●まやかし 小杉健治
南町奉行所の風列廻り与力青柳剣一郎が事件を解決していくシリーズ物。
青痣
突然の雨に見舞われた剣一郎は、街中で立っていた佐兵衛とおつねの夫婦に雨宿りしていくよう言われる。2人は孫が江戸に来るのを待っていた。2人の娘おとよは10年前、伊太郎という男と駆け落ちをしたが、先月おとよが死亡した、孫のおみつを江戸に連れていくので、預かってほしいと伊太郎から知らせがあったとのことだった。
菅沼市之進は許嫁の玉枝が親友の本宮で出来ていたのを知り、赤穂藩から出奔。主人の松右衛門を助けた縁で今は駿府の質屋松屋で世話になっていた。道場めぐりをしていた市之進を見た松右衛門は、江戸の知り合いの道場を紹介する手紙を書き、市之進に江戸へ行く事を勧める。江戸に向かった市之進は、道中幼い娘を連れた男に何度も出くわす。
夜、左門が剣一郎を訪ねてきて、新見の亡骸が小塚原からなくなっていると告げる。翌朝剣一郎は小塚原へ。新見の最期を思い出す。新見の片腕を斬ったが、女が出てきたため、剣一郎は新見にトドメをさしていなかった。
奉行所に戻った剣一郎は宇野から、市中取締諸色調掛の岡部の家が豪華な造りである事、それでは仕事柄変な疑いがかけられる事を告げられ、岡部に忠告するよう頼まれる。剣一郎は、岡部の屋敷へ行き、忠告をするが、彼は聞く耳を持たなかった。
市之進は道中や江戸で、顔に青痣があることから、剣一郎と間違えられる。やっと紹介された道場へたどり着くが、道場主はすでに死亡していた。市之進は彼の妻に頼み、道場で一泊する事を許してもらう。
剣一郎は京之進に、片腕のない人間を治療した医者がいないかを調べてもらうことに。街で佐兵衛と会った剣一郎は、孫娘が江戸に到着した事を聞く。それを伊太郎が聞いており、剣一郎のことを佐兵衛に尋ねる。伊太郎は旅で見かけた市之進が道場にいることを知っていた。伊太郎は盗賊伊勢の駒蔵一味の仲間で、江戸で盗みをしようとしていた。彼は市之進を剣一郎に化けさせ、店を襲うことを思いつき、仲間の助八と市之進を道場へ誘いに行くが、市之進は病だったため医者を呼美、隠れ家に市之進を連れて行くことに。伊太郎は娘を佐兵衛に預け、一味の元へ戻る。
押込み
剣一郎は佐兵衛の家を訪ねる。おみつは剣一郎の顔のあざのことを尋ねる。帰り道、剣一郎は若い武士が佐兵衛の家のそばにいるのを目撃、それは4度目だった。
市之進は伊太郎に看病され回復、出かける。街でただ食いを咎められた浪人を助ける。浪人は藩を出奔したと語る。市之進は彼に1両を渡し別れる。家に戻った市之進は金を稼ぎ道場を開けば良いと伊太郎に言われ、彼らの手伝いをすることに。
剣一郎は宇野から、岡部が吉原の遊女を身請けする話を長谷川が知ったと聞かされる。岡部の妻と話した多恵は、岡部が妾を家に入れることに怒り、妻が散財をし岡部家を破滅させようとしていると話す。翌日、剣一郎は岡部に妾を家に入れぬよう忠告をするが、岡部は外で囲えば蒲原と同じことになる、子供のいない気持ちは剣一郎にはわかるまいと答える。
市之進は浪人の長屋を訪ねるが、自害していた。その帰り、武士に絡まれ斬ってしまう。家に帰った市之進は、一味の親分伊勢の駒蔵に引き合わされ、青痣同心の偽物になるよう頼まれる。市之進は青座同心剣一郎を見に行くことに。
剣一郎は宇野から言われ、岡部が身請けするという遊女に会う。おちせという遊女は弥助という男のことを話す。剣一郎は弥助にも会いに行き、2人の気持ちを確かめる。剣一郎は岡部に弥助を会わせ、おちせと一緒にさせてやればどうかと話す。
市之進は伊太郎たちとともに若狭屋に押し入る。伊太郎は顔を見られた手代を殺してしまう。
火事場頭巾の侍
京之進は若狭屋の事件を調べる。そこへ火盗改の坂上がきて、錠前殺しの富蔵を追っている、13年前江戸で暴れていた一味だと話す。今回の手口も彼らと同じで、錠前に傷が残されていた。しかし店に入る手口が不明だった。
剣一郎は宇野から、明日長谷川とともに岡部に会いにいってくれと頼まれる。宇野は将来剣一郎に年番方与力になって欲しいと理由を話す。岡部は長谷川に、おちせを身請けし許嫁の男と一緒にさせてやりたいと話す。
京之進は若狭屋の奉公人たちのことを調べるが、火盗改が彼らを捕まえてしまう。しかし今度は木曽屋が襲われる。京之進は錠前殺しの富蔵のことを調べ、13年前の事件を知る作田からも話を聞く。しかし年寄同心吉井に呼ばれ、一連の事件を火盗改が扱うことになったと言われる。
仏具問屋寺本が一味に襲われる。丁稚磯吉は厠に起きた際、事件を目撃。火事場頭巾をかぶった武士が潜り戸を開けさせていた。翌朝殺された番頭が発見される。火盗改が調べにくるが、磯吉は恐ろしくて何も言えなかった。
