●文豪たちの怪しい宴 鯨統一郎
バー「スリーバレー」で繰り広げられる3人の文学談義。常連宮田、文学部教授の曽根原、バーテンダーのミサキ。宮田は、奇想天外な解釈をし始め、曽根原はそれをバカにするが、いつのまにか宮田の話に聞き入ることになる。以下の4編からなる短編集。
宮田による各話の解釈は、
「夏目漱石ーこころもよう」〜百合小説、二人の死は下女による犯行
「宮沢賢治ー銀河鉄道の国から」〜宮沢賢治とその父との確執、許しを描いている
「芥川龍之介ー藪の中へ」〜真犯人は妻である真砂
名作「邪馬台国はどこですか?」の鯨統一郎氏の同シリーズの新作。これまで歴史がテーマだったが、本作では文学がテーマ。「スリーバレー」にも静香やバーテン松永は登場せず、新たに曽根原教授とミサキが登場。宮田が教授を相手に論戦を繰り広げるのは定番通り。
歴史をテーマにしたシリーズが順を追うごとにレベルが下がっていってしまったためか、テーマを変えて新たに登場した感じ。
ただテーマが文学作品であり、歴史に比べると読者の読み方の自由度が高いのが自然なためか、歴史物ほど「あっ!」と驚くことはなかったというのが本音。東京創元社文庫創刊60周年として発行された本作というのが売りのようだが、またしてもちょっと空振りしてしまった感じ。
4作品中最初の3作はまぁそんな感じだが、最後の「藪の中」だけはそれを「推理小説」として読んだ場合の論理展開は意外にしっかりとしていたと思う。さらに最初の話である漱石の「こころ」も再登場し、意外な解釈がされるところも良かった。
どうやらこの文学をテーマとした続編があるようで、こちらもあまり期待せず読んでみたい。ただ本作を読んだことで、やはり取り上げられた4作品はもう一度読んでみたくなってしまった。ここが鯨統一郎の上手いところかも。
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