神奥の山 大江戸定年組 風野真知雄

●神奥の山 大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第7作。町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の5編からなる。

 

 

「神奧の山」

 初秋亭に骨董屋蓑屋が訪ねてくる。旗本木村慎吾が亡くなりその遺品整理をしているが、一つだけ何かわからないものがあるとのことで、夏木の息子洋蔵の意見を聞きにきたのだった。洋蔵は上方に行っているため、夏木と仁左衛門がその品のことを調べることに。木村が女好きだったことから、彼と付き合いのあった女たちを調べ、おりきという女にたどり着く。彼女にその品を見せたところ、意外な反応を示し、品の正体が判明する。

 

「短命の鏡」

 元町年寄の奈良屋が初秋亭の仲間に入りたいと言って訪れる。一緒に過ごし始めた奈良屋は後添えとして考えていたおけいという女性について話し始めるが、彼女にはフラれていた。おけいは亡くなった薬種屋金門堂の妻で、夫のことを素晴らしい人だったからと再婚はせずにいた。しかし奈良屋によれば元夫はせこい男で女癖も悪かったとのこと。夏木と仁左衛門はおけいに会いに行き、奈良屋が惚れた理由がわかる。しかしある日仁左衛門はおけいの意外な姿を目撃、おけいに真実を確かめに行くと元夫が金のありかを話さずに死んでしまったということがわかる。夏木と仁左衛門は金の隠し場所を調べ始める。

 

「泥酔の嘘」

 海の牙で飲んでいた初秋亭の3人、主人の安治から、酔っていないのに酔っ払いのふりをする客について相談を受ける。後日、3人は海の牙でその客が野菜売りの娘から酒を飲み過ぎないように注意されているのを目撃する。男に事情を聞くと娘が実の娘であり、男が悪さをして家を空けた間に怖い男に家に居座られたと話す。3人はその怖い男を確かめに鮫蔵を連れて家へ行き、それが雉の次郎八だと判明する。


「むにょろむにょろ」

 初秋亭のそばで開店した鰻屋が1日で閉店してしまったことが話題となる。店の大家の山形屋から初秋亭の3人はその理由を探ってくれと依頼される。夏木と仁左衛門が調べ始める。通りにもう1軒の空き家があること、どこにでもある鰻屋が通りにないことに気づいた二人は真相を見抜き、山形屋へ話に行く。真相を白状した山形屋は、げむげむについて二人に相談を始める。

 

「惜別の橋」

 山形屋の依頼は、昔からの友人の神主がげむげむに神社を貸し出してしまった、げむげむの真偽を確かめて欲しいというものだった。げむげむが集まる集会に出た夏木と仁左衛門は願い事を言い当てるという祭りを目撃する。話を聞いた藤村も同行、そのカラクリを見抜く。そしてげむげむの捕縛が始まる。げむげむの教祖寿庵は、旗本や材木屋たちがつるみ、江戸に火を放とうとしている計画について話す。それを聞いた初秋亭の3人はそれを阻止すべき行動を開始する。

 

 シリーズ7作目にして最終作。一応この後も新作が発行されているが、そちらは新シリーズとされているようだ。

 事件の方は、「骨董屋でもわからない陶器」「ダメな亡夫を褒め続ける女」「酔っ払いのふりをする男」「1日で閉店してしまった鰻屋」「げむげむの見世物の謎」。どの謎もなかなか面白い謎だが、現代風であるのは仕方なしか。

 本作のメインは、事件ではなく、げむげむとの決着と鮫蔵の過去と未来。上記5つの事件と並行して、話の半分はこちらに費やされている。寿庵がげむげむの教祖となった理由、げむげむの内部問題、そしてげむげむの捕縛。一方、鮫蔵に関しては、父親殺しの過去が明かされ、ラストでは別れも。勧善懲悪ばかりではない世界観が最終作にふさわしい。その一方で、寿庵が阻止しようとしていた江戸の放火を3人が代わりに食い止めるシーンでは、このシリーズでは珍しい立ち回りが描かれ、久しぶりに藤村の太刀、夏木の弓が躍動する。

 そしてラストでは、鮫蔵の旅立ちが描かれ、寂しい思いにもなるが、同時に3人の妻による「早春工房」が開店、「初秋亭」との対比でクスッとさせられる。

 読み始めた時にはどうなるものかと思ったシリーズだったが、読み終えてみると楽しいシリーズだった。新シリーズも引き続き読んでいきたい。