乱れる

●779 乱れる 1964

 スーパー清水屋の開店1周年セールを告げる宣伝車が街を走り回る。商店街の人々はそれを苦々しく見ていた。商店街の店では1個11円で売っている卵がスーパーでは1個5円で売られていた。

 バーでスーパーの従業員たちがホステスにゆで卵の大食い競争をさせていた。店の傍で飲んでいた森田幸司はそんなことは止めろとケチをつけ、従業員たちと喧嘩となる。

 酒屋森田屋に警察から電話が入り、嫁礼子は幸司を迎えに行く。帰り道礼子は幸司にお義母さんに心配をかけないように言うが、幸司は聞く耳を持たなかった。礼子が家に帰ると長女久子が訪れていた。彼女は夫を亡くし18年経つ礼子に縁談話を持ってきたが、礼子は再婚するつもりはないと断る。幸司は警察の帰り、商店街の主人たちと麻雀をしていた。そこでは、デパートが清水屋に対抗して新たなスーパーを作るという噂が出る。家に帰った幸司に礼子は店をきちんと継いでほしいと話すが、幸司は姉さんがしっかりとやっているじゃないかとごまかす。

 翌日、幸司が一緒に麻雀をしていた店の主人が自殺をしたと連絡が入る。新たなスーパーができれば店をやっていけないと絶望した末での自殺だと思われた。商店街の危機を目の当たりにした幸司は姉久子の夫森園に会いに行く。彼は前から森田酒店をスーパーにする計画を持っていた。幸司は計画には乗り気だったが、スーパーとなった後の礼子の立場を心配していた。

 店に若い女性ルリ子がやってくる。彼女は幸司が自分の家に忘れていった腕時計を届けにきたのだった。礼子は彼女を喫茶店に誘い話を聞く。彼女は幸司以外にも親しくしている男性がいると話す。その夜、久子の家に、母親、礼子、次女の孝子が集まり、店をスーパーにする計画を話し合う。問題は礼子をどうするかだった。久子たちはいずれ幸司に嫁が来たら礼子は居づらくなる、今のうちに再婚をして家から出て行ってもらおうと考えていた。

 幸司が夜パチンコの景品を持って家に帰る。礼子はルリ子のことを持ち出し、あの人はやめた方が良いと幸司に言う。そして転勤が嫌なのが理由で会社を辞めた幸司を非難する。すると幸司は礼子のそばにいたかったからと反論、礼子への想いを打ち明け、家を飛び出していく。幸司は酒に酔い家に電話をしてくる。礼子は家に戻ってくるように頼む。

 店の従業員だった川俣が店を辞めてしまい、幸司が店を手伝うことに。礼子は店でも家の中でも幸司を意識するようになってしまう。ある日、礼子は着飾って出かける、その時幸司に手紙を渡し、寺で落ちあうことに。礼子は幸司の好意は受け入れられない、常識があると話した上である決心をしたので止めないで欲しい、そのことは明日話す、この間の晩のようなことは口にして欲しくない、もしすれば私は死んでしまうと話す。

 翌日店を休みにし、久子、孝子が集まる。そこで礼子は家を出て故郷へ帰ること、好きな人がいることを話し、それに対する許しを請う。そして家を出て行く。幸司は家を出る礼子は見たくないので、母親に駅まで送るように言う。母親に見送られ、礼子は列車に乗り去って行く。

 礼子が乗った車内に幸司が現れる。彼は送って行くと言い礼子とともに旅することに。山形の先だという礼子の故郷まで上野で乗り換え一昼夜かかる旅となる。朝方、眠りに落ちた幸司の顔を見た礼子は涙ぐむ。それに気づいた幸司はどうしたのかと問うが、礼子は次の駅で降りましょうと答える。

 大石田の駅で降り立った二人はバスで温泉宿へ。礼子は部屋でこよりを作り幸司の指にはめ、明日家に帰るように言う。そして自分も女であり幸司の気持ちが嬉しかったと話す。幸司も家には帰らない、ずっと義姉さんと一緒にいると話し礼子を抱きしめキスしようとするが、礼子は堪忍してとそれを拒む。幸司はそんな礼子を見て宿を飛び出して行く。幸司は寂れた飲み屋で酒を飲む。そして宿にいる礼子に電話をし、女性がいっぱいいるバーで酒を飲んでいると嘘をつく。そして別の旅館にその女と泊まる、義姉さんは明日の朝一番のバスで旅立ってくれ、顔を合わせるのが辛いからと話す。

 翌朝、帰り支度をしていた礼子は窓の外で人々が騒いでいるのを目撃する。そこでは男たちが死体を運んでいた。その指にこよりが巻かれているのを見た礼子は驚き、表へ出て追いかけるが追いつかなかった。

 

 これまたタイトルすら全く知らなかった一本だったが、高峰秀子加山雄三の名前があったので観てみることに。

 昭和39年製作の映画だが、商店街の小売店がスーパーマーケット(この呼び方も古さを感じる)に駆逐され始めたのはこの頃だったのかと驚く。自分の子供時代、昭和50年代がその頃かと思っていた。

 映画前半は商店街にある小売店がスーパーにより商売の方向性を考え直さなければいけなくなる、という話。主人公の高峰秀子はそんな商店街にある小売の酒屋を仕切っている未亡人。夫を戦争で亡くし、というか夫が戦地に赴く前に結婚をしたが戦死してしまい、その家に残って18年間店を切り盛りしていた、という設定。戦死した夫を持つ女性にはありがちなことだったのかと思う。その主人公は義弟である加山雄三に店を継がせたいと考えているが、彼は大学を出てせっかく就職した会社も転勤が嫌で辞めてしまう、チャランポランな若い男性として描かれる。主人公が今後について話をしようとしても常にごまかし逃げてしまう。

 あぁ加山雄三の成長物語がこの後描かれるのか、と思いきや、映画中盤、加山雄三が高嶺秀夫への秘めた想いを告白して、物語は意外な方向へ展開していく。店や家の中で加山雄三のことが気になり始めてしまう高峰は一大決心をし、家を出て行くことに決めるのだった。

 ところがその高峰が故郷へ帰る列車に加山が乗り込んできて一緒に旅することに。ここでの列車内のシーンが興味深い。満員の列車、加山は高峰から離れた座席に座るが、時間の経過とともにだんだんと高峰の座席に近づいて行く。やがて二人は無言のまま見つめ合い、笑い合う。ベタな表現ではあるが、二人の距離が近づいたということなのだろう。そして奥羽本線に乗り換えたのち、二人は同じBOX席に座ることに。そして高峰の故郷を前にして列車を降り温泉宿へ。

 あぁここで二人が結ばれるパターンか、と思いきや、これまた予想を裏切るラスト。義姉への想いをストレートに出す義弟と世間の常識、これまで生きてきた時間が違うと義弟の想いを受け入れられない義姉。宿で高峰が作ってあげるこよりの指輪が出てきたのが突然だったが、ラストでそれが重要な役割を果たす。

 

 成瀬監督の作品は初めて観たが、wikiによれば「女性映画の名手」らしい。というか女性映画という言葉も初めて知った(笑 まだまだ観なくてはいけない古い邦画がいっぱいあるようだ。