剣一郎は佐兵衛を訪ねた際、例の若い武士を見つけ声をかける。彼は山瀬平馬と名乗る。剣一郎は佐兵衛の家を訪ねる。その姿を伊太郎が見ており、おみつが旅の途中で市之進の痣を見ていたことを思い出し、おみつの口を封じなければと考える。翌日、剣一郎は宇野から一連の事件を調べるよう命じられる。剣一郎は被害にあった店を訪ね話を聞き、役人が店を訪れたのではと推理するが、手代や番頭たちがなぜ簡単に扉を開けたのかがわからなかった。
恩誼
伊太郎はおみつのことを親分駒蔵に知らせる。駒蔵は、最後の仕事山川屋へ押し入る前になんとかしないとと答える。
剣一郎は寺本へ行く。そこで磯吉から事件を目撃した話を聞く。帰り道、剣一郎は掏摸を見つけ捕らえる。掏摸は以前にも剣一郎に会ったと話すが、剣一郎に覚えはなかった。掏摸は顔に痣がある浪人姿の男のことを話し、顔の右頬に痣があったと告げる。
奉行所に戻った剣一郎は一味の手口がわかったためお触れを出してもらう。さらに13年前一味が仕事に失敗したのは山川屋だと知り、山川屋を見張るよう命じる。
伊太郎は剣一郎が寺本で話を聞いたことを駒蔵に告げる。駒蔵は市之進のことがバレないようおみつをさらうよう命じる。伊太郎は仲間たちと佐兵衛の家へ行くが、佐兵衛に反撃され逃げることに。
奉行所に市之進が最初に訪ねた道場の道場主の妻がきて、市之進のこと、顔の痣のこと、駿河の松右衛門から市之進宛に手紙が届いたことを告げる。全てを理解した剣一郎はおみつのことを思い出し、佐兵衛の家へ。おみつから道中で顔に痣のある男を見たことを聞く。剣一郎は佐兵衛に、山瀬という若い武士の話をするが、佐兵衛はもう少し待って欲しいと答える。
剣一郎は奉行所に戻り、すでに6000両を盗んでいる一味が船を手配すると考える。作田は富蔵の昔の仲間の味噌問屋伊勢屋のことを話す。剣一郎は山川屋と伊勢屋を見張るよう命じるとともに、岡っ引きが見つけてきた一味の隠れ家を強襲する。
駒蔵は伊勢屋から手口がバレたことを聞き、山川屋を襲うのを中止する。その夜、隠れ家にいた市之進は隣の家の異変に気付く。一味は夜逃げ出すことに。
伊太郎と市之進だけが別に逃げるが、それを剣一郎が発見する。剣一郎は市之進に松右衛門からの手紙を見せる。彼は松右衛門の窮状を知り、必ず戻るので駿河に行かせて欲しいと剣一郎に嘆願、剣一郎はそれを許す。剣一郎は伊太郎には、おみつをさらいにいったのをおみつが気づいていたと話す。
一味が捕まり、剣一郎は佐兵衛に会いに行くが、やはり佐兵衛は秘密を打ち明けなかった。翌日剣一郎の家におみつが遊びにくる。おみつは佐兵衛が出かけると話していたと告げる。剣一郎は佐兵衛の家へ行き、妻から話を聞く。佐兵衛は法性寺で山瀬の仇討ちを受けていた。佐兵衛はおみつのことを剣一郎に頼み、斬られる。
駿河に戻った市之進は松右衛門の仇を取り、自害する。
剣一郎の家に岡部が礼を言いに来る。そしておみつを養女にしたいと申し出る。
シリーズ11作目。今回も前作同様、倒叙タイプの話。しかし第1章「青痣」は、今回のゲストキャラたちが登場し、その背景にあるものが示される、いわば紹介で終わったため、事件の全貌は見えていないところが、前作とは異なる点か。
ストーリーは、浪人市之進の顔の痣を利用し、剣一郎の偽物として夜の大店の扉を開けさせる盗賊一味の話をメインに、同心岡部の遊女買いの一件、盗賊一味で江戸に出て来る際に市之進と一緒になった伊太郎とその娘のエピソード、さらにその娘の祖父にあたる佐兵衛なる人物の謎、などを描く。
前作同様、倒叙パターンにしたことで似た雰囲気になるのを嫌ったのか、サブエピソードがちょっと多い気がする(笑 それでも岡部の一件は、宇野が剣一郎を将来自分の後釜に据えようとしているのがわかる良い話だし、伊太郎とその娘のエピソードは、最終的に剣一郎に自分の偽物がいることを気づかせるために必要だったので良しとしよう。
ただ、佐兵衛が仇打ちのターゲットだったことや、市之進がするが世話になった松右衛門の仇討ちをする話はちょっと冗長だった気がする。佐兵衛は、剣一郎がなぜか心を許す相手だったため、今後も登場し続けて欲しい人物だったのになぁ。
冗長と言えば、冒頭で描かれる、新見紋三郎の話もちょっと余計だったかも。物語前半にはそれなりに登場して来る話だったが、後半はさっぱりだったし(笑 まぁ京之進が右腕を斬られた人物を診た医者がいなかったことを告げるので、それで終わりだったのかもしれないが。
全体的には面白い話だったと思うが、上記した通り、ちょっと余計な話が多かったかなぁ。伊太郎が悪になりきれないのもちょっと不自然な気がしたし、市之進の最期もちょっとあっけなかったし。
剣之助のことは佐兵衛や岡部のとの会話で登場。時次郎もちょっと顔を見せる。駆け落ちをした剣之助はどうやって江戸に戻って来るのだろう?