銀漢の賦 葉室麟

●銀漢の賦 葉室麟

 月ヶ瀬藩の郡方の武士、日下部源五は、家老の松浦将監の新田視察の供を命じられる。そこで源五は将監から、命が長くないこと、逆臣と呼ばれるかもしれないことを告げられる。

 回想。2人は同じ道場で学び、もう1人百姓の息子十蔵と3人竹馬の友だった。

 

 源五は上役に、将監が藩主との間で、藩校を作る件で意見の食い違いがあったこと、その裏には藩主が幕閣入りを狙っていることを聞く。

 回想。将監の母千鶴のこと。小弥太(将監)の銀漢の言葉。小弥太の叔父藤森吉四郎のこと。松浦兵右衛門での習い事。兵右衛門の娘、志乃とみつ(のちの将監の妻)のこと。鷲津角兵衛との出会い、竜牙。

 

 源五は娘婿の伊織から、藩主が国替えを考えていること、それに反対している将監を討って欲しいと願っていることを聞かされ、受け入れる。

 回想。千鶴の自害、それに家老夕斎が絡んでいること。小弥太の父の死には角兵衛が絡んでいること。小弥太と源五の角兵衛との果たし合い、そこに現れた吉四郎。

 

 将監は妻みつから、姉志乃と源五の昔の話を聞かされる。藩主は側用人山崎多聞から将監を誅殺すべきだと言われ認める。源五がその役割を多聞から命じられる。

 回想。百姓の一揆。十蔵が指図役。源五は指図役を撃つよう命じられる。

 

 将監は藩主から隠居を命じられる。

 回想。源五は指図役が十蔵だと知り、一揆を止めるよう話すが断られる。将監も十蔵と話をするが、一揆は実行される。結果、藩主が変えられ、夕斎も切腹することに。源五は十蔵が罰せられたことを知り将監を絶交をする。

 

 源五は将監の屋敷へ。そこで国替えについてや将監の脱藩の計画を聞き、それを手伝うことに。多聞はなかなか将監を殺さない源五に腹を立て、伊織を呼び出す。伊織は源五が将監を風越峠への途中にある黒岳の湯におびき出すと答える。鷲津は多聞の命令で源五たちを追う。

 

 源五たちが風越峠に向かう前日、伊織は全てを源五から聞いていた。将監は井堰作りの話を源五にする。

 回想。源五の井堰作り。

 源五は十蔵が大切にしていた漢詩の書き付けを井堰作りに見せる。

 そして峠での戦いが始まる…。

 

 

 先日、家のレコーダーに残っていた本作原作のNHKドラマを全6回分一気に見て、大変面白かったので、原作を読んでみることに。

 私が見たのは、2024年に再放送されたもの(初放送は2015年)。葉室麟さんの本は読んだことがないのに、なぜこのドラマを録画したのかと自分でも疑問に思ったので、調べたところ「あきない世傳 金と銀」のシーズン1の放送終了翌週からの再放送だったとわかった。おそらく予約録画をそのままにしておいて、録画されたのに気づき、中村雅俊さんと柴田恭兵さんの共演だとわかって、残しておいたのだろうと思う。

 

 ドラマでは雅俊さん演じる源五が、いきなり娘婿から暗殺を依頼されるシーンから始まったが、原作は異なる。原作は(そのような扱いになっていないが)全9章で描かれており(漢数字がふられている)、上記あらすじの段落ごとがそれに当たる(ただし終盤の3章はひとつにまとめている)。

 原作は上記の通り、章ごとに現在(源五たちが50歳代の時)のシーンと回想シーンが並行して描かれているが、ドラマはほぼ時系列で、つまり源五たちの少年時代の出会い、十蔵の一気、そして現在、のような描き方だったと思う。

 原作の、回想シーンにより少しずつ、登場人物たちの過去が明かされて行く展開も良いが、ドラマのような時系列で話が進む方が自分には分かりやすかったかも。

 

 ストーリーは、主人公源五が娘婿に、竹馬の友であった家老将監の暗殺を依頼される。彼らはやはり竹馬の友であった十蔵の死をきっかけに20年前から絶交状態だった。しかし源五は将監が暗殺される理由を調べ、本人に会いに行く。そこで暗殺が藩に関わる重大事項と関係していることを聞き、将監の脱藩に協力することに、という話。

 サブエピソードも、将監(小弥太)の両親の死の真相や十蔵が命をかけて実行した一揆、そして3人の心の拠り所となった漢詩など、数多く、1冊の本でありながら読み応えは十分なものだった。

 

 ドラマには描かれなかった、源五と兵右衛門の娘の話などもあり。一方、ドラマは原作よりも少しコミカルに描かれている感じもあり。娘婿伊織を池田鉄洋さんが演じていたからかなぁ(笑 源五の娘役の吉田羊さんもよかったし。

 

 葉室麟さんの本は初めて読んだが、wikiで調べ、「蜩ノ記」を今年観たことに気づいた。「蜩ノ記」には堀北真希さんが出演していたし、本作のドラマには、桜庭ななみさんが出演していたし。美少女が似合う作風なのかしら(笑 もっと他の作品も読んでみることにしよう。 

 

 

 

 

 

借りぐらしのアリエッティ

●1002 借りぐらしのアリエッティ 2010

 小人のアリエッティは両親とともに人間の家の床下に隠れて暮らしていた。彼女は初めての「借り」をした日、療養でその家に来ていた少年翔に見つかってしまい、「借り」をした角砂糖を落としてしまう。

 翔は翌日、アリエッティたちのために「わすれもの」というメモとともに角砂糖を置いていく。それに気づいたアリエッティは、翔に自分たちに関わらないでと頼みに行くが、カラスに襲われ、翔に助けてもらう。その夜、翔は祖父の代から引き継がれて来たドールハウスの存在を知る。

 アリエッティの父は念のため引っ越し先を探すが、その際負傷し仲間のスピラーに助けてもらう。仲間の存在を知った父は引っ越しを決意。その時、翔がドールハウスの台所をアリエッティたちにプレゼントするが、アリエッティの父は即座に引っ越しをすることを決める。

