昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 宇江佐真理

●昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 宇江佐真理

 本業である髪結いをしながら、同心不破友之進の小者としても働く伊三次だったが、芸者お文と所帯を持つことに。伊三次が不破の下で事件を追う。

 以下の6編からなる短編集。

 

共に見る夢

 龍之進ときいに子供が産まれ、栄一郎と名付けられる。多くの祝いの品が届く中、いなみは岩瀬からの品が届かないことを疑問に思い、龍之進にそれとなく告げる。龍之進は岩瀬の奥方が病で伏せているらしいといなみに話す。その岩瀬が不破に相談を持ちかける。さる大名の若君が町中の湯屋、しかも朝方の女湯に通っていて困っていると言うものだった。話を一緒に聞いた緑川が怪しげな連中を集め若君にお灸を据える手を考えつき、実行する。一件は無事に解決するが、年が明け岩瀬の妻女が亡くなる。通夜の場で不破と緑川は岩瀬が妻を伊勢参りに連れて行きたかったと話すのを聞く。それを聞いた2人は隠居したら自分たちの妻を伊勢参りに連れて行こうと話す。

 

指のささくれ

 長屋から子供が姿を消す。その母親の家に転がり込んだ若い男が事情を知っているはずだが男の行方もわからない、という話を髪結いをしていた伊三次は不破や龍之進から聞く。伊三次は九兵衛におてんとのことを聞くが、おてんではなくおさくという娘のことを九兵衛は話す。九兵衛は大店の娘であるおてんではなく、普通の娘おさくに惚れているようだった。九兵衛は腹をくくりおてんに貧乏暮しは無理だと話すが、おてんは九兵衛が一緒になる気がないと思い、見合いの話を受けることに。九兵衛はおさくに話をするがあっさりとフラれてしまう。勤めを無断で休んだ九兵衛は町で子供を連れた若者に出会う。それは不破たちが話題にしていた子供と若者だった。勤めを休んでいると聞いたおてんは九兵衛に会いに来る。おてんは持参金目当ての見合いを断っていた。九兵衛はおてんの口を強く吸うのだった。


昨日のまこと、今日のうそ

 龍之進は妻や娘、妻の母親まで殺した男を捕まえる。龍之進は奉行所の仕事のやり方に不満を覚えていた。男が引き回しの日、彼は男の様子を見にいくが、そこで橋口から男は生きるも地獄、死ぬも地獄だったのだろうと言われ驚く。男は妻の浮気を疑っての犯行だと思っていたが、商売がうまくいかず金のない生活で心中しようとしたのだと聞かされる。茜は鶴子に言われ、上屋敷へ行くことに。久しぶりに茜は良昌と会う。茜のいる下屋敷に移りたいと言う良昌に茜は次期藩主となった暁には良昌の願いに答えると約束する。しかし良昌は突然亡くなってしまう。


花紺青

 伊与太が師事している国直のところに芳太郎という新たな弟子がやってくる。彼は伊与太と異なり有望な若者だった。伊与太が結婚する九兵衛のために描いた絵に芳太郎は注文を付ける。国直は次の仕事で芳太郎にも1枚の絵を描かせることに。そのため芳太郎は雅号をもらう。それを聞いた伊予田は落ち込み、北斎の家へ行く。北斎は伊与太の悩みを見抜き、独自の雅号を与えつつ、絵を描くことの意味を話す。九兵衛の結婚の日、伊三次たちはその準備に大わらわとなる。

 

空蟬

 龍之進は緑川鉈五郎とともに内与力の山中に呼び出される。仕事ぶりを褒められた後、最近江戸を襲っている押し込み集団と奉行所内の人間が通じているらしいと言われ、それが誰かを探るよう命じられる。山中は古川喜六を疑っているらしく、2人は驚く。2人は昨年襲われた福山屋を訪ね話を聞く。事件で行方不明となった女中が福山屋に勤める前に川桝に勤めていたことが判明する。川桝は喜六の実家だった。伊三次は九兵衛から妻おてんの実家魚佐に最近奉行所の人間が頻繁に出入りしていると聞き怪しいと思う。それを不破と龍之進に伝える。実は龍之進以外に不破も山中から同じ件を伝えられていた。伊三次たちは魚佐を見張ることに。そして事件が起きる。調べが始まると山中自身が押し込み集団と通じていたことが判明したのだった。


汝、言うなかれ

 漬物屋村田屋の娘おとよは若い頃、親戚が勧める縁談相手が気に入らず、手代の信助に結婚してくれるように迫った。信助は自分は人を殺したことがあると告白する。病弱な父の薬代に困り金貸の老婆を頼ったが、妹を吉原に売るように言われ信助は老婆を殺して金を奪ってしまう。しかしその夜辺り一帯が火事となり老婆殺しは事件とならなかった。おとよは人には喋らないと約束し信助と結婚、子供にも恵まれる。その信助が店を継ぐが、組合仲間の八百屋の金助と折り合いが悪かった。その金助が寄合の翌日川で死体となって発見される。おとよは信助が殺したのかもと心配になり、従姉妹や信助の髪結いに来ていた伊三次に聞かなくても良い話をしてしまう。伊三次は自らも家を失った火事のことをよく覚えており、不破や龍之進におとよの話をする。不破は火事の際に亡くなった老婆の死因に疑いを持っており、信助と老婆のつながりを調べる。金助を殺した下手人が捕まるが、信助は老婆殺しで捕まってしまう。

