小夜しぐれ みをつくし料理帖 高田郁

●小夜しぐれ みをつくし料理帖 高田郁

 つる屋で働く澪は、料理を作り客に振る舞う。名店登龍楼の嫌がらせで店を失ったつる屋だったが、新たな店を構える。店の主人種市、かつての奉公先のご寮さんである芳、青年医師源斉、謎の浪人小松原、幼馴染で吉原のあさひ大夫である野江など周りの人々とともに、澪は様々な困難に立ち向かって行く。

 以下の4編からなる短編集。

 

迷い蟹―浅蜊の御神酒蒸し

 薮入りで健坊がつる屋にやってくる。三方よしの日、つる屋にやってきた種市の元妻お連を種市は殺そうとするが止められる。その夜、種市はおつるが死んだ理由を語る。20年前、すでに浮気相手絵師の錦吾と家を出ていたお連が病気となりつる屋を訪れた。それを見たおつるは母親の看病に行くが、錦吾の絵のせいで金貸に拉致され、辱めを受けるならと自害してしまった。そのお連がまた店にやってきて、錦吾を見つけたと話す。それを聞いた種市は錦吾を探しに行くが、錦吾も二人の娘を持つ父となっていた。


夢宵桜―菜の花尽くし

 源斉が倒れ、美緒の家で看病をすることに。三方よしの日、つる屋に翁屋の主人伝右衛門がやってきて、翁屋の花見宴の料理を澪に作って欲しいと頼む。金に糸目をつけぬ料理でと言われた澪は献立で悩むが、野江との思い出を手がかりに菜の花尽くしを出すことに。宴で澪の料理は好評と得るが、一人公方筋のご落胤と思われる男が文句をつけ始め、あさひ太夫を出せと迫る。そこへ太夫が現れ、和歌を詠んでご落胤を黙らせる。仕事を終えた澪に伝右衛門は吉原で料理店をしてみないかと提案する。


小夜しぐれ―寿ぎ膳

 美緒がつる屋にやってきて泣き崩れる。父から源斉を諦め、中番頭の爽助と夫婦になれと言われたとのこと。一方澪は伝右衛門から言われた店のことで悩んでいたが、左手の怪我が回復したら話を受けると又次に答える。美緒の祝言の日取りが決まるが、美緒は拒んでいた。そんな中、つる屋の皆で浅草へ行くことに。そこで芳は息子佐兵衛の姿を見つける。それを聞いた澪が後を追いつる屋の名前と住所を教える。美緒が結婚の決意をし、伊勢屋は澪に婚礼の膳を頼みに来る。


嘉祥―ひとくち宝珠

 御膳奉行小野寺和馬は嘉祥で出すお菓子のことで頭を悩ませていた。妹早帆の夫で同僚の駒澤弥三郎と町の菓子屋を巡るうち、澪が好きな菓子だと発した煎り豆のことを思い出し、新たな菓子を思いつく。家に帰った和馬は早帆とともにその菓子を作り始めるが、早帆は和馬に嫁取りはしないのかと話す。そして母がつる屋に出向いたこと、その人となりを気に入ったことを話す。和馬は驚くが、平静を装い菓子を完成させる。

 

 シリーズ5作目。このシリーズには本当にハズレがないが、本作もしかり。さらに本作では、様々な進展があった。

 「迷い蟹―浅蜊の御神酒蒸し」では、とうとう種市の娘おつるが死んだ理由が明かされる。元妻、その浮気相手も登場、種市はおつるの仇を取るためにその浮気相手の家へ出向くが…という話。種市のほんの些細な意地悪な気持ちが娘を死なせてしまった後悔へと繋がっている。

 「夢宵桜―菜の花尽くし」は、澪が翁屋で贅沢三昧な料理を作ることに。ただ金をかけるだけではない、贅沢な料理とはなんだったのか。ちょっとだけ野江も姿を見せるが、その知識や振る舞いが圧巻。さらにこの出来事は、澪が新たに料理屋を始めるかもしれないきっかけとなる。

 「小夜しぐれ―寿ぎ膳」はもう一人のみお、こと美緒が恋い焦がれる源斉を諦め、番頭の爽助と結婚をすることになる。その婚礼の膳を澪が作ることになるが、この話のメインは、芳の息子佐兵衛が登場すること。シリーズ冒頭からその行方が分からなかった息子佐兵衛がやっと姿を現すが、やはり一筋縄ではいかない。

 ラストの「嘉祥―ひとくち宝珠」はとうとう小野寺が小松原和馬として登場、しかも彼が主役の話。常に料理つくりで苦しんでいる和馬が、大イベントの菓子作りに挑戦する。そこに、妹早帆から母親がつる屋で澪と会っていた話も明かされる。

 

 シリーズが全10作だということで、その折り返し地点。4つの話はそれぞれに登場人物たちの過去や未来に関係した話で読み応えがあった。澪は新しい店を持つことになるのか、美緒は想い人ではない男と幸せになるのか、澪と和馬の仲はどうなっていくのか。あー早く次の作品を読まなくては。