モップの魔女は呪文を知ってる 近藤史恵

●モップの魔女は呪文を知っている 近藤史恵

 女性清掃員キリコが様々な職場で起きる事件を解決していく。

 以下の4編からなる短編集。

 

水の中の悪意

 殿内亨はスポーツクラブのアルバイトをしている。深夜のプールでキリコと出会う。殿内がプールの監視をしている時に女性がやけどをしたと騒ぎ出し彼は慌てる。しかしインストラクター堀部がその場を納める。しばらくしてまた堀部がインストラクターをしている時にやけど騒ぎが起こる。今度は4人が訴える。

 

愛しの女王様

 鶴田奈津はペットショップで猫に一目惚れする。その猫を購入するために様々なバイトを始め、清掃のバイト先でキリコと知り合う。ショップの猫が売れてしまい落ち込む奈津だったが、その猫がブリーダーに返却され、奈津は猫を手に入れることができた。しかしある日自分の猫が別の猫に入れ替わっているのに気づく。

 

第二病棟の魔女

 新人看護師只野さやかが勤める小児病棟の子供達が魔女を見たと噂をする。さやかが深夜見た魔女は清掃員のキリコの姿だった。さやかはキリコから魔女の証拠としてブレスレットを受け取る。魔女を見たという井上雪美にさやかは病気が治るおまじないだとブレスレットを渡そうとするが、雪美はパパに怒られると受け取らなかった。その後雪美の母が看護師や病院に対し敵意を持ち始める。看護師たちは雪美の母にMBP(代理によるミュンヒハウゼン症候群)の疑いを持ち始めるが。

 

コーヒーを一杯

 坊野美穂は妹果穂を自分の会社のオフィスで深夜殺してしまう。偽造工作を始めた美穂は清掃員キリコと出会う。隣のオフィスに残業者が残っているため、遺体を運ぶ隙を伺っていた美穂は、隣のオフィスでの自殺騒ぎに巻き込まれる。

 

 いやぁ見事にヤラレてしまった(笑 普通の人は簡単に気づくのだろうが、私は読み終えるまで全く気づかなかった。

 前作に続くシリーズ3作目。前作同様、4編からなる短編集だと最初に目次を見た時に気づき、1日1話ずつ読んでいったのだが、3話目「第二病棟の魔女」が実によく出来た話でマイった。子供達の魔女話が出て、読んでいるうちにあぁ魔女はキリコか、と気づいたまでは良かったが、その後、怪しい看護師やら子供患者の母親の異常な行動などが次々を出てきて、なんかこれまでの話と展開が異なり過ぎると感じ始めていた。

 で、これらの話がひと段落したところで、キリコがさやかに「幽霊見たことある?」と聞くのだ。そう、ここからさらに話は展開、解けたはずの母親の行動の謎がぶり返し、さらにキリコ自体が幽霊だったのかと思わせる展開。そして結末。伏線が見事に回収され、キリコにまつわる謎も解き明かされる。それは前作でも話題となったキリコの祖母〜大介の祖母の話。キリコの「幽霊見たことある?」の言葉の本当の意味も明らかになる。

 冒頭でヤラレタ、と書いたのは、この3話目だけが1話2話の倍、約100ページの短編だったことだ。上記したように話が複雑に展開していき、その分十分に楽しめたが、この話だけで倍の長さだったとは、読み終わるまで気づかなかった。その分、他の話が前作よりも短く、最終話に至っては30ページの超短編となっている(それでも第1作と同じか)。ミステリには様々な仕掛けがあるが、この1編の長さが異なるのも、ある意味見事なトリックかもしれない(笑

 全体としては、前作と同様、犯人側の身勝手な都合で起こされた事件がほとんどだが、物語としては嫌な読了感があるわけではない。キリコの言葉だったり、各話の主人公たちの成長が読者をホッとさせてくれているのが良い。

 まだシリーズは続く。次の作品も楽しみである。