●八丁堀殺し 小杉健治
南町奉行所の風列廻り与力青柳剣一郎が事件を解決していくシリーズ物。
奉行所騒然
剣一郎は同心磯島と只野との見回りの最中、原金之助が何者かに斬られた現場に遭遇。犯人を取り逃がすが、現場に「熊」と書かれた紙が残されていた。
指物師英五郎の弟子伊助は、2年前男を作って出て行った妻お新が、男と別れ八王子で病に伏せている聞き会いに行く。しかしお新の病を治すためには5両の薬が必要だと言われる。英五郎はそれを聞き、以前仕事をした長崎屋の主人惣右衛門に頼めばなんとかなると話す。伊助は長崎屋へ行くが、主人は留守で、内儀おまきには借金を断られる。その夜、伊助は包丁を持って長崎屋へ潜り戸からおまきと侍が出てきたため、家に入り10両を盗む。おまきと番頭に見つかり、伊助は番頭を刺して逃げる。店に帰った伊助は英五郎に全てを話し、お新に金を届けたら自首すると約束、英五郎は10日以内に変えること、5両は置いて行くことを条件に伊助を八王子へいかせる。
同心大井武八が事件を調べ、岡っ引きの忠治が英五郎の店と伊助の家へ。そこで英五郎が嘘をついていたことがわかり、大井と忠治は英五郎の店へ。そこで5両を発見、英五郎が伊助に盗みに入らせたと考える。英五郎は10日待ってくれと話すが、そこへおまきが来て、店に押し入ったのは英五郎だと証言、英五郎は捕まってしまう。
剣一郎は原が斬られた際、熊と書かれた紙が残されていたことを左門に話し、罪人の中に熊の字がつく者がいないか尋ね、熊五郎という罪人の名前を聞く。剣一郎は英五郎が捕まったことを聞く。以前仕事を頼んだことがある剣一郎は、英五郎がそんなことをするはずがないと思い、大井に事情を聞く。
伊助はお新を診た医師から、あと10日の命だと言われ、やけ酒を飲み、店でおらくという女と知り合う。
剣一郎は英五郎の妻に会い、英五郎が伊助を弟のように思っている話を聞く。
その後、お新は死んでしまう。伊助は酒を飲むが、おらくと再会、彼女は江戸に変えるなら一緒に連れて行ってくれと頼む。
剣一郎、起つ
剣之介はお志乃と出かけた帰り、浪人たちに絡まれ斬り合いになる。それを葛城が居合で助ける。葛城は以前お志乃の父の配下だった男だが、女とのことで事件を起こし浪人となっていた。剣之介はお志乃を家まで送るが、志乃の女中およねから、志乃の母親が与力の息子と付き合うことは許さないから今のうちに別れた方が良いと言われる。
剣一郎は伊助のことを調べ始める。お新という妻が春吉という男と逃げたことがわかる。奉行所に原を斬った犯人から文が届く。熊五郎を解き放たなければ次の犠牲者が出る、という内容だった。
剣一郎は与力宮島が斬られる現場に遭遇、犯人と相対し、相手は居合を使い逃げて行く。剣一郎はあとを追うが見失う。そこで大黒屋という古道具屋を見つける。剣一郎は文七を呼ぶ。春吉が江戸で目撃されたことを伝え、春吉を探させる。
伊助はおらくの元を離れられないでいたが、必ず戻ってくるからと江戸へ帰ることを決意し、おらくに告げる。
剣一郎は大黒屋のことを調べ、孫兵衛という年寄りが3年ほど前から店を構えていることを知る。
家に帰った剣一郎は剣之介に見習いとして奉行所へ出る話をするが、剣之介は自分は与力には向かないと答え、剣一郎を驚かせる。多恵がその場を収める。文七が来て春吉の居場所が判明、一緒にそこへ向かう。春吉からお新の居場所などを聞くが、同じ話を聞きに来た男がいることがわかる。剣一郎は文七を八王子に行かせる。
