金狐の首 大江戸定年組 風野真知雄

●金狐の首 大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第5作。町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の5編からなる。

 

「大奥の闇」

 先月まで大奥で働いていた菊代が初秋亭に相談に来る。隣家の住人がすることが菊代が嫌がることばかりだと話す。それが4つにもなり困った菊代が相談に来たのだった。藤村たちは隣家に住む林に話を聞きに行くが、林がしていることは偶然が重なっただけのようにも思えた。しかし藤村は、菊代が狙われるある理由に気づく。


「黄昏の夢」

 夏木の息子洋蔵が京都へ修行の旅に出る。初秋亭に酒屋の小僧が配達に来る。誰も頼んでいなかったが藤村は酒を買ってやることに。初秋亭に夏木の兄黒川が訪ねて来る。行ったことのない岡場所から女がまた会いたがっているという催促が来て困っているという。藤村は牛太郎に会うが怪しいところはない。黒川は女に会ってみることにし、結局岡場所に通うことになる。藤村は、酒屋の小僧のことを思い出し牛太郎に話を聞くことに。

 

「意地の袋」

 辰巳芸者の佐助が初秋亭に来る。佐助は三原屋に落籍されたが、たった一晩でお払い箱になってしまった。その理由を知りたいとのことだった。藤村たちは三原屋に話を聞きに行くが何も話したくないと断られてしまう。しかし昔同心時代に藤村が三原屋の危機を救ったことがあり、三原屋は正直に理由を話す。

 

「人生の鍵」

 頑丈屋という錠前屋をしている代吉が初秋亭へ。人前で挨拶をするのが苦手が、半月後に世話になった人たちを呼んで宴会を開く予定だと話す。藤村たちは訓練でなんとかなると話を引き受ける。代吉の挨拶を聞くうちに、藤村は蔵作りの若狭組と錠前屋の鍵清が怪しいと睨み、若狭組の作った蔵で泥棒にあった被害を調べ始める。そして代吉の宴会当日、藤村は若狭屋と鍵清の企みを暴露する。


「金狐の首」

 仁左衛門は知り合いの質屋雅兵衛と一緒に辰巳稲荷へ。怪しい見世物が見れるということだった。出て来た巫女が踊り始め、男の首を切ってしまう。仁左衛門たちは慌てて逃げ出す。翌日になり昨日のことは何だったのかと疑問を持ち始める。初秋亭に質屋上州屋の若右衛門が訪ねて来て、昨夜の辰巳稲荷での出来事を調べて欲しいと話す。しばらくして上州屋に金狐を渡せという脅迫文が届く。それは知らない娘が持ち込んだ質草だった。夏木が金狐は霊岸島稲荷のものであり、それを盗もうとした土州屋という質屋の仕業だと見抜く。

 

 前作終わりで、藤村の妻が家を出て行ったが、その話からスタート。藤村に忠告する夏木や仁左衛門だったが、藤村は耳を貸さない。

 本作の事件は、「大奥上がりの女性への嫌がらせ」「行ったことのない岡場所からの催促」「売れっ子芸者が一晩でお払い箱になった理由」「独自の錠前を作る錠前屋がハメられた事件」「稲荷神社での怪しい見世物」がテーマ。前々作のように「日常の謎系」の話もあれば、江戸時代の話らしいものまで、様々。シリーズの特徴が出て来た感じがする。ただ3話目までとサブエピソードが女性にまつわるものだったのも、注目しておくべき点か。

 本作のサブエピソードは、この藤村の妻加代と仁左衛門の息子の嫁でやはり家を出てしまったおちさに関して。加代は夏木の妻志乃の計らいで、夏木の家に密かに隠れていた。加代と志乃はおちさのことを知り、一緒におちさを探し当て、これまた夏木の家で匿う。さらに、小間物屋を独力で始めようとしていたおちさを手伝い、独自の匂い袋を開発することに。この3人、女性版の初秋亭を作ろうというところまで話が進む。なかなか面白い展開になりそう。

 もう一つのサブエピソードは、鮫蔵。いくつかの事件で藤村は鮫蔵の力を借りようと考えるが、鮫蔵の居場所がつかめないため、会えずに終わる。その鮫蔵、最終章の最後で、げむげむ捜査で、教祖の正体をつかんだようだが、読者には明かされない。そして鮫蔵はげむげむたちにやられた怪我が素で死んでしまう(おそらく)。

 主人公3人を除けば、一番のサブキャラの一人だった鮫蔵の死が最後に描かれる。いよいよシリーズ最大の謎、げむげむが次回作ではメインになるのかも。