 アリエッティは翔に別れを告げに行く。翔は自分の行動を謝罪。さらに自分が心臓の手術を受けることをアリエッティに告げる。しかしその間に、家の家政婦がドールハウスが床下にあることに気づき、アリエッティたちの存在を確信、アリエッティの母を捕まえ瓶に拉致、ネズミ駆除業者に連絡をし家に来てもらうことに。

 家に戻ったアリエッティは母親がいないことに気づき、翔に助けを求める。翔も家政婦により部屋に閉じ込められていたが、見事に脱出。ドールハウスの台所をもとに戻し、アリエッティの母を探し出し助ける。業者がやって来たときには、アリエッティたちの痕跡はなく、家政婦は驚く。

 その夜、アリエッティたちはスピラーの助けを借り、引っ越しをする。家の猫の助けで翔はアリエッティに会いに行く。2人は別れを告げ、アリエッティたちは川をやかんに乗って去って行く。

 

 

 金曜ロードショーで放送されていた作品。ジブリの作品は全て見ていると思っていたが、これは初見だった。

 前半、主人公である小人のアリエッティたちの目線で、人間の家の中の様子が描かれるシーンが見ものなのだと思うが、自分にとってはものすごいデジャブ感があった。子供の頃に何十回と見た、「トムとジェリー」で「小さな生き物から見た人間世界」というのはいやというほど見て来たので。ただ、ジェリーの住まいはいとこの白ネズミ?が来たときぐらいにしか詳しくは描かれなかったので、本作のそれはある意味新鮮だったが。

 

 中盤、怪しい動きをしていた家政婦が小人たちの存在に気づく。あぁこれがクライマックスに向かって行くのね、と確信。家政婦の声優役の樹木希林さんが見事にハマっていたなぁ。

 翔の活躍により、家政婦の企みは見事に覆されるのが、カタルシスかなぁ。よくあるパターンならば、最後に何もなかったのに業者を呼んだ家政婦は、女主人にクビにされるのだろうけれど、ジブリはそこまで残酷なことはしない(笑

 

 主人公の少年少女の別れの物語だが、あまり悲劇性を感じないのは、さすがジブリといったところか。

 

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ジュラシック・ワールド/復活の大地

●1001 ジュラシック・ワールド/復活の大地 2025

 前作から5年後の世界。主人公ゾーラは、製薬会社クレブスから陸海空3種の恐竜のDNAサンプルを取ってくるように依頼される。製薬会社はそれを使い、新たな心臓の薬を開発しようとしていた。ゾーラは、生物学者や傭兵たちとともに、船で恐竜の住む島へ。

 同じ頃、同じ海域に父、娘2人、娘のボーイフレンドの乗った船がおり、恐竜に襲われる。ゾーラたちがそれを助けるが、さらに襲われる。ゾーラは応戦しつつもサンプルを取得。しかし恐竜から逃れるため、島へ逃げることに。上陸するに当たり、家族たちとゾーラたちはバラバラになってしまう。

 ゾーラたちは、陸の恐竜からもサンプルを平和的に取得。残すは空の恐竜のみ。危険な目に遭いながらも、恐竜の巣の卵からサンプルを取得。

 島からの脱出に船は使えなかったが、ゾーラは2日後にヘリに来るよう手配をしていた。ゾーラたちと家族は、島に残された研究施設へ向かい落ち合うことに成功するが、恐竜たちに襲われる。クレブスが本性を現し、1人車で逃げるが恐竜に殺される。ヘリも恐竜に壊されてしまうが、ゾーラたちは海に残されていたボートで脱出。サンプルの使い道を学者に聞かれたゾーラは、世界の人々のために無償で提供することを決意する。

 

 

 1000本のゴールの後の1本目にこれを選ぶのはどうかと思ったが(笑、この先はあらすじを簡略化するつもりなので、ちょうど良い作品だったかも。

 金ローで鑑賞。これまで吹き替え版はあまり見ないようにしていたが、それもこれからはなしにしよう。で、吹き替え。カミさんと鑑賞していたが、ネットでは主人公の吹き替えがあまりにひどいと騒がれている、とカミさんが笑っていた。確かにその通り。吹き替えの女優さんは通常のドラマならうまい演技をする人なのになぁ。やっぱり吹き替えは専門の方がやったほうが良いのでは。

 

 でストーリーはいつものジュラシック(笑

 金儲けのための人間は恐竜に殺されるパターン。陸海空の恐竜との闘いとなるが、闘いのシーンよりも陸の恐竜の平和な姿が印象に残るのはどうなのよ。

 というか、主人公がこれまで見たことのない人物だったので取っつきにくかったが、どうやらシリーズの1作を見逃しているらしい。まぁまた金ローで放送してくれることを期待しよう。

 

まやかし 小杉健治

●まやかし 小杉健治

 南町奉行所の風列廻り与力青柳剣一郎が事件を解決していくシリーズ物。

 

青痣

 突然の雨に見舞われた剣一郎は、街中で立っていた佐兵衛とおつねの夫婦に雨宿りしていくよう言われる。2人は孫が江戸に来るのを待っていた。2人の娘おとよは10年前、伊太郎という男と駆け落ちをしたが、先月おとよが死亡した、孫のおみつを江戸に連れていくので、預かってほしいと伊太郎から知らせがあったとのことだった。

 菅沼市之進は許嫁の玉枝が親友の本宮で出来ていたのを知り、赤穂藩から出奔。主人の松右衛門を助けた縁で今は駿府の質屋松屋で世話になっていた。道場めぐりをしていた市之進を見た松右衛門は、江戸の知り合いの道場を紹介する手紙を書き、市之進に江戸へ行く事を勧める。江戸に向かった市之進は、道中幼い娘を連れた男に何度も出くわす。

 夜、左門が剣一郎を訪ねてきて、新見の亡骸が小塚原からなくなっていると告げる。翌朝剣一郎は小塚原へ。新見の最期を思い出す。新見の片腕を斬ったが、女が出てきたため、剣一郎は新見にトドメをさしていなかった。

