英国王のスピーチ

●543 英国王のスピーチ 2010

 1925年、大英帝国博覧会の閉会式でアルバート王子は、父の代理として演説を行うが吃音症のため上手く話せなかった。王子の妻はアルバートをローグの元へ連れて行き、治療を受けさせる。しかしローグの態度に怒ったアルバートは怒って退席してしまう。ローグは仕方なく録音した王子の声のレコードを手渡す。

 王子は父から兄の生活の乱れを指摘され、王子自身がしっかりとするようにと叱責される。王子はローグからもらったレコードで自分の声を聞き、再度ローグの診察を受けることに。診察と訓練を受けることで王子はローグを信頼し始めるが、ローグはアルバートの兄のことを知り、アルバートこそ国王になるべきだと話すが、それを聞いたアルバートは激怒、再びローグの元を去ってしまう。

 父ジョージ5世が亡くなってしまい、兄が国王の座につく。しかし兄は離婚歴のある女性と恋しており、結婚を望むが、政治家たちからの反対を受ける。兄は女性との結婚のため国王の座を退き、弟であるアルバートに国王の座を譲る。戴冠式を前にローグは医者ではないことがバレてしまうが、アルバートが彼をかばう。

 英国はドイツとの戦争状態に突入する。国民に向けラジオで演説をしなければいけなくなったアルバートはローグとともに演説の場所へ向かう。そして演説を成功させる。

 

 冒頭のシーン、主人公がスピーチを失敗する。そして映画タイトル。この二つから映画全体の展開は読めてしまう。それでも約2時間の映画は楽しく観ることができた。

 主人公のスピーチに関する訓練もあったが、それよりは主人公がローグに自分自身の気持ちや生い立ちなどを吐露する場面に説得力があり、そちらの方が見せ場となっている。

 日本人の自分としては、皇族、しかも国王となるべき人間が、自身の愛のためにその座を降りてしまうということが驚きだったが、イギリスではそれも受け入れられているようなのがもっと驚き。日本ではこうはいかないだろう。

 さらに、先日亡くなったエリザベス女王の幼少期が描かれているのも、なんという偶然か。様々な意味で、イギリスの秘密を知った気になれる一本だった。

 

スラムドッグ$ミリオネア

●542 スラムドッグ$ミリオネア 2008

 ジャマールはTVクイズ番組ミリオネアで1000万ルピーの賞金をもらう権利を得たが、不正の疑いで警察に連行され取り調べを受ける。取り調べに対し、ジャマールはスラム街で育った環境を話し始める。

 スラムで兄サリームと育ったジャマールは宗教対立から母親を殺されてしまい、兄弟で逃げる。その時女の子ラティカと一緒になる。3人はママンという男に連れられ、食事や住む場所を与えられる。そこには多くの同じような子供達がいた。ママンは彼らに物乞いをさせ稼いでいた。

 ある日物乞いでより稼ぐために子供の目を潰すことを知ったサリームは、次にジャマールの目が潰されてしまうため、3人で逃げ出す。しかし逃亡の途中でラティカは逃げ遅れ、兄弟だけで列車に乗って逃げる。

 列車や着いた先のタージマハルなどで、兄弟は盗みや詐欺などをしながら生活していく。しかしラティカのことが忘れられないジャマールは兄を説得しムンバイに戻ることに。そこでママンの元にいた少年に出会い、ラティカの居場所を聞き出す。ラティカのいる場所へ行った兄弟はママンに見つかってしまうが、サリームがママンを射殺して逃げる。ホテルに逃げ込んだ3人だったが、サリームはラティカを独占、ジャマールを追い出してしまう。

 ジャマールはバイト先で偶然サリームの電話番号を知り連絡、久しぶりに再会することに。サリームのあとをつけたジャマールはラティカとも再会を果たすが、ラティカはサリームが所属する組織のボス、ジャヴェドの女になっていた。ジャマールはラティカに駅で待つと言い残し屋敷から去り、駅でラティカを待つ。ラティカが駅にやってくるが、サリームに連れ戻されてしまう。ジャマールは屋敷でミリオネアを見ていたラティカのために、番組に出場することに。

 ジャマールは1000万の問題の答えがわからなかった。しかし司会者とトイレで会い、彼が答えBを書き残していく。番組に戻ったジャマールはDと答えて正解する。ここで番組は終了、最終問題は翌日に持ち越されることになるが、自分が与えた間違った答えを答えなかった司会者は激怒し、警察にジャマールを売り飛ばす。