 

 

 シリーズ13作目。1話目のきいの出産、不破の隠居後の伊勢参りの約束。2話目の九兵衛とおてんの恋の結末。3話目の茜と良昌。4話目の伊与太の悩み、と盛りだくさんでありながら、5話目、6話目は伊三次が活躍する捕物話。前作と同様、非常にバランスのとれた一冊。

 3話目こそ悲劇で終わるが、それ以外はこれも前作同様、優しい気持ちにさせてくれる話ばかり。3話目もとうとう茜が藩主の妻になるのか、と思いきや残念ながら良昌は急病で亡くなってしまう。しかしその後の茜自身や茜の周りの人間の優しさがやはり読んでいる側を優しい気持ちにさせてくれている。

 5話目では、同胞の喜六を疑わなければいけない龍之進や鉈五郎の姿が描かれるが、真相は意外なところにある捕物話。6話目はさらに凝っていて、おとよという漬物屋の娘の視点で話がスタートし、話は意外な方向へ進んで行く。6話目の結末は急展開過ぎる感じもしたが、おとよが伊三次に話した内容があまりに正直すぎた故の結末とも言える。

 

 本作の解説が素晴らしく、著者の癌になった後の経緯を紹介してくれている。このブログでも著者が文庫本「心に吹く風」のあとがきで癌を告白した件に触れたが、実際には著者が告白した後に最初に書かれたのが本作である。前作のブログで、優しい気持ちにさせてくれる話が多くなってきたと書いたが、実際に著者が癌を認識した後に書かれたのは本作からということになるのだろうか。ということは、シリーズの終盤になって作品に変化が出てきたのは、著者の病気とは関係がないということ。シリーズ序盤は厳しい結末の話が多かったが、後半になりそれが変わったのは著者自身の優しさだった、ということなのだろう。

 

博士と彼女のセオリー

●807 博士と彼女のセオリー 2014

 1963年、ケンブリッジ大学の学生ホーキングはジェーンワイルドとパーティで出会いお互いに引かれ合い、ジェーンは彼に電話番号を渡す。ホーキングは教授から10題の課題を出される。他の学生が課題を解けない中、ホーキングはあまり時間をかけずに9題の課題を解き教授を驚かせる。教授は彼に研究のテーマをどうするのかと尋ねる。

 日曜、クリスチャンであるジェーンをホーキングは教会に訪ね自宅へのランチへと誘う。そして舞踏会にも。そこでホーキングは彼女に中世詩を学ぶ理由を尋ねる。彼女は星空を見ながら聖書の一節を唱える。2人は踊りキスをする。

 ブラックホールについての講義が行われ、ホーキングは宇宙の始まりに興味を示す。教授は研究を続けるようアドバイスする。ホーキングは歩いているときに転び病院へ。検査が行われる。彼は指が次第に動かなくなって行く。医師は運動ニューロン疾患だと説明、筋肉への指示が届かなくなる病気で、余命2年だが治療法はないと宣告される。

 ホーキングは自分の病気のことを寮で同室のブライアンに話す。ジェーンも部屋にやってくるが彼は彼女を追い返そうとする。彼は余命2年の間に研究がしたいと言うが、彼女は一緒にいたいと答える。教授もホーキングの症状を鑑みジェーンを説得しようとするが、彼女の気持ちは変わらなかった。2人は結婚し、子供も生まれる。

 ホーキングの体は次第に動かなくなっていくが、彼の論文は教授たちに評価される。彼は次は証明だと話す。仲間たちが彼の論文が認められたことをお祝いする。しかしホーキングは1人で階段も登れないようになっていた。ジェーンは彼のために車椅子を用意する。2人に2番目の子供ができる。1人で着替えをしていたホーキングは暖炉の炎を見て宇宙の始まりについて閃く。

 ブラックホールについてホーキングは講義を行う。一部の教授たちはその理論を認めなかったが、ソ連からきた教授が彼の理論を賞賛する。彼の書いた本が店頭に並び、彼は電動車椅子をてにいれる。子供達も成長していく。

 家族でホーキングの両親のいる実家へドライブに行く。そこでホーキングは食べ物を詰まらせてしまうが、医者へ行くのは嫌がる。ジェーンは自分たちには手助けが必要だとホーキングに話すが彼は認めなかった。ジェーンの母親は彼女に聖歌隊に入ることを勧める。ジェーンは教会へ行きジョナサンと出会う。ジョナサンはホーキングの息子にピアノを教えることに。家での食事の際、ジェーンはジョナサンにホーキングの理論について説明する。彼は妻を1年前に亡くしており、ホーキングの手助けをすると話す。ホーキングもそれを受け入れ、ジョナサンは家族の一員のようになる。ジェーンが3人目の子供を妊娠する。ホーキングの父は介護士を新たに雇うように言い、母は子供が誰の子供かと疑い始める。事情を知ったジョナサンは家から出て行く。その際ジョナサンはジェーンへの愛を伝え、彼女も同じ気持ちであることを告白する。

