風刃の舞 北町奉行所捕物控 長谷川卓

●風刃の舞 北町奉行所捕物控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 江戸の空に放たれた一本の矢。それは律儀な魚売りの命を奪った。北町奉行所同心鷲津軍兵衛は、矢の作りから、大身旗本を疑う。すると、手先の下っ引を同じ矢が襲い、軍兵衛も柳条流の遣い手の旗本家用人と対する。その折、一家皆殺しの残忍な押込み一味の潜伏が知れ…。軍兵衛は旗本を裁けるか?凶賊を捕えられるか?八丁堀同心の心意気が胸に響く捕物帖。

 

 北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第1作。以下の8章からなる長編。

 「棒手振」「弩」「猫間のお時」「安房の佐平」「用人・脇坂久蔵」「白虫」「夜泣きの惣五郎」「決着」

 

 江戸の町で魚売りが矢で殺される。しかしその矢は遠くから飛んできており、魚売りを狙って射たれたものではなかった。定廻り同心小宮山仙十郎が捜査を始めるが、捜査は臨時廻り同心鷲津に引き継がれることに。矢の形状などから高貴な武家のものと判明、さらに鷲津は矢が目撃された場所などから、村越家に狙いをつける。

 一方、小宮山の手下が猫間のお時という盗賊の一味を町で見かけ、後をつけ、夜泣きの惣五郎一味が盗みに入ろうとしている大店を見つける。

 

 長谷川卓の「戻り舟同心」シリーズが面白かったがシリーズを読み終えてしまったので、別のシリーズを読み始めることに。

 主人公鷲津は、「戻り舟」の伝次郎を彷彿とさせるやり手の同心。しかし伝次郎よりもひと回りぐらい年齢は下、それでも50代。伝次郎が多彩な手下たちと捜査をするのに対し、シリーズ第1作のためか、本作は手下は3人、途中で安房の佐平が仲間入りする。

 捜査を続けていくうちに村越家の次男源次郎が容疑者として浮かび上がるが、相手は旗本であるため、町奉行同心である鷲津は直接手を出すことができない。さてどうするか、という展開。しかし町奉行同心が手を出せない相手と戦うのは、「戻り舟」でもあったパターンであり、主人公の行動に爽快さを感じる場面でもある。

 また、この事件と並行して、盗賊夜泣きの惣五郎一味を捕らえるための小宮たちの活躍も描かれる。鷲津はこちらにも関係がある。彼の顔の傷は4年前の事件で惣五郎につけられたものだった。

 村越家の事件では、江戸時代の捜査や身分違い、用人脇坂との剣士としての戦いなど描かれる。一方、惣五郎一味との戦いでは、盗賊一味と同心たちの騙し騙されの心理戦が繰り広げられ、「白虫」と呼ばれる大掛かりな追跡捜査の様子も描かれる。

 

 2つの事件を通して、同心たちのリアルな捜査の日常が描かれる一方で、鷲津や上司の与力である島村の物言いや思い、振る舞いも描かれ、スカッとした気持ちにさせてくれる。

 火附盗賊改土屋藤次郎と知り合いになったり、矢で殺された魚売りの子供を引き取ったり、サブ的なエピソードも満載。

 

 やはり長谷川卓さんの小説はとても面白い。まだまだこのシリーズは残りがあるので、楽しみに読み進めていくことにしたい。