 ジャマールは取り調べた警官に無実だと判断され釈放される。国中が見守る中、ジャマールは番組で最終問題に挑戦する。その頃屋敷に連れ戻されたラティカは、サリームの助けで屋敷から逃げる。ジャマールはヒントであるテレフォンを使い、兄サリームの携帯に電話するが、それに出たのはラティカだった。ジャマールは最終問題に正解し、2000万ルピーの賞金を手にする。そして駅でラティカを待ち、やってきたラティカと再会を果たす。

 

 これは設定を考えた時点で勝ちの映画。ミリオネアという番組の特性とスラム街で貧しく育った少年の経験を結びつけたのは見事としか言いようがない。

 加えてその表現方法が、現在と過去を行ったり来たりする、というのも良かった。途中、フラッシュバックで若い女性が見上げるシーンが入っていたが、それが誰なのか、どんな場面なのかが後半わかるのも良い。

 ご都合主義な展開(最後にサリームが命をかけてラティカを逃したり、ママンの元にいた少年と偶然出会ったり)がないわけではないが、このストーリーならば仕方ないだろう。ラストが三銃士の問題というのもニヤリとさせられた。確かに冒頭の場面で、3人目の名前は出ていなかったし。最終問題を間違えるというのアリかと思ったが、ここまできたら、正解するしかないしかないだろう。それでなくては、カタルシスにならないし(笑

 インド映画かと思っていたが、そうではないのね。それでもラストは踊る(笑 インド映画へのオマージュなのかね。

 

弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配編2 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配編2 喜多みどり

 夫婦となったユウと千春はくま弁を営んでいた。会社を退職した雪緒がくま弁を訪れバイト募集の紙を見て応募、宅配を主に受け持つことになる。新たにくま弁の一員となった雪緒がくま弁で働く姿を描く短編集、シリーズ第8作、新シリーズ2作目。以下の4編からなる。

 

 

「花園の初夏ボルシチ弁当」

 雪緒の弟薫が家に泊めてくれと家にやってくる。しばらく何も言わず様子を見ていた雪緒だったが、弟のバイト先である叔父栗須から連絡があり、事情が判明する。雪緒は店の常連土田若菜に相談、薫と話すと彼は雪緒の仕事ぶりが見てみたいと言い出す。薫を連れ宅配の仕事をする雪緒だったが、ミスばかりしてしまう。そして叔父の家に一緒に行くことになるが…。

 

「三人寄れば非オープンサンドイッチ」

 店でユウから千春が元気がないと聞いた雪緒は、配達の途中家に様子を見に行く。そこには帰省していた茜が千春とともにいた。千春が元気をなくした理由を聞いた雪緒と茜は千春にユウへの手紙を書くことをアドバイスする。

 

「モアイ像とおはぎ」

 雪緒は店への電話に出る。その客、常連の木村菊彦のオーダーは、おはぎをお墓に届け幽霊に渡して欲しいというものだった。千春とも相談し、雪緒はお墓へおはぎを届けに行くが、そこにいたのは女性だった。彼女はお墓に眠る草野芽衣子の娘だった。雪緒は芽衣子から事情を聞く。それは木村の幼少の頃にまつわる話だった。

 

「まだ見ぬ未来の日替わり弁当」

 雪緒は前の会社を辞める原因となった部下猪笹美月のことを思い出していた。そんな時店にその美月から連絡が入り、1年ぶりに会話をすることになる。美月は自分が原因で雪緒が会社を辞めたと思っており、迷惑をかけたことを後悔していた。今の仕事にやりがいを感じ始めている雪緒は美月に弁当を届けることに。その弁当を食べた美月は、自分が雪緒のことを勘違いしていたことに気づく。

 

 新シリーズの2作目。前作がくま弁で働き始めた雪緒が店での仕事を続けるまでの過程を描いたものだとすれば、本作は仕事に慣れ始めた雪緒が自信をつけ始める物語。

 1話目で、雪緒の手紙に対する思い出が明かされ、2話目ではその「手紙」を千春に書くように勧める。雪緒の人となりや過程環境がわかるエピソード。一転して3話目はちょっと不気味なスタートだったが、常連客木村の幼少の頃の不幸なエピソードが語られる。4話目は、前作でも語られた、雪緒が前の会社を辞めた原因となった部下、美月が登場する。お互いが会社を辞めた後、連絡が取れていなかった二人の再会、お互いの相手への思いが行き違いを起こしていることが判明、雪緒は美月の思いを変えようとするが…という話。

