鬼平犯科帳 松本幸四郎 でくの十蔵

鬼平犯科帳 松本幸四郎 でくの十蔵

 

梅吉と助次郎、おふじ

 小間物屋助次郎の店に梅吉が土産を持ってやってくる。しかし本当の狙いは土産の下に隠したつなぎの文だった。助次郎は喜んだふりをしながら土産を受け取り、身籠の妻おふじに土産を渡し、つなぎの文を読む。それは1ヶ月後に長崎屋を襲うという内容だった。

 

野槌の弥平一味

 1ヶ月後、虚無僧の格好をした同心小野十蔵がおふじの家から鳴き声が聞こえたため、彼らの家へ。そこでは助次郎が殺されていた。十蔵はおふじに身分を明かし、なぜ助次郎を殺したのかと問う。助次郎はおふじを捨て出て行くと話し、それを聞いたおふじは生きていけないと助次郎と子供と心中しようとしたのだった。十蔵はしばらく前から助次郎を見張っていたと述べ、助次郎が盗賊野槌の弥平一味だとおふじに伝える。十蔵は助次郎が家を出て行くと言ったということは、一味が仕事を働くということだと考える。その予想通り、野槌の弥平一味は長崎屋を襲い、店の者を皆殺しにする。一味のの中の1人、小房の粂八は店で隠れていた女を助けようと声を出すなと言い含めようとするが、梅吉に見つかりその女は殺されてしまう。

 

十蔵、おふじを匿う

 鬼平は与力同心を集め事件のことを話す。助次郎のことを1人調べていた十蔵だったが、助次郎夫婦がしばらく前から行方不明だったと嘘をつく。十蔵は忠吾をはじめ他の同心たちに非難される。手がかりを失ったため、鬼平は皆に夫婦を探すよう命令する。忠吾は十蔵に謝り、助次郎の妻のことを聞こうとするが、十蔵はあまり覚えていないととぼける。

 十蔵は縁者の農家へ。彼はそこにおふじを匿っていた。おふじは子供を産んでいた。十蔵はおふじが作ったご飯をご馳走になる。おふじは両親を亡くし誰にも頼ることができない、十蔵だけが頼りだと話す。それを聞いた十蔵はおふじを抱いてしまう。

 十蔵が怪しいと睨んだ鬼平はおまさに十蔵を見張るよう命じる。十蔵は家に帰るが、妻おいそとの夫婦仲はよくなかった。おいそは十蔵がおいその実家から大金を借りたことを責め理由を聞こうとするが、十蔵は勤めで必要だったと嘘をつく。おいそは結婚の時も自分の持参金が目当てだったのだろうと十蔵を平手打ちする。

 

粂八捕まる

 粂八は寺の門前で茶を飲んでいた。そこへ蓑火の喜之助という盗賊の親分がやって来て粂八に声をかける。喜之助は粂八が今野槌の弥平一味で働いていると聞き、畜生働きをしている野槌の弥平を非難し、江戸の盗賊も地に落ちたと話す。粂八は梅吉が来たため去って行く。そんな2人を赤子のお宮参りに来ていたおふじが偶然見ていた。おふじは十蔵にそのことを伝えるが、十蔵は家から出るなと言ったとおふじを叱る。しかしおふじは十蔵に会いたかったから外へ出てしまったと答える。そしておふじは梅吉たちをつけ、旅籠に入っていったと話す。それを聞いた十蔵はその旅籠へ。2人が出てくるのを張り込んでいた十蔵、2人が出て来たため後をつけるがそこには他の同心たちもいた。十蔵と忠吾は梅吉を追うが取り逃がしてしまう。他の同心たちは粂八を捕まえていた。

 

梅吉がおふじを拐う

 役宅に戻った十蔵は鬼平がなぜ旅籠を見張ることができたのかと尋ねるが、逆に十蔵はなぜ知ったのかと問われてしまう。捕らえられた粂八は拷問を受けるが、名前以外何も話さなかった。おまさは十蔵がおふじを匿っていることを鬼平に話す。鬼平は2人の仲を聞き、十蔵の妻のことなども尋ねる。十蔵は粂八を拷問にかけるが、やはり何も話さなかった。その時十蔵に助次郎からの文が届く。呼び出された場所へ行った十蔵だったが、そこにいたのは梅吉だった。梅吉はおふじが助次郎を殺したこと、その死体を十蔵が家の床下に埋めたことを見ていたのだった。梅吉はそのことを伝え、バラされたくなければ粂八を郎から逃がして欲しい、その引き換えにおふじを解放すると話す。十蔵はおふじがいる農家へ。しかしおふじはおらず、赤子が残されていただけだった。

 

鬼平の拷問、そして終盤へ

 役宅に戻った十蔵は牢にいた粂八を逃がそうとするが、鬼平に見つかってしまう。十蔵は全ての事情を話すが、鬼平は粂八を逃すことはできないと答え、粂八を厳しい拷問をし野槌の弥平一味の居場所を吐かせる。

 鬼平たちは一味の盗人宿へ行き一味を捕らえる。十蔵は捕まっていたおふじを発見する。おふじは赤子の名前を聞き、十蔵は順という名を考えたことを伝えるが、それを聞いたおふじは赤子のことを頼み死んでしまう。

 翌日十蔵は鬼平への手紙を残し腹を切る。鬼平は順を引き取り、久栄と一緒に育てることに。

 

 

