博士の異常な愛情 1964

●717 博士の異常な愛情

 西側諸国高官の間で1年前からソ連で最終兵器絶滅装置が作られているとの噂があった。

 アメリカ空軍基地のマンドレイク大佐は上官であるリッパー将軍からR作戦実施を命じられる。その作戦は滞空警戒中のB52部隊によるソ連への核兵器攻撃だった。作戦と同時にマクドレイクは私物のラジオを回収、基地の封鎖も命じられる。

 命令を受けたB52のコング少佐は命令を信じられず基地へ確認を取るがやはり命令は間違っていなかった。そのため妨害を受けないように作戦通り通信を切断する。その頃ダージドソン将軍はR作戦命令が出たことを知らされペンタゴンへ急行する。

 マンドレイクは基地内で偶然ラジオを聞き、国内に危機が迫っていないことを確認。それをリッパーに伝え命令の中止を訴えるが、リッパーは命令は自分の考えで出したことを伝える。

 ペンタゴンではダージドソンが大統領に事情を説明、命令解除のための暗号も不明だと伝える。大統領は駐米ソ連大使をペンタゴンに呼び、ソ連首相に電話をし事情を説明、B52を追撃するように依頼する。しかし大使は攻撃された場合、絶滅装置が発動すると話す。

 その頃軍の指示で基地は攻撃されるが、封鎖状態にあった基地側の兵士も応戦していた。マンドレイクはリッパーから話を聞き、軍への反撃に加担することに。

 ペンタゴンでは大統領がストレンジラブ博士に絶滅装置について話を聞いていた。

 基地では攻撃が激しくなり、兵士たちが投降、それを見たリッパーは絶望し自殺してしまう。

 その頃コング少佐のB52はソ連軍の攻撃を受け、通信機器が故障、燃料タンクからも燃料漏れが発生する事態に陥っていた。

 軍の兵士たちが基地内へ入ってきてマンドレイクを発見、連行しようとするが、話を聞いたマンドレイクは大統領に事情を説明するため電話をしようとする。マンドレイクはリッパーだけが知る攻撃命令解除の暗号を突き止めていたのだった。

  マンドレイクの電話で、攻撃命令が解除される。安心したペンタゴンソ連へ連絡。全34機のB52中、30機が帰還、4機が撃墜されたと考えていたが、撃墜されたのは3機だけだった。コング少佐のB52だけが通信を受けることができず、攻撃を続行していた。大統領はソ連首相にB52の攻撃目標を伝え、撃墜を依頼する。しかしコング少佐のB52は燃料不足から攻撃目標を近場の基地へ変更していた。

 コング少佐のB52攻撃目標に到達するが、爆弾投下のためのハッチが故障で開かなかった。少佐は手動でハッチを開くが、爆弾とともに投下され、爆弾が炸裂する。

 ペンタゴンでは絶滅装置が作動したことを受け、ストレンジラブ博士が人類が生き延びるための手段を説明していた。それに対しダージドソンも熱弁をふるい始める。

 核爆発の映像とともにWe'll meet againが流れ映画は終わる。

 

  これも子供の頃からタイトルだけは知っていたが初見。

 核抑止力の元の冷戦状態の米ソを描いた作品だが、コメディとして描かれている。登場する政治家や軍のトップは皆どこかおかしい。事件の引き金を引く将軍は、今で言う陰謀論者だし、一見真面目そうな大統領はソ連首相を子供のような言い合いをするし、軍のトップの将軍は女好きの激情型だし。

 トップ下の人間がまともなのもある意味皮肉なのだろう。マンドレイクはいち早くリッパーの異常さに気づき攻撃命令を止めようとするし、B52パオロットの少佐も命令が間違いではないかと基地に確認を取ろうとするし。ただこの少佐、最後は爆弾にまたがって西部劇のカウボーイみたいになってしまっていたが(笑 ラストのペンタゴンでの言い合いも全く現状を理解していないトップらしさが出ていてブラックコメディのラストにふさわしい。

 

 アメリカ映画のスゴさはこのような作品を冷戦時代にコメディとして作ることができることだと思う。それともキューブリックがスゴイのか。彼の監督作品を観たいなぁ。

 

アラジン

●716 アラジン 2019

 船で航海する家族。父親が子供たちにアラジンの話をし始める…

 アラジンは市場で相棒の猿アブーと盗みを働く一方で、盗んだ食べ物をお腹をすかせた子供たちに分けてやる優しい青年だった。市場にジャスミン王女がきて、やはりお腹をすかせた子供たちに売り物であるパンを与えるが、店主は金を払えを怒ってしまう。店主はジャスミンを王女だとはわからず、金を持たないジャスミンのブレスレットを奪おうとする。そこへアラジンが現れ、ブレスレットを店主に渡すが巧みに奪い返す。店主がそれに気づき二人は追われるハメに。なんとか逃げた二人はお互いのことを話し合う。ジャスミンは正体を隠し王女の侍女だと話す。帰ろうとしたジャスミンはブレスレットがなくなっていることに気づき、アラジンを疑い怒って帰ってしまう。アラジンはブレスレットを盗んでいなかったが、アブーが盗んでいたのだった。

 ジャスミンは城でアンダース王子と会う。彼女は婿を取り結婚させられようとしていた。アラジンはアブーからブレスレットを受け取り、城に潜入。ジャスミンに返しに来る。そして翌日もまた会いに来ると話し帰ろうとするが、ジャファー大臣に見つかってしまう。ジャファーはジャスミンが本物の王女であることを告げ、アラジンは結婚できないと教える。そしてアラジンが金持ちになりたいのならば、と魔法の洞窟で魔法のランプをとって来るようにと話す。

 アラジンはアブーとともに洞窟へ。中で魔法のじゅうたんを助け仲間になる。そして魔法のランプを見つけるが、アブーが掟を破ったため洞窟の主の怒りを買う。ランプをジャファーに奪われそうになるが、アブーが盗み返す。ランプは手に入れたが、洞窟に閉じ込められたアラジン。しかしアブーがランプをこすりジーニーが現れる。ジーニーに力で洞窟から脱出したアラジンは3つの願いを言えとジーニーに迫られる。

 アラジンは王子になりたいと告げ、ジーニーの魔法で王子となり、ジャスミンに会いに行く。夜、アラジンは魔法のじゅうたんでジャスミンとともに空を飛ぶ。しかしそれをジャファーのインコであるイアーゴが見ており、翌日アラジンはジャファーに海へ落とされてしまう。ジーニーがアラジンを助けるために2つ目の願い事を使ってしまう。城に戻ったアラジンはジャファーがジャファーが悪いヤツである事を国王に告げ、ジャファーは牢に入ることに。アラジンは国王に気に入られジャスミンと結婚できることに。ジーニーは嘘をついたまま結婚するのはよくないと忠告するが、アラジンは聞く耳を持たなかった。アラジンはランプに戻ってしまう。

