開に。まさに横溝正史の世界のような…。本家と分家がある島での生活、坂本先輩の家族のおかしな態度、そして島で知り合った先輩の弟の死。まるで違う話を読んでいるようだったが、不思議とバランスは取れていた感じはする。

 そして5章のラストで明かされる真実。このトリックも前例がないわけではないが、上手く騙された、という感じ。ここまでわかると、5章での先輩の家族の異常さなども理解できる。

 一見ゆるいストーリーのように見せておきながら、後半シビアな世界観を見せる、ということをやりたかったのだろう。それは成功しているように思えるが、前半のゆるい世界観の方がもっと読みたかったので残念。

 wikiによればこの著者の作品は今のところ、これ1作。ゆるい世界観で新しいシリーズを作り上げてくれないかなぁ、と期待。