 前作は茜との関わり〜仕事への思い、がテーマだったが、本作は、人の過去が現在に与えている影響、がテーマか。扱われているエピソードは「手紙」「おはぎ」「仕事を辞める」など様々だが、過去の出来事が今の自分に影響していることは間違いない。

 4話目で黒川が10年での変化について語るシーンがある。仕事をし始めたばかりの若い人は自分の変化に気づかないだろうが、オジサンが振り返れば、若い時の10年は相当に自分が変化、成長していたことに気づくことができる。新シリーズで登場の機会は少なくなったが、さすが黒川さんといったところか(笑

 

 さりげなく、前作で登場した雉村さんが登場したり、千春とユウの夫婦の話題も取り込むなど、シリーズも充実してきたように感じる。次の作品を読むのも楽しみ。

 

愛と追憶の日々

●541 愛と追憶の日々 1983

 エマは母オーロラの過剰な愛を受け育つ。幼い頃に父を亡くしてからは二人暮らし。成長したエマは大学講師のフラップと結婚しようとするが、オーロラは猛反対。それでも二人は結婚。エマはオーロラと毎朝電話で連絡を取り合う。

 エマは幸せに暮らし子供も授かる。二人目の妊娠中にフラップが助教授になることとなり、街から引っ越し。母や友人から離れて暮らすことに。オーロラは、隣家の宇宙飛行士ギャレットとの仲を深め始める。

 子供も生まれ新しい生活が始まるが、フラップは仕事が忙しいという理由で家に帰ってこなくなる。金の工面にも困り始め、不満を募らせるエマはフラップと口論となる。3人目の妊娠中、エマはスーパーでの買い物で支払いの額を持ち合わせず、店員と口論となる。融資の件で知り合っていた銀行員サムがエマを助け、二人は不倫の仲となってしまう。その頃、フラップは学科長になる話が出る。しかしそれには引っ越しが必要で、サムと別れたくないエマは反対する。

 ある日家にフラップがいないため、大学に行ったエマはフラップが女学生と親密にしている場面を目撃、子供を連れて実家に帰ることに。オーロラは喜ぶが、フラップが迎えに来てエマは帰って行く。その時、ギャレットがオーロラに別れを告げにくる。

 フラップの新しい勤め先である大学へ3人目の子供を連れて訪れたエマだったが、そこであの女学生を目撃、フラップが新しい学校へ転職した理由が彼女であったことに気づく。その帰り道、子供と共に予防接種を受けたエマにシコリが見つかり、検査の結果悪性の腫瘍だと判明する。

 友人の誘いでNYへ行ったエマだったが、気分は冴えなかった。治療を続けるが効果はなく、エマの最期が近づく。エマにつきそうオーロラの前にギャレットが現れ彼女を励ます。フラップはエマと話し合い、子供達をオーロラに預けることに同意する。

 エマは息子たちに最後の話をし、息を引き取る。実家で行われた葬式に関係者が集まる。ギャレットはエマの息子を自宅のプールに誘う。

 

 見始めてすぐに、これは母と娘の物語だと感じた。母と娘のあまりに深い関係、男である自分には完全理解は難しいが、周りでそのような組み合わせを見てきたので、決して映画の中だけの話だとは思わない。父と息子ではありえない関係性を彼女たちは築き上げる。

 しかし観終わってあらすじを書いてみると、母娘の話であると同時に本作はエマの一生を描いた話だったのだと気づいた。つまり映画の中では30年ぐらいの時が流れている。これがわかると、子供の成長を映し出すことで、時が一気に経過したシーンが何度かあった理由もわかる。

 その一生を母の過剰な愛情を受けた娘の物語、そして彼女を見守った母親の物語。

 途中、母親の恋愛話も出てくるが、これはラスト、娘を失った母親を救済するためにギャレットがいるためだけのもののようにも見える。しかし、ニコルソンとマクレーンの老年の愛を描いたのも、この映画が名作となった理由の一つかも。

 親目線から言えば、ラスト、病室で息子に語りかけるエマの言葉が心に刺さる。まだまだ幼い息子を残して死を迎えなければいけない母親の本心がむき出しで迫ってくる。

 

 アカデミー賞を多数受賞している理由がよくわかる名作。

 

