枕草子つづれ織り 清少納言、奮闘す 土方洋一

枕草子つづれ織り 清少納言、奮闘す 土方洋一

 大学教授である著者が、枕草子を随筆ではないと論じる一冊。学術的な視点から枕草子を読み解き、なぜ清少納言枕草子を書いたのか、そこにはどんな意味合いがあったのかを解説していく。

 

 本作は4章で構成されている。

 「第一章『枕草子』に近づくために」では、枕草子の形式について解説。類聚的章段、随想的章段、日記的章段の3つに分類できるとする。一般的な知識らしいが、このような分類があることさえ知らなかった。「言われてみれば」という感じ。さらに章の終わりでは、清少納言の随筆ととらわれがちな枕草子が公的な制作物であったと論じられる。

 「第二章類聚、そして随想」では、3つの分類の中の類聚的章段からはじめ、枕草子がなぜ書かれるようになったのか、清少納言に与えられた使命は何だったのかを解き明かす。清少納言が書き始めた当初とその後では、書かれた理由が異なってきたという論はなかなか面白かったが、この第二章では、書かれた理由が次々と変化しており、ちょっと無理筋にも感じてしまった。3つに分類しなければいけないほど、様々な文章があるわけで、著者はその全てが必要だった理由を述べているのだが…。

 「第三章 中宮に仕えた日々」は本作の中で一番面白かった部分。日記的章段に注目し、清少納言枕草子を書くことで果たした役割、また後宮で果たした役割を論じる。いくつかの章段の原文と解説があるのだが、これまで読んだ2冊の解説本よりもさらに詳しくその章段が書かれた背景に触れており(当然清少納言はそこまでは書いていない)、ちょっと読んだだけでは突然何を書いているのかと思うような章段の背景を知ることができ、興味深かった。

 この章では、中宮定子が没落した後のことや定子が亡くなった後について清少納言枕草子に書かなかったことが明かされる。

 「第四章 草子のゆくえ」では、中宮定子が亡くなったあと、枕草子がどうなったのかについて著者が独自の考察をしている。枕草子に書かれた章段の登場人物の位に着目し、間違いなく中宮定子が亡くなった後に書かれた(もしくは修正された)章段があることから、中宮定子が亡くなった後にも清少納言?が枕草子を書き続けた(修正し続けた)ことを紹介している。また現在我々が読んでいる「枕草子」がどのように完成?したのか、どのように引き継がれたきたのかまで。一見バラバラのことが書かれている枕草子がどのように成立したのか、について納得できる考察だった。

 

 本作の一番の見どころは、枕草子清少納言の個人的な日記のようなものではなく、役割を与えられた清少納言が公的文章として枕草子を書いた、という考察だろう。本作にも書かれているが、一見個人的な自慢(中宮定子との仲の良さなど)と思われがちな文章があるが、それもこの考察の視点から見ると全く異なるように思える。1人の学者の考察なのだろうが、素人の自分には十分納得できるものだった。

 

 それにしても本作は、今年の大河ドラマを見る前に読みたかった(笑