 ジャファーはイアーゴの力を借りて脱獄。アラジンは街へ出ていたが、イアーゴによりランプを盗まれてしまう。ランプを手に入れたジャファーは国王の前へ。そしてランプの力で自らが国王となり、国王やジャスミンを捕まえ、戦争を起こそうとする。ジャスミンは衛兵であるハキームに考え直すように話しハキームは同意する。怒ったジャファーは2つ目の願い事を利用し最強の魔術師になる。

 ジャファーはアラジンを別世界へ飛ばし、国王を痛めつけジャスミンに結婚するように迫る。ジャスミンは仕方なくジャファーの願いを聞き入れる。結婚式当日、アラジンが魔法のじゅうたんでやって来る。隙をついてジャスミンがジャファーからランプを取り戻すが、ジャファーは魔法の力でそれを奪い返す。打つ手がなくなったアラジンだったが、ジーニーよりは強くなれないとジャファーを挑発する。ジャファーは3つ目の願いとしてジーニーよりも強くなるように命じる。それによりジャファーはジーニーに代わりにランプに吸い込まれてしまう。

 全てが解決し、アラジンは最後の願いとしてジーニーを自由にする事を望む。ジーニーは晴れて自由の身となり侍女とともに世界旅行へ出ることに。国王はジャスミンを次の王とすることにし、国王となったジャスミンは法律も変えることができるようになった。城を去るアラジンの前にジャスミンが現れ、二人はキスをする。

 

 これも金ローで放送されていたので鑑賞したもの。ハリーポッターシリーズと同様、ディズニー映画もTV放送があると娘がよく観ており、それを横で眺めていた記憶があるが、本作を観て自分がアラジンのストーリーを全く知らなかったことに気づいた(笑

 

 アラジンという主人公が魔法のランプを使って悪者を退治する話、だと思っており、まぁその通りの話なのだが(笑 ランプの入手はその悪者にそそのかされたからだし、悪者も一度は捕まってしまうし、なんてあたりは全く知らなかった。

 ヒロインが人質を取られて仕方なく悪者と結婚することに同意する、なんていうのはこんな昔からあったストーリーというのもちょっと驚いた。あぁ昔話は現在の様々な話の基になっているのね、やっぱり。

 ジーニーとアラジンの間に友情が芽生えるというのも知らなかったが、これはアニメ版でも同じなのだろうか。ランプの精がご主人様の言うことはなんでも聞く、というイメージがあったが(実際終盤その通りになるが)、命令以外のことをランプの精が自分の考えで行ってしまうのね。そう言えば終盤、衛兵も同じ立場に立たされるけど、これは現代ならではの改変なのかしら。なんか政治的な意味合いが強いような気もするけど。

 ということで有名なアニメ版を見たいと思ったけど、Amazonではレンタル扱いなのね。そうか、ディズニーチャンネルがあるからAmazonでは無料で見れないようになっているのか。ちょっと残念。

 

伊東園ホテル本館/別館/松川館の喫煙所

伊東園ホテル本館/別館/松川館の喫煙所

 

 先日伊東にある伊東園ホテル別館に宿泊してきた。伊東園グループはここ1、2年で全室禁煙になったらしい(公式HPを見てもいつからそうなったかは不明)。喫煙者である私は館内でタバコが吸えるかどうか不安になり、事前に喫煙できる場所があるかどうかネットで調べたが確認できなかった。この3館は湯めぐりができるため、別館以外の大浴場にも入ることができた。その際に3館の喫煙所の場所を確認できたので、同じように感じる人のためにメモ。

 

別館

 1Fフロント

 フロントの左に「喫煙所出入口」がある。ガラスの向こうに小さく見えているのが灰皿。ドアから外に出ると駐車場のとなっており、その一角に灰皿がある。屋根がないため雨が降っていると濡れるので注意。



本館

 本館外、看板が見えるが、その手前に灰皿がある

 看板下の灰皿

 本館内にある案内図。エントランス横に「喫煙コーナー」とあるのが、上記写真の灰皿のことだと思われる。ただし案内図では「喫煙コーナー」がエントランス左になっているが、実際には右にある




松川館

 ネットの口コミで唯一情報があったホテル。喫煙所が随分と遠かった、との口コミがあった。現地をみるとその口コミの理由が判明。喫煙所の写真を取り忘れたので、地図とその他写真で説明する。

 Googleマップでの伊東園ホテル3館。松川館の左下に建物が見えるが、これも松川館の一部。

 次に松川館の中にあった案内図

 福寿荘と末広荘の記載があるが、上記マップで「松川館」と記載があるのが、福寿荘。その左に見えていた建物が末広荘だと思われる。この2つの建物は地下通路で繋がっている。

 次の写真は、その地下通路。

 ずいぶんと長い通路であるのがわかる。写真がなく申し訳ないが、松川館の喫煙所は、この末広荘の1F玄関出口にある。つまり、松川館に宿泊する客の多くは、福寿荘側に泊まっていると思われるが(上図案内図参照、一部末広荘側にも客室はある)、喫煙者はこの地下通路を通って福寿荘側に行かないと喫煙所にたどり着けないと思われ、それが先に書いた口コミの内容と一致していると思われる。

 

結論

 伊東園ホテル本館、別館、松川館の3館ともホテル敷地内に喫煙所がある。

 ただし松川館は宿泊する部屋によっては、ホテル内?を長く移動しないと喫煙所にたどり着けない可能性あり。

 本館は1F玄関外に、別館は1Fフロント横に、それぞれ喫煙所あり。宿泊する部屋から遠い可能性もあるが、1Fに喫煙所があるならば許容範囲内ではないだろうか。

 

 

 



 

 

 

 

 

ナイル殺人事件

●715 ナイル殺人事件 1978

 2022年製作のリメイク版を見たばかりなので、オリジナルである本作を鑑賞。基本的なストーリーは同じなのであらすじは省略して、リメイク版との違いを。

 

・リメイク版冒頭のポアロの軍隊時代のシーンは当然なし

・ジャッキーとサイモンがリネットと出会うシーンにポアロは存在せず。ポアロが事件関係者と出会うのはリネットたちの新婚旅行先であるエジプト。

ポアロの相棒となるのはレイス大佐。リメイク版のブークの立場?