 吉右衛門版の「むっつり十蔵(第1シリーズ第6話)」を書いたブログはこちら吉右衛門版の「むっつり十蔵」と細かい部分で違いはあるが、同じ原作(唖の十蔵)をベースにしているので基本的に話の流れは同じである。

 野槌の弥平一味を追っていた火盗改の十蔵は、一味の1人と思われた助次郎を見張っていたが、その妻おふじが彼を殺したことを知る。おふじに同情した十蔵は助次郎の死体を隠しおふじを匿うが、それをやはり一味の1人である梅吉に見られていた。おふじが偶然梅吉を見たことから、火盗改は梅吉の仲間を捕まえるが、梅吉は取り逃がしてしまう。梅吉は十蔵に秘密をバラされたくなければ仲間を解放しろと迫る。全てを知った鬼平はその仲間に厳しく拷問を行い一味の居場所を吐かせ、一味を捕まえる。事件解決後、十蔵は自害してしまう、というお話。

 原作は鬼平シリーズの記念すべき第1話であり、これ以外にも様々なエピソードが含まれているが、ドラマにするのに不要な部分はカットされているようだ。

 

 本作の注目は、梅吉の仲間が「小房の粂八」であったこと。これは原作とも吉右衛門版とも異なる点であり、この後のエピソードで粂八が密偵となる布石なのだろう。

 さらに言えば、本作の一番の見どころは、やはり十蔵。柄本時生さんが演じているが、吉右衛門版では、父親の柄本明さんが演じていた。親子で同じ役を演じる、というのは相当珍しいのではないか。柄本時生さん、プレッシャーあっただろうなぁ(笑

 

 細かい話だが、吉右衛門版との違いをもう一つ。ゲストキャラであるおふじの生死について。吉右衛門版ではおふじは自害した十蔵を見て涙する、というシーンがあったが、本作では一味に捕らわれており、火盗改が踏み込んだ際に死亡してしまう。彼女の生死にこだわるのは、本作も吉右衛門版もラストで、その赤子を鬼平夫婦が引き取る、ということになっているためだ。助次郎はすでに死亡しており、おふじが存命なら鬼平が引き取るはずはないわけで、吉右衛門版ではそこがちょっとおかしい点だったが、本作ではそれが解消されている。

 

 蛇足でもう一つ。梅吉を捕まえようとしたのは、十蔵と忠吾。そこで忠吾が笑える演技をしているのは注目すべき点かも(笑 吉右衛門版では見事なコメディリリーフだった忠吾、本シリーズでも同様の役割を果たす伏線なのかも。

オータム・イン・ニューヨーク

●759 オータム・イン・ニューヨーク 2000

 公園でリンとデートしていたウィルはいきなり別れを告げる。付き合って数週間だとリンは話すがウィルの気持ちは変わらなかった。彼はプレイボーイを自認しており、次々と付き合う女性を乗り換える男性だった。

 ウィルは高級レストランのシェフをしていた。店に来ていた老婦人ドリーの紹介で彼女の孫のシャーロットと出会う。シャーロットの母親はウィルがかつて付き合っていた女性ケイティーだった。

 ドリーからシャーロットが帽子のデザイナーだと聞いたウィルは彼女に帽子を発注する。数日後シャーロットはウィルの要望に答え帽子を届けるが、パーティに参加する女性にドタキャンされたと話し、シャーロットにその代役を依頼、彼女はウィルとともにパーティに参加する。

 パーティの場でリサという女性がウィルとともに来たシャーロットに声をかける。ウィルが近づいてくるとリサは去っていくが、ウィルはシャーロットからリサの名前を聞いて動揺する。

 ウィルとシャーロットは親密となり一夜をともにする。翌日ウィルは自分は女性と長い付き合いはできない男だと告白し別れようと告げる。シャーロットもそれに同意、自分は病気で長くは生きられないからと答える。

 ウィルは友人ジョンに相談、彼はウィルにシャーロットと真剣に付き合うことを勧める。ウィルはシャーロットの家へ。ドリーからケイティーが事故死したことを聞かされ、孫娘とは付き合わないで欲しいと言われる。しかし2人はデートをし、ウィルの店の皆と会食をする。ウィルは帽子の一件は嘘だったと告白する。シャーロットはウィルの家へ行くが、そこで発作が起きてしまう。

 ウィルは彼女を病院へ連れて行く。そこで主治医から彼女の余命が1年だが、彼女は手術を拒否していると聞かされる。家に帰ったウィルはリサからの手紙を受け取り、彼女勤めている美術館に行き彼女の姿を確認する。

 ウィルはシャーロットともに友人ジョンの家のパーティに参加する。そこで再会したリンとsexをしてしまう。帰り道、シャーロットはウィルを問い詰めるとウィルはその事を白状する。シャーロットは激怒し別れを告げる。泣きながら帰って来たシャーロットにドリーは母親もウィルと付き合っていたが、彼は母親の友人を妊娠させたという話をする。それを聞いたシャーロットはその事を黙っていたドリーに激怒する。

 ウィルが家に帰るとリンが訪ねて来ていた。彼女は妊娠した事を告げ、父親であるウィルが自分のことを探し続けているという空想をしていたと話す。

 ウィルはシャーロットに会いに行き謝罪し愛させて欲しいと頼み、彼女も受け入れる。2人はクリスマスに向けデートを重ねる。しかしスケート場で彼女は倒れてしまう。病院へ行ったウィルは主治医から病気が進行しており、数週間の命だと言われる。彼女の手術は難しいためそれをする医師がいないと言われたため、シャーロットの手術をしてくれる医師を探すがなかなか見つからなかった。ウィルはリサに会いに行き弱音を吐く。それを聞いたリサは手術をしてくれる医師を探す手伝いをすると話す。