 ホーキングはボルドーでのオペラに招待される。ジェーンは子供達とキャンプに行くことにする。彼女は教会を訪ねジョナサンもキャンプに誘う。オペラを鑑賞していたホーキングは血を吐いてしまう。連絡をもらったジェーンたちは急いで帰宅。病院でジェーンは医師から呼吸器を外し本人を楽にするかと提案されるが拒否、呼吸装置を装着することは可能だが言葉を失うと言われ、装置をつけることに同意する。

 手術は成功するが、ホーキングは言葉を失ってしまう。ジェーンはスペリングボードで意思疎通をしようとするが彼は悲しむだけだった。ホーキングのためにエレインが雇われる。彼女はスペリングボードに精通しており、ホーキングとの意思疎通ができるように。さらにコンピュータを使った装置を使うことでホーキングは言葉を取り戻すことに。彼は時間についての本を執筆する。

 ホーキングはアメリカへ行くことになるが、同行をエレインに頼むとジェーンに伝える。ジェーンはホーキングが彼女を選んだことで彼の気持ちを理解することに。ジェーンは教会へ行きジョナサンと再会する。

 ホーキングは本が売れ講演会を行う。そこで参加者からの質問に答えて行く。

 ジェーンとジョナサンはホーキングからの手紙を受け取る。彼は叙勲されることになり、式にはジェーンとともに出席する。彼はジェーンに対し自分たちが作り上げたものだと子供3人の姿を見せる。

 

 

 同時代を生きたということで言えば最も有名な物理学者であろうホーキング博士の生涯を描いた物語。しかも有名な宇宙論に関してではなく、彼の私生活、結婚と離婚に重点をおいたちょっと珍しい映画と言える。

 学生時代にジェーンと知り合うが、間も無く発病。それでもジェーンは彼との結婚を選ぶ。しかし子供も生まれ「普通」の生活ができないことを感じた彼女が手助けの必要を感じ、ジョナサンを家に入れる。次第にジョナサンに引かれて行くジェーンの姿が丁寧に描かれる。そしてホーキング博士もヘルパーであるエレインに惹かれていき…。

 

 本作はジェーンが65歳にして書いた本を基にして作られたストーリーらしい。天才物理学者である一方で、ALSにより車椅子に乗る姿も有名で、しかもそれでいてウィットに飛んだ人間だったということは知っていたが、まさか奧さんとの結婚生活にこれだけのドラマがあったとは驚かされる。

 宇宙論については、ジェーンがジョナサンに食卓で説明するシーンがある。正直聞いてもわからないだろう理論の難しさを説明するこの場面は見事だと思う。

 主演のレッドメインの演技がアカデミー賞を受賞するのは当然と言える。映画途中からはまるで本人のように見えてしまった。難病患者を演じる映画は何本もあるが、その意味ではベストと言える一本だと思う。しかしイギリスが時々このような傑作を生み出すのは変わらないなぁ。

 

フィラデルフィア

●806 フィラデルフィア 1993

 とある工事に関する裁判で弁護士同士のアンドリューとミラーは知り合う。アンドリューは病院で医師から血液検査を受けるよう忠告される。彼は事務所に戻ると上司によばれ大きな案件を任されることになり、10日後までに訴状を提出するよう言われる。皆は彼の活躍に期待していた。

 9日後。アンドリューは体調不良のため4日間休み、自宅で仕事をしていた。彼は顔のアザを隠すためにファンデーションで誤魔化すことに。しかしさらに体調が悪化し病院へ。恋人のミゲルは彼を心配する。彼は訴状の件で事務所に電話すると、用意したはずの訴状が見つからないと騒ぎになっていた。彼はPCに原本があると話すが、PCから原本が消えていた。

 1ヶ月後。ミラーには子供が産まれていた。

 1週間後。ミラーが事務所で仕事をしているとアンドリューが訪ねてくる。彼の見た目は前に会った時と様変わりしていた。アンドリューはエイズに罹り事務所をクビになったと話し、訴状をなくしたことを理由にクビにされたが、本当の解雇理由はエイズになったことだと事務所を訴えようとしていた。訴状は提出期限直前に見つかったが、アンドリューはそれを理由にクビにされたのだった。ミラーは事情を聞くが、訴えることはできないと答える。アンドリューは事務所を後にする。ミラーはその後病院でエイズについて医師に尋ねる。家に帰ったミラーは妻にアンドリューのことを話すが、妻は自分の身内に同性愛者がいることを告げる。

 2週間後。ミラーは図書館にいた。そこにはアンドリューもおり、彼はエイズについて文献を調べていた。図書館の職員がアンドリューに個室に行くことを促すのを見てミラーは彼に声をかける。そしてエイズに関わる裁判の判例をアンドリューが調べていることを知る。

 6週間後。アンドリューのいた事務所のメンバーはバスケの試合を見に行っていた。そこへミラーが現れ、召喚状を渡す。事務所の上司はアンドリューのことを徹底的に調べるように話す。