・リメイク版では、リネットの結婚パーティの参加者が船に乗ることになるが、オリジナルである本作では、彼らは偶然船に乗り合わせることになっただけ。船に乗る前のホテルから同行している。

 

 ストーリー上の違いは、上記の通り。2時間20分の映画だが、1時間が経過したところで、ジャッキーがサイモンを誤射事件が発生。その後、40分かけてポアロの取り調べが行われ、10分弱で第2、第3の事件が発生。残りの30分でポアロが謎解きをする、という時間配分での展開。

 

 ポアロが容疑者たちを取り調べ、彼らに犯行のチャンスがあったことを画面上で示すのはリメイク版と同じだが、オリジナルである本作の方が、その描き方が実に丁寧だった。40分も時間を使っているからだろう。

 

 第1の犯行に使われた、スカーフとマニキュアの紛失もキチンと描かれているが、初見であれば気にせず見過ごしてしまうような描き方。特にマニキュアの紛失の方は、理由を知っていても、あの描き方ではなんだかよくわからないと思う(笑

 

 リメイク版での感想で、ポアロの謎解きシーンがあっさりし過ぎだと書いた。本作では30分弱が使われている。リメイク版の謎解きシーンの時間を計ってみたら実質約15分程度。子供の頃に見た記憶だったが、間違いではなかったようだ(笑

 

 これもリメイク版での感想で、物語前半部分にあたる、サイモンとリネットとの出会いやジャッキーがしつこく新婚二人の前に現れるシーンが丁寧に描かれている、と書いたが、本作でもこれは丁寧に描かれていた。というか、本作の前半部分はほとんど記憶になかった。前半で記憶に残っていたのは、神殿?でジャッキーが突然新婚二人の前に登場するシーン。

 ジャッキー役のミアファローの表情が記憶に残っている。前半の狂気に満ちた表情、後半始めの誤射してしまった後の取り乱した表情、そしてラスト、ポアロに真相を見抜かれた後の表情。彼女の出演した作品はこの1本しか観たことがないが、未だにその表情は忘れられない。

 

 出演している他の俳優のことで。金持ちの婦人の付き添い看護婦?役はハリーポッターの先生だし、女性作家はジェシカおばさんな訳で。当時は豪華俳優陣と言われてもピンとこなかったが、この歳になるとこの映画もなかなかスゴい人たちが出ていたことがわかる。この映画のwikiを見ていたら、あの有名なバッグのバーキンの由来になった女性まで出演しているらしいし。そう言えば、船に皆が乗っているところで、この俳優陣が横一列に並ぶシーンがあったけど、そういうことなんだろうなぁ。

 

 

 最後にミステリーとして。改めてポアロが第1の事件で引っかかった部分に感心した。現場にジャッキーを示すJの血文字を残しながら、一番容疑をかけやすいはずの彼女の拳銃を隠した、という矛盾。ポアロさすがだ(笑

 しかしさらに考えると、どうしてサイモンはあの拳銃を川へ投げ捨てたのだろう?銃弾を補充して2発しか撃っていないように細工したのだから、捨てる必要はなかったのでは?消音に利用したスカーフやマニキュアのついたハンカチは捨てる必要があったと思うが。そのための重しに拳銃を使った?いやいや、本作では重しに灰皿も一緒に入っていたからなぁ。と思ってネットで調べたら、yahoo知恵袋に同じ質問をした人がいた(笑 そうか、あのままだと拳銃がサロンで発見され、その拳銃でリネットが殺されたことがバレちゃいけないのか。納得。

 

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花

●714 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 1980

 何度も見ている寅さんシリーズ、しかもリリー4部作の一つなので、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。鼠小僧寅吉が豪商の蔵から千両箱を盗むが追われ、貧しい家へ匿ってもらう。匿ったのは例によっておさくとその夫。家から去る時に寅吉はおさくに声をかける。その後、屋根の上での格闘、寅吉は見得を切るが、なぜかいつもの寅さんの口上。目が覚めた寅さん。笛を吹きながらチャンバラ遊びをしている子供たちが夢に影響を与えたと思われる。

 11作の夢と同じ時代劇パターン。11作と同じで、寅吉はおさくたちの生活が貧しいのは自分たちのせいではないと語るが、これも後のとら屋のシーンへリンクしている。

 

 OP後、とら屋

 おばちゃんが行商人からヨモギを買っているところへさくらがやってくる。季節の話→今年は花見をしなかった→温泉にでも行きたい、という会話。これも後の公園へ出かける伏線。タコ社長が脱税が発覚したことを嘆く。博がキャバレーにチラシを届けるため出かける。キャバレーについた博、街を歩くリリーを見かけ声をかける。とら屋へ来るように話すが、今晩から大阪だとリリーは答え、寅さんに会いたがっていると伝えてと話す。

 タコ社長やおいちゃんたちは不景気を嘆く。1980年の作品ということもあり、そんな時代だったか。これが夢シーンとリンクしていると思われる。

 夜、家でリリーと会ったことを話す博。皆でリリーのことを心配しているところへ上州にいる寅さんから電話。さくらは寅さんにリリーのことを話す。その頃リリーは店で歌っていた。

 

 寅さんとら屋へ

 一月後、寅さんがとら屋へ帰ってくるが、皆は店を休みにして水元公園へ行く予定だった。出かけようとしていたことを隠すとら屋の皆と寅さんの定番のケンカ。そこへ速達が届く。リリーからで、今病気で入院しているとの知らせ。場所が沖縄だと知り、陸路や海路で行くには時間がかかり過ぎると困っていると、タコ社長が飛行機でと提案。しかし寅さんは壮絶に飛行機に乗ることを拒む。

 11作でも書いたが、寅さんシリーズには定番と言えるシーンがいくつも存在するが、とら屋でのケンカが原因で寅さんが旅に出る、というのもその一つであり、ここもその定番シーン。しかし本作ではそこへリリー入院の知らせが入り、事態は一変する。飛行機を拒む寅さんが可笑しいのも忘れずに(笑

 

 夜。さくらは博に明日寅さんを飛行機に乗せることになったと知らせる。御前様まで説得にきてくれたことも。翌日会社の車で博とさくらが寅さんを羽田へ。前夜眠れなかった寅さんは車の中で居眠り。御前様がとら屋へ。そこへさくらから電話。最後の最後で寅さんが飛行機に乗ろうとしないと愚痴り、家に連れて帰ると話すが…空港へ入ろうとしない寅さんのそばをスチュワーデスが通りかかり、寅さんはあっさりと彼女たちについて行く。とら屋に戻ったさくらたちは、寅さんが無事飛行機に乗ったことを伝える。

 羽田で標識に捕まり動こうとしない寅さんが可笑しい。さらにスチュワーデスに簡単について行く寅さんも。

 

 沖縄 リリーの病院

 那覇に着いた寅さんはフラフラ。しかし空港職員たちの手によってバスへ乗ることに。バスの中でも眠る寅さん。米軍基地の風景などが描かれ、寅さんはリリーのいる病院へ。皆からの見舞いの品をリリーに渡し、リリーは喜ぶ。

 リリーが大部屋にいたため、婆さんとリリーを見間違える寅さん。見舞いの品の最後に自分のふんどしまで出す始末。その後、大部屋の他の患者に挨拶をする寅さん。この一連の病室のシーンは見事な喜劇となっている。

 夕方、寅さんは面会時間を終え帰って行く。寅さんとリリーの中を向かいのベットにいる婆さんがヤキモチを焼くのが可笑しい。安宿に泊まった寅さん、翌日市場でバイをして稼ぎつつ、リリーを見舞う。リリーは徐々に回復、寅さんも大部屋の人気者になる。寅さんはさくらに手紙を書き、リリーの病状や自分の生活を知らせる。映画の中では寅さんの語りでその内容が話される。

