黛家の兄弟 砂原浩太朗

●黛家の兄弟 砂原浩太朗

 黛家の三男、新三郎は大目付の黒沢家に婿入りする。父清左衛門は筆頭家老、長男栄之丞、次男壮十郎の兄がいる。壮十郎が事件を起こし、次席家老の漆原内記により切腹を命じられる。13年後、漆原の懐刀になっていた新三郎だったが、兄栄之丞と漆原への敵討ちを企んでいたが…。以下の14編からなる長編時代小説。

 

第一部 少年 花の堤/闇の奥/宴のあと/暗闘/逆転/夏の雨/虫

第二部 十三年後 異変/襲撃/秋の堤/闇と風/冬のゆくえ/春の嵐/熱い星

 

 新三郎は兄たちと花見に出かけており、友である由利圭蔵とともに参加する。そこで黒沢家のりくと出会う。酔客に絡まれるが漆原が彼らを追い返す。兄栄之丞が藩主の娘を嫁にとることとなり、同時に新三郎も黒沢家に婿入りすることが決まる。友である由利をお供として黒沢家へ入ることに。

 兄壮十郎が花吹雪という徒労を組んでいたが、漆原の嫡男伊之助も雷丸というはぐれ者たちと暴れていた。お互いが敵対をしていたが、ある日壮十郎は伊之助を斬ってしまう。漆原は喧嘩両成敗を理由に壮十郎も切腹すべきだと訴え、目付であった新三郎は兄に切腹を言い渡す。

 漆原は筆頭家老の座を狙っており、娘おりうを藩主の側室とし、その息子又次郎を世継ぎとすべき奔走する。それを清左衛門と黒沢織部正は食い止めようとしていた。新三郎はそのことを皆の前で訴えるが、父清左衛門は既に漆原に同意をしていた。兄栄之丞の結婚もその一つだった。

 13年後。廃嫡された右京が死亡。織部正となっていた新三郎は漆原の走狗と呼ばれるまでになっていた。右京毒殺の疑いも払いのけ、黛家側の家臣をも処罰、兄栄之丞とも不仲になっていた。しかし実際には新三郎は兄と通じており、又次郎が家督を譲り受ける前に行動を起こそうとするが、嵐の日堤が決壊してしまい、それどころではなくなってしまう。新三郎は堤決壊の前に怪しい動きをしていた男がいたとの情報を得る。又次郎嫁取りの日、宴が催されるが、そこで漆原の息子が新三郎にある訴えを起こす。

 

 砂原氏の「高瀬庄左衛門御留書」の神山藩第2弾。前作同様、二部構成。第2部は第1部の13年後へといきなり舞台が移る。

 作品の出来は前作同様格調高く、藤沢周平氏を思わせてくれる。第1部では、登場人物の紹介があり、突然新三郎の婿入りの話がある。兄栄之丞の藩主の娘との結婚話もあるため、黛家安泰の流れになると思いきや、次男壮十郎が事件を起こし、事態は急転する。敵役である漆原を目の前にし、新三郎は切り札を出そうとするが、それが逆に事態を悪化させることに。

 そして13年後へと舞台は移る。主人公新三郎がなぜか漆原の懐刀となっており、読者を唖然とさせるがこれには裏があった。いよいよ敵討ちとなるかと読み進めるが、そこで思いがけない大事件が発生、堤が決壊し兄栄之丞も重傷を負ってしまう。動かない新三郎にイライラさせられるが、話は裏で進んでおり、ラスト30ページで最後の見せ場がやってくる。

 敵討ちが大団円を迎えた後、新三郎(織部正)と嫁りくとの会話が良い。物語序盤以降で貼られていた伏線が見事に回収され、さらに新三郎や藩の新しい生活を予感させてくれる。

 

 前作同様、ミステリー調でもある時代小説。前作では主人公が50代の老人であり重みのある名言が多かったが、本作では登場人物たちの生き方そのものに重みを感じることが多かった。主人公の兄壮十郎、友である由利圭蔵、黛家の女中やえ、など。本作ではその他にも魅力的な脇役が多かったのも特徴か。

 著者がインタビューで答えているように、本作は主人公の成長物語とも言え、そこが前作と大きく異なる点である。隠居した老人、青年時代から大目付、家老へと出世して行く若者、という主人公が続いたシリーズ。次回作ではどんな世界を見せてくれるのだろうか。楽しみである。