弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇 喜多みどり

 夫婦となったユウと千春はくま弁を営んでいた。会社を退職した雪緒がくま弁を訪れバイト募集の紙を見て応募、宅配を主に受け持つことになる。新たにくま弁の一員となった雪緒がくま弁で働く姿を描く短編集、シリーズ第7作。以下の4編からなる。

 

冬至の夜のりょうおもい南瓜」

 雪緒は会社で後輩猪笹へのハラスメントをかばいきれず彼女が辞めてしまったことを後悔し会社を退社してしまう。保険給付までの3ヶ月間働くためにバイトを探していた時に、くま弁に立ち寄りバイト募集をしていることを知る。早速応募するがすでにバイト募集は終了していた。しかし後日くま弁を訪れた雪緒は、それが宅配のための車が手配できないためと知り、自分の車を提供するのでバイトさせて欲しいと訴え、働くことになる。

 雪緒が宅配をした最初のお客は、雪緒がくま弁に立ち寄ることになったきっかけを作ってくれた若い女性だった。雪緒は客のためにお品書きをその場でメモして渡す。それを見たその客はまたあなたに宅配をお願いしたいと話す。雪緒は女性がアイドル白鳥あまね(黒川茜)だと知ることになる。

 茜は仕事でトラブルを起こし世間の注目を浴びてしまったため故郷札幌に帰ってきていた。茜は雪緒が書いたメッセージに感謝する。

 

「豚汁、石狩鍋、三平汁」

 雪緒は宅配の常連客、雉村という高齢の女性から汁物の運び方について文句を言われる。その他にも体裁を気にする雉村から文句を言われ続ける雪緒だったが、ある時お品書きを渡すと代わりに雉村から野菜をもらうことに。翌日常連雉村からの注文がないことを気にした雪緒は雉村の家の様子がおかしいことに気づき管理人とともに家へ入る。すると雉村が倒れていた。後日お見舞いに行った雪緒は雉村が野菜作りをやめると聞く。彼女が捨てるつもりだった野菜をもらいそれを店で料理してもらい届けることに。それを見た雉村は自分の子供たちに厳しく接してきたことを語り出す。

 

「二十二時のきんぴらおにぎりエトセトラ」

 くま弁に雪緒が勤めていた会社から注文が入る。雪緒はハラスメントをした元同僚鷹森のことが頭に浮かんだが配達をすることに。すると届け先の会社でその元同僚と口論になってしまい、鷹森に突き飛ばされて首に怪我をしてしまう。帰り道落ち込む雪緒は茜と出会い彼女の家へ招かれる。その頃会社では鷹森が雪緒が届けたおにぎりを食べていた。翌日店に注文をしてきた会社の男性粕井が雪緒を訪ねてくる。

 

「父と娘の玉子焼き」

 店で食事をしていた雪緒を黒川が訪ねてきて茜に卵焼きを届けて欲しいと頼んでくる。黒川は娘のことを心配していたが茜は父親と会おうとしていなかった。雪緒は配達に行くが、茜のマンションで記者と思われる人間たちに声をかけられる。雪緒は茜を探し見つけ、自分の家に招くことに。そこで茜の本心を聞く。それを聞いた雪緒は千春に茜のことを相談、そして茜のためにできることを思いつく。

 雪緒は茜と一緒に茜の父黒川のために卵焼きを作り届けに行く。茜は実家に泊まることに。そしてアイドルとしてきちんと記者会見をする。それを見た雪緒は千春にくま弁で今後も働きたいと申し出る。

 

 シリーズ第7作だが、実質新シリーズと言って良いだろう。前作でシリーズの主役だった千春とユウが結婚、一緒にくま弁をやって行くところが描かれたが、本作では主役は雪緒になっている。彼女は会社でハラスメントを受けた後輩を守り切れなかったことを悔い会社を辞めてしまう。そしてくま弁で働き始めるのだが…

 新シリーズの主役は雪緒だが、本作での準主役は茜。前作まではアイドルとして活躍していたが、問題を起こし札幌に帰ってきていた。その茜と雪緒が出会い、互いに影響しあう。

 話の方は、シリーズに区切りがついたためか、主役が変わったためか、内容は結構キツめのものが多い。雪緒に文句ばかり言う常連客雉村や、雪緒の元同僚でセクハラパワハラ当たり前の鷹森などが登場。登場人物が誰も優しいこれまでと違って、一癖も二癖もある人物が出てくる。それでも彼らにも誠意をもって対応する雪緒が良い。これまでの千春主役の話とは異なって、嫌な気分にもなるが、解決した時の爽快感は上を行くかも。

 どんな展開になるかと思っていた新シリーズだが、これなら楽しめそうだ。続編にも期待したい。