 アンドリューは結婚40周年を迎えた両親を祝うために実家にいた。家族の皆はアンドリューが裁判を起こす話を聞き、味方になる。母親も戦うようにと彼に話す。

 7ヶ月後。裁判が始まる。過去アンドリューの依頼人だった人間が証言をする。TV局の取材もあり、裁判所の外では差別に反対する人たちがデモを起こしていた。ミラー自身も酒場でエイズに関わる弁護をしていることをからかわれる。

 裁判10日目。アンドリューがなくしたとされる訴状について事務所の女性職員などが証人となる。ミラーは男性証言者に向かって同性愛者かと尋ねる。彼は裁判の争点は同性愛者に対する人々の感情だと話す。

 アンドリューは家で投薬をしながら裁判に向けての準備をしていた。ミゲルはそんな彼を心配する。アンドリューは自分には時間がないと話す。

 同性愛者たちのパーティが開かれ、アンドリューやミラーも参加する。パーティ後ミラーはアンドリュー自身の証言の練習をしようとするが、彼は好きなオペラのことを話し出し、アリアについて語る。

 裁判でアンドリューの証言台に。彼は事務所に入った経緯、尊敬している人物の名を挙げる。弁護士の仕事を好きな理由として、正義が勝つ現場にいられることだと答える。反対尋問が行われ、アンドリューやミゲルが同性愛者が通う映画館に行っていたことを指摘される。さらにアンドリューの顔のアザが事務所の人間にわかったかどうかについて、今のアンドリューの顔のアザを判別できるかと問われる。アンドリューの顔のアザはこの時点で消えていた。ミラーはそれに対しアンドリューの体にアザがあることを指摘し、当時はその程度のアザがあったとそれを陪審員たちに見せる。

 事務所の上司たちが証言台に。尋問が行われるがその時アンドリューが倒れてしまい病院へ運ばれる。同僚がアンドリューの異常に気づいていたが、誰にも告げなかったこと、それを一生後悔するだろうと証言する。

 3日後。評決が下される。アンドリューに約500万ドルの賠償が認められる。ミラーはアンドリューのいる病院へ。彼はすでに右目が見えなくなっていた。家族たちは裁判の結果を喜び、ミラーにお礼を言う。アンドリューもミラーに礼を言いつつ、弁護士に関するジョークを話す。ミラーや家族たちが病室から去る。残ったミゲルにアンドリューはもう逝くよと告げる。夜中、ミラーは電話で起こされる。

 後日、アンドリューの家に家族や仲間たちが集っていた。彼らはアンドリューの子供時代のビデオを見ていた。

 

 

 久しぶりに「エイズ」の名前を聞いた気がする。本作は約30年前の作品であり、そういえば当時はエイズは非常に恐れられていた病気だったことを思い出した。2020年に始まったコロナ騒動と似ていたが、感染経路などの話もありどこか他人事だと思っているうちに話を聞かなくなった。

 本作はそのエイズを患った弁護士アンドリューの話。表向きではないがエイズを理由に事務所をクビになった主人公が、偶然出会った弁護士ミラーに裁判の弁護を頼む。ミラーも当初は同性愛者に偏見を持っていたが、裁判を通じその考えを変えていく、というストーリー。

 裁判の争点は主人公をクビにした事務所が、エイズを理由にしていたかどうか。映画後半は裁判シーンが続き、争点について関係者が次々と証言台に立つ。途中、主人公本人も証言する。そのセリフで関係者の証言が変われば劇的だが、そのような展開はない。この辺りがカタルシスを感じられない一因だが、本作はそこを狙った裁判劇ではないということなのだろう。

 終盤、事務所の上司の証言中に主人公が倒れてしまう。その後裁判は主人公側の勝利で終わるが、主人公はその時点で余命いくばくもないことが明かされ、静かに映画は幕を閉じる。

 

 30年前はまだまだエイズが未知の病気として恐れられていた頃だと思うが、本作のメッセージは静かながらエイズを恐れず正義が行われる裁判を描いている。裁判モノとして観ると少し物足りないが、映画そのもののテーマはやはりハリウッドのスゴさだと思わせてくれる。

 

 

戦うパンチョ・ビラ

●805 戦うパンチョ・ビラ 1968

 メキシコ革命で活躍したパンチョビラ、彼は愛国者であり暴君だった。

 セスナが川ぞいにいる軍隊の元へ着陸する。操縦していたのはアメリカ人のアーノルド。彼は軍を率いてパンチョビラと戦うラミレス大尉に10丁の銃を売却する。セスナの車輪が故障したため修理の手伝いを大尉に申し込むが、大尉はすぐにビラを追うためチュパデロの町へ行くように、ただし町はビラに好意的だから町からはすぐに出るようにとアーノルドに話す。

 アーノルドは町でルイスという鍛冶屋に車輪を直してもらうことに。しかし修理は明日になると言われ、ルイスの家に泊まることに。彼は家の娘フィナと惹かれ合う。翌日車輪が修理されるが、ルイスは友人になったのだからと金を受け取らなかった。アーノルドは代わりにラバを差し出す。そこへラミレス率いる軍がやってくる。ルイスは狙いは自分だと話し家族に隠れるように言う。案の定ルイスは捕まり、フィナは大尉に乱暴されてしまう。ルイスや他の男たちが処刑されることに。その様子を町の外からビラ率いる革命軍が見守っていた。彼らは処刑が始まると町を襲う。しかしルイスは処刑されてしまい、革命軍はルイスの死体を丁重に扱う。