 見舞いに来た寅さんの前で化粧をするリリー。色男が訪ねてくるんだよと言い、それが寅さんであることを明かす。照れる寅さん、笑う大部屋の他の人たち。このシーンでは珍しく寅さん至福の時が続く。

 

 リリー退院へ リリーと寅さんの同居

 いつものように病院を訪れた寅さん。リリーは外におり、退院許可が出たことを知らせる。とら屋。リリーからお礼の手紙が届き、退院したことが知らされる。喜ぶ皆だったが、手紙の最後に寅さんがリリーと一緒に暮らしていることが書いてあり、心配になる。

 寅さんとリリーはある家の離れを間借りしていた。リリーはその家の息子高志と遊び、寅さんの仕事の帰りを待つ。夕食を共にした二人。リリーは家の娘富子から二人は夫婦かと聞かれ、まだ式は挙げてないよと答えたと話す。そして寅さんがこれまで所帯を持ったことがあるかと尋ねる。照れた寅さんは母屋へ行ってしまう。

 

 寅さんは退院したリリーと同居を始める。シリーズの中でマドンナとの二人だけの同居というのは本作のみ。しかし病院での至福のときとは異なり、リリーが積極的な動きを見せる。そりゃそうだよなぁ、寅さんは自分のために沖縄まで来て退院まで面倒を見てくれたのだから。このリリーの態度が引き金となり、二人の仲は怪しくなっていく。

 

 翌日寅さんはリリーを置いて出かけてしまう。暑さに参った寅さんは高志に海洋博記念公園の水族館へ連れて行ってもらう。そこでイルカのトレーナーの若い女性と知り合い1日を過ごす。帰って来た寅さんは先に寝ていたリリーに声をかけ母屋へ。

 その翌日。今度はリリーが高志とともに出かけてしまう。リリーはキャバレーを周り、仕事を探すが足元を見られ安い給料を提示され怒る。二人はレストランで食事をする。高志はリリーに寅さんと結婚するのかと尋ね、あの人はリリーさんにふさわしくないと言う。寅さんはトレーナーの女性と公園で踊るなどして1日を過ごし家のそばまで一緒に帰ってくる。

 

 寅さんが水族館の女性と仲良くなる一方で、リリーは仕事を探し始める。このすれ違いが残酷だが、これが次のシーンへの布石となる。

 

 ケンカ別れ

 夕飯の支度をしていたリリーは寅さんに明日から働くと話す。寅さんはまだ働かなくてもと言うが、リリーはお金がなくなったと答える。寅さんは金のことは俺に任せておけと言うが、男に食わせてもらうなんてまっぴらとリリーは言う。俺とお前の中じゃないかと寅さんは反論するが、リリーは夫婦じゃないだろと答える。寅さんがお互いに書体なんて持つ柄かよと言うと、リリーはアンタ女の気持ちなんてわからないのねと答え涙を流す。そこへ高志がやって来て寅さんにリリーを大事にするようにと忠告するが、寅さんはリリーと高志ができていると勘違いして激怒、家を出て行ってしまう。片付けをするリリーの元へ家の母さんや娘富子がやって来てリリーを慰める。

 翌朝、母屋で寝ていた寅さんは離れに行きリリーに謝罪するが、すでにリリーは去った後だった。慌てる寅さんに富子が話しかけるが、寅さんは船に乗って船長に東京まで連れて行ってくれと頼む。

 

 仕事を始めるというリリーとそれを止めようとする寅さん。(映画の中での)最初の晩の会話で逃げられてしまったリリーは金の問題を持ち出し、最後の手段に訴える。それでも寅さんは冗談口調で返してしまう。11作のラストとら屋でのリリーの流した涙とも、15作小樽でひどいことを寅さんに言われたリリーが流す涙とも違う、3部作の中で最も悲しいリリーの涙がここで流される。

 高志と寅さんが始めたケンカを止めるためにリリーが取った手段は、ちゃぶ台返し。アニメ巨人の星以外でこれを見たのは初めてかも(笑

 

 再びとら屋 

 さくらが帝釈天で御前様に挨拶をし、とら屋へ。参道では行き倒れがあったと騒ぎになっていた。その行き倒れは寅さんで、とら屋へ担ぎ込まれる。医者に診てもらい栄養失調だと診断され皆は一安心。寅さんはおばちゃんが買って来た出前のうな重を夢中で食べる。

 夜、元気になった寅さんに皆は沖縄でリリーと何があったのか尋ねる。例の晩の話をする寅さん。それはリリーさんの愛の告白だとさくらが言い、博は笑い事ではないと諭す。寅さんはどうすればいいかと聞くが、リリーがどこにいるかわからないと話す。その時電話がなる。しかし間違い電話だった。

 

 沖縄での寅さんとリリーのシリアスなシーンが続いた後のとら屋。行き倒れの寅さんが戸板で運ばれて来てからの一連は、喜劇にもどすためのシーンだろう。そしてこのシーンの最後、寅さんがリリーがどこにいるかわからないと言ったところで鳴る電話。映画冒頭で絶妙のタイミングで寅さんからかかって来た電話が思い出され、この電話はリリーかもと観客もが思ったところでの間違い電話。見事である。

 

 リリーがとら屋に

 翌日リリーがとら屋へきて二人は再会。茶の間で二人は皆に沖縄での生活ぶりを話す。楽しかった生活をリリーが語り、沖縄民謡を歌う。それを思い出し夢見心地になった寅さんはリリーに俺と所帯を持つかと言ってしまう。呆然とする皆だったが、寅さんが正気に戻ったことに気づいたリリーは変な冗談を言って、みんな間に受けるわよと答える。そしてリリーは語る。「私たち夢を見ていたのよ、きっと。ほらあんまり暑いからさ」

 寅さんとさくらは柴又駅にリリーを送って行く。さくらはさっきのお兄ちゃんの言葉は少しは本気だったのよとリリーに伝える。「わかってる、でもあぁしか答えようがなくて」とリリーは答え、去って行く。

 夏、お盆。御前様がとら屋へ。寅さんとリリーのことを聞いた御前様が一言。「生きてる間は夢だというのはセキスピアの言葉でしたな」

 御前様のお経が始まり、茶の間の下座にいたタコ社長が机の上の高志からの手紙を見る。高志の声での朗読。

 

 第15作のブログで15作がファンの間で一番に選ばれている理由として、終盤の名シーンラッシュと書いたが、この25作の終盤は名セリフのラッシュと言える。とら屋での二人の会話。寅さんのプロポーズを冗談だとリリーは返すが、これは15作の見事な裏返し。そして柴又駅でのリリーのセリフ。ここではさくらももう何も言わない。寅さんの相手はリリーが一番だということも確信しつつ、二人が結婚するということはないことも確信したさくらなのだろう。

 

 あまりに爽やかなラスト

 田舎道のとあるバス停。バスが来ず困っている寅さん。通りかかったバスがいたが、路線バスではなくがっかりする。しかしそのバスが止まり、中から女性が出て来てバス停へ行き、うなだれている寅さんの前に立つ。