 奉行所に戻った剣一郎は宇野から、市中取締諸色調掛の岡部の家が豪華な造りである事、それでは仕事柄変な疑いがかけられる事を告げられ、岡部に忠告するよう頼まれる。剣一郎は、岡部の屋敷へ行き、忠告をするが、彼は聞く耳を持たなかった。

 市之進は道中や江戸で、顔に青痣があることから、剣一郎と間違えられる。やっと紹介された道場へたどり着くが、道場主はすでに死亡していた。市之進は彼の妻に頼み、道場で一泊する事を許してもらう。

 剣一郎は京之進に、片腕のない人間を治療した医者がいないかを調べてもらうことに。街で佐兵衛と会った剣一郎は、孫娘が江戸に到着した事を聞く。それを伊太郎が聞いており、剣一郎のことを佐兵衛に尋ねる。伊太郎は旅で見かけた市之進が道場にいることを知っていた。伊太郎は盗賊伊勢の駒蔵一味の仲間で、江戸で盗みをしようとしていた。彼は市之進を剣一郎に化けさせ、店を襲うことを思いつき、仲間の助八と市之進を道場へ誘いに行くが、市之進は病だったため医者を呼美、隠れ家に市之進を連れて行くことに。伊太郎は娘を佐兵衛に預け、一味の元へ戻る。

 

押込み

 剣一郎は佐兵衛の家を訪ねる。おみつは剣一郎の顔のあざのことを尋ねる。帰り道、剣一郎は若い武士が佐兵衛の家のそばにいるのを目撃、それは4度目だった。

 市之進は伊太郎に看病され回復、出かける。街でただ食いを咎められた浪人を助ける。浪人は藩を出奔したと語る。市之進は彼に1両を渡し別れる。家に戻った市之進は金を稼ぎ道場を開けば良いと伊太郎に言われ、彼らの手伝いをすることに。

 剣一郎は宇野から、岡部が吉原の遊女を身請けする話を長谷川が知ったと聞かされる。岡部の妻と話した多恵は、岡部が妾を家に入れることに怒り、妻が散財をし岡部家を破滅させようとしていると話す。翌日、剣一郎は岡部に妾を家に入れぬよう忠告をするが、岡部は外で囲えば蒲原と同じことになる、子供のいない気持ちは剣一郎にはわかるまいと答える。

 市之進は浪人の長屋を訪ねるが、自害していた。その帰り、武士に絡まれ斬ってしまう。家に帰った市之進は、一味の親分伊勢の駒蔵に引き合わされ、青痣同心の偽物になるよう頼まれる。市之進は青座同心剣一郎を見に行くことに。

 剣一郎は宇野から言われ、岡部が身請けするという遊女に会う。おちせという遊女は弥助という男のことを話す。剣一郎は弥助にも会いに行き、2人の気持ちを確かめる。剣一郎は岡部に弥助を会わせ、おちせと一緒にさせてやればどうかと話す。

 市之進は伊太郎たちとともに若狭屋に押し入る。伊太郎は顔を見られた手代を殺してしまう。

 

火事場頭巾の侍

 京之進は若狭屋の事件を調べる。そこへ火盗改の坂上がきて、錠前殺しの富蔵を追っている、13年前江戸で暴れていた一味だと話す。今回の手口も彼らと同じで、錠前に傷が残されていた。しかし店に入る手口が不明だった。

 剣一郎は宇野から、明日長谷川とともに岡部に会いにいってくれと頼まれる。宇野は将来剣一郎に年番方与力になって欲しいと理由を話す。岡部は長谷川に、おちせを身請けし許嫁の男と一緒にさせてやりたいと話す。

 京之進は若狭屋の奉公人たちのことを調べるが、火盗改が彼らを捕まえてしまう。しかし今度は木曽屋が襲われる。京之進は錠前殺しの富蔵のことを調べ、13年前の事件を知る作田からも話を聞く。しかし年寄同心吉井に呼ばれ、一連の事件を火盗改が扱うことになったと言われる。

 仏具問屋寺本が一味に襲われる。丁稚磯吉は厠に起きた際、事件を目撃。火事場頭巾をかぶった武士が潜り戸を開けさせていた。翌朝殺された番頭が発見される。火盗改が調べにくるが、磯吉は恐ろしくて何も言えなかった。

 剣一郎は佐兵衛を訪ねた際、例の若い武士を見つけ声をかける。彼は山瀬平馬と名乗る。剣一郎は佐兵衛の家を訪ねる。その姿を伊太郎が見ており、おみつが旅の途中で市之進の痣を見ていたことを思い出し、おみつの口を封じなければと考える。翌日、剣一郎は宇野から一連の事件を調べるよう命じられる。剣一郎は被害にあった店を訪ね話を聞き、役人が店を訪れたのではと推理するが、手代や番頭たちがなぜ簡単に扉を開けたのかがわからなかった。

 

恩誼

 伊太郎はおみつのことを親分駒蔵に知らせる。駒蔵は、最後の仕事山川屋へ押し入る前になんとかしないとと答える。

 剣一郎は寺本へ行く。そこで磯吉から事件を目撃した話を聞く。帰り道、剣一郎は掏摸を見つけ捕らえる。掏摸は以前にも剣一郎に会ったと話すが、剣一郎に覚えはなかった。掏摸は顔に痣がある浪人姿の男のことを話し、顔の右頬に痣があったと告げる。

 奉行所に戻った剣一郎は一味の手口がわかったためお触れを出してもらう。さらに13年前一味が仕事に失敗したのは山川屋だと知り、山川屋を見張るよう命じる。

 伊太郎は剣一郎が寺本で話を聞いたことを駒蔵に告げる。駒蔵は市之進のことがバレないようおみつをさらうよう命じる。伊太郎は仲間たちと佐兵衛の家へ行くが、佐兵衛に反撃され逃げることに。

 奉行所に市之進が最初に訪ねた道場の道場主の妻がきて、市之進のこと、顔の痣のこと、駿河の松右衛門から市之進宛に手紙が届いたことを告げる。全てを理解した剣一郎はおみつのことを思い出し、佐兵衛の家へ。おみつから道中で顔に痣のある男を見たことを聞く。剣一郎は佐兵衛に、山瀬という若い武士の話をするが、佐兵衛はもう少し待って欲しいと答える。