奉行所で熊五郎のことが調べられるが、腹違いの弟豪次郎が信州にいることがわかる。宇野は剣一郎に今回の事件の指揮を取るよう頼み、剣一郎は受け入れ、事件の指揮を取ることに。剣一郎は熊五郎と話をし、事件を起こしそうなのは、水茶屋のお貞という女だと聞く。
与力光岡が3人目の犠牲者となり、犯人の文も残されていた。光岡は高級料亭さわのからの帰りを襲われていた。剣一郎はさわので光岡のことを尋ね、よく使っていた船宿を教えてもらう。
文七が八王子から戻り、伊助が別の女と旅だったことが判明、さらに八王子にも伊助のことを調べている男が現れていた。剣一郎は英五郎に伊助が逃げたことを告げるが、英五郎はまだ伊助のことを信じていた。
居合の達人
伊助はおらくともに江戸へ。大家と会い、英五郎が身代わりとして捕まっていることを知る。伊助はおらくに全てを告白するが、自首するという伊助におらくは伊助がいなければ自分は死ぬと話す。
剣一郎はお貞に会い事件に関係がないことを確信、再度熊五郎に会い、熊五郎が捕まった事件の元となった与助、与助と出会った屋敷の御家人三田村大吉の名前を聞き出す。
剣之介はお志乃と会うために街へ。しかし会うことはできず、葛城と再会。居合を教えて欲しいと頼み、両国の常磐津指南の家を訪ねてこいと言われる。
伊助とおらくは突然男に襲われるが、なんとか逃げる。翌日も襲われるが、2人を文七が助け、2人は剣一郎の屋敷を目指す。
剣之介は両国に葛城を訪ねる。葛城は剣之介を吉原へ連れて行こうとするが、いつかの浪人たちと遭遇、葛城は浪人たちを居合で斬り捨てるが、それを見ていた剣之介は父を襲った男が葛城だと確信する。
剣一郎は文七から伊助たちを見つけたことを聞く。2人は剣一郎の家を目指したはずだが、伊助はまだ来ていなかった。そこへ大井が来て、与助には火盗改が張り付いていると知らせる。剣一郎は大井から、長崎屋の事件の詳細を聞き、不審な点があることに気づく。剣一郎は長崎屋へ行き、事件の話を聞くが、惣右衛門と妻が何かを隠していると考える。剣一郎は火盗改の筧に会う。筧は与助が盗賊むささびの千蔵一味だと考え泳がせていた。話を聞いた剣一郎は、与助が盗品を大黒屋で売っているのではと考え、与助から手を引くことに。
筧と別れた剣一郎は居合の男に狙われる。そこへ剣之介が来たため男は逃げる。剣之介は男が葛城であると話す。家におらくがやってきて、剣一郎は話を聞く。おらくはまたも襲われ、逃げている途中に伊助と離れ離れになったと話す。
月下の銃弾
剣一郎は長谷川から捜査の遅れを指摘されるが、奉行失脚が犯人たちの狙いかもしれないと話し長谷川を驚かせる。剣一郎は同心たちから、大黒堂と長崎屋が関係していること、葛城が士籍を剥奪された経緯を聞く。剣一郎は葛城のかつての上司小野田から、葛城が与力と女を奪い合ったことがあることを聞き出す。
伊助は何者かに刺され川へ逃げたところを瓦職人の仁蔵に助けられていた。怪我のため動けない伊助は事情を話し、剣一郎への使いを出してもらう。しかし伊助を診た医者のところへ伊助を探している男たちが来たと聞き、伊助は仁蔵の家から逃げるが、男に見つかってしまう。
仁蔵の使いから話を聞いた剣一郎は伊助を探しに行き、襲われている伊助を発見。剣一郎は男が長崎屋に頼まれたのではなく、頼んだ人間はもう死んでいると聞く。剣一郎は男、始末屋の巳之吉を倒し、伊助におらくも無事だと伝える。
同心たちが、巳之吉が与力光岡と会っていたのを目撃したことがあると剣一郎に話す。剣一郎は光岡が長崎屋と親しかったことを知り、長崎屋へ伊助が行った際に何かを目撃したため、命を狙われたのだと確信、長崎屋を罠にかけるため、長崎屋へ出向き、大黒屋を調べると話す。その直後、大黒屋は何者かに殺されていた。