 ビラは軍が持っていた銃の出所を探ろうとアーノルドに話しかける。彼が軍に売ったことは明白で、アーノルドは軍の捕虜たちとともに監禁される。ビラの部下フィエロは捕虜たちに逃げられたら生かしてやると言いつつ、逃げるチャンスを与えながら彼らを少しずつ射殺する。アーノルドの番になるが、ビラが射殺しようとするフィエロを止める。セスナがあれば軍の動向を探れると考えたのだった。しかしアーノルドは協力するのに捕虜たち全員を逃すと言う条件をつける。しかし逃げるのを許されたのは1人だけだった。

 革命軍が町を制圧する。中には娘たちに手を出そうとする男もいた。アーノルドはビラにお前たちが町を救うのを遅らせたからフィナが乱暴されたと話す。ビラは神父を探させフィナと結婚をすることに。

 アーノルドはセスナを飛ばすことに。ビラはフィエロに同乗するように言うが、フィエロは断る。ビラはアーノルドに操縦を教えろと話し強引にセスナを飛ばす。アーノルドはビラたちに協力することに。

 アーノルドとフィエロが乗ったセスナは軍が列車で移動しているのを偵察する。ビラはセスナを低空飛行させダイナマイトで列車を攻撃するようアーノルドに命じる。アーノルドは大金をもらうことを条件にするが、革命軍には金がないと断られる。

 革命軍は列車の行く先のトンネルを爆破し、セスナで攻撃を開始する。それに乗じて革命軍が列車を襲い、列車を制圧する。ビラはパラルの町へ向かうことに。町には列車に乗っていた軍からのニセ電報を打つことに。その頃パラルの駅では軍が待ち構えていた。そこへ列車が到着。しかし中に乗っていたのは革命軍で、あっという間にパラル駅を制圧する。革命軍は町で宴を開く。酒場にいたエミリータという女性に惚れたビラは彼女と結婚をすることに。それを見たフィナは悲しむ。

 ウエルタ将軍がパラルが制圧されたとの情報を得て、パラルへやってくる。将軍は大統領命令だとパラルの町を引き渡すようにビラに告げる。ビラは大統領に会いに行く。ビラは将軍のことを信用しておらず、大統領に直訴するが大統領はビラに将軍に従うことを約束させる。

 ビラは将軍の傘下に入る。将軍はコネホスにいる軍を攻める作戦を立て、ビラの軍を先頭に据える。コネホスの町は川向こうにあり、橋が一本かかっているだけだった。ビラの革命軍は川を渡り突撃するが、軍の砲撃などで退却を余儀なくされる。そこへアール喉が乗ったセスナがやってきてダイナマイト攻撃を軍に仕掛ける。それに乗じてビラの革命軍も再突撃する。セスナは撃たれコネホスの町へ不時着する。軍は町まで撤退するが、革命軍は町も制圧する。

 将軍が町へやってきてビラを逮捕する。フィエロは大統領にことの次第を告げる電報を打つ。アーノルドも将軍に会いにいくが、彼もセスナの窃盗罪で逮捕されてしまう。同じ牢に入れられたビラとアーノルド。アーノルドはビラの部下たちに牢を襲わせ脱獄すべきだと話すが、ビラは自分が罰せられる理由がないから大丈夫だと答える。翌朝ビラの処刑が行われることに。ビラは最後まで処刑の理由を聞こうとするが将軍は聞く耳を持たなかった。いよいよ処刑となったとき、将軍は大統領からの電報を読み上げ、処刑を中止、メキシコシティで裁判を受けることに。

 アーノルドは護送中に兵士たちに話しかけ、フィナのいる町に寄ってもらうことに。そこでビラが隠し持っていた資金を調達しエルパソへ帰る。アーノルドはメキシコの大統領が暗殺され、ウエルタがその後釜についたことを知る。アーノルドはレストランで女性と食事をしていたが、そこへビラたちがやってくる。彼らはアーノルドが持ち去った資金で再度革命軍を組織してウエルタたちと戦うと話すが、アーノルドは断る。ビラは大人しく去って行く。そして町で馬を手に入れメキシコへ向かう。その時アーノルドが乗ったセスナが彼らの上空を飛び、ビラたちは歓喜の声をあげる。

 1年4ヶ月後、ビラは5万の軍勢でメキシコシティに凱旋した。

 

 パンチョビラという実在の人物を描いた作品。メキシコ革命について何も知らないからか、本作のストーリーは途中までわかりずらい展開。

 もう1人の主人公?アーノルドがラミレス大尉に銃を売却→そのラミレス大尉の軍をビラが襲撃、制圧→アーノルドはビラの一派に加わる→ビラが軍の列車を強襲、パラル駅も制圧→ビラが毛嫌いするウエルタ将軍がパラルを乗っ取りに来る→ビラは大統領に直訴→しかし大統領はビラにウエルタの指揮下に入ることを約束させる→コネホスの町を攻めるのにビラが先頭に立たされる→苦戦するが、アーノルドの協力で制圧→ウエルタがなぜかビラを逮捕、処刑しようとする→大統領からの指示で処刑が延期、裁判に。