 

善鬼の面 大江戸定年組 風野真知雄

●善鬼の面 大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第6作。町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の5編からなる。

 

「善鬼の面」

 小間物屋であるしまがら屋の与左衛門が初秋亭に相談に来る。与左衛門の兄与一郎は、初秋亭3人の幼馴染だった。与左衛門の息子三之助が面を被って街を歩いているという。藤村たちは三之助の後をつける。彼の被っている面が有名な面師、猿沢月斎の作であることがわかる。三之助は猿沢が誘拐されたことを怒り面を被っていたのだった。藤村たちは猿沢を誘拐した豪商の家に行くが…。

 

「幽霊の得」

 居酒屋海の牙で飲んでいた藤村たちは幽霊駕籠の噂を聞く。客を乗せるが具合が悪いとすぐに降ろされてしまう。そばにある駕籠屋を紹介してもらいその店に行くと、それは去年死んだヤツだと言われる、という話。ある宴席に出た仁左衛門が帰りにその幽霊駕籠に出くわす。仁左衛門たちは幽霊駕籠について調べ始めるが真相はわからなかった。藤村の息子康四郎は芸者の小助と付き合っていたが、小助に幽霊駕籠の話をした際、小助の話から真相を見抜く。

 

「迷信の種」

 初秋亭に矢野が夏木を訪ねてくる。彼は以前夏木の元で働いていた男だった。矢野は隠居した桑江が、毎日お浜御殿に通ってくることを相談しに来たのだった。夏来は桑江に会い話をする。桑江は悪い花の種を御殿に蒔いたのだが、詳しいことは忘れてしまい、そのことが気になっていた。夏木と酒を飲んだ桑江はそれが黄色の姫百合だと思い出す。夏木は姫百合のことを調べ、桑江が以前出世争いのため、姫百合の迷信を作り上げていたことを知る。

 

「水辺の眼」

 仁左衛門が留守を頼めれていた家に寿司屋の三八が来て、釣りをしている横で、餌もつけずに釣りをしている男を何とかして欲しいと頼む。夏木と仁左衛門は釣り場に行き男を観察し続ける。ある時夏木が男が何をしているのかに気づく。

 仁左衛門は息子の嫁おちさが作った匂い袋を油壺屋に納めに行くのに同行。そこであの男と出会い、真相を確かめることになる。

 

「創痍の鮫」

 初秋亭の3人は銭湯で名医、幸渦堂の噂を聞く。寿庵の側で開業しているというその医者のことで老人たちが口喧嘩となり、3人は幸渦堂の元へ。藤村が診察してもらい、確かに調子が良くなり、処方箋をもらう。治療費は安かったが、薬代は高価だった。夏木がその薬を調べ普通の飲み薬だと発覚する。幸渦堂のせいで、寿庵が引越しをすることに。藤村は鮫蔵のことをみてくれと頼み、寿庵は最後に鮫蔵を診にくるが、家人が戻ると慌てて帰ってしまう。康四郎は幸渦堂が昔詐欺を働いた男であることを突き止め、お縄にする。

 

 前作終わりで鮫蔵が死んだと思っていた。ところがどっこい(笑 本作1話目で、鮫蔵が寺の坊主助けられ行きていることが判明する。しかしそこで描かれる姿は以前の鮫蔵のものではなく、記憶喪失のような状態だった。

 メインとなる事件は、「仮面をかぶって街を歩く若者」「幽霊駕籠の謎」「隠居した男が忘れてしまった後悔」「餌をつけずに釣りをする男」「名医と呼ばれた男の謎」。前作同様、「日常の謎系」でありつつ、いかにも江戸時代に合った話となっており、話の安定感が増したように思う。

 しかし本作は(おかしな表現だが)サブエピソードの方が中心。前作終わりで行方不明となっていた鮫蔵、生存は読者に示されるが、藤村は初秋亭の調査から外れ一人鮫蔵を探し続ける。なんとか同心時代の勘で鮫蔵を見つけるが、鮫蔵は記憶をなくしていた。

 そのげむげむ、かな女がやはりげむげむを信仰しているらしいことも明かされ、前作終わりで鮫蔵が呟いた「あの男が、」というその男の正体も寿庵らしいと明かされる。その寿庵の娘おようの話が明らかにされ、本作は終了。