 見上げた寅さん、それがリリーとわかり

 「どこかでお目にかかったお顔ですが、姉さん、どこのどなたです」

 「以前お兄さんにお世話になった女ですよ」

 「はて、こんないい女をお世話した覚えはございませんが」

 「ございませんか、この薄情者」

 この後リリーが乗って来たバスに寅さんを誘い、二人は一緒に旅立っていく。

 

 名セリフラッシュの最後を飾るのにふさわしい二人のやりとり。既にとら屋でのことを謝罪することもなく、芝居掛かったセリフで会話をする。この時の寅さんの表情がたまらない。ちなみにこれらのセリフの後、リリーに何をしていたのかと問われた寅さんが、「俺はオメェ、リリーの夢を見てたのよ」というとどめの一撃がある。

 男はつらいよのラストはどの作品も旅の空の寅さんを描きつつ、爽やかに終えるが、本作はその中でもベストと言えるだろう。

 

 

 正月にTVでリリー3部作を連続放送していたので録画、第11/15作に引き続きそれを観ることに。

 シリーズ第25作であり、リリー4部作の3作目。15作から5年後に制作されている。

 

 3回目の登場となるリリー。今回は全2作と異なり、沖縄が舞台となる。マドンナ役が再登場となると、通常のマドンナとは違い既に知り合った仲なので二人の出会いなどを描く必要がないのがメリットなのかとも考えたが、そんなわけはないよなぁ。再会場面をどうするか、に工夫がいる。前15作では函館のラーメン屋台での偶然の出会いとしたが、同じ手は使えない。で、今回はリリーが入院し寅さんが見舞いに訪れるという設定。ここに至る過程も見事な展開である。

 不景気を話題にしたとら屋→キャバレーのチラシの仕事も引き受けている→博がキャバレーにチラシを届けに→そこでリリーと遭遇→リリーが必ずしも健康的な生活を送っていないことが示される→寅さんに電話でそれを伝える→1月後寅さんとら屋へ→そこへリリーからの手紙で入院を知るが場所は沖縄。で大騒動(笑 の末に、寅さん沖縄へ。この流れ、実に見事。

 

 そして3回目ということもあり、シリーズ最初で最後?の寅さんとマドンナとの同居。あぁ第48作で満男がたどり着いた奄美にいた二人も既に同居生活をしていたか。上記したように病院での至福のときを経て、二人の同居。ファンの期待を一身に背負ったこの場面だったが、リリーの一言で雲行きが怪しくなる。

 その後は一気に終盤へ。定番となるとら屋でのマドンナとの再会。しかし映画の時間はほとんど残されておらず、これまた上記した通りの名セリフラッシュで幕を閉じる。

 

 今回久しぶりに男はつらいよを、そしておそらく初めてリリー3部作を続けて鑑賞したが、やはりこの3部作はシリーズ屈指の傑作だと感じた。これらがあったからこそ第48作へ、奇跡とも言える第50作へつながるのだ。

 

 

男はつらいよ 寅次郎相合い傘

●713 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 1975

 何度も見ている寅さんシリーズ、しかもリリー4部作の一つなので、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 海賊モノ。もちろん西洋の。寅さんは海賊タイガーであり、20年前に別れた妹を探している。奴隷船を見つけタイガーたちはその船を襲い、囚われている奴隷たちを助けるがその中に妹チェリーがいた。奴隷船の船長は吉田義男さん。第11作でも書いたが、夢シーンにだけ登場するパターンらしい。

 

 OP

 土手を行くのは寅さんではなくさくら。これは珍しい。

 

 とら屋

 おばちゃんとタコ社長がTVでエリザベス女王の来日風景を見ている。さくらが帰ってきて、博が女王の旦那に似ているという話に。そこへリリーが寅さんを訪ねて来るが、寅さんは当然旅の空。リリーは旅の途中ということであっさりと帰って行く。

 

 OPに寅さんが登場しないパターンがあったのは驚き。さらにマドンナが寅さんよりも先に登場したのも珍しい(夢シーンを除く)。このためにOPに寅さんを出さなかったのだろうか。本作第15作の前に、同一マドンナとしては吉永小百合の歌子がいるが、それとの違いを出したかったのだろうか。

 

 北海道、サラリーマン兵頭の失踪

 その頃寅さんは北海道函館で易学の本をバイをしていた。宿に戻った寅さんは同宿人のことを心配する。部屋に入ると首を吊ろうといる同宿人を見た寅さんは慌てて止めるが、彼は蛍光灯の紐を結んでいるだけだった。彼は結婚している普通のサラリーマンだったが、ある日突然旅に出て寅さんと出会っていた。寅さんは家に電話するように言うが彼は聞かず。寅さんは仕方なくとら屋に電話。さくらに彼、兵藤の名前と家の電話番号を教え、無事だと連絡するように伝える。さくらは言われた通り兵頭家に連絡。翌日兵頭の妻はとら屋へ。

 

 寅さんが困っている人を助けるのも定番。可笑しかったのは、寅さんが北海道から長距離電話をかけたため、10円玉がないと呟いたのを受けて、おばちゃんが10円玉を差し出そうとするシーン。博に止められていたが、いかにもおばちゃんらしいエピソード。

 

 リリーとの再会

 寅さんと兵頭は北海道を旅して回るが二人の金は底をついていた。函館の屋台でラーメンを食べていた寅さんと兵頭。そこへリリーが客としてやってくる。再会を喜ぶ二人。3人は同じ宿に泊まることに。リリーは足が冷たいと寅さんの布団に入ろうとするが冷たくあしらわれ、兵頭の布団へ。翌日汽車で旅する3人。札幌に行き、兵頭を売り子に、寅とリリーがサクラとなって万年筆の泣きバイをし金を稼ぐ。

 

 寅さんのバイはシリーズで何度も描かれるが、源ちゃん以外のサクラを使っての商売は本作のみかも。万年筆の泣きバイ、これも定番中の定番。

 

 小樽へ

 3人は小樽へ。兵頭の初恋の相手が小樽出身の女性であり、兵頭はここへ来るために旅をしていたのかもと話す。そしてその女性に会いに行くことに。家を訪ねるが夫と死別して引っ越したと聞き、兵頭は一人、女性のやっている喫茶店へ。寅さんとリリーとは波止場で合流することに。喫茶店に行った兵頭は女性が自分を覚えていてくれたことを喜ぶが、それだけを確かめ去ってしまう。それを聞いた寅さんは同情するが、リリーは女は男に幸せにしてもらうつもりはないと断言、それに怒った寅さんはリリーに旦那に捨てられたんだろうと悪態をつく。それを聞いたリリーは涙を流し去って行く。

 

 売り言葉に買い言葉、でリリーに悪態をついた寅さん。冗談のつもりで言ったのだろうが、リリーをひどく傷つけることに。リリーが旦那と別れた理由は映画の中で明かされない。寅さんの言葉が真実をついたかどうかは不明だが、リリーのその前のセリフから考えれば、男に捨てられた、というセリフが許せなかったのだろう。