 剣一郎は奉行所に戻り、すでに6000両を盗んでいる一味が船を手配すると考える。作田は富蔵の昔の仲間の味噌問屋伊勢屋のことを話す。剣一郎は山川屋と伊勢屋を見張るよう命じるとともに、岡っ引きが見つけてきた一味の隠れ家を強襲する。

 駒蔵は伊勢屋から手口がバレたことを聞き、山川屋を襲うのを中止する。その夜、隠れ家にいた市之進は隣の家の異変に気付く。一味は夜逃げ出すことに。

 伊太郎と市之進だけが別に逃げるが、それを剣一郎が発見する。剣一郎は市之進に松右衛門からの手紙を見せる。彼は松右衛門の窮状を知り、必ず戻るので駿河に行かせて欲しいと剣一郎に嘆願、剣一郎はそれを許す。剣一郎は伊太郎には、おみつをさらいにいったのをおみつが気づいていたと話す。

 一味が捕まり、剣一郎は佐兵衛に会いに行くが、やはり佐兵衛は秘密を打ち明けなかった。翌日剣一郎の家におみつが遊びにくる。おみつは佐兵衛が出かけると話していたと告げる。剣一郎は佐兵衛の家へ行き、妻から話を聞く。佐兵衛は法性寺で山瀬の仇討ちを受けていた。佐兵衛はおみつのことを剣一郎に頼み、斬られる。

 駿河に戻った市之進は松右衛門の仇を取り、自害する。

 剣一郎の家に岡部が礼を言いに来る。そしておみつを養女にしたいと申し出る。

 

 

 シリーズ11作目。今回も前作同様、倒叙タイプの話。しかし第1章「青痣」は、今回のゲストキャラたちが登場し、その背景にあるものが示される、いわば紹介で終わったため、事件の全貌は見えていないところが、前作とは異なる点か。

 

 ストーリーは、浪人市之進の顔の痣を利用し、剣一郎の偽物として夜の大店の扉を開けさせる盗賊一味の話をメインに、同心岡部の遊女買いの一件、盗賊一味で江戸に出て来る際に市之進と一緒になった伊太郎とその娘のエピソード、さらにその娘の祖父にあたる佐兵衛なる人物の謎、などを描く。

 前作同様、倒叙パターンにしたことで似た雰囲気になるのを嫌ったのか、サブエピソードがちょっと多い気がする(笑 それでも岡部の一件は、宇野が剣一郎を将来自分の後釜に据えようとしているのがわかる良い話だし、伊太郎とその娘のエピソードは、最終的に剣一郎に自分の偽物がいることを気づかせるために必要だったので良しとしよう。

 ただ、佐兵衛が仇打ちのターゲットだったことや、市之進がするが世話になった松右衛門の仇討ちをする話はちょっと冗長だった気がする。佐兵衛は、剣一郎がなぜか心を許す相手だったため、今後も登場し続けて欲しい人物だったのになぁ。

 

 冗長と言えば、冒頭で描かれる、新見紋三郎の話もちょっと余計だったかも。物語前半にはそれなりに登場して来る話だったが、後半はさっぱりだったし(笑 まぁ京之進が右腕を斬られた人物を診た医者がいなかったことを告げるので、それで終わりだったのかもしれないが。

 

 全体的には面白い話だったと思うが、上記した通り、ちょっと余計な話が多かったかなぁ。伊太郎が悪になりきれないのもちょっと不自然な気がしたし、市之進の最期もちょっとあっけなかったし。

 

 

 剣之助のことは佐兵衛や岡部のとの会話で登場。時次郎もちょっと顔を見せる。駆け落ちをした剣之助はどうやって江戸に戻って来るのだろう?

 

犯人をあげろ (ジュニア版・世界の名作推理全集 13) アイリッシュ原作 藤原宰太郎訳

●犯人をあげろ (ジュニア版・世界の名作推理全集 13) アイリッシュ原作 藤原宰太郎訳

 

 ブリッキーは、歌手になる夢を見て、田舎からNYへ出てきた少女。しかし歌手になる夢は叶わず、レストランで1日中働いていた。深夜1時店は閉店し、ブリッキーも帰るため店を出るが、不良少年に絡まれる。それをキンが助ける。彼は先ほどまでブリッキーの店にいた客だった。ブリッキーはキンに家まで送ってもらうが、彼は警察を恐れているように見えたため、話を聞くため、家に入れてあげることに。

 お互いのことを話し、同じ故郷出身だとわかる。それを知ったブリッキーは、帰れずにいた故郷へ一緒に帰ろうと誘うが、キンはさっき盗みをしたこと、一緒に故郷へ帰りたいが、明日には警察に捕まってしまうと告白する。ブリッキーはお金を返しに行けばいいと話し、2人はキンが金を盗んだグレーブスの屋敷へ。

 キンが屋敷へ入ると、そこでグレーブスが死んでいた。ブリッキーは、故郷へのバスが出る早朝6時までに、真犯人を捕まえようと提案。2人は死体や部屋の中を調べ、この部屋に茶色の服を着た男、左利きの人物、香水をつけた女性がいたことを突き止める。

 

 キンは男を、ブリッキーは女を探すことに。

 キンは男の行動を推理し、屋敷向かいの薬局に行き、男が電話をかけたこと、その電話口に血痕があることを突き止める。さらに開いていた電話帳から病院を突き止め、男が怪我をしたと考え、病院へ向かう。しかしそこにいたのは、子供の出産を控え、鼻血を出した男性だった。

 ブリッキーも女の行動を推理し、タクシー運転手に話を聞き、左利きの女性がタクシーに乗ったことを突き止め、彼女が降りた場所へ。深夜でも開いている店で女がパンを買ったことを突き止め、彼女のアパートへ。郵便ポストにパンの白い粉がついていたことから、彼女の部屋を確認し、彼女の部屋を訪ねる。そして殺人をしたことを指摘し、彼女とともに屋敷へ戻ることに。しかし彼女が示したのは、グレーブスの屋敷ではなく、別のアパートだった。しかも彼女が殺したと思っていた男性は酒に酔っていただけだった。

