心星ひとつ みをつくし料理帖 高田郁

●心星ひとつ　みをつくし料理帖　高田郁

　つる屋で働く澪は、料理を作り客に振る舞う。名店登龍楼の嫌がらせで店を失ったつる屋だったが、新たな店を構える。店の主人種市、かつての奉公先のご寮さんである芳、青年医師源斉、謎の浪人小松原、幼馴染で吉原のあさひ大夫である野江など周りの人々とともに、澪は様々な困難に立ち向かって行く。

　以下の4編からなる短編集。

青葉闇―しくじり生麩

　坂村堂がつる屋に房八を連れてやってくる。彼は坂村堂の父が料理番付の行司役の料理屋一柳の店主柳吾だと話す。坂村堂は父との仲が悪かった。房八は芳のことが気に入り何度も店に通うように。澪は生麩を作ろうと苦労するが方法がわからずにいた。坂村堂に話すともち粉を使うのだと教えられる。後日房八が柳吾を連れて店に来る。澪は生麩を出すが、柳吾に料理人失格だと言われてしまう。一柳に招かれ生麩の秘密を知った澪は柳吾からつる屋にいる限りあなたの器はそれまでだと言われる。

天つ瑞風―賄い三方よし

　翁屋の主人伝右衛門がつる屋へ。吉原で店を出すことを澪に勧めたことを店の皆に話す。澪は町で気分がすぐれない女性を店に連れて帰る。女性は早帆と名乗り少し前に死産をしたことを明かす。登龍楼からの使いが来て神田須田町の店を安値でつる屋へ譲ると提案、ただし新しい店の料理人を澪がすることが条件だった。おりょうが夫伊佐三の親方の介抱で店を空けることに。代わりにおりうがやってくる。澪はおりうに新しい店のことを相談、その答えから決断をする。翁屋に断りに行った澪は新造たちの粋な計らいで野江と会話をし、気持ちはいつも一緒だと言われる。

時ならぬ花―お手軽割籠

　つる屋のある町でボヤが続き、町中で火を使う時刻が制限される。温かい料理を提供できないつる屋は客足が途絶えてしまう。困った澪は弁当を売り出すことを考える。弁当は好評を博し弁当を買い求める客が絶えないようになる。そこへ柳吾がやって来て厳しい言葉を残して行く。早帆が料理を習いたいと店に来る。火が使えない午後に澪は料理を教えることに。火を使うことが許され弁当売りの最後の日、早帆が店にやって来て弁当を一つ持って澪を店から連れ出す。連れて行かれた先は早帆の家であり、小松原の実家だった。澪は小松原の実母と会い、嫁になるように言われるが、恐れをなして逃げ出してしまう。

心星ひとつ―あたり苧環（おだまき）

　小野寺家の用人多浜重光がつる屋へやってくる。店の皆が澪が置かれた状況を知ることに。結婚をした美緒が店にやって来て澪には想う人と一緒になってほしいと話す。又次は太夫の気持ちを代弁し、種市や芳も澪に幸せになって欲しいと話す。そんな中、小松原がつる屋にやってくる。種市は澪の気持ちを小松原にぶつける。小松原は澪に女房殿になるかと問い、澪はそれを受け入れる。澪は武家奉公する準備に入るが、素直に喜べない状況だった。源斉と話した澪は心星について教えてもらう。

　シリーズ6作目。前作で大きな決断を迫られた澪が本作でその答えを出すことになる。さらに小松原の正体を知り、結婚を申し込まれる。

　「青葉闇―しくじり生麩」では坂村堂の父柳吾が登場、料理番付の行司役である一柳の主人。澪は大坂時代の思い出から生麩を作ろうとするが上手く行かず、坂村堂にアドバイスをもらう。それが元となり柳吾から叱責を受けた上、今のままでは大きな器にならないと言われてしまう。前作で新たな店の提案を受けている澪はまた悩むことに。

　「天つ瑞風―賄い三方よし」では、澪が翁屋から新たな店をすることを提案されていたことがつる屋の皆にバレてしまう。さらに登龍楼からも似たような提案が来て、さらに澪を悩ませる。しかし店の手伝いに来ていたおりうの言葉から、澪はつる屋を続けていくことを決断。断りに行った翁屋で、野江と襖越しの再会を果たす。

　「時ならぬ花―お手軽割籠」つる屋のある町でボヤ騒ぎが続き、店で食事時に火を扱えなくなってしまう。店に閑古鳥が鳴く中、澪は弁当を作って売り出すことを思いつく。1話目で偶然知り合った早帆が、澪を自分の家へ連れて行き母親に会わせる。それは小松原の実家だった。小松原の母は澪の人となりを認め、小松原（小野寺和馬）と一緒になるように勧めるが、澪は怖くなり逃げ出してしまう。

　「心星ひとつ―あたり苧環（おだまき）」小野寺家での出来事を隠していた澪だったが、小野寺家の用人がつる屋に現れ、皆が事実を知ることに。又次、種市、芳など皆が澪と小松原のことを喜び、武家奉公の話が進むが、澪の気持ちは複雑だった。野江との約束、天満一兆庵の再建、料理人の道などを諦めなければいけなかったからだった。そんな澪は源斉に相談、心星のことを教えてもらい、小松原とのことを諦める決心をする。

　このシリーズを読み始め、NHKでドラマ化されていたことを知り、メディアを手に入れた。レギュラー8話、特番前後編とあり、特番前編のタイトルが、本作最終話と同じだったので、急いでここまで読みきった（笑　そして前編まで鑑賞。ドラマには原作と異なる展開があったが（そもそもおりうや美緒が登場しない）、大筋では原作通りの展開。特番前編の終わり、澪が小松原に別れを告げるシーンの泣けること、泣けること。シリーズ7作目にして、やっと澪の想いが通じたと思ったら、その話の中で澪が別れを決意する展開になるとは。もう少し幸せな時間を過ごさせてやっても良かったのに（笑

　ひとつ驚いたのは、前述した澪が小松原のことを諦める理由。小松原を選ぶことは、他のいくつかの夢を諦めることになる、というのが本筋の理由だが、早帆との会話で父の遺品とも言える塗り箸のことを格下だと言われたのがきっかけのように思える。塗り箸は、天満一兆庵と澪とを繋いだ品でもあり、澪が塗り箸職人の娘だったという設定の上手さをその時も感じたが、小松原との一件にも関わってきた。著者は、あらかじめここまで考えて、澪の父の職業を考えていたのだろうか。もしそうなら著者の伏線の巧みさは半端ない。

　シリーズは残り4作。ドラマの方は後編が残っている。料理人の道を選んだ澪、今後まだまだ苦労しなければいけないのだろうなぁ。でも最後には雲外蒼天となることを期待して続きを読んでいこう。で、最後にドラマの後編を見ることを楽しみにしよう。

心星ひとつ みをつくし料理帖 （ハルキ文庫） [ 高田郁 ]