 大統領は軍としてウエルタを将軍に据える一方で、ビラの義勇兵たちにも理解を示し、ビラも大統領を信用していたが、そのウエルタが大統領を暗殺してしまう、という展開。

 史実なのでこの展開は仕方ないのかもしれないが、最終的にビラは革命を成功させるのにそこは描かれていない。しかも、他の登場人物たちのサブエピソードなど、「とっ散らかっている感」が否めない。ブロンソン演じるフィエロはやたらと軍兵を射殺しまくるし、アーノルドと恋仲のはずのフィナはビラと結婚させられるし、そのビラが他の女と結婚すると落ち込むし。うーん、何が描きたかったのかよくわからない。

 ラストは、もう革命は終わったと告げたアーノルドが、ビラたちにまた協力を示すことで、いかにもな西部劇のエンディングとなっているが、これだけじゃなぁ。

 

 頭髪と髭のあるユルブリンナー、ミッチャム、ブロンソン、となかなかの俳優陣なのになんかイマイチな気がする。1960年代後半の西部劇はやっぱりこんなものなのか。

 

 

 

 

十角館の殺人 綾辻行人

十角館の殺人 綾辻行人

 大学の推理小説研究会のメンバー7名が無人の角島へ。彼らは十角館と呼ばれる屋敷で1週間過ごす予定だったが、2日目の朝、連続殺人を想起させる7枚のプレートを発見する。誰かのいたずらだと思われたが、3日目の朝7名のうちの1人の女性が絞殺され発見され、昼には1人が毒殺される。

 皆が疑心暗鬼になるなか、5日目朝にはまた1人の女性が毒殺されて見つかり、もう1人も屋敷の外で撲殺されているのが見つかる。残された3人が屋敷で話し合いをする中、さらに1人が毒殺されてしまう。

 そして6日目、屋敷が火事となり、「6名」の遺体が発見される。

 同じ頃角島とは別に本土では、同じ研究会の元メンバー江南に、1年前に新年会の場で急性アルコール中毒で亡くなった女性は殺されたのだ、という脅迫状が届く。それを受け取った江南は脅迫状の差出人の中村青司のことを調べ始めるが、そこで島田潔という男性と知り合う。江南はメンバーである守須にも相談をしつつ、島田とともに中村青司の関係者への取材をする。

 

 

 本作は約30年前に読んで衝撃を受けた記憶があるが、その時読んだ本を偶然最近になって見つけた。少し前に本作が初めて映像化されたというニュースもあったため久しぶりに再読することに。

 衝撃的なトリック?のことはもちろん覚えていたので、まさにその辺りに注意しての再読だったが、やはり良く出来ている作品だった。最近米澤穂信の「インシテミル」を読んだばかりだが、同じ「そして誰もいなくなった」形式ということで比較すると、やはり本作に軍配をあげざるを得ない。

 

 トリックそのものを知って読んでいても、「本土」ターンで登場する学生2人の名前が「江南」と「守須」というミスリードの上手さは見事というしかない。島にいる7名が推理作家の名前である以上、この2人も「コナンドイル」と「モーリスルブラン」だろうと想像できるからだ(しかもホームズ対ルパンだし 笑)。そしてこれが有名な「衝撃の1行」に繋がって行く。

 

 例の映像化作品が年末年始に地上波で放送されるらしい。これは楽しみ。

 

ビフォア・サンセット

●804 ビフォア・サンセット 2004

 ジェシーは作家となりフランスの本屋でインタビューを受けていた。ジェシーは9年前のセリーヌとの一夜を小説にしその本が売れた。彼は人生は平凡ではなくドラマチックだと語り、インタビュアーは小説に出てくるフランス人女性は実在したのか、結末での約束は果たされたのかなどを聞いてくる。ジェシーは2人が再会したら全てがオジャンだと語り、次回作の構想を話す。インタビューが終わり、ジェシーが乗る飛行機の時間が迫っていたが、彼は1人の女性が見つめていることに気づく。それはセリーヌだった。

 ジェシーは飛行機の時間を確認した後、セリーヌと再会を果たす。2人はカフェへ行こうと街を歩き出す。歩きながらセリーヌジェシーの小説のことについて話す。そして9年前の12月に約束した場所へ行ったかとジェシーに尋ねる。ジェシーは行かなかったと答えると、セリーヌは祖母の葬儀があり私も行けなかったと話す。セリーヌはなぜ行かなかったのかとジェシーに聞くが、その表情を見てセリーヌは彼が約束した場所へ行ったことを悟る。

 ジェシーセリーヌに会えなかったことで凹んだこと、数日街に滞在したことを正直に話す。さらに小説では再会をしたヴァージョンも書いたが、編集者に不評だったことも。セリーヌジェシーに謝る。