 もう一つ。本当の意味でのサブエピソード。前作で藤村の息子康四郎が、前に夏木と付き合っていて袖にされた芸者の小助と付き合い始め、結婚まで考えるが、その相談に夏木に会いに行く。小助は夏木の顔を見て、康四郎と別れる決心をするが、この場面の後での初秋亭での夏木の表情がなんとも言えずに良い。本シリーズで最高の見せ場かもしれない。

 さて、げむげむの話もクライマックスを迎えそう。次回作でいよいよ決着がつくか。

 

 

 

金閣寺は燃えているか? 文豪たちの怪しい宴 鯨統一郎

金閣寺は燃えているか? 文豪たちの怪しい宴 鯨統一郎

 バー「スリーバレー」で繰り広げられる3人の文学談義。常連宮田、文学部教授の曽根原、バーテンダーのミサキ。宮田は、奇想天外な解釈をし始め、曽根原はそれをバカにするが、いつのまにか宮田の話に聞き入ることになる。シリーズ第2作。以下の4編からなる短編集。

 

 宮田による各話の解釈は、

川端康成ー雪国にかける橋」〜「雪国」は怪談、葉子は幽霊

田山花袋ー欲望という名の蒲団」〜「蒲団」はラノベの原点

梶井基次郎ー時計じかけのレモン」〜「檸檬檸檬と書店はは梶井と文壇との関係

三島由紀夫金閣寺は燃えているか?」〜金閣寺は権力の象徴、三島は「金閣寺」完成のために自死

 

 前作に引き続き、第2作を読んだ。前作でも書いたが、歴史から文学へとテーマが変わったことで、驚嘆することはなくなってしまった。著者も限界を感じたのかと思ったのが、2話目の「〜蒲団」。話はいつの間にか、有名作品のラノベ風タイトル作りになっている(笑 

 しかし3話目の「〜檸檬」は、打って変わって、梶井と「檸檬」の関係を、その小説の中に見出している。短い文章のため、3話を読んだ直後に、「檸檬」を読んでみたが、著者の思惑通りにしか読めなくなっていた(笑 かと思うと、4話目の三島の話はさすがに無理筋で攻めている。

 しかし最終話である4話目の冒頭で、「スリーバレー」に美女が登場する(正確には、美女が曽根原の入店と同時に出ていく)が、これは当然「あの人」のことだよね?次回作の前振りだと思い、楽しみに待つことにしよう。

 

三屋清左衛門残日録 完結編

●三屋清左衛門残日録 完結篇 2017

 BSフジで放送された時代劇。北大路欣也主演。原作は藤沢周平の同名の短編集。シリーズ化されており、2021年までに5本が放送されている。

 

藤沢周平の原作

 

 

あらすじ(赤字はカッコ内の原作の話にはない部分)

 

(第7話 平八の汗)

 清左衛門は道場で若い土橋と試合稽古を行う。稽古が終わり土橋は清左衛門の若さを褒め称える。

(第5話 梅雨ぐもり)

 また清左衛門は道場で少年たちを教えるようになっていた。

(第10話 草いきれ

 涌井で熊太と飲んでいた清左衛門は、遠藤派の集まりに朝田派の間者が入ったと聞くが、それが誰かはわからないとのことだった。

(第7話 平八の汗)

 涌井から戻った清左衛門は里江から、昼間客があり、それが大塚平八だとわかる。

 後日、涌井で清左衛門は平八と会う。平八は親父の一件のことを聞きたいので、ご家老を紹介して欲しいと頼み、清左衛門は間島家老を紹介する。しばらくして、家に又四郎が帰った時に、平八からの贈り物があるのを見て、やはりと呟く。

(第3話 零落)

 ある雨の日、外出していた清左衛門はある屋敷の門前で雨宿りをする。するとその家の者が声をかけて来る。それは金井奥之助だった。清左衛門は金井の家で茶をご馳走になる。

(第7話 平八の汗)

 屋敷に帰った清左衛門は、又四郎から、平八の息子がしくじりをしたが、間島家老の口利きで大事に至らずに済んだこと、清左衛門の元用人という肩書きは伊達ではないのでご用心をと言われる。

(第3話 零落)

