鬼平犯科帳 第1シリーズ #24 引き込み女

鬼平犯科帳 第1シリーズ #24 引き込み女

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 伊三次が磯部の万吉を見つけたと急いで五鉄に戻ってきて、店番をしていたおまさに伝える。万吉は一人働の盗賊だが、腕を買われ諸方の盗賊から助っ人を頼まれる人物だった。伊三次は築地の蕎麦屋で万吉を見つけたが、自分の尾行では気づかれると思い、おまさに託したのだった。おまさは彦十に話をして一緒に万吉のことを調べ始める。

 おまさは橋でお元を見かける。お元は昔一緒にお勤めをしていた仲だった。おまさは声をかけずお元をつける。お元は袋物問屋菱屋に入っていった。おまさはお元が菱屋に引き込み女として入っているのではと疑い、彦十に相談する。おまさは鬼平にお元のことを伝えることに。話を聞いた酒井はお元が万吉と関わりがあるのではと考え、菱屋に見張り所を設けるよう鬼平に進言する。鬼平はおまさにお元に話しかければ本当のことを話すかと尋ねる。おまさがお元が昔のままなら話してくれるだろうが、女は変わるものだと答えると、鬼平はお元のことはおまさに任せると話す。酒井は不服だった。

 菱屋。主人の佐兵衛は店の娘である嫁やその父親から邪険に扱われていた。そんな佐兵衛のことをお元は心配そうに見つめていた。おまさと彦十は菱屋を見張る。店から出てきたお元をおまさがつけるとお元は川べりの茶屋へ。そこでおまさはお元に声をかけることに。お元は盗みの世界からは足を洗ったと答えるが、おまさはお元が引き込み女として菱屋にいる、しかも仕事が近いと確信する。しかしおまさは妹のように可愛がっていたお元が捕まるところは見たくないと彦十に話す。

 お元は店の蔵の鍵の型を取り、店に来ていた按摩にそれを渡す。按摩はそれを磯部の万吉に渡す。万吉は駒止のお頭が10日後に江戸に入ると按摩に伝える。

 同心たちは密偵たちが何も連絡してこないことに怒っていた。さらに密偵たちが裏切るのではと話すが、酒井はそれをたしなめる。その頃鬼平は生花をする久栄に愚痴をこぼしていた。

 おまさはお元と会う。お元は店の主人と割りない仲になり、一緒に逃げようと言われていることを告白し、こんな気持ちになったのは初めてだと話す。おまさはお元に幸せになるために主人と逃げるように話す。しかしそれを万吉に見られていた。

 その夜、板橋の宿場で押し込みがあった。日頃は上州で盗みを働くが数年に一度江戸へ出てくる駒止の喜太郎一味の仕業だった。知らせを聞いた鬼平は、喜太郎一味がいずれ江戸市中に現れる、万吉がつなぎでお元が引き込み女、万吉が今だに動き出さないのは、喜太郎一味を待ってのことだろうと話す。さらに酒井が持って来た書類から、3年前の喜太郎一味の調書から、喜太郎の女がお元だろうと考え、菱屋に見張り所を設けるよう酒井に命じる。

 彦十はお元を万吉がつけていたのなら二人は仕事仲間だと言い、鬼平に伝えるべきだとおまさに話す。おまさはお元のことなど全てを鬼平に打ち明ける。鬼平はお元は逃げても駒止の喜太郎が許さないだろうと話し、お元が喜太郎の女であり、板橋宿の事件のことを教える。

 菱屋の見張り所に同心たちが詰めていた。そこへ鬼平から言われたおまさが向かう。しかし動きがないため、同心たちはお元に誰かが何かを伝えたのではとおまさたちを疑う。酒井は同心たちをたしなめ、おまさを庇う。

 夜、店に按摩がやってくる。按摩はお元に明日駒止のお頭が会うのを楽しみにしていると伝える。お元は佐兵衛に明後日昼に船宿で待っていると伝える。店から按摩が出てくる。そこへ万吉が現れたため、同心たちが尾行する。しかし万吉をつけていた沢田は巻かれてしまう。万吉は喜太郎に会い、お元が怪しいと告げるが、喜太郎は自分の女であるお元を完全に信頼しており聞く耳を持たなかった。

 翌朝、沢田が万吉に巻かれたと戻ってくる。その時、お元が店から出てくる。おまさは酒井にお元の後を一人でつけさせてくれと頼む。酒井は了承するが、沢田に何事か命令する。納得田舎い同心小柳は鬼平に報告するが、鬼平は半刻ごとに知らせろと言うだけだった。夕刻になり報告に来た小柳に、鬼平はおまさとお元のことは忘れ、菱屋だけを見張れと酒井に伝えろと話す。久栄は鬼平にこれで肩の荷が下りたのではと言われる。

 夜、お元は一人で旅立とうとしていた。おまさが声をかける。そこへ万吉が現れおまさが密偵だと見抜き、おまさとお元を殺そうとする。そこへ沢田が現れ万吉を倒し、何も言わずにさっていく。見張り所に鬼平が現れ、今晩一味が動くと話す。一味が菱屋に現れ、鬼平や同心たちが一味を捕まえる。鬼平は店の佐兵衛にお元は二度と戻らん、あの女の子とは諦めるんだなと言い残し去っていく。

 役宅でおまさが鬼平にお元を逃がしてしまいましたと白状する。いかようなお裁きもと言うおまさに久栄は殿様の顔をご覧あそばせと言う。鬼平はおまさに、酒井や同心たちに礼を言いなと話す。お元は盗賊の世界から足を洗うことができ、一人旅立って行った。

 

 

 初見時の感想はこちら。あらすじを追加した修正版。

 

 修正版を書くのも20回を越えたため、ちょっとぼーっとしながら本作を見ていたら途中で、磯部の万吉と駒止の喜太郎のつながりがあることにどうして鬼平が気づいたのかわからなかった。このブログを書くために見返してやっと理解した。

 一人働きが主であるがその腕を見込まれて助っ人を頼まれる磯部の万吉が、江戸に現れたのは、誰かに助っ人を頼まれたから。その万吉がしばらく動きを見せていないのは、助っ人を頼んだであろう喜太郎の江戸への到着を待っているからではないか、と鬼平は推理したのね。

 さらにその後、おまさからお元が万吉につけられていたことを聞いた鬼平は、この3者が完全につながっていると見込んだわけだ。ドラマでは、3年前の調書から鬼平はお元が喜太郎の女であることを推理しているので、話が前後しているとも思われるけど、この辺りは大目に見ましょう(笑

 