 女子ーはセリーヌの今の仕事について尋ねる。彼女は環境保護団体で働いていた。ジェシーは環境問題について問われ楽観的なところを見せるが、セリーヌは現状の問題を話す。

 2人はカフェに到着する。そこでも2人は会話を続ける。

 セリーヌは96年から99年までNYの大学に行っていたことを話す。ジェシーは自分も98年からNYに住んでいることを告げる。セリーヌアメリカでの生活が嫌だったこと、10代の頃ワルシャワに行って自分が変わったことなどを話す。2人は前の出会いから9年が経ったこと、セリーヌは32歳になったことをを実感していた。宗教の話もし、2人は人間はあまり変わらないと話す。あの夜sexをしたかどうかの話からsexについてもあけすけに話をする。

 2人はカフェを出てセーヌ川ぞいを歩く。ジェシーは妻や4歳の息子のことを、セリーヌも報道写真家の恋人のことを話す。2人は観光船に乗る。ジェシーは運転手に次の停泊所で待つように連絡する。ジェシーは小説を書いたのはセリーヌのことを忘れないためだと言うと、セリーヌは人は恋をして別れると忘れてしまうが、私は忘れられず傷つくと話す。その人の特徴を思い出すのは子供の時からだと言いジェシーのヒゲについて話す。そして今の自分は老女となった自分の夢の登場人物だと語る。ジェシーは約束の場で会えていたら人生が変わっていたと話す。ジェシーは結婚した経緯を話す。

 船が停泊所に到着する。ジェシーは運転手にセリーヌを家まで送って行くと話す。車の中でも会話は続く。セリーヌジェシーの小説を読み、昔は愛と希望があった、あの一晩で愛する気持ち全てを使ってしまった、恋人たちは私と別れて他の女と結婚してしまう、なぜ自分にプロポーズをしてくれないのかと嘆く。

 車がセリーヌの家のそばに到着する。ジェシーは家まで送ることに。ジェシーは妻との暮らしの不満を述べ、息子がいるから夫婦として成り立っていると話す。そしてセリーヌとのことを夢にみると話す。

 セリーヌの家に到着、ジェシーは家に寄ることに。セリーヌの飼っている猫が2人を出迎える。ジェシーセリーヌが作った曲を聞きたがり、3曲の中からワルツを選ぶ。セリーヌは歌い始める。それはジェシーとのことを思った歌だった。歌を聞き終えたジェシーはCDをかける。それはニーナシモンのものだった。セリーヌは彼女のコンサートに行ったことを話し、ジェシーに飛行機の時間だと告げる。

 

 前作「恋人までの距離」から9年後に製作された、主人公2人の9年後の話。前作同様、映画はほぼ全て2人の会話で終始する。

 作家となった男性が本屋で女性と再会するところからスタート。このパターンは、男はつらいよ50作「おかえり寅さん」の満男と泉のパターンと全く同じ。まさか山田洋次監督はこの作品をパクったのだろうか(笑 そこから2人はパリの街を移動しながらとにかく話し続ける。

 観客の一番知りたいのは、前作終わりの再会の約束が果たされたかどうかだが、それは叶わなかったらしい。2人とも約束の場へ行くつもりだったが、女性の祖母が亡くなり行けなかったということ。男性はその場へ行っており、そのことで話が続くのかと思ったが、それは意外にあっさりと終わる。その後も9年前のあの晩と同じように2人は自分の考えなどを語り合う。ただ20代だった2人が30代となっており、話の中身は微妙にアップデートしている。

 それでも後半、つまり男性の飛行機の時間が近づくに連れ、男性は約束の場で会えなかったことを悔やみ始める。そこには今の妻との生活が上手く行っていないことへの愚痴も含まれる。女性は男性運が悪いことを嘆きつつ、やはり男性への思いを正直に告白するが、恋愛には期待しないということも告げる。

 そしてラスト。時間がないはずの男性は女性の家で彼女の歌を聴く。CDから流れる曲も聴き、女性から飛行機の時間だと告げられるが、動く気配はない。とここで画面はフェイドアウトし映画は終わる。

 2人の仲の結末を描かない前作と同様、本作も終わる。2人の恋の行く末を暗示しているような終わり方だが、これが良いのだろう。映画内の時間通り、9年歳をとった2人がまた9年前と同じように会話し続ける、それだけで良い。

 wikiによれば、また9年後に3作目が製作されたらしい。しかしどの配信サービスでも観ることはできないようだ。これは困った(笑

 

 

亜愛一郎の逃亡 泡坂妻夫

●亜愛一郎の逃亡 泡坂妻夫

 カメラマン亜愛一郎が遭遇する不思議な事件。彼は周りの人間が思いもつかない推理を披露する。以下の8編からなる短編集。

 

赤島砂上

 ヌーディストクラブの島で仕事をしていた愛一郎は、その島に突然モーターボートで乗り付けた男が住人の冬子を誘拐しようとした現場に直面、男を倒し冬子を救う。男を警察に突き出すためにモーターボートを運転できる冬子が男を連れて行こうとするが、愛一郎は冬子と男の本当の目的を指摘する。

 ポイントは、冬子がヌーディストクラブの島にいた理由。


球形の楽園

 富豪が作った球体のシェルターカプセルの中で死体となって発見される。富豪は自ら1人でカプセルに入ったが、凶器も犯人もカプセル内では見つからなかった。愛一郎は犯人とその手口を指摘する。

