菩薩の船 大江戸定年組 風野真知雄

●菩薩の船 大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第2作。町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の5編からなる。

 

「菩薩の船」

 札差島原屋長八郎の妻美佐と薬種問屋赤虎屋弥助の家内登美が藤村に相談にやって来る。二人の夫が秘密の会合を持っているのでは、というのが相談の内容だった。夫たちは60歳近い年齢であり女だとは思われない。藤村は夫たちが出向くという店「うなじ」の別邸を突き止め、張り込むがそこで意外な真相を知ることになる。

 

「森の女」

 西平野町の森に夜裸の女が現れるという怪談じみた話が話題になる。一方藤村は俳句の師匠かな女が男ともめている現場を目撃する。その男は岩井五之助という役者だった。後日、かな女が初秋亭に駆け込んできて、五之助が師匠である全四郎を殴ってしまったと訴える。藤村は、鮫蔵とかな女とともに全四郎の元へ行くが、そこでことの真相を理解する。

 

「青猫」

 青猫とあだ名されるすばしっこい泥棒が深川界隈を荒らしていた。藤村の息子康四郎が青猫探索の担当となり、鳶の三七が青猫だと投げ文があったと聞く。その当人である三七が藤村に青猫だと疑われていると相談にやって来る。その後、夏木の息子洋蔵のおかげで三七が青猫が盗んだ品を骨董屋に売っていたことが判明。三七に事情を聞くと、意外な真相が明らかになる。

 

「幼なじみ」

 任左衛門は昔の友人浜田三次郎の墓参りに行った際に、三次郎の妹久美と出会う。そして三次郎が死の間際、天球儀を騙されて買わされたことを知る。三次郎は藤村たち3人の友人であったため、天球儀を売った人物、仲介した人物の名を聞き、調査を始める。そこで三次郎の死の真相を知ることになる。

 

「老いた剣豪」

 深川永代橋のそばで辻斬りが発生する。3人は常連である飲み屋海の牙で飲んでいるときに百歳だと名乗る梅木と知り合う。数日後、初秋亭に桑田という男が現れ、梅木から自分は祖父の仇である、仇討ちをされよと言われつきまとわれて困っていると相談を受ける。藤村たちは梅木と話をしに行く。梅木は桑田と話をさせて欲しいと頼む。藤村は梅木と桑田を引き合わせることにするが、二人が会う場所で辻斬りが現れ、桑田は斬られ、梅木も怪我を負う。しかし梅木は辻斬りの正体を見抜いていた。

 

 シリーズ2作目。3人はよろず相談屋のようになってきている。夫の不審な行動、怪談話、泥棒騒動、13回忌を迎えた友の死の真相、辻斬り、と内容は様々。必ずしも誰かから相談を受けなくても、3人は事件に関わることになっている。

 1作目の地味さは無くなったように思うが、各々の話が短いせいか、軽い感じがしてしまう。読む分には気楽で良い反面、時代小説らしい重厚さはない。

 シリーズの見所の一つは「定年組」という点であると思うが、本作で本線とは別の部分で夏木が妾に見放され落ち込むという話が展開、元気を取り戻すために無茶をする夏木が最終話で体調を悪くし倒れてしまう。この点はそのままに本作は終了してしまった。これでは次作を読まざるを得ないじゃないか(笑

 3人の俳句の師匠かな女との関係や藤村と夏木の息子たちも事件に絡んで来るシーンが増えてきた。少しずつシリーズも面白い展開を見せてくれることを期待し、第3作も読んでみようか。