 冒頭でいきなり話題となる磯部の万吉、そして中盤いきなり現れる駒止の喜太郎(正確には、その前に万吉が按摩に『駒止のお頭が…』と言っているけど)、この二人のつながりさえ理解できれば、本作は話が早い。つまり、喜太郎一味の引き込み女として菱屋に入っていたお元が、その店の主人に一緒に逃げよう(主人は妻である店の娘やその父親に邪険にされていた)と言われ悩む、そこへ昔の仲間だったおまさが現れて逃げることを後押ししてくれる、という話なわけで。

 

 で、やっと本題に入るが、密偵たちの昔の仲間が登場する話は良くあるパターン。多くの場合、悲劇的な結末を迎えるが、本作は珍しくそうはならないパターンだった。この結末があるからか、途中珍しく同心たちが密偵(おまさと彦十)の仕事に不満を漏らす。挙げ句の果てには、おまさたちがお元に情報を流しているのでは、とまで疑う始末。

 本作ではそれを咎めるのは、鬼平ではなく酒井の役割。見張り所で責められるおまさに酒井は声をかけ、昔の仲間だったお元のことで悩んだのは、おまさが優しいからだと慰める。他の話ではちょっと見かけない同心酒井の見せ場かもしれない。

 同心で言えば、万吉を尾行した沢田は巻かれてしまうが、その後、お元とおまさのもとに現れた万吉を見事に斬って捨てるカッコ良いシーンが待っている。さらに最後の捕り物の場面でも、いつも以上に剣が冴えていたと思うのは気のせいか。

 

 昔の仕事仲間だったお元のことで悩んだおまさ。あまり本音を言わないおまさに対する鬼平の心情を久栄が代弁しているのも見逃せない。これはラストだけではなく、途中のシーンでも同じ。さすが奥方様である。

 

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誇り高き男

●720 誇り高き男 1956

 西武のとある町。牛追いたちが多くの牛追い、売買しにやってくる。保安官のキャスは牛追いたちに町で騒ぎを起こすなと忠告する。そんな牛追いの中にキャスを見つめる一人の男がいた。

 町は金を持った牛追いたちを歓迎する。キャスの恋人でレストランを経営するサリーも大忙しだったが、キャスはそんな彼女に指輪を送りプロポーズをする。そこへ保安官助手のジムがやってきて、パレスが新たにオープンしカジノの道具などを運び込んでいる、オーナーはバレットだと告げる。キャスは店へ。

 店の外でキャスは牛飼いたちを見かける。その中にはキャスを見つめていた男がいた。彼はサッドと名乗り、キーストーンの町で丸腰だった父親がキャスに射殺されたと話す。キャスは反論するがサッドは聞く耳を持たなかった。

 店に入ったキャスはカードのディーラーが指輪を使ったイカサマをしているのを見抜く。キャスは支配人のディロンにオーナーに言ってディーラーを首にしろと話すが、ディロンは反論、ボスであるバレットと因縁があると聞いているぞとキャスをバカにする。キャスがディロンを殴るとカウンターにいた男がキャスを撃つ。その男をサッドが撃つがサッドも撃たれ負傷する。バレットが出てきてキャスの言う事を聞きディーラーをクビにする。

 事務所に戻ったキャスは酔っ払って牢屋に入れられていたビリーを釈放する。助手のジェイクはケガをしているキャスを心配し治療する。負傷したサッドはキャスの計らいでサリーのレストランで医者の治療を受けていた。そこへキャスがやってきて、牛追いの仲間はテキサスに帰って行ったと話し預かっていた給料を渡す。サッドはこの街に残ると話し、キャスは看守の仕事ならあると話すがサッドは断る。事務所に戻ったキャスは、落としたバッジを拾おうとした時に視界がぼやけるのを感じる。撃たれた後遺症だと思われたが、キャスは誰にもそれを告げなかった。

 サリーはバレットのもとを訪れ、キャスを挑発しないように忠告する。バレットは前の町からキャスが逃げたのは自分を恐れているからだと話すが、サリーはキャスを連れ出したのは自分で、キャスはバレットを恐れていない、だから挑発するなと話す。

 サッドは怪我が治る。キャスは事務所にサッドを連れてきて父親がバレットに雇われた殺し屋だった事を告げる。それを聞いたサッドはバレットに話を聞きに行く。その頃バレットは殺し屋であるパイクとチコを呼び寄せていた。二人と入れ替わりにサッドはバレットと会い父親のことを尋ねるが、追い返されてしまう。サッドはキャスに会いに行き、看守として雇ってもらうことに。

 街では牛追いのため景気が良くなり物の値段が上がる。

 バレットの店で賭博に勝った客が店の人間2人に襲われそうになる。それをキャスが助け、2人を牢に入れる。翌日、バレットの店でイカサマをされたと怒った客が撃ち殺される事件が起きる。キャスはディロンを捕まえ牢に入れる。バレットに雇われたパイクとチコが夜、巡回をするキャスを狙う。酔っ払いのビリーはそれを見ていて、酔ったフリをしてキャスに忠告する。キャスは二人と撃ち合いになるが、途中視界がぼやけてしまったため人家に逃げ込む。銃声を聞いた住民が騒ぎ出し、殺し屋二人は逃げて行く。

 キャスは医者に症状を訴え診てもらい、仕事を辞めカンザスシティで治療を受けるように言われる。しかしキャスはこの事を黙っているように医者にお願いする。

 事務所にジムがやってきて、子供が生まれるので妻に危ない仕事をやめるように言われたので、助手を辞めると話す。キャスは受け入れ、サッドに助手になるように命じる。そして夜、一緒に巡回に出る。酔ったチコと会うが、キャスはそれが演技だと見抜きチコを射殺する。チコが丸腰に見えたサッドはキャスを非難するが、キャスはチコが銃を構えていた事を告げる。翌日、真実気づいたチコはキャスに謝罪する。キャスはサッドを射撃訓練に連れて行く。その場でまだキャスのことを信じられないサッドだったが、彼に背中を見せるキャスを信じ始めていた。

 キャスが邪魔になってきたバレットは町議会のメンバーに働きかけ、キャスがチコを撃ったことを咎め保安官をやめさせようとする。議会のメンバーに辞任を迫られたキャスは明日牢にいる3人の裁判が行われれば辞めると答える。

 その夜、サリーは医者からキャスの症状の話を聞き、すぐにカンザスシティへ旅立とうとする。しかしキャスは明日まで待つように言う。その時街で騒ぎが起こる。パイクが牢にいた3人を脱獄させたのだった。事務所に駆けつけたキャスはジェイクが射殺されているのを発見。キャスはショットガンを取り出し、サッドとともに一味が隠れた納屋へ向かう。

