毒虫 北町奉行所捕物控 長谷川卓

●毒虫 北町奉行所捕物控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 行方が知れなかった凶賊・野火止の弥三郎一味の手掛かりを得、北町奉行所の臨時廻り同心・鷲津軍兵衛は調べに乗り出した。刻を同じくして、大名家の納戸方と居酒屋の小女の惨殺死体が相次いで発見され、殺しの手口から同一犯の仕業と思われた。誰が何のために、ふたりを手に掛けたのか。軍兵衛とともに、臨時廻り同心・加曾利孫四郎、岡っ引・小綱町の千吉らの、地を這うような捜査が始まった。息詰まる追跡と迫真の殺陣。書き下ろしで贈る大好評シリーズ第四弾。

 

 北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第4作。以下の6章からなる長編。

 「裏河岸」「湊橋北詰」「結」「伊蔵」「末広長屋」「捕縛」

 

 同心小宮山が街で倒れた老人吉兵衛を見つける。吉兵衛は宿を営んでいる由比から出て来ており、勘当した息子政吉を探しに江戸へ来ていた。吉兵衛から政吉が家を出る前に宿に泊まっていた男の話を聞くが、その男の首のアザから、野火止の弥三郎一味のぞろ目の双七だと思われた。

 鷲津は六浦自然流の道場へ道場主波多野の見舞いに来ていた。波多野から彦崎を見かけたと言われる。彦崎は強かったが素行が悪く道場を出て行った男だった。鷲津は吉兵衛の息子政吉探しを命じられる。

 岡っ引き留松の子分福三郎が居酒屋ひょう六の女、園に惚れ留松も店に誘われる。客の忘れ物があり園がその客を追って店を出るが、時間が経っても帰ってこない園を探しに出るが、殺しがあったと知らせを受ける。同心加曾利が捜査に加わる。殺されたのは、竹越家の三坂だと判明、上役の上月と酒を飲んで店を出たところを殺されたらしかった。竹越家の徒目付二瓶が死体を引き取りにやってくる。翌朝園もその付近で死体となって発見される。加曾利は忘れ物をした男が犯人だと睨み、その男のことを調べる。男が吸っていたタバコが極上品雲の雫だと判明。

 鷲津は政吉の似顔絵を作り調べていたが、4年前に惚れた女のことが原因でケンカをし既に死んでいることがわかる。その女、結に会いに行き話を聞き、それが政吉であることが間違いないと判明。しかしその2日後、結が殺されてしまう。鷲津は結の家を調べ、彼女が大店の内情を探りそれを盗賊に売る零し屋だったことがわかる。その情報を取りにまた盗賊たちがやってくるのを見張る一方、結が使っていた出会茶屋を突き止め誰と会っていたかを突き止める。

 加曾利はタバコ売りの情報から、男が伊蔵といい、その相方が百助の名前と伊蔵の塒も突き止め、見張り始める。伊蔵をつけ、呉服問屋島田屋と会っているのを目撃。そこに徒目付二瓶と隠密廻り同心武智が現れる。加曾利は2人から話を聞くことに。島田屋は大名家に取りいり賄漬けにして利権を独占していた。殺された三坂は上月にそれを進言し、伊蔵に殺されたらしいが証拠がなかった。

 鷲津は結の家を張り込んでいたが、ある日そこへ双七が現れる。彼をつけ船宿にたどり着く。そこが野火止一味のアジトだと思われた。

 加曾利は島田屋のライバル店から情報を集め、島田屋の悪事の裏を取る。そして百助を呼び出し拷問にかけると脅し、全てを白状させる。伊蔵は既に逃げていたため、加曾利は竹越家に逃げ込んだとふみ、二瓶の力を借りて伊蔵を捕まえる。

 鷲津は一味のアジトを仲間の応援とともに取り囲み一気に踏み込む。鷲津が睨んだように彦崎が一味の用心棒となっており、二人は一騎打ちをすることに。彦崎の秘技をかわし鷲津は彦崎を倒すのだった。

 

 前作に続く第4作。本作も二つの事件が並行して描かれる。由比から出て来た吉兵衛の息子探しに端を発した野火止一味の捕縛と武家殺しから始まる島田屋が雇った殺し屋伊蔵の事件。

 鷲津が追う野火止一味の一件が、意外な展開を見せて面白い。行方不明の息子〜零し屋結の存在〜野火止一味と繋がっていく。「零し屋」というのは初めて知った。鬼平犯科帳などでは、大工が大店の図面を盗賊たちに売るという話があったが。

 加曾利が追う事件は、タバコがポイントとなって男を追い詰める。現在もそうだが、江戸時代からタバコの葉は何種類もあって、やはり高級品もあったことがわかる。最後の詰めが、加曾利の脅しというのも面白い(笑 鬼平犯科帳でもそうだが、江戸時代はその手が使えるのだ。

 鷲津が最後に戦うのは、同じ道場にいた彦崎。強敵だというのはいつも通りだが、鷲津の息子竹之助との遭遇が話に深みを与えている。

 これまたいつも通り、岡っ引きたちも活躍、子分の貸し借りなどがリアル。また本作では女性が2人殺されるが、その検死の様もリアルに描かれている。性的暴行があったかどうかまでしっかりと調べるんだなぁと納得する。

 シリーズのヒロイン、蕗も少しではあるが登場する。島村家での島村の言葉が優しくホッとさせられる。

 シリーズも第4作まで来たが、面白さは全く衰えていない。次の作品も楽しみである。