探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線 東川篤哉

●探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線 東川篤哉

 「なんでも屋タチバナ」を営む橘良太が、名探偵と言われる綾羅木孝三郎の娘有紗と共に事件解決に挑むシリーズの第3作にして完結編。

 以下の4編からなる短編集。

 

便利屋、クリスマスに慌てる

 良太は孝三郎に頼まれ、綾羅木家の別荘の庭の手入れをすることに。一緒に別荘へ行ったが、そこで殺人事件の第一発見者となってしまう。大雪に閉ざされた双子の別荘で事件は発生。事件の内容と聞いた有紗は密室の謎を解こうとするが、割れたガラスが障害となる。

 

名探偵、金庫破りの謎に挑む

 強盗殺人の容疑者となってしまった男が孝三郎に無実の証明の依頼に来るが、彼は出かけた直後だった。良太と有紗は依頼を引き受ける。被害者が所有していた掛け軸を巡りそれを狙っていたという骨董店の店主に会いに行くと、そこには問題の掛け軸が隠されていた。事件解決かと思われたが、有紗は別の真相にたどり着く。

 

便利屋、消えた小学生に戸惑う

 有紗の友人が変な男に付きまとわれていたところを少女に助けられる。その少女を探して欲しいと良太は依頼される。捜査を始めた良太はスナックでその話をしたところ、店のママの娘も被害にあったと言う。良太はママの娘のボディガードも引き受けることに。学校帰りの娘をつけていた良太は怪しい男を目撃、尾行するが男は娘とは別の方向へ。娘をつけていた良太だったが、娘も見失ってしまう。そして娘は公園のトイレで襲われて気絶していた。少女の消失、怪しい男の正体、二つの謎を有紗が解き明かす。

 

名探偵、溝ノ口を旅立つ

 溝の口に住む老人から壁のペンキ塗りを依頼された良太は依頼主の家へ。そこで家の家族とともに依頼主が殺されているのを発見。しかし家は密室状態で、依頼主は風呂での事故死かと思われた。現場を訪れた有紗は玄関先で密室のトリックを見破る。

 

 先日、東川篤哉氏の「仕掛島」を読み、久しぶりに氏の本を読むことに。

 シリーズ3作目。南武線武蔵新城に住む主人公良太という設定に惹かれ読み始めたシリーズだが、相変わらず武蔵新城溝の口もあまり描写はされていない(笑

 これまでの本シリーズ2作もそうだったが、事件のトリックを楽しむというよりは、良太と少女探偵有紗の会話を楽しむもの。氏の代表作となった「謎解きは〜」と同じテイストのシリーズなのだ。

 そうであるのだが、本作は「密室、消失もの」ということで統一されているようだ。ひょっとして私が気づかなかっただけで、前2作もそのような趣向があったのかも。

 

 第1話は、密室で定番の雪の別荘、しかも双子の別荘となれば犯人の見当はすぐに着く。割られたガラス窓が焦点となるが、犯人は意外な方法で割れたガラス問題をクリアしている。

 第2話は容疑者が警察に見張られた状態で、問題となる掛け軸をどうやって別の場所へ運んだか。なかなかの難問かと思えたが、他に可能性がないならば…というホームズの金言を思い出すような真相。

 第3話は小学生の消失。良太の目の前で尾行していた小学生の女の子が消えてしまう。さらに離れた公園で襲われ気絶した状態で発見される。前作で伏線の張り方がヘタだと書いたが、本作ではそれは撤回。女の子が消失した場面でベタな伏線があったのだが、気づかなかった(笑 なるほど、こんな手があったとは。

 最終話は、これまたベタな密室。そのトリックはさらにベタで、ここまでして密室ものを書きたかったかと思わせるほど。まぁそれが、本作が統一されたテーマで書かれていることに気づかせてくれたきっかけになったのだが。

 

 そして最終話では、有紗が母に呼ばれ外国へ旅立ってしまうことに。ラストの別れは実にあっさり描かれる。少女とおじさんの物語だから仕方なしか。第3話のラストで恥ずかしそうにバレンタインのチョコを渡す有紗も描かれていたのだが。

 シリーズ3部作は1年の間の出来事だったらしいが、私が前2作を読んだのは2年前。発刊は7年をかけての3部作らしい。著者の中ではこれで終わりなのか。地元ものということで読み始めたシリーズだったが、街の様子があまり描かれなかったことが不満。中学生に成長した有紗にぜひ武蔵新城へ戻ってきて欲しいと思うのだが。