 パイクを入れた4人を相手に二人は銃撃戦を行う。途中キャスは視界がぼやける状態になってしまうが、サッドの助けもあり、4人を射殺する。そこへサリーが馬車に乗ってやってくる。サッドはキャスを見送りつつ、まだ残された仕事があると言い、バレットの店へ。キャスはサリーにあとを追うように指示する。ジムもサッドに加勢する。バレットを逮捕しようとするサッド、バレットは隙を見て銃を抜くがサッドは彼を射殺する。それを見届けたキャスはサリーとともに馬車に乗って去って行く。サッドはそれを見送り、ビリーに50セントを与えるのだった。

 

 タイトルはよくあるフレーズのため、なんとなく知っているような知らないような映画だったが、初見。しかしこれがなかなか面白かった。

 ストーリーは町の保安官が因縁のある相手と対決する、というある意味定番のものだが、細かいものを含めてサブエピソードが良い味を出している。

 

 序盤で保安官を意味ありげに見つめる男は丸腰の父親を保安官に殺されたと思っているが、保安官の言葉やその後の態度で彼を信用するようになる。この一番のサブエピソードがちょっと弱い気もするが〜サッドが比較的あっさりとキャスを信用してしまう〜射撃訓練の場で何度もキャスを撃とうとする態度を見せるので良しとしよう(笑

 

 その他では、保安官が恋人サリーと結婚をしようとしている場面を冒頭で見せたこと。これが最後に効いてくる。

 保安官助手のジムが妻の初産を迎えて仕事を辞めてしまうのも良いエピソード。辞めるのが良いわけではなく、ラスト一人でバレットの元へ向かうサッドを「加勢する」と言いながら着いて行くのがちょっと痺れた。正義のための仕事を続けたいと思っていたが、妻の言葉でやめざるを得なくなった、というジムの心情をここで表している。

 一番気に入ったのは、酔っ払いビリー。序盤で牢に入れられていたが、キャスにあっさりと釈放してもらう。おそらく酔っ払って迷惑をかけただけなのだろうが、その際外へ出て行くビリーがキャスに50セントをねだるシーンがラストの伏線となっている。キャスが保安官を辞め後任となったサッドがラストシーンでキャスを見送りつつ、ビリーに渡す50セントにはそんな意味があったのだろう。

 

 1956年製作ということでまだまだ西部劇の黄金期の作品だと思う。ストーリーも含め若干作りが荒いと思うところがないわけではないが、90分強という尺を考えても、エピソード含めよく作られた一本だった。

 

 

 

男はつらいよ 噂の寅次郎

●719 男はつらいよ 噂の寅次郎 1978

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。冬、貧しい家の娘おさくが道端の寅次郎地蔵尊にお餅とみかんのお供えをする。寒い中佇む寅次郎地蔵におさくは自分の着物を着せてやる。おさくが家に帰ると父親が借金返済を迫られており、おさくはお代官の妾になることを承知する。そこへ寅次郎地蔵の化身が現れ、おさくの施しに礼を言い、小判や米俵などを出し、柴又村を春に変え、一家を救う。

 この夢も後の話にリンクしていると思われる(後述)。また、時代劇という設定のためか、おさくの父親役として吉田義男さんがこのシーンだけの登場。

 

 OP後、とらや

 OPは川べりを歩く寅さんが画家にちょっかいを出し騒動になる話。

 とらやのおいちゃん、おばちゃん、さくらが寅さんとさくらの父親の墓参りに。そこにいたのは寅さんだった。皆で墓参りをし、寅さんはその心がけを御前様に褒められる。しかし、本当の墓はその隣だった、というオチ。

 旅の途中でちょっと立ち寄ったつもりだった寅さんだったが、皆に見つかったためとらやへ。ここでは寅さんは平和にとらやの皆と挨拶をして終わる。夜、おいちゃんが腰を痛めさくらにマッサージをしてもらっている。配達が辛いとおいちゃんは話し、配達のために人を雇えばという話になる。寅さんは自分がしっかりとしていないため皆に迷惑をかける、と神妙な態度を取る。いつもの夕餉にタコ社長が現れないことに気づいた寅さんは博に話を聞く。タコ社長は不景気のため金策に走っていると聞いた寅さんはタコ社長が自殺を考えているのでは、と騒ぎ出す。工場の従業員に社長を探させる一方で、とらやで葬式ができるよう手配を考え始める。そこへ酔っ払った社長が帰ってきて、寅さんとケンカになる。

 翌朝、さくらはおばちゃんからの電話で、寅さんが謝罪の手紙を残し旅だったことを知る。

 

 寅さんがいつも通りとらやに現れるが、本作では墓参り先の帝釈天で皆と出会う、という珍しいパターン。墓参りがきっかけだったためか、とらやでは平和に過ごしていたが、タコ社長の件でトラブルとなり、いつも通りケンカをして旅に出ることに。

 冒頭の夢の地蔵〜墓参り〜タコ社長の自殺?と人の生死に関わる話が続いているのは見逃せない。これがこの後の話への布石となっている。

 

 

 寅さん旅へ とらやでは職安に募集を

 寅さんは橋を歩いている時に雲水と出会い、女難の相が出ていると告げられる。寅さんは物心ついてこのかたそのことで苦しみ抜いていると答える。その後寅さんはいつもの通り、縁日でバイをしていた。

 とらやでは博が職安に従業員募集の依頼を出していた。

 寅さんはダムである女性と出会う。彼女が泣いているのを見た寅さんは話を聞くよと声をかけ、町の食堂で彼女の失恋話を聞く。寅さんはバスで旅立つが、女性に柴又のとらやと自分の名前を告げる。バスに乗った寅さんは後ろの乗客に話しかけるが、それは博の父親だった。

 

 寅さんと雲水(大滝秀治)の会話が可笑しい。大滝秀治さんの登場はこの1シーン。大滝さんをワンポイントで使うとはなんと贅沢な映画だろう(笑

 その前のシーンでおいちゃんが腰を痛めた話を入れておいて、ここでは博が職安に行ったことがさらりと明かされる。これが本作のマドンナ登場の布石となっている。

 旅先の女性(泉ピン子)の登場も見逃せない。雲水に女難の相と言われた直後のため、ここで何か起こるのかと思うが、この女性とはあっさり別れてしまい、寅さんは女性に食事をご馳走したため金欠に。それが女難の相だったか、と思わせるが、この後のマドンナとの出会いが女難の相であることは言うまでもない。さらに、この女性は終盤に再登場することとなる。