 

 キンは、犯人が犯行後酒を飲んだと推理し、酒場を廻る。そして茶色の服を着た左利きの男性を見つける。キンに気づいた男性は店を出て逃げる。キンは彼を追いかけ、人を殺しただろうと問い詰める。彼は人を殺したことを白状するが、よく聞くとそれは戦場での話で、戦争により彼は気が変になっていただけだった。

 手がかりを失ったブリッキーは屋敷へ戻る。そこでキンと再会。その時、屋敷の電話が鳴る。出てみると、その夜グレーブスと一緒に出かけた女性からで、2人は「ペロケ」へ行き、そこでグレーブスが赤毛の女性と話をし、手紙をもらっていたことがわかる。2人は手紙を探し、死体の靴下の中から見つける。それは、今晩屋敷で重要な話をしたいというものだった。さらに2人は、ホームズからグレーブスに宛てた12500ドルの不渡りの小切手も発見。

 

 2人は赤毛の女性とホームズのどちらにも犯人の可能性があると考え、キンはホームズを、ブリッキーは赤毛の女性を探すことに。

 キンは電話帳でホームズの名前を調べ電話をし、不渡りの小切手のことを持ち出し、会う約束を取り付ける。

 ブリッキーはペロケへ行き、従業員から手紙を書くために鉛筆を借りた赤毛の女性がいなかったかを尋ね、ジョーンという女性だとわかり、彼女が住むホテルへ行く。ブリッキーはグレーブスの屋敷を訪ねたことを告げ、ジョーンが犯人だろうと指摘するが、部屋に隠れていた男グリフに拉致されてしまう。ジョーンたちはブリッキーをタンスに閉じ込め、ホテルから逃げることに。

 キンは酒場でホームズと会う。不渡りの小切手のことを告げ、グレーブスを殺しただろうと問い詰めるが、キンは眠り薬を飲まされ、意識朦朧となってしまう。キンは自分を殺してもブリッキーが全てを知っていると話すが…。

 

 ブリッキーがいる部屋へジョーンたちが戻ってくる。彼女はどうやってブリッキーが自分たちのことを突き止めたか、ということに気づき戻ってきたのだった。それを問われたブリッキーは、先ほどジョーンの隙を盗んで見つけたホテルの請求書をグレーブスの屋敷で見つけたと答える。グリフは、ブリッキーも連れて屋敷へ戻り、そこでブリッキーを殺してグレーブス殺しの犯人に仕立てることを思いつく。3人は屋敷へ。

 しかしホテルの請求書はブリッキーが持っていたため、グリフは怒り、ブリッキーを殺そうとする。死を覚悟したブリッキーだったが、キンが助けに入り、グリフを倒す。ブリッキーもジョーンを取り押さえる。キンは警察に事情を説明する電話をし、2人は故郷へのバスへ向かう。

 

 バスの中、キンはグレーブスの弟からの手紙を現場に残してきたことを告げる。そこには、弟がジョーンとグリフに騙され金を強請られていたことが書かれていた。それを知っていたグレーブスはジョーンたちの脅しには乗らず、争いになりグリフに撃ち殺されたのだろうとキンは話す。さらにホームズは、ブリッキーも事実を知っていると知り、キンを連れて帰り正気に戻してくれた。2人で全てを話し、ホームズは不渡りの小切手の件で屋敷を訪ねたが、小切手が紛失していたため、ホームズは屋敷を去ったとのことだった。

 キンはホームズから借りた200ドルをブリッキーに見せ、故郷で農場でも始めると言い、ブリッキーに感謝するのだった。

 

 

 最近、「あかね書房の推理・探偵傑作シリーズ」の何冊かを図書館で借りて読んだが、その際に見つけた別のシリーズ秋田書店の「ジュニア版・世界の名作推理全集」から選んだ一冊。

 選んだ理由は、藤原宰太郎さん翻訳のものということ、ウィリアム・アイリッシュ原作のものということ、さらに本作の原題がネットで調べてもわからなかったことから、この作品を選んだ。

 藤原宰太郎さんについては、何度もこのブログで書いている通り、子供の頃にお世話になった方。

 アイリッシュは、やはり子供の頃によく見た「世界◯◯シリーズ」のようなものの中にあった「黒衣の花嫁」の表紙が印象的でよく覚えていた(「黒衣の花嫁」はコーネル・ウールリッチ名義)が、子供の頃に読んだことがなかったので。

 で本作の原作は、「暁の死線」らしい。海外で映画化もされているが、日本でも何度もドラマ化されているらしい。その中には、あの友和百恵コンビの「赤いシリーズ」にもなっているようだ(by wiki)。

 

 で本作。とにかく面白かった。たった5時間で殺人事件の真犯人を探さないといけない、という主人公の若い男女、という設定。警察でもない2人がそんなことできるはずがないのだが、殺人を見つけた2人は、現場を調べ、いくつかの手かがりを見つける。それが、男の服装と左利きということ。

 そこから単独行動をとる2人。それぞれが怪しいと思われる人物を見つけるが、見事に空振り。そりゃそうだよなぁと思っていたら、さらに2人は行動に出る。男はまた別の怪しい人物を発見するが、これも空振り。女は殺人現場に戻る。そこで男と再会、2人はまた別の手がかり〜電話の女性の証言と不渡りの小切手〜を見つけ、また単独の行動に。

 この時点で、全体の4分の3のページに。残り4分の1でどうやって犯人を見つけるのかと思ったが、最後の手がかりで女が探し当てた人物が真犯人だった。しかし男も女も、相手に拉致されてしまい、さぁどうなるのか?という結末。

 

 いやぁ面白かったなぁ。ジュニア版だから、相当端折ってあると思われるが、それが逆によかったのかも。この歳になって、読んでいない推理小説をジュニア版で読むのもどうかと思うけれど(笑 でもこれはこれでアリかも。このシリーズの中には、やはり子供の頃から知っているタイトルでありながら、読むことがなかったあの有名なクロフツの作品もあるので、読んでみたいと思う。

 

