戻り舟同心 逢魔刻 長谷川卓

●戻り舟同心 逢魔刻 長谷川卓

 同心を息子に譲り隠居していた二ツ森伝次郎が奉行所から永尋(ながたずね〜未解決事件)の担当として復帰する。同僚だった染葉、現役時代に使っていた岡っ引き鍋虎と孫の隼などと一緒に事件解決に奔走する。シリーズ第3作、以下の6編からなる長編。

 

 

「かどわかし」

 多助が偶然かどわかしの現場を目撃する。伝次郎たちの手を借りかどわかしは未遂に終わるが、犯人である籠屋夫婦が自害する。しかし夫婦の家を訪れていた者がいた。

 伝次郎は市中見廻りの際に手習所の師匠海野に目をつける。鍋虎が海野が25年前の殺人の関係者であることを思い出す。

 行き倒れの婆さんがあり、それが近の知り合いのお駒だと判明。

 また新たなかどわかしが発生、伝次郎は28年前にも短期間でかどわかしが立て続けに起きたことを思い出す。その話を聞いた河野が江戸で起きた過去の火事とかどわかしの記録を調べる。火事がなかった28年前と49年前にかどわかしが短期間で連続して起きていることがわかる。

 

「弔い合戦」

 真夏が小姓組番頭の関谷配下の菰田と立ち会うことになる。戦いは引き分けに終わる。

 海野のことを調べに駿河に行っていた房吉が戻り、海野が罪を犯していたことがわかる。海野を捕まえ、手習所を開いていた名張屋に知らせに行くと、鍋虎の息子吉三が21年前の火事で息子を亡くした名張屋にそのことを聞きに来ていたことが判明。

 伝次郎は磯部屋で港酒を飲んでいる時に、他の客の息子が瘡にかかっていること、傘には子供の肝が良く効くことを聞く。伝次郎は火事のどさくさに紛れかどわかしが起きており、実はかどわかしは毎年起きているのではと考える。

 お駒の服から迷子札が出て来る。伝次郎はお駒もかどわかしの一味に関わっていたと考え、吉三の手下だった与三松と伊助のことを探すことに。

 

「瘡」

 吉三の手下からは何も得られなかったが、瘡のことを医者玄庵に聞いた際に、関谷の息子が瘡にかかっていることが判明。関谷の屋敷の中間から出入りの薬問屋が高麗屋だと聞く。伝次郎たちは高麗屋を見張ることに。

 

「鬼の霍乱」

 伝次郎が風邪をひきしばらく休むことに。この間高麗屋の動きはなかった。復帰した伝次郎は男が高麗屋から出て来るのをみて、後をつける。男は百姓家に入る。そこは丑松という男が住む家だった。伝次郎はふとしたことから、丑松が牢屋同心の下で働く下男だったと気づく。丑松は下男をしていたから、死人から肝を取り出すこともできると考える。

 

「花島太郎兵衛」

 伝次郎は丑松の家でお駒が手伝っていたと考える。家に探りを入れるために元同心の花島を仲間に引き入れる。花島は女装が趣味の男だった。花島は女装し丑松の家に潜り込むことに成功する。丑松が留守の時に亥吉という男が訪ねて来る。伝次郎たちは亥吉の後をつけるが巻かれてしまう。

 

「六番目の男」

 またかどわかしが発生する。座禅豆売り夫婦が犯人で、夫婦は丑松の家に子供を連れてやって来る。そこへ伝次郎たちが踏み込み、彼らを捕まえる。後日家にやって来た亥吉も捕まえるが、誰も高麗屋との関係を口にはしなかった。

 伝次郎は損料屋で衣装を借り、大奥の人間に化けて高麗屋に乗り込むことに。さらに関谷の屋敷にも乗り込んで行く。

 

 シリーズ3作目にして初の長編。勾引かし未遂事件が発端。その後もかどわかしが起きたことから、伝次郎は江戸で勾引かしが常に起きていることに気づき、その裏にある恐ろしい企みに気づくことに。

 小さな事件から大きな事件に発展していく様が丁寧に描かれるため、不自然さや強引さは感じない。また本編とは関係のないように思える2つのエピソード、手習屋師匠の件と菰田と真夏の立ち合いも描かれ、長編ゆえのサブエピソードかと思いきや、これも本編へつながるものとなっており、その展開の上手さは見事。師匠の件は、鍋虎の死んだ息子が今回の大きな事件に先に気づいていたことにつながり、菰田の件は爽快なラストの斬り合いにつながる。

 前作で登場した多助や5章で登場する花島など、新たに永尋の仲間たちも増えて来た。キャラは総勢9名?ちょっと多いように思えるが、鬼平犯科帳でも、レギュラーの同心や密偵たちが10名ほどだったことを考えるとちょうど良い数なのかも。

 コメディリリーフだと思っていた伝次郎の孫正次郎も使い物になって来ている(笑

 ラストでは、真夏の父の復活も予言され、ますます展開が面白くなって来る予感。

 前作でも書いたが、本当にドラマ化されていないのが不思議なぐらいの出来。作者が既に亡くなっているのが本当残念なシリーズである。