 リサから医師が見つかったと聞いたウィルはシャーロットには内緒でその医師に会いに行く。しかしシャーロットはそのことを知ってしまいウィルを問い詰める。ウィルはシャーロットにまだ生きていて欲しいと話し、彼女も手術を受けることに同意する。クリスマスの飾り付けをしていた2人、ウィルの飾り付けが完成したその時、シャーロットは倒れてしまう。ウィルは医師に連絡、緊急手術が行われる。病院にはドリーやリサ、ウィルの友人たちが集まってくる。しかし手術は失敗、シャーロットは亡くなってしまう。

 家に戻ったウィル。シャーロットが用意したクリスマスプレゼントを開けると、いつか彼女が彼から預かった腕時計がそこには入っていた。ウィルはリサとその子供とともに公園のボートに乗っていた。

 

 

 リチャードギア主演のラブストーリーということで、そっち系の話を想像しながら観ていたが、予想とは違う話でちょっとビックリ(笑 さらにストーリーがいろいろとスベっている感もあり、二度ビックリ。

 

 話はオジさんと若い女性の恋物語ということで、前半「プリティウーマン」の逆パターンの大人のおとぎ話かと思ったが、後半は難病に苦しむヒロインものになってしまった。同様の話で日本で大ヒットしたセカチューが本作の翌年に発刊されたのは偶然とは思えないがどうだろう。

 それにしてもストーリーのスベっている感はヒドい。上記したように前半は、プレイボーイを自認するオジさんが、若くて純粋な女性に出会うことで、愛に真剣になって行く展開かと思ったが、この部分が弱い。ヒロインの病気が発覚してしまい、主人公は嫌でもヒロインに対し真剣にならざるを得ないためだ。

 他にもある。リサという謎めいた女性が序盤に登場するが、後半彼女が主人公の娘だと発覚する。しかもどうやら彼女はヒロインの母親の友人の娘らしい。ドリーやリサ本人の話でそれがわかるのだが、この設定も活かされていないように思える。そのリサはまるで、ヒロインの病気を手術する医師を探す手伝いのためだけに登場したように思えてしまう。

 さらにダメ出しするならば、冒頭で別れを告げられるリンも同じ。主人公とヒロインがケンカ別れをする原因を作る女性がパーティに現れるのだが、これがリンである必要があったのだろうか。冒頭ではこの女性以外にも主人公は様々な女性に声をかけており、どんな女性でも良かっただろうに、ここで再度彼女を登場させた理由は何なのだろう?

 

 「プリティウーマン」の10年後に作られた本作。リチャードギアも年を取り、大人のおとぎ話はもう終わった、というメッセージなのだろうか。そう言えば2000年代に入り、さらに高齢の主人公たちの恋物語が増えたような気がするけれど。

 

 

 

幻の声 髪結い伊三次捕物余話 宇江佐真理

●幻の声 髪結い伊三次捕物余話 宇江佐真理

 本業である髪結いをしながら、同心不破友之進の小者としても働く伊三次。芸者お文に惚れていながら一緒になれないでいる。そんな伊三次が不破の下で事件を追う。

 以下の5編からなる短編集。

 

幻の声

 日本橋の呉服屋成田屋の娘お鈴が拐かされ百両を奪われる事件が発生したが、下手人彦太郎はすぐに捕まった。しかし翌月自分が犯人だと駒吉という芸者が名乗り出て来る。真相を探るように伊三次は命じられ、駒吉のことを調べ始める。おしのという名の青物屋の娘だった駒吉が突然芸者になったという話を駒吉の兄から聞いた伊三次は駒吉が命をかけて彦太郎をかばう理由がわからなかった。不破は伊三次に獄門に送られる駒吉のために髪を結ってやってくれと頼まれ駒吉に会いに行く。そして駒吉から彦太郎をかばう理由を聞き出す。


暁の雲

 お文に料理茶屋宝来屋のおなみが旦那、伊勢屋忠兵衛の紹介話を持って来る。お文はおなみの話を受ける気はなかった。そのおなみから魚花の主人が料理茶屋鈴本帰りに亡くなったと聞いたお文は弔いに出かける。宝来屋の女将おすみはお文の先輩芸者だった。おすみはおなみからの紹介話を断ってやると話す。お文は座敷帰り、妹芸者の知り合いに出会う。それが前におすみと一緒に歩いていた男だと気づく。男が羽振りが良いことを知ったお文は、宝来屋殺しは男の仕業だと見抜く。


赤い闇

 不破は隣に住む村雨から相談を持ちかけられる。村雨の妻ゆきが火事があると何を差し置いても見に行っていたが、息子が生まれてからは庭で焚き火をするようになったこと、先日の荒れ寺の火事の際には荒れ寺が焼けてさっぱりしたと言ったこと、などを村雨は話す。伊三次は不破に命じられ、ゆきの身辺を調べ始める。放火による火事は2ヶ月起きなかったが、ある武家屋敷が火事になる。その武家屋敷は不破の妻いなみの姉と因縁のある藩の屋敷だった。屋敷に戻った不破は伊三次が預けて行った火打ち石を見る。そしていなみから驚きの事実を聞かされることに。その時、村雨の家から火が出る。駆けつけた不破は村雨から息子のことを託される。

 


