●中野のお父さんの快刀乱麻 北村薫
前作「中野のお父さんは謎を解くか」に続くシリーズ第3作。6編からなる短編集。
北村薫さんの博学がそのまま小説になったようなシリーズの3作目。内容をあらすじ化するなんて、とても無理(笑 文藝春秋のこの本の紹介ページに6話の簡単な紹介が掲載されているので、リンクだけ。
前作の感想で、
アシモフの黒後家蜘蛛の会のように、作者の博覧強記な知識がベースとなっている謎〜それも文学関連のもの〜のため、謎および謎解きに関する部分には正直あまり興味が惹かれない。
と書いたが、今回も知識については同様。しかし対象としているものが、映画、将棋、落語と私も興味がある分野なので、前作よりははるかに楽しく読むことができた。
「古今亭志ん生の天衣無縫」で明かされる「蚊帳売りの詐欺」の顛末は圧巻。この話が生み出されるまでの敬意を丁寧に調べ上げており、最後の新聞記事まで探し出す著者の興味はどれほど深いのかと感心させられる。
「小津安二郎の義理人情」の映画と原作の違いがあった理由。小津監督の人柄がわかるエピソード。
「菊池寛の将棋小説」の小説内の棋譜の謎は、調べ上げたのは青学の学生さんのようだが、それをネットで調べたのはさすが。さらに棋譜についてプロ棋士にまで感想を求めているのは嬉しいご褒美のようなもの。
ラストの「古今亭志ん朝の一期一会」で語られる、ライブの良さ。これが現在のコロナ禍の時代に書かれる意味。また、先の「〜天衣無縫」で語られた、志ん生が現実にあったことを上手く話に取り入れた、という形を、この話でまさに北村薫さんが行なっている。おそらくサラサーテのLPから思いついたのだろうが、それをこの話に仕上げる上手さはまさに北村薫さんの世界。
他の話で、その時に観た聞いたものが、現在とは異なる意味を持っていたという下りがあり、映画を観る人間として背筋が伸びた感じがする。
他にも書きたいことはいっぱいあるが、それにしても、いやぁさすがの一冊。
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