真夏の焼きそば 食堂のおばちゃん5 山口恵以子

●真夏の焼きそば 食堂のおばちゃん5 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

真夏の焼きそば

 はじめ食堂でワンコインランチを始める。その頃店に初顔となる男性が客としてやってくる。一人はブルドッグ似、もう一人はシェパード似だった。二人はその後も店に来るようになる。ある日、帰ってきた要がシェパードを見て驚く。30年前のビル爆破事件の犯人に似ているというのだ。それを聞いた二三たちは緊張する。後日、新聞に爆破事件の犯人逮捕の記事が出る。犯人はシェパードではなく、ブルドッグの方だった。

 

禁断のチーズ和え

 要が担当となった売れっ子ハードボイルド作家の阿木を連れて店にやって来る。阿木はその後店の常連となり、同じ常連の菊川瑠美と知り合いであることが判明する。二人は店でよく会話するようになるが、そこへ要がイラストレーターの播磨を連れてやって来る。播磨は阿木の知り合いだった。3人は店でよく会うようになるが、播磨が瑠美を見る目が異常だと二三は気づく。心配する二三にジョリーンは、播磨の狙いは瑠美ではなく、阿木だと話す。

 

初めてのハラール

 店に黒人2人ケイタとアランが客としてやってきてハラールを希望する。二三の英語力で対応、二人は満足して店を後にする。瑠美が仕事で知り合ったモデストファッション関係の2人の女性、ナディンとアシィファを店に招待する。店ではハラールに対応した食事を出すことに。2人も二三たちに感謝し帰っていく。その夜、瑠美から店に電話が入る。ナディンたちがパスポートを紛失した、店にないかという問い合わせだった。二三たちが探すが店にパスポートはなかった。翌朝、開店前の店にパンクファッションの若い女性がやって来る。彼女はナディンたちのパスポートを持っていた。彼女の店を訪ねたナディンたちが忘れたものを届けてくれたのだった。二三は魚屋の山手の車を出してもらいホテルにパスポートを届けることに。

 

過ぎし日のカブラ蒸し

 常連客瑠美が元気がないことに二三は気づく。要によれば雑誌で対談した相手のシェフがブログで料理研究家を否定したためではないかとのことだった。ある日店に中学生かと思える少女が一人で客としてやって来る。その後も店にやってきて少女に一子は少女の祖母の名前を聞く。少女は御子神玲那といい、玲子の孫だった。玲子の母は一子の夫孝蔵と付き合いのある女性で、一時期玲子は自分の父が孝蔵だと言い張っていた(食堂のおばちゃん2 「別れのラーメン」参照)。玲那から玲子のことを聞いた一子は涙ぐみ、夢を語る玲那を励ます。

 

気の強い小鍋立て

 万里の提案で店で小鍋立てを出すことに。一子と二三は万里に調理師免許の試験を受けさせることにし、本人にもそれを伝えるが、万里は浮かない顔をしていた。万里は病気で入院した友人を見舞いに浦安の病院へ。そこで店にパスポートを届けてくれたパンク女性桃田はなと出会い、飲みに誘われる。はなが実家である生地屋を自分の力で再生したいと考えていることを聞いた万里は、自分が将来のことを何も考えていないことに気づき落ち込む。後日店にはながやってきてお礼だと自分で焼いたパウンドケーキを持って来る。事情を説明し、自分のことも話す万里に一子は、精一杯やっていれば悔いは残らないと話す。

 

 シリーズ5作目。

 ミステリー感がある作品が「真夏の焼きそば」「禁断のチーズ和え」。はじめ食堂も国際色豊かになって来る「初めてのハラール」。シリーズ第2作が見事な伏線となっている「過ぎし日のカブラ蒸し」。万里が将来のことを悩む一方で、新たな恋の予感がする「気の強い小鍋立て」。

 シリーズを追うごとに話のレベルが上がってきている感じがするのは気のせいではないだろう。シリーズ2作目が舞台設定が何十年か前の異色作となっていたが、本作の4話目で初めてそれを活かした話が登場。これまでシリーズでは伏線があまり使われてこなかっただけに驚かされた。

 最終話で名前が明らかになったはなちゃん。万里との恋の行方が気にならない方がおかしいでしょ(笑 あぁまた次の作品が早く読みたくなってしまった。