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スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 大人の小休止と鎌倉野菜のポトフ 友井羊

●スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 大人の小休止と鎌倉野菜のポトフ 友井羊

 

ハンカチを渡す

 長谷部伊予は、理恵の元同僚。会社で編集部から広告支援の部署に異動したばかり。慣れない仕事だったが、頑張っていたところへ、祖母の訃報が届く。伊予は落ち込み、仕事でもミスが多くなる。

 ある時から、急に強烈な不安に支配され、息苦しくなるという状況に襲われるようになる。それでも仕事を続けていたが、会社からの帰りに症状が出て、商業施設前のベンチで休むことに。そんな伊予を心配し女子高生が声をかけてくれる。彼女は自分の父が患った「パニック発作」ではないかと心配してくれ、ハンカチを渡そうとしてくれた。伊予の症状は収まり、彼女は立ち去る。しかし彼女はハンカチを落として行った。伊予は商業施設の廊下に入って行った彼女が戻ってくるのを待つが、いつまで経っても彼女は出てこない。施設の清掃員にもトイレなどを確認してもらったが、どこにも彼女はいなかった。

 伊予は彼女が着ていた制服から、学校へ連絡。ハンカチに残された名前の生徒がいないか確認するが、該当者はいないと言われてしまう。

 伊予はスープ屋しずくでそのことを話す。麻野は女子高生が消えた理由を解き明かす。

 伊予は心療内科を受診、そのことを上司に告げる。休職が認められた伊予は、祖母のすんでいた鎌倉で療養することを決める。

 

消失シークヮーサー

 伊予は祖母が暮らしていた鎌倉の家で、遺品整理などをしながら療養も兼ね、暮らし始める。街の散策をしていて、ピザのキッチンカー「こんがり屋」を見つけ、店主の阿久田健と知り合う。阿久田の作るピザはうまいものではなかったが、伊予は常連となる。こんがり屋には、他にも常連の佐藤という老婦人や沖縄出身の喜屋武というサリリーマンなどがいた。

 ある時、佐藤の娘が沖縄旅行に行くと聞いて、喜屋武が沖縄のシークヮーサーをお土産に頼みたいと話し、佐藤は了承する。後日、佐藤がキッチンカーにシークヮーサーの入った袋を持ってくるが、阿久田はその袋を別の客に持って行かれたと話す。しかし伊予は阿久田が、その袋をキッチンカーにしまうのを目撃していた。

 後日、伊予は佐藤の娘と街中で出会うが、その時娘は崎陽軒の紙袋を持っていたため、母である佐藤に会いに行くのだと思ったが、キッチンカーで崎陽軒の紙袋を見つける。同じものかどうかは不明だったが、伊予は不思議に思う。

 伊予は久しぶりにスープ屋しずくを訪れ、それらを麻野に話す。麻野は佐藤に関するある推理を行う。

 

キッチンカーの死角

 伊予が休職してから2ヶ月が経過。こんがり屋で喜屋武と会ったが、彼は会社の不正を見逃せないと話す。喜屋武が去ったあと、佐藤は喜屋武のリフォーム会社が悪徳業者だと噂が立っていると話す。

 ある日曜日、麻野と慎哉が鎌倉にやってくる。伊予は2人をこんがり屋へ誘う。阿久田は麻野が来たことを喜ぶ。そこへ喜屋武が会社の男たちに追われて逃げて着て、阿久田にSDカードを渡すが、男たちに捕まってしまう。男たちは会社の大事なデータを持ち出したと訴え、SDカードを渡すように阿久田に話すが、阿久田はそんなものは知らないと答える。カーの中に残りデザートを作っていた麻野は、男たちに調べるよう話し、彼らはキッチンカー内部を徹底的に捜索するが何も出てこなかった。慎哉が知り合いに警察がいると話すと、男たちはSDカードを諦め、引き上げる。

 後日、伊予はスープ屋しずくを訪ね、事件の真相を麻野から聞くことに。

 

幻のワインは露と消える

 伊予の祖母の家の遺品管理も終わりに近づく。床下から箱を見つけ、その中にワインが入っていた。絶対に飲まないこと、自分が死んだら破棄すること、というメモが添えられていた。ワインは「かずらの雫」という名で1955年のものだった。

 伊予はスープ屋しずくへ行き、ソムリエの資格を持つ慎哉に相談。「かずらの雫」は幻のワインと言われ、3年だけしか作られなかったこと、ワインを作った八神醸造所は現在も存在していることがわかる。

 伊予の住む祖母の家へ八神和葉が訪ねてくる。彼女は八神醸造所の社長で、幻と言われる「かずらの雫」のことを調べていた。伊予の祖母が醸造所で働いていたこと、祖母の訃報を受け取り、何か「かずらの雫」のことを知っているのでは、と訪ねてきたのだった。伊予はワインがあることなど、事情を説明。和葉から醸造所見学に来て欲しいと頼まれる。伊予は醸造所へ。

 そこで、和葉の夫や息子に会う。息子は、伊予の祖母が「かずらの雫」を処分したことを示す彼の曽祖父の日記を見せ、ワインを売ってくれるよう迫る。

 伊予はスープ屋しずくで慎哉たちにそのことを話す。慎哉は知り合いの伝手で、「かずらの雫」を飲んだことがある人物に接触、さらにその人物が後年「かずらの雫」と同じ味のワインを見つけたが、その後「かずらの雫」のことを話題にしなくなったと話すし、その理由を伊予に教える。

 スープ屋しずくに和葉たちを招き、伊予は全ての真相を話す。

 

 

 シリーズ10作目。8作目で麻野と理恵が付き合うことになったが、前作9作目はそのことにはあまり触れず、話は通常運転だった。本作も同じだが、物語の主役は、理恵のかつての同僚伊予となっている。

 

 祖母を亡くし、精神的に病んでしまった伊予は祖母の暮らした家で、遺品整理などをしながら療養をする。そこで起きた4つの事件、という話。

 

 「ハンカチを渡す」は人間消失もの。伊予に優しく声おをかけてくれた女子高生がトイレに入り消えてしまう。これはオーソドックスなトリック。ただ、女子高生がそのような行動をした理由やその原因に関わることがしっかりと伏線として描かれていることがさすが、といったところか。

