変身の牛 新・大江戸定年組 風野真知雄

●変身の牛 新・大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第10作にして、13年ぶりに刊行された新シリーズ第3作。

 町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の4編からなる。

 

医術の窓

 真崎仁斎という医者が初秋亭にやって来る。ある患者が悪いところもないのに毎日治療にやってきて困っているという話だった。患者の名は京作。藤村は翌日から真崎の家に行き、京作の様子を確認する。試しに偽の薬を高い値で出しても京作は素直に受け取って行った。京作の狙いがわからない藤村は、初秋亭に来る虎山に相談、虎山と一緒に京作の様子を見に行く。それでも謎が解けなかった藤村は虎山の誘いで真崎の家のそばにあるうどん屋に入る。そのうどん屋おやじ馬次は山に長いことこもっていた男で、馬次が作るうどんはまずかったが、汁は絶品だった。藤村は馬次の店から真崎の家の中の様子が見えることに気づき、京作の狙いに気づく。

 

玩具の牙

 八百屋の八五郎が初秋亭にやってきて、土佐屋の隠居弥右衛門が亡くなった時に居合わせ、弥右衛門が竹トンボに殺されたと言って死んだと話す。仁左衛門は藤村の息子康四郎にその話をする。康四郎は調べ始めるが何もわからなかった。藤村たちは隠居の家に行き、竹トンボが頻繁に飛んできていたこと、竹トンボが飛んできはじめた半月前に弥右衛門の子供の頃の友達が訪ねてきていたことを知る。弥右衛門が生まれた佃で話を聞いた藤村たちは、弥右衛門の幼馴染の又六、その女おたま、二人が京都に行ったこと、などを聞き出す。藤村は京都にいる鮫蔵に事情を知らせる手紙を書き、又六のことを調べさせる。鮫蔵は又六を見つけ話を聞く。又六は子供の頃に弥右衛門に竹トンボで人を殺せるという話をしたことを思い出し、竹とんぼをいたずらで弥右衛門の家へ飛ばしていたのだった。

 

変身の牛

 初秋亭に奈良屋市右衛門という名主がやってきて、息子耕次郎が牛になったと話す。詳しく聞くと、一人暮らしをしていた耕次郎が行方不明になり、家には牛が一頭いるだけだったとのこと。耕次郎のことを調べるが、少し変わった人間というだけで、お金にも困っておらず、行方不明になった理由はわからなかった。牛をヒントに近所の牛飼いのところへ行き、子牛を買った人間がいないか調べるとやはり耕次郎が買っていたことがわかる。夏木が耕次郎の家の向かいの武家屋敷から若い娘が見ているのに気づく。夏木の息子洋蔵が耕次郎の家にやってきて、彼が向かいの屋敷の若い娘に惚れられて困っていたことを告げる。それを聞いた夏木は耕次郎がどこにいるのか閃き、耕次郎と娘の間をとり持つことに。


逆転の宝

 藤村は刀の鍔の修繕のため、金物職人の順吉の家を訪ねる。そこで本を逆さまにして読んでいる少年を見かける。藤村たちは忍藩の屋敷の外で斬り合いを目撃。康四郎がその事件を調べ始める。藤村が金太に剣術を教えていると、例の本読みの少年裕太郎が自分にも教えて欲しいとやって来る。夏木が忍藩の武士を順吉の家で見かける。彼らは古刀の修繕を依頼していた。洋蔵に見せるとそれは1000年以上前の青銅の剣とわかる。忍藩屋敷からは遺跡があると洋蔵が話す。藤村は裕太郎の父が忍藩の武士で、屋敷の宝を狙う侍、真壁に斬り殺されたことを聞く。藤村たちは忍藩の先崎に事情を説明、宝の謎は裕太郎に藩史を読ませればわかると話す。真壁たちが忍藩の屋敷にきて先崎たちを襲おうとするが、見張っていた康四郎が彼らを捕まえる。

 

 新シリーズ3作目。本作もホームズばりの不思議な事件ばかり。

 「悪いところはないのに毎日医者に通う男」「竹トンボに殺されたという最期の言葉」「一人の男が行方不明になりその家には一頭の牛が残された」「本を逆さまにして読む少年」。どれもホームズが喜びそうなエピソードばかり(笑 謎解きの方もそれに見合ったものになってきている感じがして、なかなか面白い。

 サブエピソードは前作を踏襲。仁左衛門とかな女の仲はますます進展し仁左衛門が困り始める。夏木の息子の奉行話もクライマックス。前作では何事も起きなかった藤村の吐血は本作でひどい状況になりつつある。

 そして何より最終章のラストで、新シリーズで伏線として語られていた大地震がいよいよ発生。3人の生活はどうなるのか。初秋亭は無事なのか。先に書いたサブエピソードの行方は。いろいろと気になることを残して本作は終わる。

 これは次回作を早く出版してもらわなければ…(笑