若き人々 武者小路実篤

●若き人々 武者小路実篤全集 第八巻より

 中尾広太郎は26歳の創作家。山田、上岡、寺元という良き友人に恵まれている。中尾は街で偶然会うことしかできないたか子に惚れているが、声をかける勇気などはなく、街で偶然会ったことを友人たちに嬉しそうに語るのだった。

 ある時中尾の父が彼のために見合い写真を持ってくる。たか子に惚れている中尾は気が進まず、その写真を寺元に見せ、見合いを勧める。寺元はその女性を気に入り見合いをすることに。しかしその女性の悪い噂を立てる男が現れる。中尾たちはその男を突き止め、話に行く。その男、相沢はその女性に心底惚れており、寺元がその女性と結婚するなら寺元を殺すと脅してきていた。中尾や山田は相沢と話し、女性のことを諦めるように説得するが、相沢は聞く耳を持たなかった。その女性に一方的に恋し、自分と結婚することだけがその女性が幸せになる方法だと考えている相沢に、中尾はいつしか同情し始めてしまう。

 ある時、中尾の家に夏山という男性がやってくる。彼は中尾が書いた小説を芝居にしたいと申し出てくる。中尾は喜んで了承し、彼らの芝居の稽古を見に行く。そこで入江という女性と出会う。中尾は入江が夏山に惚れていること、しかし夏山には婚約者がいることを知る。さらに中尾は夏山と話し、彼も入江に惚れていることを知る。

 中尾は入江と一緒になることを勧めるが、夏山は婚約者に悪いと言う。中尾は見合いをしても相手のことが気に入らないで1人のままの上岡にその女性を紹介することを思いつく。

 中尾は街で入江に会い、夏山のところへ行く途中にたか子と出会う。すると入江はたか子に話しかける。2人は学校の同級生だった。中尾は入江に自分のたか子に対する気持ちを書いた手紙を渡してもらうことに。返事がきてたか子も自分のことを想ってくれていることを知った中尾は大喜びする。しかしたか子は父の作った借金のために、他の男と一緒になることを親から求められていた。

 金のない中尾は苦しみ、山田に相談する。山田はかつて中尾のことを認めた老人からお金を預かっていることを中尾に話し、その金でたか子の父の借金を返せば良いと話す。その通りにした中尾はたか子とめでたく結ばれることに。

 

 

 ネットで実篤のことを調べていた時、偶然この小説があること、さらにこの小説が「お目出たき人」の裏バージョンのような話だと知った。で図書館で全集を借りて読むことに。

 

 1926年に書かれたもの、ということで私が好きな「若き日の思い出」や「幸福な家族」よりもだいぶ前に書かれた作品になる。そのため、旧かなづかいで書かれており、最初は読むのに戸惑ったが、慣れてくればスラスラ読めるように。

 

 作品は実篤自身が冒頭で「この小説はめでたしで終わっている」と書いているように、主人公の恋が実って終わる、というハッピーエンドであり、上記した2作品と同じような展開である。

 上記2作品を彷彿とさせるシーンも多い。主人公が相手の女性のことが好きだと告白できずグタグタと1人悩むところや、女性に会いたいために街をふらふらと歩き回るが会えずにがっかりするところ、老人の描いた絵に感心するところなど。女性が親に別の男性との結婚を迫るところなどは「幸福な家族」でも使われている設定である。

 

 ただ2作品に比べると冗長すぎる。全集スタイルの単行本で約200ページ。同じ全集8巻に収められている「棘まで美し」が約70ページであり、新潮文庫の同作品が約170ページであることを考えると、文庫であれば500ページほどの長さとなる。

 主人公のたか子への想いが中心だが、それ以外に寺元の妻となった女性へ横恋慕する相沢のエピソードや主人公が出会う夏山と入江の恋のエピソードなども描かれており、正直話がゴチャゴチャしている感は否めない。しかも実篤が冒頭だけでなく、クライマックスでも顔を出し、登場人物たちの恋の行方をあっさりと紹介しているため、恋の話も2作品ほど盛り上がっていない(笑 その後ラストは主人公と山田が例の老人の家を訪ね気分が高揚して終わる。

 

 しかしこの歳になって実篤の未読の作品を読めるとは思わなかった。この作品の約20年後に「若き日の思い出」が書かれ、その内容が相当磨き上げられたものになっていることを知り、感慨深い。いやぁ実篤やっぱり良いなぁ。