続拝啓天皇陛下様

●772 続拝啓天皇陛下様 1963

 山口二等兵は軍犬部に転属される。6年間軍隊生活を送っていた山口だったが、うだつが上がらずモサクレと呼ばれていた。

 

 山口は岡山出身、少年の頃天皇陛下と会えると海岸に連れていかれるが天皇陛下がいたのははるか遠方の海上だった。家族が腐った魚を食べて死亡、親戚の家に預けられた山口は小学校の女性教師に文字を教えてもらうことに。女性教師のことを好きになった山口は花をつんで渡そうとしたが抱きついてしまったため、強姦未遂で少年院へ。出所した山口はまともな職に就くことができず、うんこ屋をすることに。そんな山口も軍に入ることに。

 山口は軍隊に入り、3食付きであることを喜ぶが、2年で除隊。またうんこ屋に戻る。しかし中国との戦争が始まり、召集令状が来る。出兵前に中国人王がやっている床屋に行き散髪をしてもらうが、中国との戦争が始まっており、王の店には誰も客が来ない状態。散髪に来た山口に王は感謝し友達だと話す。

 

 軍犬部に所属した山口だったが、酒を飲んで喧嘩騒ぎを起こし営倉へ。しかし山口が担当することになった軍犬「友春」が山口を心配して待っており、それを上官に言われた山口は友春に謝罪し一緒に生きて行くことを決意する。

 訓練が終わり山口は友春とともに元の舞台に戻ることに。上官は山口に友春の持ち主からの手紙を渡し、返事を書くように言って別れる。中国に配属された山口。ある夜、友春に勝手に餌をやろうとしていた高見という一等兵と出会う。怒る山口だったが、犬好きだという高見を許すことに。そして友春の持ち主への手紙を代筆することを頼む。友春の持ち主久留宮ヤエノからの返事と慰問袋が送られてきて、山口は高見に読んでもらう。

 戦況は悪化をたどる。山口の部隊からも戦死者が出る中、ヤエノからの手紙が送られてきて、中には写真も入っていた。昭和20年8月、敵に捕まった捕虜からの呼びかけが行われる。翌日高見たちが斥候として出るが、皆殺され友春だけが帰って来る。

 終戦天皇陛下の言葉を中隊長が読み上げるが、山口は日本が負けたことを信じなかった。しかし部隊の引き上げが始まる。途中、上官からの命令で山口は軍犬をその地において引き上げることに。山口は友春と涙の別れを告げる。

 昭和21年。山口は日本に戻って来て、京都のヤエノの家へ。しかしヤエノは夫が戦地で行方不明であり、家からの立ち退きを要求されていた。山口は持ってきた食べ物をヤエノに渡し食べてもらう。また来るからと言い残し山口はヤエノの家を去り、大阪の地下道で寝泊りをする。山口は闇市で知り合った男の仕事を手伝うことに。仕事は中国人が不法に占拠し作った店を取り壊すことだった。山口はその店へ行くが、店の主人は王だった。王は妻と別れ若い女とともに店をやっており、店が壊されても隣に新たな中華料理の店を作り繁盛していた。山口は王の店を手伝うことに。王の妻もブローカーとして稼いでいた。

 山口はヤエノの家を訪ね続ける一方で、住んでいる大阪城付近で祖父と暮らす恵子と知り合う。少し頭の弱い恵子はいつも軍歌を歌っていた。ある日大阪に天皇陛下がくるというので、山口は恵子とともに見にいくが、人が多く天皇陛下を見ることはできなかった。その後、恵子は米兵に乱暴され姿を消してしまう。

 山口のヤエノの家通いは続いていた。仕事を手伝ったり、時には一緒に買い出しに出かけたり。ある時、ヤエノは初めて山口が家に来て食事を食べさせてくれた時のことを話し出す。山口は行為で食事を差し出したのだが、ヤエノは食事の代わりに乱暴されるものだと思っていた。それでも食事を食べずにはいられなかったのだ、と。

