●空舟 北町奉行所捕物控 長谷川卓
裏表紙内容紹介より
京、尾張、駿河と殺しを続ける、通称「絵師」と呼ばれる男が江戸に潜入した。臨時廻り同心・鷲津軍兵衛は、最古参の与力・島村の命を受けて、駿河本町奉行所から「絵師」を追ってきた同心の西ヶ谷の力添えをすることとなった。「絵師」とは、知り合ってから殺すまでの間、殺す相手の似顔絵を描き続け、絵の完成とともに殺すことから名づけられたのだという。謎の男「絵師」の正体とは果たして誰なのか?軍兵衛の必死の探索が始まるのだが……。北町奉行所シリーズ、好評の第三弾!
北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第3作。以下の6章からなる長編。
「渡り中間・惣助」「香具師・蛇骨の清右衛門」「同心・加曾利孫四郎」「浪人・伊良弥八郎」「《絵師》」「笹間渡の吉造」
鷲津が立てこもり事件をあっさりと解決するところから話はスタート。
駿河から同心西ケ谷が殺し屋絵師を探しにやってくることに。鷲津はその相手を小宮山に任せる。鷲津は瓢酒場で浪人伊良と出会い仲良くなる。その後、越前国有島家の用人沢崎から呼び出され、中間の惣助が盗んだ能楽の面を取り戻して欲しいと頼まれる。
鷲津は惣助の事を調べる。そして手下を伴って、香具師蛇骨の清右衛門に会いに行き、清右衛門の手下を釈放する事を条件に惣助のことを探し出してもらうことに。清右衛門の手下たちが惣助を探している途中で、天神の富五郎を見つける。富五郎は盗賊笹間渡の吉造の手下だった。笹間渡の吉造は火付改方も捕まえられずにいる盗賊だった。
知らせを受けた鷲津は富五郎を見張り始める。その頃殺しがあったと知らせが入り、現場へ。西ケ谷がそれを見て絵師の仕業だろうと話す。しかも殺されていたのは惣助だとわかる。
一方富五郎をつけていた手下たちが船虫の亀太郎と会っているのを目撃、さらにその亀五郎が老人と会っているのも目撃する。調べ物が得意な宮脇のおかげでその老人が守宮の小助だと判明、さらに宮脇の調べで突きが得意な侍も仲間にいることがわかる。
鷲津は目撃されたあたりで小助が狙いの家に忍び込んだと考え、そのあたりの店の屋根裏を探り、盗賊たちの目当ての店を探し当てる。その頃宮脇は、西ケ谷が偽物で彼自身こそが絵師であると見抜き、島村にその事を報告。皆で西ケ谷を罠にかけ捕まえる。
小助たちが動きだす。目当ての店に忍び込んだのを捕らえるが、そこには火付改方がおり、彼らも笹間渡の吉造一味を狙っていた。鷲津は火付改方と合同で、笹間渡の吉造一味を捕らえることに。一味の用心棒として伊良が現れ、鷲津は一騎打ちをする。
前作に続く第3作。第1作と同様、二つの事件が並行して描かれる。殺す相手の似顔絵を描く殺し屋「絵師」の事件と火付改方も手こずる盗賊笹間渡の吉造一味の事件。
絵師事件の方は、絵師の正体が意外でビックリ。時代小説だから出来るトリック、とも言える。それを見抜いた宮脇も見事。これまでの2作では完全に裏方だった宮脇が主役に躍り出るぐらいの活躍。
盗賊一味の方は、別の探索依頼から端を発し、意外な形で盗賊一味の一人を見つけ出すところからの展開。岡っ引きやその手下たちの張り込みがリアルに描かれる。またシリーズを通して、本作でも手下たちの成長が描かれているのみ良い。様々な場面で手下たちが一つひとつ物事を覚えて行く様が良い。
そんな手下たちの一人福次郎が前作で登場した蕗が江戸に戻ってきているのを竹之助に知らせるかどうかで悩む場面が泣かせる。彼は鷲津を助けるため蕗の父を刺しているのも彼の思いを複雑にさせている。その蕗と竹之助の再会も、竹之助に言葉をかける鷲津も全部良かった。もちろん蕗を一時的に引き取った島村の言葉も。
ラストの伊良との一騎打ちは、いつかの秘太刀が炸裂(笑 その後竹之助にその話をする鷲津が可笑しい。
第3作だが、これまでの中で一番良かった気がする。まだまだ面白くなりそうな本シリーズ、早速次の作品を読んでみたい。
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