 

 再び、とら屋 リリーとの再会

 さくらは自宅に戻った兵頭からの電話をとら屋で受ける。しかし寅さんの行方はわからず、心配している皆の前に突然寅さんが帰って来る。寅さんはリリーとのケンカ別れのことを告げ後悔しているとを話すが、そこにリリーがやって来る。再会する寅さんとリリー。とら屋ではリリーを迎え入れ夜宴会が始まる。皆が歌を歌い、博が下手な歌を披露するが、それを助けるためにリリーが歌い出したのを見て皆は歌をやめリリーの声に聞き入る。お開きとなり2Fへ上がるリリーに足が寒くはないかと寅さんが言うのを聞いて、とら屋の皆は驚く。

 

 とら屋での再会シーンは名シーン。寅さんが珍しく自分の言動を反省しているところへリリーがやって来て、お互い相手に許しを請う。リリーがマドンナでなければありえないシーンと言える。宴会後の寅さんとリリーの会話が良い。第11作でリリーの言葉に慌てた寅さんとは別人のよう。

 

 寅さんのアリア

 翌朝寅さんはとら屋に泊まったリリーのために朝風呂を沸かす。そしてリリーが夕飯に餃子を作るために一緒に買い物へ。腕を組んで商店街を歩く二人を見た御前様がとら屋に忠告に来る。街でも仲の良い二人は噂になっていた。

 夜。博が一人夕飯を食べていた。おいちゃんおばちゃんは街で寅さんとリリーのことが噂になっていることを嘆く。そこにタコ社長がきて追い打ちをかける。

 そこへ寅さんが帰って来るが、様子がおかしい。尋ねるとリリーをキャバレーに送ったが、その店がとても小さく貧相な店だったのでリリーが可哀想だと話す。そして金があればリリーに大きな会場で歌わせてやりたいと語り出す。男はつらいよのテーマ曲のBGM。リリーはきっと泣くよと話しながら寅さんの涙。

 翌日。兵頭がメロンを土産にとら屋を訪ねて来る。寅さんと北海道での思い出話を語る。帰り際、送ってくれたさくらに兵頭は寅さんとリリーの結婚式はいつなのかと尋ね、式にはぜひ呼んでほしいと頼む。

 

 リリーが友人宅を追い出され、そして有名なメロン騒動

 昼間。リリーは買い物をしてアパートへ帰る。しかしそこは友人の家で、友人の彼氏が訪ねてきていた。居場所を失ったリリーはさくらに電話をし、泊まるところがないので泊めてほしいと頼む。バス停まで迎えに行ったさくらだったが、バスの中でリリーに絡んだ男たちがつけてきたのをリリーが一蹴する。

 翌日(と思われる)、さくらとともにリリーはとら屋へ。リリーは博の工場へ見学に行っており、父親が印刷工だったことを明かす。そして「メロン騒動」。寅さんに啖呵を切ったリリーをとら屋の皆が絶賛、寅さんは一人飛び出して行ったが、帝釈天と思われる場所で源ちゃんに出前を頼んでいた。

 

 寅さんとリリーの相合い傘

 夜のとら屋。店じまいをするさくらとおばちゃん。さくらが雨が降り始めたことに気づく。そこへ寅さんがやってきてリリーのことを聞く。さくらは寅さんが傘を持たずに仕事に出かけたリリーのことを心配していることに気づき、傘を渡し迎えに行くように伝える。

 柴又駅。仕事を終え帰ってきたリリー。駅前に寅さんがいるのを発見し駆け寄る。寅さんはリリーとともに相合傘でとら屋へ戻る。

 

 メロン騒動も有名で第50作に使用されたが、このリリーとの相合傘のシーンも名シーンであり、第50作で使用されていたことを思い出す。本作の終盤前にこの名シーン2つが連続しているのだ。

 

 そして終盤へ

 さくらは博や満男とともに河川敷へ。さくらは兄がリリーと結婚すれば上手く行くと思うと博に話し博もそれを認める。

 とら屋に戻ったさくらはリリーにその話をする。冗談よと散々逃げを打った上で、リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら、と話す。リリーはそれを承諾。喜ぶさくら。そこへ寅さんが帰ってきたため、さくらは喜んでそれを伝えるが、寅さんは冗談だろとリリーへ話す。リリーは冗談だよと言い、突然見つけて来たというアパートへ帰って行く。

 博やさくらは追いかけるように寅さんに言うが、寅さんは2Fへ。さくらは2Fへ上がり話をするが、寅さんはあいつは頭が良く、自分とでは幸せになれないと話す。

 季節が変わり夏。兵頭がとら屋へ訪ねてきて寅さんとリリーの話を聞く。寅さんは海岸にいた。そこには函館で一緒だったキャバレーの女性たちがおり、寅さんは彼女たちと一緒の車に乗って旅に出るのだった。

 

 正月にTVでリリー3部作を連続放送していたので録画、第11作に引き続きそれを観ることに。

 シリーズ第15作であり、リリー4部作の2作目。11作から2年後に制作されている。

 冒頭から北海道にいる寅さんが描かれる。しかも珍しく旅の友がおり、それが船越英二扮する兵頭。エリートサラリーマンだった彼が突然失踪、偶然出会った寅さんと北海道を旅している。寅さんは兵頭の身の上を心配するが、本人は御構いなしで寅さんとの旅を楽しんでいる状況。ここにリリーが加わり、3人のロードムービーのような展開を見せる前半。本作は1975年製作だが、その前年1974年、我らが健さん勝新と組んだ「無宿」が公開されており、これは男2人女1人のロードムービーだった。元を正せばその数年前の1967年にアランドロンが出演した「冒険者たち」というやはり男2人女1人のロードムービーがヒットしており、本作の前半はこれら2本のオマージュに見える。

 

 中盤、小樽で初恋の女性と会った兵頭の行動が元となり、寅さんとリリーはケンカ。上記したように、女が男に幸せにしてもらうという考えがないリリーにとって、「男に捨てられた」という寅さんのセリフ(考え)は、寅さんを同じ仲間だと思っていたリリーにとってはショックだったのだろう。

 

 後半はとら屋に戻って来た寅さんとリリーの物語。メロン騒動、相合傘、そしてさくらによる代理プロポーズに答えるリリー。名シーンのラッシュ。多くの寅さんファンが本作をシリーズベストにあげる理由がこの後半にあるのだろう。

 今回連続して2本を鑑賞して、第11作も本作15作に負けない傑作であると思った。11作のラスト、別れのシーンでリリーは「寅さんなんて嫌いだよ」と言い残しとら屋を去って行くが、シリーズの中でリリー以外に寅さんのことを「嫌い」だと言ったマドンナはいなかったと思う。この言葉にこそ、リリーの本音が隠されている。

 

