梅吉と助次郎、おふじ
小間物屋助次郎の店に梅吉が土産を持ってやってくる。しかし本当の狙いは土産の下に隠したつなぎの文だった。助次郎は喜んだふりをしながら土産を受け取り、身籠の妻おふじに土産を渡し、つなぎの文を読む。それは1ヶ月後に長崎屋を襲うという内容だった。
野槌の弥平一味
1ヶ月後、虚無僧の格好をした同心小野十蔵がおふじの家から鳴き声が聞こえたため、彼らの家へ。そこでは助次郎が殺されていた。十蔵はおふじに身分を明かし、なぜ助次郎を殺したのかと問う。助次郎はおふじを捨て出て行くと話し、それを聞いたおふじは生きていけないと助次郎と子供と心中しようとしたのだった。十蔵はしばらく前から助次郎を見張っていたと述べ、助次郎が盗賊野槌の弥平一味だとおふじに伝える。十蔵は助次郎が家を出て行くと言ったということは、一味が仕事を働くということだと考える。その予想通り、野槌の弥平一味は長崎屋を襲い、店の者を皆殺しにする。一味のの中の1人、小房の粂八は店で隠れていた女を助けようと声を出すなと言い含めようとするが、梅吉に見つかりその女は殺されてしまう。
十蔵、おふじを匿う
鬼平は与力同心を集め事件のことを話す。助次郎のことを1人調べていた十蔵だったが、助次郎夫婦がしばらく前から行方不明だったと嘘をつく。十蔵は忠吾をはじめ他の同心たちに非難される。手がかりを失ったため、鬼平は皆に夫婦を探すよう命令する。忠吾は十蔵に謝り、助次郎の妻のことを聞こうとするが、十蔵はあまり覚えていないととぼける。
十蔵は縁者の農家へ。彼はそこにおふじを匿っていた。おふじは子供を産んでいた。十蔵はおふじが作ったご飯をご馳走になる。おふじは両親を亡くし誰にも頼ることができない、十蔵だけが頼りだと話す。それを聞いた十蔵はおふじを抱いてしまう。
十蔵が怪しいと睨んだ鬼平はおまさに十蔵を見張るよう命じる。十蔵は家に帰るが、妻おいそとの夫婦仲はよくなかった。おいそは十蔵がおいその実家から大金を借りたことを責め理由を聞こうとするが、十蔵は勤めで必要だったと嘘をつく。おいそは結婚の時も自分の持参金が目当てだったのだろうと十蔵を平手打ちする。
粂八捕まる
粂八は寺の門前で茶を飲んでいた。そこへ蓑火の喜之助という盗賊の親分がやって来て粂八に声をかける。喜之助は粂八が今野槌の弥平一味で働いていると聞き、畜生働きをしている野槌の弥平を非難し、江戸の盗賊も地に落ちたと話す。粂八は梅吉が来たため去って行く。そんな2人を赤子のお宮参りに来ていたおふじが偶然見ていた。おふじは十蔵にそのことを伝えるが、十蔵は家から出るなと言ったとおふじを叱る。しかしおふじは十蔵に会いたかったから外へ出てしまったと答える。そしておふじは梅吉たちをつけ、旅籠に入っていったと話す。それを聞いた十蔵はその旅籠へ。2人が出てくるのを張り込んでいた十蔵、2人が出て来たため後をつけるがそこには他の同心たちもいた。十蔵と忠吾は梅吉を追うが取り逃がしてしまう。他の同心たちは粂八を捕まえていた。
梅吉がおふじを拐う
