ビストロ三軒亭の奇跡の宴 斎藤千輪

●ビストロ三軒亭の奇跡の宴 斎藤千輪

 舞台俳優だった神坂隆一は所属していた演劇ユニットが解散してしまったため、新たな劇団を探している最中。姉京子に誘われ、三軒茶屋のビストロ三軒亭で食事をした隆一は三軒亭でギャルソンとしてバイトをすることに。オーナーシェフ伊勢、ソムリエ室田、ギャルソンの先輩陽介と正輝と共に働き始める。シリーズ第3作。以下の3編からなる短編集。

 

「プロローグ」

 店に浅井小百合がエルを連れてやってくる。彼女は三軒亭で働く5人をモデルにした絵、アメリカにいるマドカが描いた絵を持ってくる。喜んで受け取った隆一だったが、店には5人が揃っていなかった…

 

「アン・フリュイ」

 隆一は渡辺百々代と佐藤水奈子の担当をする。彼女たちのリクエストはフルーツが入った料理をオーダーするが、写真撮影をしたり、隆一の前では会話を控えたりと怪しい態度だった。後日二人は会社の上司や同僚とともに来店、彼女たちは外食チェーンの開発部の人間だった。店の料理からヒントを得たメニューを上司に提案した二人だったが、男尊女卑の感がある上司から提案をあっさりと否定されてしまう。悔しがる二人に隆一たちはある提案をする。

 

「フォー」

 三軒亭に貸切客の団体が入る。児童劇団のママ友たちとその子供たちだった。信太郎と空人はあるアイドルグループのオーディションを一緒に受けていたが、今日はその合否の発表日。信太郎に合格の連絡が来るが彼はそれを拒否してしまい、代わりに空人が合格することに。後日、隆一の役者時代の先輩、南が来店しドラマのオーディションを受けていると聞くが、信太郎も同じドラマのオーディションを受けていたことが判明する。

 

「クレープシュゼット」

 隆一のギャルソンの先輩、正輝の両親が店にやってくる。彼は医者になることを諦め医大を中退したことから、父親と絶縁状態にあったのだった。病気療養中の室田に代わって正輝がソムリエを務めるが、父親と口論となり、二人は店を出て行ってしまう。隆一は正輝の母親に会い、再度来店するように依頼。正輝の祖母も一緒に再度来店した父親に、正輝は強い態度でのぞむことに。

 入院していた室田が手術をすることに。三軒亭の皆は当日に病院へ行くが、室田は手術を前に元気がなかった。しかしそこへ室田の別れた娘が現れ、ある言葉を室田に伝える。

 

「エピローグ」

 室田の手術は成功、隆一はマドカの絵を店のどこに飾るかを相談するが、伊勢が出した答えは室田が帰ってきてから皆で相談するというものだった。隆一は新たな将来を見据えはじめていた。 

 

 前作と同様3話構成、しかし前後に+αのエピソードが織り込まれている。

 1話目は、典型的な男尊女卑の上司を持った女性たちの苦悩が描かれるが、これまた定番である、その上の幹部が登場し、スカッとした話になっている。

 2話目は、同じ目標を持つ子供たちの母親の話。これまたステレオタイプとも言える見栄っ張りな母親たちの登場で閉口するが、彼女たちよりもよっぽど大人である一人の子供の行動によって、これまたスカッとさせてもらう。その子供、信太郎の発する言葉が謎のヒントとなっているが、落語好きならばすぐにわかる言葉。このシリーズは謎解きが主体ではないのでまぁよしとする。

 3話目は、これまでのシリーズの中でも触れられてきた、正輝とその父親の確執がテーマ。強権的なタイプとして描かれる父親の前で慣れないソムリエの業務で失敗してしまう前半と、これまた定番となる、その父が頭が上がらない祖母が登場し正輝がスカッとする言葉を発する後半のバランスが良い。正輝の決めゼリフには思わず声が出てしまった。

 

 3つの話とは別に、プロローグで、店の誰かが不在であることが描かれ、話が進む中でそれがソムリエの室田であることが明かされる。3話の終わりで、その室田の手術当日が描かれ、そこにまたドラマが生まれる。このシリーズでは最後に次へ続くような展開を持ってくるのが定番になっており、本作も同様。

 しかしシリーズ3作目の本作が発行されたのは2019年で、既に3年が経過しているが続刊はまだ出ていないようだ。ネットにはこれにて完結?と書いている読者も多いが、続編を期待している読者も同じぐらいいるようだ。私も後者に一票。隆一の成長はまだしも、まだマドカが来店してないからね(笑