 それでもやはり本作の後半の名シーンラッシュはスゴいと言わざるを得ない。一度ケンカ別れした二人がとら屋で仲直りをし、町の噂になるような仲良しぶりを見せつける。とら屋の皆の心配をよそに、寅さんがリリーに広い会場で歌を歌わせたいと語るアリアもあった。そうか、ここから既に名シーンラッシュは始まっていたのか。

 

 3部作の最後は第25作。本作の5年後に公開される。正月に録画した最後の一本、酒でも飲みながら見ることにしよう。

 

男はつらいよ 寅次郎忘れな草

●712 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 1973

 何度も見ている寅さんシリーズ、しかもリリー4部作の一つなので、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと感想を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。貧しい農家の娘が借金取りに連れて行かれそうになっているところに股旅姿の寅さんが小判を放る。借金取りに扮したタコ社長と源ちゃんと一戦交えて去って行く。

 農家の父親が吉田義男さん。シリーズでは劇団を率いる座長として登場するが、本編には登場しない。このパターン、第12作でも同じことを書いている。と言うことは吉田義男さんが夢シーンにだけ登場するのは本作が初めてかも。

 寅さん去り際に一言「いずれ御政道が改まりゃ…」政治が改まれば、というセリフだが、これは後の博のセリフとリンクしていると思われる。

 ちなみにチャンバラをする寅さん、刀を鞘に収める速さは見事である。夢から覚めた寅さん、雨が降っているのでその辺にあった傘をさそうとするが見事なボロ傘。「(月さん雨が…春雨じゃ)濡れて行くか」のセリフ。

 

 OP後、とら屋

 寅さんとさくらの父の27回忌の法事のため、御前様がとら屋に。法事が始まったところへ寅さんが帰ってくる。誰の葬式かと騒ぐ寅さん、皆が元気であることを知り、「じゃあ誰が死んだ、えっー、この俺か?!」の名セリフ。その後法事に参加するが、寅さんはお経をあげる御前様をネタに笑いを誘い、皆で爆笑して御前様に怒られる。

 その夜、皆に叱られる寅さんだったが、笑ったお前たちが悪いと反論、いつもなら仲裁に入るさくらが呆れて、博と満男とともに帰ってしまう。

 翌日幼稚園?に満男を迎えに行ったさくらは帰り道、ピアノのある家を眺める。さくらはとら屋へ行き、昼飯を食べている博にピアノが置けるぐらいの家に住みたいと愚痴をこぼすが、それが無理なのは承知だった。そこへ寅さんが降りてきて、事情を聞き、飛び出して行く。寅さんはおもちゃのピアノを買ってくる。

 その夜、とら屋の皆は寅さんに気を使って話をしていたが、タコ社長が全てを台無しに。恥をかかされたと思った寅さんは旅へ。博は一連の騒動を受け、広々としたところへ行きたいと愚痴る。これがこの後の寅さんの行動を示唆しているのはいうまでもない。

 さくらがケンカの仲裁をしないで呆れて帰ってしまうのは珍しいシーンかも。翌日ピアノが欲しいと聞いた寅さんは満男のものと思われる絵本を読んでいるが、その際メガネをかけている。おそらく老眼鏡と思われるが、素の寅さんがメガネをかけているのも珍しいかも。笑いやバイのためにメガネ姿になったことはあったと思うが。

 その後、寅さんが博にピアノぐらい買ってやれと言うが、博は反論。途中で寅さんに話を遮られてしまうが、ここが冒頭の夢、御政道の話とリンクしているように思える。

 

 北海道 リリーとの出会い

 旅に出た寅さんは北海道の大自然の中に一人いた。夜汽車に乗った寅さん、一人の女性客が泣いているのを目撃。汽車は網走へ。寅さんもその女性客も降りる。寅さんはレコードのバイをするが全く売れず。汽車の女性客がそんな寅さんに声をかけてくる。女性はキャバレーで歌う売れない歌手であることを明かす。二人は同じフーテンな暮らしをしており、波止場でお互いの生活は泡(あぶく)みたいなものだと話す。別れ際、女性は寅さんに名前を尋ねる。「葛飾柴又の車寅次郎だ」と答える寅さん。女性が去った後、あぶくか、と呟く。その後、女性が「リリー松岡」の名前でキャバレーに出演、歌うシーンが流れる。

 二人が語らう波止場から見えた、父親が乗っている船を見送る家族が象徴的で良い。リリーと別れた後、寅さんが一人海岸に佇む姿が映し出されるが、海岸でのこんな情緒的なシーンも珍しいかも。

 

 再び、とら屋

 とら屋に速達がくる。全く知らない北海道の栗原という人物からだったが、寅さんが職安からの紹介で農家である栗原の家で働き始めたが、3日目にはダウンしてしまったと書かれていた。さくらが北海道に寅さんを迎えに行く。

 寅さんはとら屋の2階で静養。店にめぐみという女性がきて、タコ社長の工場で働く水原を呼び出す。二人は同じ青森出身の若者で仲が良かった。そこへパチンコに行っていたおいちゃんが帰ってくる。自分が遊んできたことを詰られ恥ずかしいおいちゃんは、寅さんのことを居候と呼び話を茶化すが、それを聞いた寅さんは北海道の農家の大変さを話し、皆の態度を注意、もう一度鍛え直してくると出て行ってしまう。

 北海道に迎えに来たさくらに早速農家の暮らしの大変さを愚痴る寅さんがかわいい(笑 めぐみと水原のカップルをさりげなく描いているシーンも見逃せない。この後、このカップルを巡り寅さんが騒動を起こすのだ。

 

 リリーがとら屋へ

 とら屋を飛び出した寅さんだったが、そこへリリーが訪ねて来るいつもの展開。早速リリーを家にあげおばちゃんの手料理をご馳走する。食後、リリーが席を外した瞬間に寅さんが二人の関係性を皆に話そうとするが、その度にリリーが寅さんを呼ぶため話は進まない。リリーに「この紫の花はなんて名前」と聞かれた寅さんが「たんぽぽでしょ」と返すのは名シーン。ちなみにこの花が忘れな草であり、映画のタイトルとなっている。

 リリーはとら屋を後にする。見送りに出た皆に挨拶をするが、幼い満男の頰にキスをし口紅がべったりとつく。これも珍しい。リリーがそういう女性だととら屋の皆に認識させるためだろうか。

 

 寅さんのアリア

 夜、夕食時の寅さんのアリア。夜汽車に乗っていると涙が出て来る、という話から始まり、上流階級、中流階級の話になる。持っているもので階級を決めようとするタコ社長に、博が反論、さくらも寅さんが大切な物を持っている、それは人を愛する気持ちだと話し、それを受けおいちゃんが寅さんは上流階級の人間だと話したところで御開きとなる。

 

 リリーが再びとら屋へ

 リリーは昼間キャバレーで歌の練習をしていた。そしてとら屋へ。留守番をしていた寅さんは喜んでリリーを迎え入れる。そこへめぐみがやって来て、水原を呼び出して欲しいと寅さんに頼む。寅さんは大きな声で茶化しながら水原を呼ぶ。それを聞いて恵みは恥ずかしさから飛び出して行ってしまい、水原は怒って寅さんに文句を言う。見ていた工場の皆も寅さんに文句を言うが、リリーは二人を追いかけた方が良いとアドバイスをし、皆は二人を追いかける。