 奥之助が清左衛門の家へやってくる。酒を飲んで過去のことを愚痴る奥之助。遠藤派の集まりに朝田派の間者は自分の息子であり、息子からも相手にされていないことを告白する。里江は奥之助のことで清左衛門を心配する。清左衛門は奥之助に釣りに誘われたと話すと、里江は辞めたほうが良いと止めるが、後日清左衛門は奥之助とともに釣りに行く。そこで、奥之助は清左衛門を海に突き落とそうとし、自分が海に落ちてしまう。驚いた清左衛門は奥之助を助けるが、自分のしたことを後悔した奥之助はもう2度と会わない、一人で帰ってくれと清左衛門に話す。

(第13話 立会人)

 清左衛門は平八を見舞う。そこで平八から過日のことを謝罪される。

(第9話 ならず者)

 清左衛門は涌井で熊太と飲んでいた。その時店でみさの昔の男が騒ぎを起こす。清左衛門が男を懲らしめる。その後涌井で清左衛門はみさと酒を飲んでいた。みさが昔を語り始める。

(第10話 草いきれ

 清左衛門は風邪をひき寝込んでしまう。やっと治ってきた清左衛門は道場へ。

(第15話 早春の光)

 道場で清左衛門は奥之助が死んだことを聞く。そして奥之助の葬式の参列を見送ろうとするが、奥之助の息子から非難を受けてしまう。

(第13話 夢)

 その帰り道、清左衛門は雪の中を彷徨い、なんとか涌井にたどり着く。どてらを着せられ、みさに熱い酒をふるまってもらいなんとか人心地つける。みさの昔話を聞いたその夜、清左衛門は涌井に泊まることに。深夜みさが清左衛門の布団に入ってくる。

(?)

 その頃、江戸では黒田がある屋敷の戸を叩いていた。

(第14話 闇の談合)

 城下に石見守に異変があったという知らせが入る。道場にいた清左衛門は、平松から石見守が毒死されたと聞く。家に現用人の船越が清左衛門を訪ねてくる。船越はすでに朝田家老が石見守を毒殺した証拠を掴んでおり、殿の命令で、明日朝田に伝えに行くのに清左衛門を同行して欲しいと頼みに来たのだった。翌日清左衛門は船越に同行、朝田の屋敷を訪れ処分を伝える。その帰り道、黒田が清左衛門たちを送ると言い出す。そして帰り道の途中、黒田が船越を襲おうとするが、平松が駆けつけ、黒田を倒す。

(第15話 早春の光)

 朝田への処分が下る。熊太が家に来て、城内の風通しが良くなったと話す。途中、熊太は涌井に最近行っているのかと清左衛門に尋ねる。清左衛門は涌井を訪ねる。その帰り、みさが清左衛門を送るためについてくる。そして故郷へ帰ると話し出す。

 清左衛門は平八の家の前を通りかかる。すると庭で平八が歩く習練を始めていた。清左衛門は家に帰り、里江と話をし、釣竿を出してくれと頼む。

 

まとめ

 前作にも書いたように、前作は原作の4話6話11話の3作品のエピソードが使用されていたが、本作は上記の通り、3話7話9話13話14話15話の6作品と、多くのエピソードが使われている(さらに言えば5話10話の一部のエピソードも)。

 多くのエピソードが使用された理由は、本作のサブタイトルが「完結篇」と名付けられたため、最後だと思ったのか?原作の未使用のエピソードをふんだんに取り込もうとしたからだろう。大塚平八、金井奥之助、みさの昔の男の3エピソードまでで、放送時間の半分ほど。残りの半分はみさとの話、そして派閥争いの決着。

 

 随分とバタバタのようにも思えるが、本作の巧妙なところは、話の組み合わせか。平八と奥之助の話をクロスして描くことで、若い頃の知り合いの変化を絶妙に描いている。また、清左衛門の風邪と奥之助の死によるショックから第13話「夢」へ繋げるテクニックは原作を知っているものからしても見事だった。原作よりも、失意の中涌井にたどり着く清左衛門、という姿が自然に見える。

 

 前作のまとめでも書いたが、もともと原作の中で語られるのは、

(1)藩の派閥争い

(2)息子の嫁里江との関係

(3)涌井の女将みさとの仲

(4)清左衛門の若い頃の友人たちとの話

(5)清左衛門に持ち込まれる難事の解決、など。

 本作では、多くのエピソードを使用した結果、(1)から(4)が描かれており、前作に比べると、原作のイメージをそのまま映像化するのに成功している。

 

 しかしご存知のように、この北大路版「清左衛門」はこの後もシリーズ化されることになった。原作のエピソードを多く使ってしまったが、次の作品でどのようにしていくのか、そこも一つの楽しみである。