 「消失シークヮーサー」は、お土産の謎、と言えば良いか。佐藤の持って来たお土産を阿久田が隠したり、佐藤の娘が持っていたお土産がなぜか阿久田のところにあったり。シークヮーサーの時点ではピンとこなかったが、佐藤の娘と伊予との会話で、事情は察することができる。

 「キッチンカーの死角」は、SDカード紛失。これは麻野がデザートを作っている段階で、もうわかりきったことでしょう(笑 犯人が凶器を料理し関係者に提供する、という古典的名作を思い出した。

 「幻のワインは露と消える」は今回の中では一番読み応えがあったか。伊予の祖母の遺品の中にあった、幻と呼ばれる国産ワインをめぐる謎。絶対飲んではいけない、自分が死んだら破棄するように、というメモでそのワインがどんなものか想像しなければいけなかった。それでもその後の展開はなかなか。かつての2時間ドラマの展開を見ているかのようだった(笑

 

 通常運転にすっかり戻ってしまった話だったが、1点これは見事だと思った点を。

 「消失シークヮーサー」は準主役として佐藤が登場する。この佐藤は娘との関係性に問題を抱えていた、ということが最後に判明するが、ラストでこの佐藤が伊予にそのことを告白し、伊予と祖母の関係性についても言及する。伊予はここまで、大好きだった祖母と疎遠になってしまっていたことを悔いていたが、その伊予に佐藤が親(祖母)側としての思いを語る。「消失シークヮーサー」の謎は特段優れたものではなかったが、このラストの佐藤のセリフは、伊予の心に刺さっただろうと思える。このセリフのために、佐藤という人物設定がされたとしたら、これは見事だと思う。

 

 今回、伊予が主役ということで、気になったことを1点だけ。物語の多くの部分が伊予目線で書かれていたためか、「だけど」という言葉が多用されている。接続詞や文末として何度も登場している。著者の普通の文章は丁寧で読みやすいからか、この「だけど」の多用はなんか引っかかってしまった。若い女性伊予の言葉として使われたのだろうが。

 

 

あきない世傳 金と銀 特別巻下 幾世の鈴 高田郁

●あきない世傳 金と銀 特別巻下 幾世の鈴 高田郁

 全13巻で終了した「あきない世傳 金と銀」シリーズの特別巻の下巻。シリーズの登場人物の中から、周助、菊江、結、幸の4人を主人公とした物語。

 

第1話 暖簾

 主人公は周助。舞台は、特別卷上巻の最終章の翌年(1772年)。

 江戸で大火があり、五鈴屋江戸本店は焼失、それでも幸から古手を送って欲しいと言われた周助は、その値上がりに困惑しつつ、以前の飢饉の時に古手を集めた長浜の茂作に連絡をとる。

 江戸から来夏に本店の立て直しを行うと知らせがあり、周助は一安心するが、幸と賢輔の結婚のことを大旦那孫六と治兵衛にどう伝えるかで悩む。翌年小正月、周助は2人に幸たちのことを話そうとしたが、そこへ紙屋伊吹屋の文伍が訪ねてくる。彼は、昨年亡くなった妻が銀駒という名の芸者だったこと、彼女が五鈴屋6代目智蔵と付き合いがあったこと、息子貫太が智蔵そっくりに育ったことを告げ、手形でしくじったため資金提供をしてくれないかと頼んで来たのだった。周助は1ヶ月の猶予をもらい、伊吹屋のことを調べ始める。

 周助は貫太(貫七)と会い、智蔵とそっくりであることを確認する。家では孫六の老いが進んだため、9代目を賢輔に引き継ぐ話が出てくる。周助は貫七と伊吹屋で話した際、江戸では売れた藍染の浴衣が大阪で売れなかった理由を貫七から聞き、納得するとともに、貫七の商売の目の確かさに驚く。周助は治兵衛にそのことを伝え、9代目を貫七とするのが良いのでは、と考え始める。その際、治兵衛が幸と賢輔の結婚のことを知っていることを聞かされる。

 周助は貫七に全てを打ち明ける。それを聞いた貫七は伊吹屋へ一緒に来て欲しいと頼む。そして文伍に自分の父親は文伍だ、伊吹屋が潰れても自分の手で再建させてみせると話す。

 貫七の覚悟を聞いた周助は、妻お咲に、五鈴屋8代目を降りた後は、桔梗屋の暖簾をあげたいと話す。桔梗屋で大阪向けの藍染の浴衣を作るつもりだった。そのことを江戸の幸へ手紙で知らせる。後日、幸からは智蔵が大切にしまっていた桔梗屋の暖簾が送られてくる。

 

第2話 菊日和

 主人公は菊栄。舞台は前話の2年後(1774年)からその翌年まで。

 菊栄はやっと完成した大川橋で大阪へ帰る幸に別れを告げる。

 菊栄は笄の次にだす商品をどんなものにするか悩んでいた。惣次に会った際もそこを指摘される。また年齢を問わない色も探しており、力造から紅掛というヒントをもらう。

 五鈴屋創業23年の祝いに店を訪れた菊江は、相撲年寄砥川の妻がしている根掛に惹かれる。五鈴屋に相談に行き、亀七から鬼しぼという縮緬を提案され、紅掛空色で根掛を作ることを思いつく。

 翌年。力造が菊江の考えた敷布を作る。商品化したものが売れる。

 菊江は実家紅屋の商売が上手く行っていないことを菊次郎から聞く。菊江は惣次に呼ばれ料理屋へ。惣次は紅屋が人手に渡ったと告げ、今の菊江なら身代を取り戻せるだ織ろうと言われる。しかし菊江は血縁を理由に身代を取り戻しても禍の種を残すだけだと答える。菊江は料理を運んで来た女中がしていた髪飾りが気になり、見せてもらう。奉書紙を使い、その髪飾りを参考に新たなものを作る。それを見ていた惣次はそれが大きな商いになると確信、いくらでも融通すると持ちかけるのだった。

 