剣一郎の家に、剣之介を預かったという葛城からの文が届き、剣一郎は一人指定された場所へ。葛城と勝負となり剣一郎は葛城を倒すが、そこには長崎屋惣右衛門がいた。惣右衛門は全てを話す。光岡が長崎屋の盗品買いを黙認している代わりに長崎屋から大金を受け取っていたこと、しかし光岡がもっと金をせびり始めたこと、光岡が惣右衛門の内儀で密通していたこと、その2人がいるところを伊助に見られたこと、それにより光岡が始末屋を使い伊助の命を狙ったこと、連続した与力殺しは本当の狙いが光岡だと悟られないためにしたこと、番頭を殺したのは伊助ではなく、密通を悟られた内儀の仕業であること、など。全てを話し終えた惣右衛門は剣一郎を短筒で狙う。しかし剣之介も割って入り、2人で惣右衛門を倒す。
左門の手により、英五郎と伊助の詮議が行われる。再会を喜ぶ2人に左門は、伊助は番頭殺しをしていないこと、よって江戸払いになることなどを話す。
剣一郎の家に亡くなった原の弟金次郎がやって来て、絵師になる夢を諦め、兄の跡を継いで与力になると話す。さらに兄の嫁を娶ること、多恵がその相談に乗っていたことを話す。
シリーズ3作目。
今回は、剣一郎の同僚の与力が次々と殺される事件が発生。犯人は牢にいる囚人の解放を要求してくるが、囚人がらみで犯人の手がかりは得られず。一方、長崎屋へ強盗に入った事件が犯人である伊助の視線で描かれる。病床の別れた妻のために伊助は強盗をしたが、番頭を刺してしまう。治療費を届けたら自首するという伊助を親方英五郎は見逃すが、その英五郎が長崎屋内儀の証言で捕まってしまう。与力殺しの指揮をとることになった剣一郎は、知り合いだった英五郎のことも気遣いながら、事件を解決していく、という話。
与力殺しの手がかりがなかなか見つからないという展開は、前2作と同じ。このシリーズは2つの事件を並行して描き、その2つが最後につながっていく、というのが売りのようだ。もう1つの伊助の事件では、伊助が病床の妻を亡くすが、知り合った女のため、自首するのが遅れてしまう。与力殺しの手がかりもない上、伊助の行動にも読者はイライラさせられる(笑 著者のこの辺りの展開のさせ方、上手いよなぁ。
ちなみに、与力連続殺人の動機は、クリスティの有名な作品と同じもの。まさか時代小説でこのトリックが使われるとは。あの作品も3件目の殺人の関係者が犯人だったし。ポワロよりも100年以上前にこの謎を解き明かした剣一郎はさすがである(笑
このシリーズのもう1つの見どころは、剣一郎の家族であるが、今回は妻多恵ではなく、息子剣之介の恋と彼が出会う居合の達人葛城が見どころとなる。剣之介の恋の相手、お志乃付きの女中から、2人の恋は身分格差があるため成就しないとハッキリ言われてしまう。それに悩んだ剣之介は父剣一郎に自分は与力には向かないと話し、剣一郎を混乱させる。
これまでそれなりの数の時代小説を読んで来たが、与力や同心の息子が跡を継がないと断言するシーンは読んだことがない。この後長く続くシリーズでこのテーマはなかなか重いと思うのだが、どう展開していくのだろう。
物語のラストは、見事な大団円。自分は死罪になると思っていた伊助、実は人殺しではなかったと判明、ある意味身代わりとなってくれた英五郎と喜ぶシーンは、落語の人情噺を読んでいるような気分させてくれた。
シリーズ3作目だが、完全にシリーズのフォームが出来上がった感じがする。これはこの後の作品も楽しんで読むことができそうだ。