備後表

 伊三次は幼馴染で畳職人の喜八と会う。伊三次は子供の頃喜八の母親おせいを実の母親のように思っていた。そのおせいに伊三次は久しぶりに会いに行く。おせいが作る畳表は備後表といい評判の良い品だった。伊三次はおせいに備後表のことやこれまでの仕事ぶりなどを聞く。それに答えたおせいは自分が作った備後表が使われている屋敷を見てみたいものだと話す。伊三次は不破にその話をして、おせいが作った備後表が使われている屋敷を調べる。そして大名酒井雅楽頭の屋敷で使われていることを突き止める。喜八が酒井の屋敷で仕事をすることを知った伊三次はおせいを連れて屋敷へ行くことに。おせいに畳を見せることに成功するが、その姿を中臈に見つかり怪しまれてしまう。

 

星の降る夜

 大晦日、伊三次は床を構えるための金を貯めることができた。湯屋から家に帰った伊三次はその金が紋付とともに盗まれたことを知る。誰にもその件を話せなかった伊三次だったが、不破の下で働く岡っ引きの留蔵には全てを話す。伊三次は犯人が紋付を質屋に預けると読んで質屋を巡る。ある質屋で伊三次は留蔵と出会う。留蔵は犯人は留蔵が使っている下っ引き弥八だと話すが、紋付と一緒に30両も盗まれたことを知ると留蔵は黙ってしまう。10両を超える金を盗んだ者は死罪だったためだった。伊三次は不破に家に呼ばれ、被害にあったのは10両未満とできないかと言われるが、伊三次は断る。すると不破の妻いなみが自分と不破が一緒になった時のことを話し始める。

 

 

 現在読んでいるいくつかのシリーズ物が最新作に追いついてしまっているので、当たらなシリーズ物を探して出会った作品。

 15作品あるシリーズの第1作ということで、登場人物像の紹介を兼ねた部分が多いが、それがキチンと小説になっているのが上手い。

 伊三次と不破の出会いと小者になった経緯。伊三次とお文が出会った経緯。伊三次が髪結いになった経緯。不破が妻いなみと一緒になった経緯。伊三次が幼い頃に世話になったおせいとの関係。これらが5編の短編の中で紹介されるが、それが話の中で見事に活かされている。

 

 しかし本作の見どころは著者の上手さだけではない。最初の3話は、話の結末が「鬼平犯科帳」を思わせるようなある意味残酷な結末となっている。男をかばう女が命に変えても守りたかったもの。仲睦まじいと思われていた夫婦の妻が夫を殺した理由。大人しそうに見えた妻が火事に魅せられる理由。どの話も若い時読んだとしたらおよそ理解できなかっただろう。

 悲劇的な結末ばかりが3話続き、このシリーズを今後も読み続けるのは難しいかなぁと思い始めた4話は、突然これぞ時代小説の醍醐味とも言うべき人情話となって終わる。しかし4話で人情話の主役となったのは、おそらく今後このシリーズのレギュラーとなる3人〜伊三次、お文、不破〜ではなかった。

 そして最終5話。本作冒頭から伊三次とお文の仲を見守っていた読者からすれば当然の成り行きに思えた伊三次が床を構え、お文と一緒になるという展開が予想されたが、それがいとも簡単にダメになってしまう。怒る伊三次が追い詰めた犯人は意外な人物だったが、そこからの展開が更に意外なものに。5話では、伊三次、不破、そして不破の妻いなみが人情話を作る側になるのだった。

 最初の3話と後半2話の結末の違い。主役3人だけではなく、伊三次の姉や不破の妻なども見事な脇役となっており、シリーズ1作目にして体制はすでに完成されている感じがする。

 これは面白いシリーズに出会えたようだ。

 

 

 

プリティ・リーグ

●758 プリティ・リーグ 1992

 ある高齢の女性が娘にある場所へ出かけるよう催促されるが、女性は気乗りしなかった。それでも娘は母親を強引に連れて行く。母親が着いた先は野球の聖地クーパーズタウンのダブルデイフィールド。そのスタジアムではやはり高齢の女性たちが野球を行なっていた。母親は昔のことを思い出していた。

 第二次世界大戦中、メジャーリーグの選手たちも兵士として戦地へ駆り出されていた。そのためオーナーでチョコ富豪のハーヴィーは女子リーグを設立することを提案、腹心のローエンスティンに運営を命じる。

 1943年、ドティと妹のキットはソフトボールの試合に出場していた。キットは姉の高めのボールには手を出すなという忠告は聞かずに凡退するが、その後打席に立ったドティはサヨナラヒットを放ちチームは勝利する。

 家に帰った2人の元へスカウトがやってくる。彼は女子リーグ設立のためのトライアウトが行われることを話しドティを勧誘する。しかし彼女は戦地へ行った夫の帰りを待つ妻であり野球に興味を持たなかった。しかしキットはプロとなることに興味を示しスカウトにアピールをする。スカウトは姉ドティと一緒ならばと条件を出す。キットはドティに懇願しスカウトと一緒にトライアウトを受けに行くことに。

 途中スカウトはマーラという選手も迎え入れ、トライアウトが行われる球場へ。ドティはキットとともにトライアウトに合格、4チーム64名の枠に入り、ドティとキットはともにピーチズに所属することに。しかしリーグはまず最初に選手たちに女性らしいマナー習得をさせるための指導を行う。

 ピーチズの監督は以前メジャーリーグで活躍したジミーが就任するが、アルコール依存症の彼は女子リーグをバカにしており、真面目に監督業をすることはなかった。

 シーズンが始まる。チームは長距離移動をバスで行う。ある夜、禁止されている酒場に繰り出した選手たちは次第に仲良くなり始める。試合中ジミーは相変わらずの態度だったが、ドティが監督代行をしているのを見て、態度を変え始める。