第3話 行合の空

 主人公は結。舞台は、前話から2年後の1777年。

 結は夫忠兵衛とともに播磨国赤穂郡で旅籠「千種屋」を営んでいた。娘は10歳の桂と7歳の茜。忠兵衛は仕事をせず釣りをするばかり。謀書謀判の罪で重追放と闕所となり、今は旅籠屋に身を落としていた結は惨めな暮らしを嘆く。

 太物仲買人の源蔵という客が来て、大阪にできた桔梗屋の噂話をする。結は源蔵からこの辺りの木綿は安いのでよく売れるため、また来ると言われる。それを聞いた結は忠兵衛に、安い木綿でまた商売をしたらと持ちかけるが、忠兵衛は金銀に振り回される生活は嫌になったと答える。

 ある時、泊まり客から桂が縮緬の端切れをもらう。桂はそれで客にあげるためのお守りを作る。忠兵衛は感心し、年に一度の市で端切れをたくさん買って来て、お守りを作ろうと言い出す。結はお守りを旅立つ源蔵に渡す。その後、お守りが評判となり、お守りを求める客がやってくる。結はお守りを売り物にしようと考え、忠兵衛に伝えるが「旅籠が信心で銭を得るのは間違い」と言われる。

 後日、源蔵がやって来て結に紙紅をくれる。その夜、源蔵は他の仲買人の客たちと商いについて話し、型染めをしようと盛り上がる。

 年に一度の市が立つ日、結は例の型紙を持って旅籠を出て、源蔵を追う。船着場側の旅籠で源蔵を見つけた結は型紙を見せる。それを見た源蔵は笑い出し、文字散らしの型染めは大阪でもずいぶん前に流行ったと伝え、紅をさして来た結をあざ笑う。そこへ忠兵衛がきて、源蔵に怒り、二度とくるなと脅す。

 忠兵衛と旅籠へ帰った結は、娘たちが麻疹にかかっていることに気づく。5日ほどして茜の熱は下がったが、桂は症状が悪化するばかり。それでも桂は妹茜のことを心配する。それを見た結は幼き頃、母や姉幸が自分を守っていてくれたことを思い出し、延命地蔵に桂を助けて欲しいと懇願する。

 桂は助かる。結はこれまで自分がして来たことを反省し、姉幸の幸せを祈る。

 

第4話 幾世の鈴

 主人公は幸。舞台は、賢輔が9代目となって10年経った1785年、幸は還暦。

 前年に五鈴屋創業100年を迎えた新年。幸は治兵衛夫婦から新年の挨拶を受ける。幸と賢輔は10代目を誰に託すかを考え始める。伏見屋の孫為助、周助の子高吉、孫吉、留七の子貞七

 

 幸と賢輔は彼岸に津門村へお参りに行くが、上知令により尼崎藩は寂れていた。2人は初めて出会った頃を思い出す。賢輔は五鈴屋の信条がこの先100年も受け継がれていく工夫が必要だと話す。

 奉行所より五鈴屋は御用金を命じられるが、内容は大名貸しと同じことだった。さらに伏見屋から、田沼意次の考えで大阪に貸付会所が作られるという話を聞く。

 師走、幸は賢輔の羽織を仕立物師から受け取るが、その際絹地をもらう。それは五鈴屋の暖簾の色の絹地だったが、苅安と藍染で染められたものだった。苅安は幸の母の思い出の色、藍染は五鈴屋になくてはならない色であり、幸は感慨に耽る。

 賢輔は御用金を尼崎藩相手に貸すことを条件にするとお上に訴える。

 年が明け、御用金の総額が明らかになるが、 葉月に10代将軍家治が死去、それに伴い田沼意次が失脚したことにより、御用金と貸付会所の件は中止される。しかし賢輔は尼崎藩に500両を納めることに。店の者は不審がるが、貞七が幸たちが口にする「万里一空」を話し、皆は納得する。その年の暮れの富久の法要の日、幸は留七に貞七のことで相談があると話しかける。その貞七は幸に、播磨国の旅籠でもらったというお守りを渡す。そのお守りを持って、幸は賢輔とお伊勢参りに。道中、五鈴屋初代の故郷の川を見つける。幸は賢輔が考えていた五鈴屋の則を「商い世傳」と名付けてはどうかと話す。

 

 

 上巻に続く特別巻の続き。物語の中の舞台も、上巻の続きであり、1772年から1786年まで。シリーズ本編のラスト「あきない世傳 金と銀13」の舞台が1766年だったため、最後は本編20年後の世界を描いていることになる。特別巻としては異例のことではないだろうか。

 

 下巻も4人の主人公が登場。

 周助は自分の後の9代目を賢輔に譲り、以前自分が奉公していた桔梗屋を再建させ、菊栄は、幸を大阪に見送った後、新たな商品開発をする、という話。桔梗屋再建は本編中盤で描かれたエピソードであり、そんなこともあったなぁ、と懐かしく思い出した。これを持ってくるとは、さすがの著者の上手さ。

 正直、上巻の4人でエピソードは語り尽くしたと思っていたが、まだまだあったのね。しかも3話目では、結が登場。毒気の抜けた忠兵衛と対照的に、まだ一発逆転を狙う結。「らしさ」全開だったが、忠兵衛に窘められ、源蔵には見事に嘲笑われてしまう。そこで復活する忠兵衛の怖さもよかったが、娘たちの麻疹で母や姉の思いを理解する結も良かった。

 で最終章の幸。10代目を誰にするか悩み、田沼意次の政治に翻弄され、賢輔の考える五鈴屋の則を手助けする。還暦になっても幸は変わらないままであるのが、読者にとっては一番嬉しいことだろう。

 そして結の旅籠のお守りが最後の最後に出てくるなんて。第3話で登場したお守りエピソードは結の長女の人となりを示すアイテムかと思っていたが、まさかそれが最終章への伏線だったとは。

 

 上巻下巻とも、見事な後日談となる短編集だった。巻末の治兵衛のあきない講座にある著者の言葉には、五鈴屋後継者の物語を不定期でお届けしたいと書かれている。どのような話になるかわからないが、首を長くして待ってみることにしよう。