 

 

 博の父との旅

 博の父と出会った寅さんは、彼の旅行に同行することに。宿で芸者をあげて大騒ぎをし、父親を残し一人芸者たちと街へ繰り出す始末。翌日父親は神社や寺巡りをするが、寅さんはタクシーの中で居眠りをするばかり。

 宿でまた芸者を呼んで騒ごうとする寅さんだったが、父親に断られる。つまらない寅さんは本ばかり読んでいるからと反論するが、父親は今昔物語の中の一つの話をする。その話に共感した寅さんは翌朝、バス代と今昔物語の本を借りるという手紙を残し、一人で去って行く。

 

 冒頭の夢から続いた人の生死に関わる話が、博の父親が語った今昔物語の話で完結する。生きることの無常に気づいた寅さん。本を借りるだけではなく、バス代もちゃっかりと借りているのがちょっと可笑しい。

 

 

 再びとらや 寅さんのアリア マドンナとの出会い

 帝釈天で御前様にとらやの場所を聞く女性。あまりの美貌に源ちゃんがあとをついて行く。その女性、早苗がとらやに来て、職安の紹介でやってきたことを告げる。皆は驚くが、早苗は明日から働くと告げ、帰って行く。タコ社長は早苗の美貌に驚き、工場にいる博に告げに行く。博もとらやへ顔を出すが早苗はすでに帰った後。皆で早苗のことを話し笑っているところへ寅さんが帰ってきて、博の父親と会ったことを話す。

 夜、寅さんは博の父に聞いた今昔物語の話を皆に聞かせ、お開きとする。2Fへ上がる時に寅さんは明日9時に旅に出ると話す。

 翌日。9時に早苗が来るため寅さんと会ってしまうことをおばちゃんが心配する。早苗が9時にやってきたところ、旅に出る準備を整えた寅さんが2Fから降りてきて早苗と出会ってしまう。行きがかり上、旅に出なければいけない寅さんはとらやを出て行く。途中さくらと会った寅さんは仮病を使い、とらやへ戻る。お腹が痛いと騒ぎになり、早苗が救急車を呼んだため、寅さんは救急車で病院へ運ばれる。

 夕方、大したことではないと判明した寅さんがとらやへ戻ってくる。寅さんは誰が救急車を呼んだのかと怒り出すが、早苗が正直に自分が呼んだことを告げると態度を一変させ、救急車に一度乗って見たかったと話す。

 

 寅さんでの定番シーンである、寅さんがとらやでマドンナと出会い、旅に出るのを取りやめるパターン。本作ではそれのみならず、仮病を使った寅さんが救急車で病院へ運ばれる騒動に。救急車を呼ばれたことを怒る寅さん、その後態度を一変させるのがたまらなく可笑しい。

 

 

 早苗の生活

 早苗は姉の家へ帰る。居候していることがうかがえる。

 翌日、おいちゃんとおばちゃんが知り合いの結婚式へ。そのため、とらやは寅さんと早苗二人で店番をすることに。早苗が一人で奮闘しているところへ寅さんが2Fから降りてくる。昼飯中だった早苗は弁当を食べる。寅さんは何かと気を使おうとするが、早苗はそんな寅さんを見て、怖い人かと思ったけど優しいのねと話す。その後早苗が別居中だと知った寅さんは喜んでしまう。博はさくらに早苗の力になってやればと話す。その時博は父親に手紙を書いていた。

 

 寅さんがマドンナが人妻だと知り一度は落ち込むが、夫とは別居中で上手く行きそうもないと知ると喜んでしまう。別居中だと知った瞬間の寅さんの微笑み、しかしその後それを喜んではいけないとしかめっ面を作るのが可笑しい。

 また博が父に手紙を書いているが、これも後のシーンの伏線である。

 

 早苗の離婚 そしてとらやでの夕食

 ある日、早苗がとらやに遅刻する旨の連絡を入れる。彼女は喫茶店で従兄弟の肇と会っていた。肇は早苗の夫から離婚届を預かってきていた。早苗は離婚届に署名捺印をする。二人は役所に離婚届を出しに。役所を出た肇は早苗を食事に誘うとするが、今は一人にしてと言われてしまう。

 とらやではなかなかやってこない早苗を寅さんが待ちわびていた。そこへ早苗がやってきて、離婚届を出してきたことを告げる。寅さんはそれは良かったと話すが、早苗は泣き出してしまい2Fへ。さくらが早苗の元へ行き話を聞く。店では寅さんが早苗のために離婚にまつわる言葉を使わないようにとおいちゃんおばちゃんに注意をしていた。早苗が店に降りてくるが、さくらやタコ社長がそんな言葉を使ってしまい寅さんは不機嫌になる。早苗を気遣う寅さんだったが、そこへ旅先で出会った女性が寅さんを訪ねてやって来る。寅さんは早苗の手前、慌てて女性を連れて外へ出て行く。

 夜、早苗を向けて皆で夕食を取っていた。タコ社長も早苗に謝りに来る。寅さんは明るい話はないかと皆に振るが誰も明るい話ができなかった。そんな中、早苗が手を挙げ、明るい話として、私の人生で寅さんに会ったということと話したため、寅さんは照れてしまう。そして早苗は帰って行くが、見送りに出た寅さんに早苗は、私寅さん好きよ、と言い残し帰って行く。

 

 早苗の離婚を知った寅さんのセリフは残酷。しかも寅さん本人に悪気は全くない。涙を見せた早苗は2Fへ駆け込むが、その後さくらのとりなしもあって店へ。ここでは寅さんが禁句を設定するという定番パターンが披露される。よくあるのは、この後寅さん自身が禁句を連発するパターンだが、本作ではそのタイミングで旅先で知り合った女性が登場、いつものパターンから脱している。

 しかし早苗は気分を害することなくとらやで仕事を始める。そしてその夜、恒例のマドンナを迎えてのとらやでの夕食シーン。離婚したばかりの早苗を気遣い、寅さんは明るい話題を探すが、早苗自身が寅さんと出会ったことだと話し、寅さんは珍しく照れに照れる。そこで語ったセリフがおかしく皆大爆笑となる。

 その後早苗は帰って行くのだが、去り際に「寅さん好きよ」のセリフを残して行く。シリーズでも珍しいマドンナから寅さんへの愛の告白である。

 

 