 しかし女子リーグの人気が上がらない。ローエンスティンは選手たちにもっと目立つようにと命じる。それを聞いたドティのプレイなどもあり徐々に人気が出てくる。そんな中、マーラのファンも出てきて、彼女は結婚をしチームを離れることに。

 バスでの長距離移動中、ドティはジミーと話をする。彼女は夫が戦地に出向いていることを話すと、ジミーは戦地からの電報は不幸な知らせだと答える。

 シーズン終盤の試合でピッチャーのキットが打ち込まれてしまう。監督に状態を聞かれたドティは球にキレがないと答えたためキットは交代させられてしまう。試合には勝ち、チームはプレーオフへ出場することに。その頃オーナーは戦況が良くなってきたため、女子リーグは今年度限りだとローエンスティンに話す。彼は選手たちが真剣に試合に臨んでいることから、女子リーグの存続を訴える。

 試合後、キットはからかってきたチームメイトとケンカになる。矛先はドティにも向かい、キットはこれまで姉に対して抱いてきたコンプレックスを吐露する。それを聞いたドティはチームから離れることを決意する。ローエンスティンがそれを聞き、トレードに出すと答える。しかしトレードに出されたのはキットだった。それを知ったキットはさらに激怒しチームから離れることに。

 試合前、ロッカールームに電報が届く。ドティは心配するが、電報はチームメイトであるベティの夫の戦士を知らせるものだった。その夜、ドティの夫ボブが帰ってくる。喜ぶドティ。彼女は夫が帰還したため、チームを離れ夫とともに故郷へ帰ることに。それを知ったジミーはきっと後悔すると引き止めようとするが、ドティは聞かなかった。

 プレーオフが始まる。相手チームに先行されるが、ピーチズも追いつき、3勝3敗で最終戦を迎える。試合前にジミーの元で神への祈りを捧げチーム一丸となる。試合前、ドティがキャッチャーとして現れ、ジミーは彼女の出場を認める。相手チームの先発はキットだった。9回表、1点差で負けていたピーチズはドティのタイムリーで逆転に成功する。9回裏、ツーアウトランナー1塁の場面でキットに打席が回ってくる。彼女は外野へヒットを放ち、3類も回ってキャッチャードティのいるホームへ突入、ドティは落球し、相手チームの逆転勝利となった。観戦していたオーナーは女子リーグの存続を決める。

 試合後、ドティはキットに声をかけ、今シーズン限りで野球を辞めることを伝える。2人は和解しそれぞれのチームへ別れて行く。

 そして冒頭のシーンへ。高齢となったドティはかつてのチームメイトたちと再会。試合を終えた彼女たちは野球の殿堂へ向かう。そこでドティはジミーが亡くなっていることを知る。女子リーグの野球殿堂入りのセレモニーが行われ、テープカットはローエンスティンが行うことに。彼女たちは昔の写真を眺めながら過去のことを思い出し、チームメイトが作った歌を歌う。そこにキットが現れ、ドティは彼女との再会を喜ぶのだった。

 

 

 「マネーボール」が面白かったので、というわけでもないが同じ野球が題材の映画を観ることに。本作の公開当時、マドンナが出演していることが話題になっており、マドンナ主演のそっち系の一本かと思っていたが、全く異なるものだった(笑

 「マネーボール」と同じように実話を基にした映画だが、本作の方はストーリー部分にフィクションが多いようで、wikiによれば主人公の姉妹のモデルはいないらしい。だからかもしれないが、ストーリーには面白そうなエピソードが多い。

 ソフトボール選手からスカウトされ野球選手となった姉妹、姉に対するコンプレックスを抱く妹、各地から集められた様々な前職を持つ女性たち、「見せ物」を重視する球団側、夫たちは戦地にいるという現実、プレーオフ直前に敵チームへトレードされる妹、そしてラストの姉妹対決。

 どのエピソードももう少し掘り下げればもっと面白くなったと思うが、2時間強の尺の影響か、どのエピソードは軽く描かれるだけなのが残念なところか。

 しかし本作の一番の見どころは、映画冒頭とラストで描かれるチムメンバーだった女性たちの現在の姿なのだろう。エンドロールで描かれる女性たちが行う試合の姿は、アメリカ人にとって野球が本当に身近で大切なものだということを見せてくれる。「マネーボール」の中のセリフにもあった、「野球を楽しめ」という言葉が見事に描かれている。

 ラスト、懐かしい面々が顔をあわせる中、亡くなった人たちがいるのは時の流れを考えれば仕方のないことであるが、チームに同行していた息子が大人になっており、だれかわからないという表情をした主人公に、子供の時と同じ顔を見せるシーンのなんと素晴らしいことか。

 冒頭、なんだかわからないが娘に出かけることを促されながらもそれを拒否しようとする高齢の女性が、主人公であり皆と再会することを拒否した理由も判明するラスト。それでも仲間たちは彼女を受け入れ、彼女もまた彼女たちとの再会を楽しむ。中途半端に描かれたエピソードに物足りなさを感じていた観客が納得できる見事なラストだったと思う。

 

 

 

 

 

大いなる西部

 ●003(再) 大いなる西部 1958

 男が駅馬車で小さな街へやってくる。男はマッケイ、東部から婚約者であるパトリシアに会いに来た。彼女は友人であるジュリーの家にいた。パトリシアは早速マッケイを家に連れて行こうとするが、途中ヘネシー家のバックたちに待ち伏せされ、マッケイは彼らにいたぶられる。

