高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗

●高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗

 息子に郡方の仕事を譲り、息子夫婦と暮らす50過ぎの庄左衛門。しかし息子啓一郎が事故で亡くなってしまう。嫁志穂を実家に返すが、志穂は庄左衛門に絵の指導をして欲しいと家に通うことに。志穂の弟のことが引き金となり、庄左衛門は弦之助と出会う。その弦之助と訪れた村で庄左衛門は思いがけない事件に遭遇する。以下の12編からなる長編時代小説。

 

一年目 おくれ毛/刃/遠方より来たる/雪うさぎ/夏の日に

二年目 嵐/遠い焰/罪と罠/花うつろい/落日

 

 一年目、庄左衛門の息子が事故で亡くなり、嫁志穂を実家に返すことになるが、庄左衛門に絵の指導を求めて、家に通うこととなる。志穂が弟宗太郎の行動が心配となり、庄左衛門は弟の行動を探る。そこで蕎麦屋の半次と出会う。ある日宗太郎が事を起こしたことを知った庄左衛門は現場に駆けつけるが、そこで弦之助と出会う。

 弦之助は息子と因縁のある相手だった。宗太郎とともに弦之助を襲おうとした影山敬作が何者かに殺されてしまう。弦之助は志穂たちに警護をつけることを提案、その代わりに庄左衛門とともに郷方廻りをすることに。新木村で庄左衛門は弦之助の生い立ちを知ることになる。

 蕎麦屋の半次が浪人に襲われ、庄左衛門が助ける。店を壊された半次を庄左衛門は小者として雇うことに。

 庄左衛門は墓参りの際に芳乃と出会う。彼女は庄左衛門が若い頃に通っていた道場の娘だった。

 

 二年目、庄左衛門は弦之助と新木村へ出向いた際に強訴騒ぎに出会い囚われてしまう。そこにはかつての道場仲間唯井慎造の姿があった。強訴騒ぎは家老の強硬策で打開されたが、庄左衛門には疑いがかかってしまう。それを助け、真相を暴いたのは弦之助の兄立花監物だった。

 

 ネットで話題となっていた時代小説。砂原さんの本「逆転の戦国史」は一度読んだことがあったが、あちらは小説ではなかったので、小説は初。

 読み始めてすぐにネットで絶賛されている理由がよくわかった。表現がいかにも、であり、風景描写なども申し分ないレベルにある。

 ストーリー展開も、前半に当たる「一年目」では、主人公庄左衛門に関わる登場人物たちが次々と現れ、それぞれが抱える問題が明らかになっていく。

 後半に当たる「二年目」では、突然大事件が発生、それを元にした裁きの場で、カタルシスとも言える展開が待っている。さらに前半での伏線も見事に回収、ある意味ミステリー調の小説とも言える。

 

 ネットで著者のインタビュー記事を読んだが、やはり著者は「三屋清左衛門残日録」のことを意識しているようで、「残日録」とは異なる舅と嫁の物語を作り上げている。

 庄左衛門の言葉に名言が多いのも良い。50過ぎの男が語る言葉の重いこと。著者はインタビューでこの時代の50過ぎは現在の60、70に相当すると言っているが、まさにその通りだと思う。こんな言葉を語ることのできる人間になりたいと思う。

 

 最近何種類かの時代小説を読んでいるが、これぞまさに藤沢周平の血を引いた一冊だと言える。今後シリーズ化されるそうなので、楽しみである。