弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇2 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇2 喜多みどり

 夫婦となったユウと千春はくま弁を営んでいた。会社を退職した雪緒がくま弁を訪れバイト募集の紙を見て応募、宅配を主に受け持つことになる。新たにくま弁の一員となった雪緒がくま弁で働く姿を描く短編集、シリーズ第8作、新シリーズ2作目。以下の4編からなる。

 

 

「花園の初夏ボルシチ弁当」

 雪緒の弟薫が家に泊めてくれと家にやってくる。しばらく何も言わず様子を見ていた雪緒だったが、弟のバイト先である叔父栗須から連絡があり、事情が判明する。雪緒は店の常連土田若菜に相談、薫と話すと彼は雪緒の仕事ぶりが見てみたいと言い出す。薫を連れ宅配の仕事をする雪緒だったが、ミスばかりしてしまう。そして叔父の家に一緒に行くことになるが…。

 

「三人寄れば非オープンサンドイッチ」

 店でユウから千春が元気がないと聞いた雪緒は、配達の途中家に様子を見に行く。そこには帰省していた茜が千春とともにいた。千春が元気をなくした理由を聞いた雪緒と茜は千春にユウへの手紙を書くことをアドバイスする。

 

「モアイ像とおはぎ」

 雪緒は店への電話に出る。その客、常連の木村菊彦のオーダーは、おはぎをお墓に届け幽霊に渡して欲しいというものだった。千春とも相談し、雪緒はお墓へおはぎを届けに行くが、そこにいたのは女性だった。彼女はお墓に眠る草野芽衣子の娘だった。雪緒は芽衣子から事情を聞く。それは木村の幼少の頃にまつわる話だった。

 

「まだ見ぬ未来の日替わり弁当」

 雪緒は前の会社を辞める原因となった部下猪笹美月のことを思い出していた。そんな時店にその美月から連絡が入り、1年ぶりに会話をすることになる。美月は自分が原因で雪緒が会社を辞めたと思っており、迷惑をかけたことを後悔していた。今の仕事にやりがいを感じ始めている雪緒は美月に弁当を届けることに。その弁当を食べた美月は、自分が雪緒のことを勘違いしていたことに気づく。

 

 新シリーズの2作目。前作がくま弁で働き始めた雪緒が店での仕事を続けるまでの過程を描いたものだとすれば、本作は仕事に慣れ始めた雪緒が自信をつけ始める物語。

 1話目で、雪緒の手紙に対する思い出が明かされ、2話目ではその「手紙」を千春に書くように勧める。雪緒の人となりや過程環境がわかるエピソード。一転して3話目はちょっと不気味なスタートだったが、常連客木村の幼少の頃の不幸なエピソードが語られる。4話目は、前作でも語られた、雪緒が前の会社を辞めた原因となった部下、美月が登場する。お互いが会社を辞めた後、連絡が取れていなかった二人の再会、お互いの相手への思いが行き違いを起こしていることが判明、雪緒は美月の思いを変えようとするが…という話。

 前作は茜との関わり〜仕事への思い、がテーマだったが、本作は、人の過去が現在に与えている影響、がテーマか。扱われているエピソードは「手紙」「おはぎ」「仕事を辞める」など様々だが、過去の出来事が今の自分に影響していることは間違いない。

 4話目で黒川が10年での変化について語るシーンがある。仕事をし始めたばかりの若い人は自分の変化に気づかないだろうが、オジサンが振り返れば、若い時の10年は相当に自分が変化、成長していたことに気づくことができる。新シリーズで登場の機会は少なくなったが、さすが黒川さんといったところか(笑

 

 さりげなく、前作で登場した雉村さんが登場したり、千春とユウの夫婦の話題も取り込むなど、シリーズも充実してきたように感じる。次の作品を読むのも楽しみ。