 バックのヘネシー家とパトリシアのテリル家は、ジュリーが持つビッグマディ牧場の水源を巡って対立していた。マッケイを襲ったバックはジュリーの家に行き、彼女を口説こうとするが、相手にされなかった。

 テリル家に到着したマッケイ。牧童頭のリーチから荒れ馬に乗るように言われるが、彼は拒む。翌日マッケイが襲われたことを聞いたテリル家の主人でありパトリシアの父であるヘンリー少佐は、ヘネシー家へ。マッケイは少佐に自分は気にしていないと言うが、父親はそれを許さず、パトリシアも父の言う通りにすべきだと話す。ヘネシー家にバックがいなかったため、街へ出て彼を探す。バックは少佐たちが来たことに気づき寸前に逃げ出すが、彼の仲間達は少佐たちによって制裁を受ける。その頃マッケイは荒れ馬を乗りこなすために奮闘していた。

 その夜、マッケイのお披露目のパーティが行われる。ジュリーも呼ばれるが、彼女は少佐にビッグマディは売らないと話す。そこへヘネシー家の長であるルーファスが乗り込んで来て、ヘンリー少佐を罵倒する。

 翌日ルーファスは息子バックを呼び寄せ、ジュリーとのことを問いただす。彼はジュリーは自分に夢中だと嘘をつく。それを聞いたルーファスはビッグマディが手に入れられると安堵する。

 その頃、マッケイは1人地図とコンパスを頼りに山へ向かう。夜になりマッケイが帰らないことから、少佐やパトリシアはマッケイを探してくるようリーチに命じる。リーチはパトリシアに強引にキスをするが、それを拒まれマッケイを探しに行く。マッケイは野宿をし翌日ある廃墟へ。そこはジュリーの祖父の家だった。マッケイは彼女にビッグマディ牧場を見せてもらうことに。そこでマッケイは牧場を自分に売って欲しい、自分ならば水源を皆に解放し争いをなくすと話す。それを聞いたジュリーは彼に牧場を売ることに。

 マッケイを探していたリーチたち。夜になり野営をしようとしてところへマッケイが現れる。彼らはマッケイを連れて家へ帰る。家では少佐やパトリシアが待っていたが、リーチはマッケイに食ってかかる。しかし彼はリーチのいうことを相手にしなかった。それを見たパトリシアはマッケイが臆病であることに激怒する。それを聞いたマッケイは明日家を出て行くと話す。そして早朝、リーチの元を訪れ、別れの挨拶だと話し、2人は殴り合いの喧嘩をする。そしてマッケイは出て行く。

 リーチはヘネシー家の牛たちが水源に来るのを待ち伏せし、牛たちを追い払う。バックは家に帰りそのことを報告。ルーファスは激怒し、バックにジュリーを家に連れて来るように命じる。その頃ジュリーはパトリシアを訪ねる。マッケイが家を出て行ったと聞いた彼女はパトリシアにマッケイに牧場を売ったこと、荒れ馬を乗りこなしたことを話す。

 街にいたマッケイの元へパトリシアがやって来る。彼女はマッケイが父のために牧場を買ったと思っていたが、マッケイはそうではないと答える。パトリシアは怒って帰ってしまう。

 ジュリーがヘネシー家へ連れてこられる。ルーファスはジュリーがバックを相手にしていないことを知り、牧場を売るようジュリーに話す。彼女は牧場はすでにマッケイに売った、彼は皆に水を分けると話していると言うが、ルーファスはそれを信用せず、ジュリーを家に監禁する。その夜、バックが彼女を襲おうとするが、それに気づいたルーファスが彼を追い出す。

 ジュリーが拉致されたことを知った少佐は皆でヘネシー家へ向かう。しかし途中の谷で彼らに待ち伏せをされていることにリーチが気づく。そこへマッケイがやって来る。彼は丸腰でヘネシー家へ乗り込み、ジュリーを救い出そうとする。彼女はマッケイの命が欲しければ自分でここに来たと言えと言われ、その通りにする。皆で言い合いになるが、ジュリーの気持ちを見抜いたルーファスは、マッケイとバックに紳士としての決闘をさせる。

 その頃、少佐は皆で谷に突入しようとするが、大勢の犠牲者が出るとリーチは反対する。それを聞いた少佐は1人で谷へ乗り込むことに。仕方なく皆は少佐について行く。

 バックとマッケイの決闘が行われる。しかしバックはルールを破りしかもマッケイを撃ち損じる。マッケイはバックを撃たなかった。バックは隙を見て仲間の銃を奪いマッケイを撃とうとするが、それを見たルーファスは息子であるバックを撃ち殺す。

 マッケイはジュリーを連れて帰ることに。その頃少佐たちはヘネシー家の罠にはまり、銃撃戦となっていた。ルーファスがマッケイの元へやって来て、お前の言った通りこれは2人の争いだと言い、皆に撃つのを辞めるように指示、少佐との1対1の対決をする。2人は相打ちとなってしまう。マッケイはジュリーとともに帰って行く。

 

 

 5年前にこのブログを始めた当初に観た「大いなる西部」。久しぶりにNHKBSで放送されており、内容を確認しようと思ったところ、自分のブログではあらすじがほぼわからず(笑 そのため、あらすじを追加した修正版を書くことに。

 

 内容は、東部から婚約者と結婚するためにやって来たグレゴリーペックが、婚約者の家と対立する家の紛争に巻き込まれるが、ペック本人は争いを好まず、その無駄な争いを避けようと努力しようとするが…という話。