 博の父再登場、寅さんライバルと出会う

 博の父親がとらやへやって来る。店に誰もいなかったため、客の対応をしようとしたところへさくらが帰って来る。

 寅さんは早苗の引っ越しの手伝いをしていた。そこには肇と彼の生徒たちも手伝いに来ていた。寅さんは肇を運送会社の人間と勘違いし小遣いを渡そうとしたが、早苗に従兄弟だと紹介される。生徒たちは肇がまたフラれるのではと噂していた。

 さくらの家に博の父親がやってきていた。そこへ寅さんから電話があり、博の父に会いに来るとのことだった。博の父は喜ぶ。翌日駅に見送りに来たさくらに父親は博のために土地が買ってあると話す。寅さんから預かった五日の旅行で借りた金をさくらは返そうとするが、父親は受け取らなかった。

 

 先のシーンで博が父親に手紙を書いており、父親がとらやを訪ねてきたのはその結果と思われる。ちなみに「男はつらいよ」シリーズは、シリーズ未見の人間がどの作品から見始めても話がわかるように作られているが、博の父親と博の関係はシリーズを見ていないとわからないと思われる。博は優秀な兄たちと比較されるのが嫌で父親の反対を押し切って東京に出てきている。そのためか、博は自分と父親との関係を良くないと考えており、手紙を書くというのは博にとっては珍しいことなのだ。

 ちなみに、この博の父のシーンと早苗の引っ越しのシーンが挟まれるため、早苗の愛の告白の重みは少し和らいだ状態で終盤へ突入する。ここが山田監督の上手いところ。

 

 

 そして終盤へ

 とらやに肇がやって来る。早苗を待っていたが、配達に出ていた。そこへ寅さんが帰って来る。肇は寅さんに預金通帳を渡し、自分は小樽に行く、早苗のことを大事にしてやってくれと話し立ち去ろうとする。それを聞いた寅さんは肇が早苗に惚れていることに気づく。そこへ早苗が帰って来る。寅さんは肇から預かった通帳を渡し、肇が小樽へ行ってしまうことを伝え、肇は早苗に惚れている、不器用だから言えないんだろうけどと話す。早苗は肇の気持ちをわかっていると寅さんに伝えるが、寅さんは本人にそう言ってあげろよと話し、早く肇のところへ行くようにと伝える。早苗は店を休み肇を追いかけて行く。

 その直後、寅さんは旅に出ることに。さくらに止められ早苗さんに何と伝えればと聞かれるが、寅さんは適当なことを言い旅に行ってしまう。

 正月。小樽の早苗から近況を知らせる手紙がとらやへ届く。寅さんから早苗に宛てた手紙も届いていた。寅さんは旅先の列車で旅先で知り合った女性と同席となる。女性は夫との新婚旅行中だった。

 

 早苗の従兄弟である肇が小樽へ帰ることになり、早苗への気持ちを封じ込め寅さんに早苗のことを託す。それを聞いた寅さんは早苗に肇のことを伝えるが、早苗はその気持ちを知っていたと告白、さらに何かを話し続けようとする早苗を寅さんは遮り、肇を追いかけるように言う。この時の早苗は何を話そうとしたのかを考えるとちょっと切ない気もするが。

 

 シリーズ第22作。マドンナ大原麗子の美貌と寅さんへの愛の告白でシリーズの中でも忘れ難い一本。大原麗子はシリーズ第34作でも2回目のマドンナとして登場しているのは、やはり本作が人気があったためだろう。個人的には本作の前年に公開された「獄門島」のヒロインや、同じ頃に放送されていたサントリーレッドのCMが印象深い。

 

 NHKBSで珍しく男はつらいよシリーズを何本か放送しているが、どうやら同シリーズ公開55周年プロジェクトというものが始まっているらしい。良い機会なので寅さんをもう何本か観ておこうか。

 

遥かなる山の呼び声

●718 遥かなる山の呼び声 1980

 男が一人大自然の中を歩いている。その男が嵐にあい、牧場を営む母と息子の家へ一晩止めて欲しいと頼みに来る。母民子は物置に男を泊める。その夜、牛の出産が始まり、男はそれを手伝う。翌朝男は出て行くが、民子はお礼にと息子武志に持たせてお金を渡す。その際、男は武志の父親が亡くなっていることを知る。

 夏。男はしばらくぶりに民子の家を訪れ、食わせてらもうだけで良いのでこの牧場で働かせて欲しいと頼む。民子は男の態度を怪しみながらも雇うことに。男は以前牧場で働いたことがあるといい、民子の仕事を手伝う。近所の主婦は男が家に来たことを注意するように民子に話す。主婦の娘は武志とともに男に馬に乗せてもらうなど、武志は少しずつ男に懐いていく。ある晩民子は男の名前を武志に聞くように言う。男は田島耕作と名乗る。民子は田島に事情を聞こうとするが、田島は詳しいことは聞かないで欲しいと話す。

 ある日、民子の家に虻田がやってくる。彼は民子に惚れており結婚したいと考えていて様々な差し入れを持って来ていた。虻田は改めて民子に結婚の意思がないかを尋ねるが彼女は断る。虻田は民子に乱暴をしようとするが、民子に拒まれ帰っていく。田島がその場に訪れるが、民子はどうして助けてくれなかったのかと怒る。

 民子の夫の3回忌が行われる。集まった近隣の住民は民子が一人で牧場を続けていることを心配する。虻田がまた差し入れを持ってやってくる。またも結婚の話を出す虻田だったが、民子に断られる。執拗に迫る虻田に民子は悲鳴をあげる。それを聞いた田島がやって来て虻田に水を浴びせかける。虻田は逃げ帰るが、しばらくして兄弟を連れて戻ってくる。ケンカとなるが田島は虻田の弟たちを一蹴する。虻田は謝り手打ちをしようと言い出す。それを武志が見ていた。その夜物置に食事を運んで来た武志は田島の活躍を褒めるが、母に見たことを喋ってしまったことを白状し、田島に叱られる。そこへ虻田兄弟がやって来て、手打ちだと言い酒を飲みに誘うが田島は断る。すると虻田は酒や女を連れ込んで物置で宴会を始める。

 作業をしていた民子が腰を痛め入院することに。留守を預かった田島は武志をともに仕事をこなす。虻田もそれに協力する。見舞いに来た近所の人間に民子は農場を続ける理由を話す。ある夜民子がいないため武志は物置に来て田島と一緒に寝たいと話す。田島は自分の父親が自殺した話を武志にする。

 民子が退院して家に戻ってくる。民子の従兄弟勝男が妻を連れ民子の家にやってくる。夕食時、勝男は民子の民子の女学生時代の話をする。その後民子は夫と駆け落ち同然で田舎を飛び出したが、駅に見送りに来たのは勝男だけだった。翌日勝男は民子は可哀想なんだと言い残し去っていく。

