君のクイズ 小川哲

●君のクイズ 小川哲

 優勝賞金1000万円のTV番組「Q-1グランプリ」に出場した三島は、決勝で本庄と対戦。正解した方が優勝という場面になるが、最終問題が読み上げられる前に早押しした本庄は見事に正解を答える。その不可解な行動に怒りを持った三島は、番組プロデューサーや本庄に連絡を取るが、明確な回答は得られなかった。三島は本庄の知り合いたちから話を聞き、本庄の過去についても調べ始める。決勝戦の問題を振り返りながら、自らの人生とクイズとの関わりについて考え始めた三島は、決勝戦に秘められたあることに気づき、本庄の不可解な回答に対するある答えを導き出す。そして本庄本人に連絡、実際に会って話をすることになるが…。

 

 このブログを始めて約4年になる。1年に100冊ほどの本を読んでいるが、久しぶりに一気に1冊の本を読み切ってしまった。それほど夢中にさせてくれた一冊。

 本作のテーマは、「一切の不正なしに、問題が読み上げられる前に、クイズに答えることは可能なのか」ということ。物語冒頭でいきなりこの場面となり、その異常さに違和感と怒りを覚えた主人公三島が、対戦相手だった本庄について調べ始め、物語が進んでいく。本庄のこれまでの人生を調べつつ、決勝戦の問題を振り返ることで自らのクイズ人生も振り返ることになる。

 クイズの問題と自らの人生がリンクしているのは、まさに「スラムドッグ$ミリオネア」を彷彿とさせる。それに気づき「スラム〜」のパロディなのか、と思って読み進めたが、あちらが主人公の貧しかった人生を振り返るものだったのに対し、本作は主人公がクイズとは自分にとってなんだったのかを振り返るものとなっている点が全く違うと言って良い。

 主人公が、自らにとってクイズが人生を肯定してくれるものだと気付き、その心理が変わる。さらに該当のTV番組に隠された秘密(これに対する伏線がまた上手い)に気づき、クイズの解答のテクニックを明示することで、本作最大の謎であった「一切の不正なしに、問題が読み上げられる前に、クイズに答えることは可能なのか」に対する答えがわかってくる。そうなのだ。最後に提示されるのは、本庄は「一切の不正なしに、問題が読み上げられる前に、クイズに答えること」を可能にしていたのだった。

 終盤、これがわかった時の爽快感はスゴい。この答えを読むために一気に本作を読んでしまったと言っても過言ではない。ラスト、主人公が本庄と対面し真相を聞き出す場面は、初め余分だと思ったが、本庄の真意がわかってみると、最大の謎であったあの回答も正解か否かは問題ではなかったとわかり、さらに納得ができた。

 TVのクイズ番組は現在でも数多く放送されている。番組そのものもエンターテイメントであると思うが、本作はそれを超えた見事なミステリー調エンターテイメントだと言える。