 ポイントは、カプセルのそばにあったトーテムポールはなぜ倒れていたのか。

 

歯痛の思い出

 刑事が歯痛に悩み病院へ。混雑する病院で刑事は愛一郎ともう1人の男性と一緒になる。抜歯を終え、治療費の支払いが終わった刑事に愛一郎が話しかけてくる。彼はもう1人一緒だった男を刑事が捕まえに来たと思っていたと話し、その理由を語り始める。

 ポイントは、男性が取った一連の謎の行動の意味。

 

双頭の蛸

 雑誌社に北海道の少年から双頭の巨大タコを見たという手紙がくる。手紙を読んだ記者は北海道へ行き少年に会う。タコが目撃されたという湖に行った記者は湖を探るためダイバーを招集し探索を始めるが、ダイバーの1人がボートに乗っていた際に拳銃で撃たれて死んでしまう。その場に居合わせた愛一郎は同行していた教授の疑いを晴らすため、射殺事件の真相を語り出す。

 ポイントは、記者が撮っていた2枚の写真に写っていた石の違い。

 

飯鉢山山腹

 愛一郎は珍しい化石の写真を撮るために呼び出される。化石のある場所は山を迂回する左右の道の右の旧道の先にあったが、旧道のため車が1台ギリギリ通れる幅しかなかった。左右に道が別れる分岐点でも撮影をしていた愛一郎たちだったが、その後旧道へ。そこで土砂崩れととともに車が崖下に転落し人が死亡しているのを発見する。分岐点にいた時に旧道へ向かった「屋島ウニ」と書かれた車と旧道から出てきた校長先生の車があったことから、土砂崩れがあった時刻が割り出される。しかし愛一郎は土砂崩れはもっと前に起きていたと主張する。

 ポイントは、車に書かれた「屋島ウニ」を逆から読んだ理由。


赤の讃歌

 愛一郎は鏑鬼正一郎のの式典に参加、そこで阿佐と旭名という雑誌記者と会う。その後、阿佐たちは鏑鬼が絵を描いた時期に暮らしていた土地へ行き、浅日向と会うが、そこで偶然愛一郎たちと再会する。阿佐は鏑鬼正一郎が若い頃に描いた画風と今が全く異なる理由を探ろうとしていた。愛一郎は浅日向家でいろいろと話を聞き、その理由を言い当てる。

 ポイントは、若い頃の鏑鬼正一郎が嫌った食べ物などの色。

 

火事酒屋

 美鞠は家事が以上に好きな夫銀蔵のことを心配していた。ある夜、夫が住宅街に行くのを目撃した美鞠は後を尾け夫と話をする。銀蔵は配達の依頼があったからと答えるが、その配達依頼は偽物だった。その時住宅街で家事が発生。2人は火事が起きた家の住人を助けようとするが、その時怪しい人影を見た。その後焼けた家から焼死体が発見され、銀蔵は容疑者にされてしまう。偶然現場に居合わせた愛一郎は銀蔵の容疑を晴らすため、現場で目撃した怪しい人物の正体を見抜く。

 ポイントは、怪しい人物が現場から担架で運ばれた理由。


亜愛一郎の逃亡

 大雪の中、愛一郎はホテルに投宿。そのホテルに警官が殺人犯が逃亡していると知らせに来る。その後ホテルに三角形の顔をした老婆が愛一郎を探しに来るが、事前に言われていたホテルの人間は彼がいないと答える。ホテルの人間は愛一郎たちがいる離れのそばで人魂を見て驚いていると、警官が老婆とともに再度ホテルへ。皆で離れへ行くが愛一郎たちは消えていた。ホテルの人間たちが驚いていると、警官は愛一郎の正体を明かす。

 ポイントは、雪の中で見えた人魂の明かりはなんだったのか。

 

 

 シリーズ3作目にして最終作。相変わらず奇想天外な謎が提示され、愛一郎がその謎を鮮やかに解いて行く。「奇想天外」ということで言えば、3話目の「歯痛の思い出」がベストか。とある刑事が歯痛で病院に行くが、そこで同じく患者の愛一郎と一緒になる。2人の診察の過程が描かれ最後には抜歯で終わるが、そこで愛一郎が放つ一言が衝撃的。どこにも事件や謎がないと思っていた話の最後に明かされる謎が素晴らしい。

 一方で、6話目の「赤の讃歌」の登場人物の苗字のふざけたこと。亜、阿佐、朝日、旭名、浅日向。一文字ずつ苗字が増えていっている(笑 最終話の愛一郎と三角形の老婆の謎もスゴイが、ラスト登場人物たちがかわす会話の回文もスゴイ。このために主人公の苗字を「亜」にしたのではないかと思われるほど。

 

 短編ばかり24編でシリーズが終わってしまった。意外な設定、見事な伏線、鮮やかな解決。米澤穂信氏が好んだということで読み始めたシリーズだったが、確かに米澤氏の作品と共通するものを感じさせてくれた。

 もう少し泡坂妻夫氏の作品を読んでみようと思う。