 田島は乗馬が得意で武志や民子を馬に乗せる。駅に田島の兄がやってくる。兄は土産だとコーヒーサイフォンを渡す。教師をしていた兄だったが、田島が起こした事件がきっかけで教師をやめ塾を開いていることを話す。兄は田島にいつまで今の所にいるつもりだと話すと田島はできる限りいたいと思っていると答える。

 その夜コーヒーを入れている田島の元へ民子がやってくる。民子は博多にいたことを話す。田島は仕事が辛くないかと尋ねると民子は仕事を続ける理由を語る。そして田島にいつまでいてくれるのかと問い、田島は奥さん次第だと答える。

 田島は牧場の馬に乗り草競馬に出場、見事優勝する。しかし会場に刑事がきており、田島に声をかける。その後田島と民子、武志は街の祭りを見にいく。民子が田島の服を買いに行くが、その間に田島は刑事たちが自分を見張っているのに気づく。

 その夜、田島は民子にまた旅に出ると話す。理由を問われ、2年前に妻の葬式で暴言を吐いた相手を殺してしまったことを告白する。その夜、牛が病気となる。獣医を呼んで徹夜で治療をしてもらう。民子は田島に本音を伝える。治療のかいがあり牛は持ち直す。

 翌朝民子は武志に田島が出て行くことを伝える。武志は信じられずにいたが、パトカーがきて田島は刑事に連行されて行く。民子は武志にお金を渡し田島に渡させる。

 冬。田島の裁判が行われ懲役刑となる。田島は刑事に列車で護送される。ある駅で停車中、虻田が列車の窓から田島を見つけ声をかける。列車が動き出し田島の乗る車両に民子と虻田がやってくる。虻田は田島に聞こえるように民子の現状を尋ね、民子が牧場を辞め何年の先に帰ってくる夫を待つために中標津の街で働いていると話す。民子は刑事に断って田島にハンカチを渡す。

 

 

 健さんの没後10周年ということでBS松竹東急が健さんの映画を何本か放送していたうちの1本。このブログでまだ取り上げていなかったので鑑賞。

 昨年秋にNHKでリメイク版とその続編が放送されたものを見ていたので新鮮味はないかなと思っていたが、リメイク版はオリジナルとは異なる設定などがあったため、オリジナルの良さを改めて感じることに。NHK版は阿部寛が少し喋りすぎだと感じており、映画もそんなだっけと思っていたが、やはり健さんは寡黙だった(笑 ハナ肇演じる虻田が最初に民子を襲った時、何もしないで怒られた健さんがもどかしい。しかしその後再度同じことが起こった時の健さんは素早かった。虻田3兄弟との対決もあっという間に相手をのしちゃったし。

 健さんが武志に幼少時代のことを語る場面や民子の駆け落ちなど、リメイク版にもあったかしら?改めて観てみるとオリジナルは作りが丁寧だと感じる。健さん演じる田島や倍賞さん演じる民子の人となりをキチンと描いているんだなぁと今更ながら。

 

 本作の見どころは何といってもラストシーン。ハナ肇演じる虻田のわざとらしいセリフが泣かせる。あまりシーンに合っていないBGMが流れるのも今見ると不思議に調和しているように感じるのも不思議。健さん映画の中でも、山田洋次監督作品の中でも一番だと思える、記憶に残るラストシーン。「黄色いハンカチ」にも負けない名ラストシーンだと思うがどうだろうか。

 

 そういえば今回初めて知ったが、武志役の吉岡秀隆さん。本作の出演がきっかけで「男はつらいよ」の満男役に抜擢されたのね。確かに本作でも少年ながら見事な役者ぶり。もともと「シェーン」にインスパイアされて作られた作品らしいが、ラスト前、パトカーに連行されて行く田島を追いかける武志少年の叫びは切なかった。「シェーン」のラストには叶わないかもしれないが、それはこのシーンが映画のラストではなかったためだろう。

 余談だが、初めて観た時はこの別れのシーンの後が続くのが解せなかったが、ラストの列車の中のシーンを見て納得した覚えがある。

 

 もう一つ蛇足。NHK版を見て、このストーリーを4つの季節に区切っていたのが不思議だったが、オリジナルである本作もそういう設定だったのね。春に出会いがあり、夏に健さんが戻ってきて、慣れ親しんだ後に秋の祭り。そして裁判が行われる冬。あぁなるほどね。

 wikiにも4つの季節ごとのあらすじが書かれている。そのwikiにはラスト、民子が田島に渡すハンカチが黄色だと書かれていたので、確認したら確かにその通り。しかし「黄色いハンカチ」ほどの黄色ではなかったことをメモしておこう。 

 

 同じBS松竹東急でその「黄色いハンカチ」も放送された。なぜかこのブログではまだ取り上げていないので、そちらも観ることにしよう。

 

あきない世傳 金と銀13 大海篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀13 大海篇 高田郁

 五鈴屋として吉原での衣装競べに出るが優勝はできず。それでも幸は菊栄と新店舗を開き、力造が吉次のための新色を生み出すなど、商売は順調に伸びる。そんな中、新店舗が二重に売られていたことが発覚、店を閉めることに。以前の木綿の買い占めや店の二重売りなどが音羽屋の仕業だと判明、音羽屋は捕まってしまう。様々な試練を乗り越え、五鈴屋江戸本店は16周年を迎える。

 

 以下の13章からなる。

 