 ペックは最初から対立する相手に嫌がらせを受けるが動じない。さらに婚約者の家の牧童頭からも侮辱されるが相手にしない。そんな態度に婚約者の女性が愛想を尽かす。その態度を見てペックも婚約者とはやっていけないと悟る。しかしペックには別に気になる女性が現れていた…という感じ。

 

 5年前に本作を観て以来、100本を超える西部劇を見て来たので、牛飼いにとって水の確保がいかに大切な問題かは理解できたつもり。その水源のある牧場を持つ女性と主人公は最終的に結ばれるのだが、そこを最初から描かなかったのが本作の見どころか。また人が簡単に殺されてしまう西部劇において、本作の主人公がラストに取った行動は1950年代後半とは言え、西部劇では珍しいものだったのではないだろうか。

 

 5年前のブログにも書いたが、ペックが主人公だが、ヘネシー家の父親がラストで全てを持って行ってしまっているのが印象的。有名なテーマ曲も含め、西部劇の傑作の一つと言って良い作品。

 

 

 

巴里マカロンの謎 米澤穂信

●巴里マカロンの謎 米澤穂信

 小市民シリーズの常悟朗と小佐内が訪れたスイーツ店で起きた事件の謎を解く。そこで知り合った古城秋桜が絡む事件や常悟朗が小佐内抜きで解決に臨む事件など、以下の4編からなる短編集。

 

巴里マカロンの謎

 常悟朗は小佐内に誘われ、名古屋のパティスリー・コギ・アネックス・ルリコへ。1人では3種のマカロンしか食べられ図、4種のマカロンを食べるため、小佐内は常悟朗を店に誘ったのだった。店で注文をし待っていた小佐内がトイレから戻ると、彼女の皿には4種類のマカロンが置かれていた。

 小市民を目指す彼らは店員に問うことなく、4種のマカロンが置かれている理由を考え始める。そして4つ目のマカロンの中に指輪が入っていることを突き止め、誰の仕業なのかを突き止めることに。

 

紐育チーズケーキの謎

 パティスリー・コギ・アネックス・ルリコで知り合った古城秋桜に誘われ、常悟朗と小佐内は彼女の通う中学校の文化祭へ。グラウンドにあったボンファイヤーの前にいた小佐内は走ってきた男子生徒とぶつかってしまう。それを離れた場所で見ていた常悟朗は駆けつけるが、その時には小佐内が他の男子生徒に拉致されていなくなっていた。残っていた秋桜から話を聞いた常悟朗は、走ってきた男子学生がCDを隠し持っていたことを知り、CDのありかを突き止めることに。

 

伯林あげぱんの謎

 常悟朗はクラス全員の新聞部のアンケートを届けるために、新聞部の部室へ。そこでは次の新聞に記事にするため部員がドイツの揚げパンを食べたが、その中に入っていたはずのマスタードを食べた人間が名乗り出ないと問題になっていた。健吾から謎解きを依頼された常悟朗は部員たちに話を聞き、何が起きたのかのを突き止める。

 

花府シュークリームの謎

 秋桜から小佐内に、無実なのに停学処分となったと連絡が入る。2人は事情を聞きに行き、彼女の無実を晴らすために行動することに。秋桜の義母にも協力してもらい、生徒指導の教師に会いに行くと、秋桜が飲み会に参加している写真を見せられる。

 2人はその写真が偽造であることに気づき、誰が写真を偽造し、秋桜を罠にはめたのかを推理する。

 

 

 

 小市民シリーズの1冊。「季節限定(〇〇限定)」のタイトルではないが、シリーズ第4作。第1作「春季限定〜」と第2作「夏季限定〜」との間、常悟朗と小佐内の高校1年生の2学期から3学期が舞台。前作である「秋季限定きんとん事件」から11年後に出版された作品。

 などと本作に関する説明を先にしたが、何より本作の「伯林あげぱんの謎」に驚かされた。このブログを始めて多くの「日常の謎系」の短編を読んできたが、この「伯林あげぱんの謎」はその中でもベストの作品だと言える。「巴里マカロンの謎」も「花府シュークリームの謎」も非常にできの良い作品だったが(紐育チーズケーキの謎は状況説明が不足していると感じられるのでちょっと落ちる)、「伯林あげぱんの謎」はその中でも本当に素晴らしく、推理小説の短編としてもオールタイムベストだと思う。

 

 その前の作品、「紐育チーズケーキの謎」が現場にいなかった常悟朗が謎解きのため、秋桜にしつこく話を聞くのだが、これがひょっとしたら伏線だったのだろうか。「伯林あげぱんの謎」では、同じように常悟朗が丁寧すぎるぐらいに新聞部部員たちに状況を尋ねることが、前作のこともありそのしつこさが和らいで感じられる。しかしこのしつこさ、丁寧さが事件解決の糸口になっているのが素晴らしい。

 

 4つの揚げパンを食べたということ、部員の中に揚げパンを食べることに参加しなかった部員がいたこと、揚げパンを買いに行った部員はその場にいないこと、揚げパンの中に入れられたのはマスタードではなくタバスコだったこと、そのタバスコは食べたことを隠せるような代物ではなかったこと。

 これらが少しずつ積み上げられていき、常悟朗が最後の謎解きに向かう前に、読者への挑戦状とも言える言葉を吐く。これにも痺れた。wikiによれば、この小説は犯人当ての企画として雑誌に掲載されたとのこと。なるほど。だからここまで丁寧に状況証拠をあげていたのか。

