三屋清左衛門残日録

●三屋清左衛門残日録 2016

 BSフジで2016年に放送された時代劇。北大路欣也主演。原作は藤沢周平の同名の短編集。その後シリーズ化されており、2021年までに5本が放送されている。

 

藤沢周平の原作

 

原作とNHKでのドラマ化

 原作は15編からなる短編小説(「三屋清左衛門残日録」wiki参照)。1993年にNHKでドラマ化されており、清左衛門は仲代達矢が演じた。仲代版は全14話であり、なぜか原作の第2話「高札場」はドラマ化されていない(正確には、シリーズ後のスペシャル版でドラマ化された)。仲代版の第1話は長尺となっており、原作の1話3話を抱き合わせた話となっている。このため、全14話には一つ話が足りず、13話「嫁のこころ」がオリジナル〜ただし世界観は壊していない〜となっている。

 

 本作は、原作から「白い顔(第4話)」「川の音(第6話)」「霧の夜(第11話)」の3話分のエピソードを中心に組み立てられている。また新シリーズとしての1話目となるため、主役の清左衛門をはじめ、その他の登場人物や舞台背景などを紹介するために、この3話以外からもエピソードが使われている。

 

あらすじ(赤字はカッコ内の原作の話にはない部分)

 

(第1話「醜女」の一部)

 三屋清左衛門は先の殿の用人だったが、殿の死去とともに用人を辞め隠居となる。妻を亡くしており、息子とその嫁と同居しているが、現藩主の計らいで隠居部屋を作ってもらいそこで日々を過ごしており、日々の出来事を残日録に記していた。清左衛門は嫁里江に隠居暮らしとなるこれからをどう過ごして行くつもりかを話していた。

(第4話「白い顔」)

 清左衛門は菩提寺へ参るが、その門前で若い女性とすれ違う。住職からその女性が杉浦波津の娘多美であると聞かされる。清左衛門は若い頃波津と道行きをし一夜を共にした記憶を懐かしく思い出す。涌井で町奉行の佐伯熊太にそのことを話すと、多美は酒癖の悪い元夫から復縁を迫られており、新しい嫁ぎ先が見つからないらしいことを聞く。

 涌井を出た二人は派閥争いが原因の若い者同士の争いを目撃、熊太がそれを仲裁する。清左衛門は、通う道場の平松に多美との縁談話を勧める。

 平松と多美は熊太の仲人で結婚をすることに。清左衛門は二人の式には出席せず、涌井で女将みさと酒を飲んでいた。みさはもっと早く清左衛門と知り合いたかったと話す。涌井を出た清左衛門は多美の元夫藤川金吾に待ち伏せをされていた。しかし清左衛門は藤川に厳しい言葉と態度を示す。

(第6話「川の音」)

 清左衛門は一人釣りへ行く。そこで同じく釣りをしていた男と出会う。その男とも離れ清左衛門は野塩村で釣りを続けようとするが、そこで急流の中で立ちすくんでいた母おみよとその娘を助ける。お礼におみよの家へ行くことに。

 その夜、屋敷に黒田欣之助が訪ねてきておみよとの関わりを清左衛門に尋ねる。そして今後おみよとは関わり合いにならぬようにと話し去って行く。後日清左衛門は熊太に野塩村で事件がなかったかを調べてもらい、それが石見守が国許に滞在していた春に、野塩村で不審な土左衛門が上がったということだった。

 おみよが清左衛門の屋敷を野菜を持って訪ねてくる。清左衛門は春の土左衛門のことを聞く。おみよは事件当日、多田掃部の屋敷の手伝いをしていたと話すが、その時おみよは掃部の屋敷にきていた朝田家老と石見守の姿を見ていたのだった。清左衛門はおみよにそのことを黙っておくように伝え、村に帰るおみよを送って行く。二人は朝田派の一味にあとをつけられていたが、平松が駆けつけたこともあり、無事送り届けることに。清左衛門は朝田家老と石見守が何を企んでいたのか疑問に思い、多田掃部の家を訊ねるが、掃部は釣りの時に会った男だった。

(第11話「霧の夜」)

 清左衛門は涌井で熊太と酒を交わしていた。熊太から朝田派の黒田が江戸に向かったという話を聞く。また、成瀬喜兵衛がボケてしまったという話も。

 清左衛門の屋敷に女性から手紙が届けられる。ある店で会いたいとのことだった。その店に行った清左衛門は女が成瀬の使いのものだった。成瀬は清左衛門とは道場仲間であったが、朝田派の者に見張られていた。それは成瀬が朝田家老が毒を使うと話したのを聞いてしまったためだった。成瀬は清左衛門に遠藤派の上に人間を紹介して欲しいと頼み、清左衛門は間島家老を紹介することを約束する。その帰り道、成瀬はやはり朝田派の者につけられるが、鬼の喜兵衛と呼ばれた剣客ぶりを発揮しその者たちを倒す。

 清左衛門の家へ熊太が訪ねてくる。朝田派から何の動きもないと彼は不思議がる。その夜、清左衛門は朝田家老が毒を使う相手について考える。

 

まとめ

 BSフジによる新シリーズ化ということで、原作の世界観を紹介するスタートとなっている。主人公清左衛門を取り巻く環境〜家族や友人、隠居までの仕事、隠居した後の暮らし、など。

 もともと原作の中で語られるのは、

(1)藩の派閥争い

(2)息子の嫁里江との関係

(3)涌井の女将みさとの仲

(4)清左衛門の若い頃の友人たちとの話

(5)清左衛門に持ち込まれる難事の解決、など。

 本作で原作15話から選ばれたのは上述した通り、以下の3話。

 

 第4話「白い顔」は原作では(5)のイメージだったが、新シリーズ冒頭の話ということで、(1)(3)の話もちょっと顔を見せる。

 第6話「川の音」は原作では(5)のイメージだが、ここでも(1)が関係してくる。

 第11話「霧の夜」は原作通り(1)。ただこの話だけは、原作では珍しいカタルシスが感じられる話。ボケを装っていた成瀬喜兵衛が、追っ手を切り倒すシーンは何度見ても気持ちが良い。

 こうして見ると、本作は(1)藩の派閥争い、がメインの話のように思える。隠居したはずの清左衛門が、それでも派閥争いに巻き込まれていく、という印象をつけたかったのか。原作の面白さは(2)〜(5)にも当然あるのだが、それは次回作以降のお楽しみといったところか。