1章 北国春景 1764年

 幸と菊栄 大文字市兵衛に誘われ吉原へ行き、吉原の変化を聞く

 吉原では太夫がいなくなり、客層も変化

 幸 五鈴屋も同じだと思う

2章 新たな時代へ

 元号が変わる

 大阪から鉄助、手代3名、丁稚2名が江戸へやってくる

 今津文次郎から 以前あった綿の買い占めは偽名、伊勢屋吉兵衛によるものと判明

 大吉 手代に

 幸 新店舗を検討、菊栄も新店舗を探し見つかるが大きすぎ 笄が完成

 新たな貨幣である銀貨が発行される

3章 秋立つ

 歌扇の衣装 黒地に5つの白紋染

 お才から田原屋が音羽屋へ恨みを持っていること、音羽屋は若い時に小紋染を考えついていたことを聞く

 幸 砥川と吉原へ 扇屋宗右衛門と花扇と会う。その後歌扇と会うが、彼女は衣装競べへの参加を勘弁して欲しいと話す 幸 歌扇の立場を話す

 幸 結と4年ぶりに再会、今後のことで忠告される

4章 華いくさ

 幸 新店舗を探すが良い物件がなく、菊次から白粉商末広屋を勧められる

 衣装競べを誰かが煽っていると聞く

 長月一日 衣装競べが行われる その場に音羽屋と惣次が同席しているのを見かける

5章 時運

 衣装競べの結果、音羽屋の花扇が1位、歌扇は2位となる

 幸は菊栄と新店舗を分けて使うことに

 菊栄の笄 相撲開幕日に売り出し 銀3匁で

6章 幕開き 1765年

 新店舗の暖簾を力造に頼む

 江戸本店13周年 砥川から音羽屋が吉原で法外な儲けを出していると聞く

 冬 浅草で火事が発生 暖かくするための手段で孫六織子と紋羽織を思い出す

 幸 新店舗に移る前夜 菊栄からお守りとして笄をもらう

 町会で贔屓屋と会う

 新店舗で早速賢輔が穂積家から嫁荷の注文があるかもしれないと話す

 初午 菊栄の店開店 歌扇が菊栄のために歌を歌う

7章 次なる一手

 幸 新店舗呉服町店を井筒屋が探っていると聞く

 力造 吉次のための新しい色に取り組み1年半、まだ気に入ってもらえず

 寄合で相撲双六のおかげで売り上げが伸びたことが報告される、恵比寿屋は下野国のい木綿栽培の現状を話す 幸は紋羽織のことを皆に話し教えてもらう

 幸 砥川の妻が吉原の出だと知る

8章 恋江戸染 1766年

 近江屋が鮒寿司を持ってくる その際佐助が以前小間物屋の娘さよと恋をしていたことを聞く、それが縁談を断る理由らしいと

 穂積家の嫁荷の注文が正式に決まる

 力造が吉次のために作っていた新しい色、王子色が完成する

 如月29日、芝居町で火事

 町会 贔屓屋盆踊りを提案 幸 王子色で揃いの小物を作り売ることを提案

 文月15日 吉次の新たな演目初演 王子色が人気となる

9章 奈落

 寄合で下野国で木綿を白くする技法が見つかったと報告される

 呉服町店が二重売りされていたことが判明 売った末広屋が不正を働いた模様

 名主に買ったもう一方の相手の名前を聞くと、井筒屋保晴だと判明、井筒屋は店を五鈴屋に売るつもりがないとのこと

10章 激浪

 呉服町店を閉めることに

 江戸2カ所で時間をおいて火事発生 幸 逃げる途中に気を失う

11章 一意攻苦

 火事で町がまた元気をなくす、富五郎が五鈴屋へ 以前の支払いだと20両を差し出す

 幸 組合の会所の再建に積み立てておいた100両を出す

 幸 田原町の店全体で一緒にできることを思いつく 菊栄は新店舗を田原町

 寄合 田原町の店を双六にすることを提案

12章 分袂歌

 幸 和三郎に町全体で統一した看板を作ってもらうことに

 音羽屋が謀書謀判で捕まる 幸 惣次に音羽屋が捕まった理由を聞く

 幸 捕まった結の身元引き受け人として迎えに行くが、結は一人去って行く

13章 金と銀

 幸 和泉屋から紋羽織の手法を教えてもらう

 幸 賢輔に助けてもらった礼を言い、賢輔の気持ちを知ることに

 田原町の店を双六に見立てたことが評判となる

 江戸本店16周年 16年前の開店日に店を訪れた母親が娘を連れて店へ

 

 シリーズ13作目にしてシリーズ最終作。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。

 吉原での衣装競べと新店舗の話で終わるかと思ったが、そんな簡単な幸せで終わらせてくれる著者ではなかった(笑 新店舗を菊栄と一緒に始めてそれが上手く行き始めた時には、あぁこれで終わりかと思ったが、その新店舗が二重売りされていることが発覚、しかも家の権利は相手側にあるとされ、五鈴屋と菊栄はともに店を閉めることに。そこから音羽屋が捕まり、結局二重売りも音羽屋が絡んでいたことが判明、そこに惣次も一枚噛んでおり…。

 最終巻となる本作でも、幸は試練を与えられるのであった(笑 幸は江戸本店に力を入れることとし、町会の皆と力を合わせて町全体を盛り上げる工夫をして話は終わる。

 

 何冊か前の感想でも書いたが、著者の「みをつくし」シリーズも終盤バタバタした感じがあったが、本シリーズも同じような結末となってしまった。新店舗の二重売りによるトラブルは本当に必要だったのかしら。このトラブルでシリーズ最終巻であるにもかかわらず、バタバタとして終わってしまった感じが強い。いろいろと汚いことを仕掛けてきた音羽屋が最後に因果応報の報いを受けるのは当然だが、そのための新店舗閉店だとしたら、ちょっとなぁ。

 それ以外にも、賢輔の幸への思いや佐助が縁談を断る理由などこの話をもう少し読みたかったのに、と思う伏線めいたものが多すぎる。紋羽織の件も中途半端だし。力造が編み出した吉次のための王子色を、町会全体の盛り上げと一緒にラストに持ってきてもよかったのではないかと思うんだけどなぁ。

 

 それでもラスト、江戸本店16周年の店先を描いた場面は良かった。6巻の最終章で描かれたあの若い母親がここで再登場してくるとは。あのシーン、金のない若い母親の気持ちがわかるだけに幸たちが何もできず、お待ちしています、と声掛けで終わったのが妙に印象に残っていたが、シリーズ最後にそれを持ってくるとはなぁ。ここは涙せずにはいられなかった。と考えると、新店舗である呉服町店は閉店していないとこのシーンは説得力がないので、やっぱり二重売りのトラブルは必要だったのか(笑

 

 13作あったシリーズも本作で終了。「みをつくし」は食べ物がテーマであったためとっつきやすい話だったが、本シリーズは着物や反物がテーマで男である自分にはちょっと身近とは言えないものだったが、まぁ楽しく読むことができたシリーズだったかな。

 特別編ということで、後日談を語るものが2冊発行されているらしいが、これはまたしばらく時間を開けて読んだほうが良さそうだ。

 

 そう言えば、NHKでドラマ化されたものも全て観たが、あちらも原作にまして話の進み方が早かったように思う。なかなか良いドラマだったと思うが、原作を知らない人は話にちゃんとついていけたのだろうか。ドラマは智蔵と幸が一緒になるところで終わったが、原作からすれば半分も進んでいない状態。シーズン2が製作されるのだろうか。幸役の小芝風花さん、ドラマに引っ張りだこの状態だから、作られるとしてもちょっと先の話になりそう。