役宅に戻った十蔵は鬼平がなぜ旅籠を見張ることができたのかと尋ねるが、逆に十蔵はなぜ知ったのかと問われてしまう。捕らえられた粂八は拷問を受けるが、名前以外何も話さなかった。おまさは十蔵がおふじを匿っていることを鬼平に話す。鬼平は2人の仲を聞き、十蔵の妻のことなども尋ねる。十蔵は粂八を拷問にかけるが、やはり何も話さなかった。その時十蔵に助次郎からの文が届く。呼び出された場所へ行った十蔵だったが、そこにいたのは梅吉だった。梅吉はおふじが助次郎を殺したこと、その死体を十蔵が家の床下に埋めたことを見ていたのだった。梅吉はそのことを伝え、バラされたくなければ粂八を郎から逃がして欲しい、その引き換えにおふじを解放すると話す。十蔵はおふじがいる農家へ。しかしおふじはおらず、赤子が残されていただけだった。
鬼平の拷問、そして終盤へ
役宅に戻った十蔵は牢にいた粂八を逃がそうとするが、鬼平に見つかってしまう。十蔵は全ての事情を話すが、鬼平は粂八を逃すことはできないと答え、粂八を厳しい拷問をし野槌の弥平一味の居場所を吐かせる。
鬼平たちは一味の盗人宿へ行き一味を捕らえる。十蔵は捕まっていたおふじを発見する。おふじは赤子の名前を聞き、十蔵は順という名を考えたことを伝えるが、それを聞いたおふじは赤子のことを頼み死んでしまう。
翌日十蔵は鬼平への手紙を残し腹を切る。鬼平は順を引き取り、久栄と一緒に育てることに。
吉右衛門版の「むっつり十蔵(第1シリーズ第6話)」を書いたブログはこちら。吉右衛門版の「むっつり十蔵」と細かい部分で違いはあるが、同じ原作(唖の十蔵)をベースにしているので基本的に話の流れは同じである。
野槌の弥平一味を追っていた火盗改の十蔵は、一味の1人と思われた助次郎を見張っていたが、その妻おふじが彼を殺したことを知る。おふじに同情した十蔵は助次郎の死体を隠しおふじを匿うが、それをやはり一味の1人である梅吉に見られていた。おふじが偶然梅吉を見たことから、火盗改は梅吉の仲間を捕まえるが、梅吉は取り逃がしてしまう。梅吉は十蔵に秘密をバラされたくなければ仲間を解放しろと迫る。全てを知った鬼平はその仲間に厳しく拷問を行い一味の居場所を吐かせ、一味を捕まえる。事件解決後、十蔵は自害してしまう、というお話。
原作は鬼平シリーズの記念すべき第1話であり、これ以外にも様々なエピソードが含まれているが、ドラマにするのに不要な部分はカットされているようだ。
本作の注目は、梅吉の仲間が「小房の粂八」であったこと。これは原作とも吉右衛門版とも異なる点であり、この後のエピソードで粂八が密偵となる布石なのだろう。
さらに言えば、本作の一番の見どころは、やはり十蔵。柄本時生さんが演じているが、吉右衛門版では、父親の柄本明さんが演じていた。親子で同じ役を演じる、というのは相当珍しいのではないか。柄本時生さん、プレッシャーあっただろうなぁ(笑
細かい話だが、吉右衛門版との違いをもう一つ。ゲストキャラであるおふじの生死について。吉右衛門版ではおふじは自害した十蔵を見て涙する、というシーンがあったが、本作では一味に捕らわれており、火盗改が踏み込んだ際に死亡してしまう。彼女の生死にこだわるのは、本作も吉右衛門版もラストで、その赤子を鬼平夫婦が引き取る、ということになっているためだ。助次郎はすでに死亡しており、おふじが存命なら鬼平が引き取るはずはないわけで、吉右衛門版ではそこがちょっとおかしい点だったが、本作ではそれが解消されている。
蛇足でもう一つ。梅吉を捕まえようとしたのは、十蔵と忠吾。そこで忠吾が笑える演技をしているのは注目すべき点かも(笑 吉右衛門版では見事なコメディリリーフだった忠吾、本シリーズでも同様の役割を果たす伏線なのかも。