戻り舟同心 長谷川卓

●戻り舟同心 長谷川卓

 同心を息子に譲り隠居していた二ツ森伝次郎が奉行所から永尋(ながたずね〜未解決事件)の担当として復帰する。同僚だった染葉、現役時代に使っていた岡っ引き鍋虎と孫の隼などと一緒に事件解決に奔走する。シリーズ第1作、以下の3編からなる。

 

「一番手柄」

 江戸追放となった弁天の常七を見かけた伝次郎は彼を見張ることに。そのうち、常七が盗賊夜烏の伊兵衛と関係していることがわかり、大捕物となる。

 

「嫌な奴」

 息子清兵衛が濡れ衣を着せられていると母親初が伝次郎に訴えてくる。9年前線香問屋西村屋で当主の娘福が刺され殺された。福と恋仲だった清兵衛は現場から逃げるところを目撃されていたのだった。伝次郎は9年前の娘殺しの真相を突き止める。

 

「何も聞かねえ」

 13年前の事件を追っていた伝次郎は犯人を突き止めるがすでに犯人は死んでいた。その夜飲み屋からの帰り、伝次郎は浪人に襲われる。それは二度目のことだった。伝次郎は今抱えている事件の関係者が真相を突き止められるのを嫌って差し向けた刺客だと考え、その35年前の事件の関係者を調べ直すことに。また襲ってきた刺客を捕らえ、35年前の真相が見えてくる。

 

 久しぶりに時代小説を読み始めたが、「初秋の剣」が軽めの小説であったため、ネットで評判の良い本作を読んだ。

 「初秋の剣」に比べ1話1話が長いためか、そればかりではないだろうが、内容が濃く感じる。正式に奉行所の一員に復帰することになった本シリーズの主人公伝次郎が大変カッコ良い。配下の者との会話、犯人をあぶり出すための行動など、痺れさせてくれる。「鬼平犯科帳」を思い起こさせてくれる。

 主人公以外もキャラが立っている。配下の岡っ引き、その孫娘、伝次郎の息子と孫、同じ「永尋」の担当となる仲間達。最終章のラストでは、さらなるキャラが登場し、今後の展開を楽しみにさせてくれる。

 これは久々に良いシリーズに当たった感じがする。