 

 

氷菓 米澤穂信

氷菓 米澤穂信

 

 神山高校1年生の折木奉太郎は、姉の勧めもあり、同級生である千反田える福部里志伊原摩耶花たちとともに古典部に入部する。奉太郎は自身の身の回りで起こる不思議な事柄の謎を解いていくが、そんな奉太郎を見たえるが彼にある謎を解いてほしいと頼んでくる。それは古典部にも関わる話であり、文集を作る題材にもなるため、奉太郎は皆とともにその謎解きに挑むことに。

 

 9章からなる連作短編集。

 あらすじはwikiに詳しいため割愛。謎の部分だけを簡単に紹介。

 

2章 部室が一時的に密室となった謎

3章 同じ本を毎週金曜日に借りていく複数の女生徒の謎

4章 えるが昔伯父と会話した内容、その時えるが泣いた理由

5章 壁新聞部遠垣内がその部室である生物講義室を探されるのを拒む理由

6章 32年前の文集に記載された、33年前にえるの伯父関谷に起きた事柄の謎

7章 姉からの手紙で知らされた33年前の真相と奉太郎の推理の食い違い

8章 弓道場で発生した新たな謎 内容は明かされない

 

 

 Amazonのオススメにあった一冊。日常の謎系ということで読むことに。

 高校が舞台であり、入学したばかりの高校生奉太郎が主人公。省エネで動こうとする彼の周りで起きるちょっと不思議な事件。好奇心旺盛なえるがその謎を解いてほしいと奉太郎に頼み、彼は仕方なくその力を発揮するというパターン。

 

 謎がいかにも高校生らしい、本当にちょっとした謎なのがよかった。ただ2章の部室密室の謎はあまりに無理筋だと思い、その先を読むのに躊躇したが、これ以降の謎はなかなか面白かった。後半、謎はえるの伯父に33年前に起きたことに集中していき、それを過去の文集などを手掛かりに推理していく様は高校が舞台であることをうまく生かした設定だと思う。一番の謎に思われたこの謎を奉太郎が解いた後に、ちょっとしたどんでん返しがあるのも上手く、文集のタイトルの意味や文化祭の別の呼び名などが用意されていたのも見事だった。

 

 気軽に読み始めた小説だったが、なかなか凝った仕上がりで驚いたが、アニメ化や映画化もされているようでさもありなん、といったところか。

 本作はシリーズ化されているようで、続編もちょっと読んでみようと思う。

 

博士の異常な愛情 1964

●717 博士の異常な愛情

 西側諸国高官の間で1年前からソ連で最終兵器絶滅装置が作られているとの噂があった。

 アメリカ空軍基地のマンドレイク大佐は上官であるリッパー将軍からR作戦実施を命じられる。その作戦は滞空警戒中のB52部隊によるソ連への核兵器攻撃だった。作戦と同時にマクドレイクは私物のラジオを回収、基地の封鎖も命じられる。

 命令を受けたB52のコング少佐は命令を信じられず基地へ確認を取るがやはり命令は間違っていなかった。そのため妨害を受けないように作戦通り通信を切断する。その頃ダージドソン将軍はR作戦命令が出たことを知らされペンタゴンへ急行する。

 マンドレイクは基地内で偶然ラジオを聞き、国内に危機が迫っていないことを確認。それをリッパーに伝え命令の中止を訴えるが、リッパーは命令は自分の考えで出したことを伝える。

 ペンタゴンではダージドソンが大統領に事情を説明、命令解除のための暗号も不明だと伝える。大統領は駐米ソ連大使をペンタゴンに呼び、ソ連首相に電話をし事情を説明、B52を追撃するように依頼する。しかし大使は攻撃された場合、絶滅装置が発動すると話す。

 その頃軍の指示で基地は攻撃されるが、封鎖状態にあった基地側の兵士も応戦していた。マンドレイクはリッパーから話を聞き、軍への反撃に加担することに。

 ペンタゴンでは大統領がストレンジラブ博士に絶滅装置について話を聞いていた。

 基地では攻撃が激しくなり、兵士たちが投降、それを見たリッパーは絶望し自殺してしまう。

 その頃コング少佐のB52はソ連軍の攻撃を受け、通信機器が故障、燃料タンクからも燃料漏れが発生する事態に陥っていた。

 軍の兵士たちが基地内へ入ってきてマンドレイクを発見、連行しようとするが、話を聞いたマンドレイクは大統領に事情を説明するため電話をしようとする。マンドレイクはリッパーだけが知る攻撃命令解除の暗号を突き止めていたのだった。

  マンドレイクの電話で、攻撃命令が解除される。安心したペンタゴンソ連へ連絡。全34機のB52中、30機が帰還、4機が撃墜されたと考えていたが、撃墜されたのは3機だけだった。コング少佐のB52だけが通信を受けることができず、攻撃を続行していた。大統領はソ連首相にB52の攻撃目標を伝え、撃墜を依頼する。しかしコング少佐のB52は燃料不足から攻撃目標を近場の基地へ変更していた。

 コング少佐のB52攻撃目標に到達するが、爆弾投下のためのハッチが故障で開かなかった。少佐は手動でハッチを開くが、爆弾とともに投下され、爆弾が炸裂する。

 ペンタゴンでは絶滅装置が作動したことを受け、ストレンジラブ博士が人類が生き延びるための手段を説明していた。それに対しダージドソンも熱弁をふるい始める。

 核爆発の映像とともにWe'll meet againが流れ映画は終わる。

 

  これも子供の頃からタイトルだけは知っていたが初見。

 核抑止力の元の冷戦状態の米ソを描いた作品だが、コメディとして描かれている。登場する政治家や軍のトップは皆どこかおかしい。事件の引き金を引く将軍は、今で言う陰謀論者だし、一見真面目そうな大統領はソ連首相を子供のような言い合いをするし、軍のトップの将軍は女好きの激情型だし。

 トップ下の人間がまともなのもある意味皮肉なのだろう。マンドレイクはいち早くリッパーの異常さに気づき攻撃命令を止めようとするし、B52パオロットの少佐も命令が間違いではないかと基地に確認を取ろうとするし。ただこの少佐、最後は爆弾にまたがって西部劇のカウボーイみたいになってしまっていたが(笑 ラストのペンタゴンでの言い合いも全く現状を理解していないトップらしさが出ていてブラックコメディのラストにふさわしい。

 

 アメリカ映画のスゴさはこのような作品を冷戦時代にコメディとして作ることができることだと思う。それともキューブリックがスゴイのか。彼の監督作品を観たいなぁ。