古書カフェすみれ屋とランチ部事件 里見蘭

●古書カフェすみれ屋とランチ部事件 里見蘭

 古書カフェすみれ屋は玉川すみれがオーナー、店の奥は古書店になっており店長は紙野頁。カフェに来た客の悩みを聞いた紙野がその客に一冊の本をオススメしながら、客の悩みを解決していく「古書カフェすみれ」シリーズの第3作。以下の4編からなる短編集。

 

「割り切れない紳士たち」

 常連宍戸明美が隣席にいた掛川に話しかける。掛川は婚活中の男性で、最近婚活サイトで紹介された女性沢崎とデートをし良い雰囲気だったが、その後断りのメールをもらったという。その話を聞いていた客の馬場が自分の後輩が同じ目にあったと話し出す。   2人の話を聞いていた紙野が掛川に勧めたのは「俳句いきなり入門」だった。

 

「一期一会のサプライズ」

 TVカメラマン那須山が最近取材時にあった出来事を話す。TVタレント浜岡が人形町の寿司屋の名店逹冨の主人逹冨氏と会話をしながら寿司を食べるという番組だったが、逹冨氏は事前打ち合わせとは異なる寿司ネタを提供したというもの。紙野は那須山に「ロッパの悲食記」を勧める。

 

「天狗と少女と玉子サンド」

 店にやって来た加納母娘。本好きな娘ひなたは紙野と仲良くなる。母親とも話をしていた紙野だったが、その母親がひなたが書いた誘拐脅迫状を紙野に見せる。娘の行動を不審に思う母親に紙野は「’71日本SFベスト集成」の中の藤子不二雄作品「ヒョンヒョロ」を読むように勧める。

 

「シェアハウスのランチ部事件」

 店の常連五十嵐知穂が隣席にいた三井夏菜に話しかける。三井はシェアハウスに住んでおり快適に暮らしていたと話すが、ここ最近シェアハウスの住人たちで開いたランチ会で起きた不思議な事件について語り出す。紙野は三井に「銀の酒瓶」を勧める。

 

 シリーズ第3作。前々作前作ともに面白かったが、本作はさらに上をいく出来だと思う。

 「割り切れない〜」は謎の説明に入る前に、現在の婚活事情について詳しく描かれており、それを知って驚いた。そして謎が提示されるが、同じ被害?にあった人が他にもいることが判明し、単なる「嫌な」女性がいた、で話が済みそうなところで紙野の登場。その謎解き、伏線の回収もお見事。特にSNSに書かれた文章を丁寧に読み解くのが良かった。

 「一期一会の〜」はさすがに途中で謎の真相がわかってしまったが、次の「天狗と〜」がまた面白かった。ありえない脅迫文という謎が提示されるが、紙野が言う「加納母娘が語らなかった事実」の方が本当に隠された謎、という感じ。もちろんこれを見抜くための伏線もしっかりと貼られている。

 最後の「シェアハウスの〜」は、いかにもなミステリー。そのため、怪しい?真犯人の検討はついたのだが、そのトリックは全くわからなかった。本格的なミステリーならば御法度な手法ではあるが、ここではギリギリそれを回避しているように思える。もちろんこちらもよく読んでいれば、その伏線に気づくことは出来たであろうから。

 

 ミステリとしての出来が抜群に向上したと思える第3作。次回作が楽しみだが、第1作第2作が2年続けて発行されたのに対し、第2作から第3作までは4年かかっているのがちょっと心配。第4作はいつ読めるのだろう。