 そして真相が明かされるが、読者はその直前で、この作品の冒頭で示された文章を思い出すことになる。いやぁ二クイ憎い。この点も含め本当に最高傑作だと思う。

 

 「伯林あげぱんの謎」のことばかり書いたが、先にも述べたように「巴里マカロンの謎」も「花府シュークリームの謎」もその伏線の張り方の上手さは相変わらず見事である。前にも書いたが、この著者の作品はごくわずかな手がかりから話が進むという点で「9マイルは遠すぎる」を思い出させてくれるが、すでに本家を上回っているのではと思う。

 そして今年発行された最新作であり、完結編が待っている。あぁ読むのが楽しみである。

 

 

マネーボール

●757 マネーボール 2011

 2001年メジャーリーグ、アスレチックスはスター選手の活躍で地区シリーズに出場する。しかしヤンキースに敗れてしまう。その年のオフ、スター選手がFAでチームから離脱。GMであるビリーはスカウトとともに、彼らの穴を埋める補強選手獲得に向けて奮闘するが、オーナーは資金に余裕がないと金を出すことを拒否する。

 インディアンスに補強交渉のため訪れたビリーは会議の場にいた若い男性、ピーターと出会う。彼から選手の評価を統計的データで行うと聞いたビリーは、ピーターをアスレチックスへ引き抜き、自分の補佐とすることに。

 ピーターの話を聞いたビリーはスカウトたちに、その独自理論を披露、それに基づいた選手補強をし始めるが、スカウトたちはこれまでの経験と知識に合わないと反対する。それでもビリーは補強を進め、監督には新たに補強した選手を試合で使うように話す。しかし監督はチームの舵取りは自分が行うと宣言、ビリーの声に耳を貸さなかった。

 2002年のシーズンが始まる。監督は補強し選手を使うことなく、チームは負け続ける。ビリーはこれまでの野球界の常識だったバントや盗塁などを禁止する一方、監督に補強した選手を使うよう指示するが、監督はや張り言うことを聞かなかった。

 しびれを切らしたビリーは監督が使う選手をトレードで他球団へ放出、さらに選手たちに直接統計データを用いた戦術を教えて行く。

 これらによりチームは勝ち始める。連勝が続き、球団の記録も更新する。そして新記録となる20連勝がかかった試合に望む。これまで自チームの試合は見なかったビリーも球場へ足を運び試合を観戦。チームは序盤で大量11点をあげ楽勝かと思われたが、相手チームの反撃に遭い、とうとう同点に追いつかれてしまう。しかし終盤、ビリーが補強選手として獲得したハッテンバーグが代打ホームランを打ち、チームは20連勝を達成する。

 シーズン優勝を果たしたアスレチックスは、昨年同様地区シリーズへ出場する。しかしそこで敗れてしまう。これによりビリーの改革にダメを出す人間たちも現れる。シーズンオフ、ビリーはレッドソックスのオーナーに会うことに。ビリーの統計データを用いた手法を認め、高額の契約金でレッドソックスGMとして誘われる。そこにはいつか楽器店で娘が歌った歌が吹き込まれていた。球団に戻ったビリーをピーターが待っていた。彼はマイナーのある選手のビデオをビリーに見せる。進路を悩むビリーは帰り道、車の中で娘から送られたCDを聞く。

 以下、字幕。 

 ビリーはレッドソックスの誘いを断りアスレチックスに残った。2年後、レッドソックスはビリーが用いた手法を使いワールドチャンピオンに。ビリーは今も優勝に挑戦中。

 

 

 公開当時に選手個々のデータを重視し球団運営を行う、というスタイルに興味を持ったが、今回が初見。しかし期待通りとても面白い作品だった。しかもこれが実話ベースなら尚更である。大谷選手の活躍?で、観戦する側も様々なデータを見ることができる現在だが、10年ちょっと前にはこんなことは想像もできなかったらしい。

 自分も仕事上データを分析する立場だったことがあり、先輩や上司たちがそれを軽視していた経緯があるので、この映画の中でのピーターの立ち位置は本当によく理解できる。なぜ身の回りにこれだけのデータが揃っているのに、それに注目しないのかが不思議でしょうがなかった。先輩や上司たちが口にした「経験と勘」が、この映画の中でもスカウト陣が口にしており、どこでも同じような状況だったのだと理解できた気がする。

 

 本作では、GMビリーの考えがなかなか現場に浸透せず、強硬策に出ることによって、やっとチームが息を吹き返して行く。その後の20連勝。メジャーリーグの映画といえば、「メジャーリーグ」が思い出され、あれは一昔前の日本の野球漫画のようだったが、本作も20連勝は出来過ぎ。しかしこれは実話を基にしたものであるので、説得力が段違い(笑 シーズン優勝をしたにも関わらず、地区シリーズで負けてしまうのは、やはり実話なので仕方ない。

 ビリーが若い時にスカウトされたが、プロとしては結果を残せなかったことを後悔しているというエピソードも実話らしい。この点がこの映画を単なる統計データでチームを勝ちをもたらす、というストーリーに奥行きを与えているのは間違いない。その後悔がラストで、金で人生を誤りたくないとレッドソックスの誘いを断るのに繋がっているのも上手い。

 実話ということで言えば、ラスト、ビリーはアスレチックスのために頑張っている、という字幕が流れるのもよかった。

 

 大谷さんが頑張っているのでドジャーズを応援するが、アスレチックスのことも忘れないようにしようと思う(笑