 山口は闇市で米兵に捕ま理想になり暴力沙汰を起こし捕まってしまう。そして沖縄へ送られることに。山口は面会に来た王にヤエノのことを頼むのだった。3年が過ぎ、山口は釈放される。その場に王とヤエノがきてくれたが、ヤエノの夫が戦地から戻ってくると聞いた山口は落ち込んでしまう。

 山口は王の仕事を手伝うように言われたが、ヤエノとのことをからかわれ店から飛び出してしまう。山口はバタ屋をして生活していた。ある時酒を飲んで米兵と知り合った山口は夜の街を米兵を送って行くことに。そこで恵子と出会う。山口は恵子と一緒に暮らし始める。

 ヤエノの夫が帰還する。お祝いの場に呼ばれた山口はヤエノの夫に奥さんを大切にしてくれと頼み家に帰る。家に帰った山口は恵子にこれから結婚式をすると話し、仲間達を呼び結婚することに。

 世間は朝鮮戦争特需が終わる。山口はパチンコや競輪の博打にのめり込み始める。金がない夫婦だったが、恵子は昔の売春婦仲間に金を借りなんとか生活していた。王は妾の情夫に刺されてしまう。見舞いに行った山口は帰り道盛り場で売春婦たちと一緒にいた稽古を目撃してしまい、出ていけと叫ぶ。恵子はその日から姿を消してしまう。

 ヤエノが王の見舞いに来たついでにと山口の家を訪れる。退院した王の店は強制撤去されていた。王は山口と生活し始めるが、サイゴンに行って妻とやり直すと話す。山口は王を見送る。

 山口は警察から呼び出される。恵子が売春容疑で逮捕されたが、妊娠中だと告げられる。病院で恵子と再会した山口は自分の子供が生まれることを喜ぶ。しかし恵子はあ子供を産んで亡くなってしまう。山口は赤ん坊を連れて夕焼けの中帰って行く。

 

 「拝啓天皇陛下様」を観たので、続けて鑑賞。

 基本的なスタンスは「拝啓天皇陛下様」と何も変わらない。学はないが人の良い男が主人公。軍隊に駆り出されるが、戦争が終わり、とある女性に惚れてしまう。それでも最後には結婚相手を見つけるが…というストーリー。

 ストーリーで異なる点は、軍隊生活があまり描かれない、軍隊で軍犬担当となる〜それが女性との出会いとなる、戦争相手である中国人と仲が良い〜これも後半のストーリーに繋がる、ひょんな事で知り合った女性と結婚(前作では結婚直前に主人公が亡くなる)、結婚相手が子供を産むがそれが原因で死亡してしまう、といったところか。

 

 前作でも書いたが、主人公が戦後女性(前作は未亡人、本作は夫がセンチで行方不明の妻)と出会い惚れてしまう設定は、まさに「男はつらいよ」を彷彿とさせる。「男はつらいよ」が誕生する前なので、「無法松の一生」を彷彿とさせる、という表現が正しいかも。

 

 ストーリーに関しては上記の通りだが、前作に比べると、戦争の裏の部分を描いている箇所が多いという印象。主人公を中国人と知り合いにさせることで、在日中国人の店が戦争中に日本人から相手にされなくなったこと、戦争中日本が攻撃されるのを喜ぶ中国人たちの姿、戦後その中国人の店を日本人たちが叩き潰してしまうこと、などが描かれている。そんな中でも、主人公が王と友人関係を続けているところが救いなのだろう。

 また、軍犬を戦地に残していかなかければいけなくなった状況も描かれる。ここでの渥美清の涙は、寅さんでは見られなかった本気の涙だったように思う。

 さらに女性の扱われ方。恵子が米兵にレイプされるシーンはあまりにリアルで目を背けたくなるものだし、ヤエノが主人公に初対面の時に米を食べさせてもらった時の心情を語るシーンはあまりに切ない。

 これらのシーンがあることで、前作に比べ戦争の悲惨さが感じられ、コメディ色が強かった前作に比べると、反戦映画と言っても良いで気になっていると思う。

 

 本作、前作は3部作らしく、次の「拝啓総理大臣様」がその最終作らしい。こちらも観るのが楽しみである。