 河原に皆が集まっているのをさくらが見かける。めぐみと水原に博は寅さんの態度を謝るが、この際本当の気持ちを伝えるべきだと水原に話し、水原はめぐみに告白をする。

 夜その話を聞いたリリーは若い二人を羨ましがる。工場では若い二人を皆が祝福していた。とら屋ではいつしか寅さんの恋の話に。寅さんは言う。「友達が来てるんだよ今日。もう少し気を使ったらどうなんだよ」それを聞いていたリリーが大笑い。寅さんの恋の遍歴を聞きたいと言い出す。皆に話すなと言う寅さんだったが、いつの間にか自分で話し始め次々と女性の名前をあげてしまう。そこへ帝釈天の鐘の音が。リリーは寅さんの話を聞いて、私も恋をしたいと言い出す。皆からこれまでの恋の話をして欲しいと言われたリリーは、私の初恋の相手は寅さんかも、と話す。それを受けて寅さんの第一声「リリーしゃん」。舌が廻っていない寅さんだった(笑

 

 ここは名シーン。リリーしゃん、と呼んだ後、この店の人間は素人だから、と言い訳をする寅さんが微笑ましい。またこのシーンで見事なタイミングで帝釈天の鐘の音が入るが、本作では何度もこの鐘の音が実に見事なタイミングで鳴らされる。

 

 その夜、リリーはとら屋に泊まることに。隣の部屋で寅さんが寝ていると聞いたリリーは何度も寅さんの名前を呼ぶことに。その度にそれに答える寅さん。

 

 そして終盤へ

 北海道の栗原からお礼の手紙が届く。さくらが兄が世話になったからといろいろと贈り物をしたことに対するお礼だった。寅さんは返事を書こうとするが、結局さくらが代筆することに。

 さくらの家。さくらは博とリリーのことを話す。さくらはリリーは賢い人だから自分で幸せを見つけるはずだと語る。

 寅さんは源ちゃんを使ってバイをしていた。その頃リリーは母親会いに行っていた。金をせびられた上で自分の店に来なかったことを母親になじられたため、リリーは怒ってアンタなんていなくなればいいと思っていると話してしまう。

 その夜、遅くにリリーが酔っ払ってとら屋へ。寅さんはなんとかリリーの相手をしようとするが、リリーは旅に出ようと寅さんを誘う。しかしもう夜更けで汽車もないと答える寅さんだったが、リリーは寅さんにはこんな良い家があるんだものねと言い大声で歌い出してしまう。ここは堅気の家だと止める寅さんと言い合いになるリリー。最後に「寅さん何も聞いてくれないじゃないか、嫌いだよ」と言って出て行ってしまう。

 

 お互いが似ていることに気づいている二人。しかしリリーが母親とのことがあり酔っ払いとなり深夜のとら屋を訪ねても、寅さんは酒を飲ませようとするだけで、普通とは異なるリリーに何があったのかを尋ねようとはしない。いつもの寅さんなら、どうした、の一言があっても良さそうに思うが、この後の展開のためか、何も言わない。そんな寅さんにリリーは怒りを爆発させ店を去ってしまう。

 

 翌日、さくらは一連の話をおばちゃんから電話で聞く。そして寅さんが出かけたことも。寅さんはリリーのアパートを探したどり着くが、もぬけの殻で、隣の住人から今朝方出て行ったと聞く。

 上野駅の食堂。さくらが寅さんのカバンを抱えて入って来る。寅さんはリリーがもしとら屋を訪ねて来た時のことをお願いし、満男にこずかいをやろうと財布を出す。しかしさくらはその財布を取っって自分の財布から金を入れる。

 季節が変わり、夏。とら屋ではめぐみが待っていた。そこへさくらがやって来て、リリーからの手紙を読む。歌手をやめ店の女将さんとなっているとのことだった。さくらはリリーを訪れる。リリーは結婚し夫と一緒に寿司屋をやっていた。リリーは本当は夫より寅さんが好きだったと話す。さくらは寿司を買って帰り、とら屋の皆にその話をする。おいちゃんはそれを寅に聞かせたかったと話す。その頃寅さんは北海道の栗原家の農家を訪れていた。

 

 正月にTVでリリー3部作を連続放送していたので録画、今回それを観ることに。

 シリーズ第11作にして、リリー4部作の1作目。男はつらいよはマンネリだと言われながら、どの話も展開の上手さが特徴的だが、その中でも本作の展開は実に見事。

 観客は定番シーンを好むと思うが、その中の一つが、寅さんがとら屋を出て行こうとしたところへ、マドンナがやってきて、寅さんが手のひらを返しとら屋に戻って来るシーンだと思う。本作でもそれが行われるが、ここに至る過程が上手い。

 冒頭、寅さんは一度とら屋へ戻ってきている。しかし法事やピアノのことがありとら屋を出て北海道へ。そこでリリーと出会い自分の生活を見直すために農家で働くが、そこでダウンしたため、さくらによりとら屋へ連れ戻されているのだ。

 ここまでの流れ、法事(笑)→ピアノ騒動(悲)→マドンナとの遭遇(喜)→農家でダウン(笑)と、喜劇と悲劇を繰り返し、定番のマドンナをとら屋へ迎えるシーンとなっている。

 マドンナがとら屋に来たら、定番は夕食シーン。本作では寅さんの恋の遍歴からマドンナの恋物語へと展開、リリーが初恋の相手は寅さんかも、と話す流れ。ここまでの10作品で、寅さんがマドンナから愛を告白されるのは初めてだろう。前作10作での千代にほのめかされるシーンはあったけれど。

 

 そして定番マドンナとの別れ。リリーが母親に会いに行ったシーンからの深夜のとら屋。ここまで見せて来た自由奔放なのとは少し異なるリリーの態度、観客はリリーに何があったか知っているため違和感はないが、とら屋で寝ていた寅さんにはそれがわからなかった。その不満をぶつけたリリーは去って行ってしまう。ここも非常にわかりやすい別れの理由となっている。珍しいのはリリーが去った翌日、寅さんがリリーのアパートを訪ねるシーン。いつもならフラれたと判ればサクッと旅に出る寅さんだが、アパートまで訪ねるのは非常に珍しいと思う。

 

 ここまで10作品のマドンナとは全く異なるマドンナ像を築き上げたリリー。ラストで別の男と結婚している姿を見せるのも珍しいが、ここまで描かないとリリーと寅さんの仲が終わったことをしっかり示せないからなのだろう。

 しかし2年後、4作品後の第15作でリリーは戻ってくる。山田洋次監督、リリーという大鉱脈を掘り当てたことに気づいたのだろう(笑 後2作品あるので、リリー3部作を楽しんで観ることにしよう。