●815 殿、利息でござる! 2016
「これは本当にあった話」との字幕。
ある男が銭を甕に溜め込んでいた。男が外を見ると、一家が夜逃げをするところを見かける。男は先代の浅野屋で、一家に「金を貸していたはずだ」と声をかける。
10年後、明和3年1766年。茶師である菅原屋は嫁なつを連れ、吉岡宿へ帰ってきた。吉岡宿は貧しいところだった。彼らを肝煎である遠藤が迎えに来た、と思ったら遠藤たちは菅原屋が乗ってきた馬を持って行ってしまう。
吉岡宿は仙台藩黒川郡にあり、上町中町下町で構成された宿場町だった。住民はほとんどが百姓だったが、田畑は少なく半分の住民は商売も行なっていた。さらにお上の荷物を運ぶ伝馬役を命じられており、その費用は村で負担するため皆貧しく、夜逃げする人々も多くいた。
村に伝馬役として代官の八島が訪れていた。穀田屋は伝馬に関する訴状を持って訴え出るつもりでいた。それに気づいた菅原屋はそれを食い止め、自分が京で関白家からもらった茶の命名書を代わりに見せることで難を逃れる。穀田屋は伝馬役にかかる費用のため村が潰れてしまうことを憂いていた。
菅原屋は茶を作るために田畑を買うために借金した浅野屋へ行き、利息だけを払う。その夜、菅原屋は飲み屋へ。男たちは皆ツケで酒を飲んでいた。そこで穀田屋と一緒になる。菅原屋は浅野屋の実の兄である穀田屋に、浅野屋の利払いは高いと文句を言う。穀田屋と利息の話をしていた菅原屋は突然閃く。お上は今金に困っている、そのお上に金を貸し、その利息を伝馬役の費用に当てれば良いと話す。1000両を貸せば毎年利息として100両を得ることができるはずだ、と。しかしそんな金はどこにもあるはずはなく、夢物語だと言う。しかしそれを聞いた穀田屋は驚く。
翌日菅原屋の畑に穀田屋が叔父を連れてやって来る。昨夜の話をしたところ叔父がその気になったという。1000両は5000貫、10人集まればなんとかなる金額だという。3人はそのような話ならばまず肝煎に話すべきだと、肝煎の家へ。年を取ってから子供ができた肝煎は将来の村のためだと話に乗る。ならば、と大肝煎に話すべきだと言う。大肝煎は40の村を束ねる役割で、将来は侍になると言われていた。大肝煎は話を聞いて感動する。自分が考えるべきことだったと言い、仲間になりたいと話す。
城では出入司の萱場が藩の財政を担っていた。政に多く金が必要だったが、萱場は借金をすることなど以ての外という考えだった。
1768年。お上は銭を作り始める。それを聞いた穀田屋たちは仲間がまだ10人集まっていなかった。とりあえず彼らは身代のものを売り金を作り始める。その様子に両替屋の遠藤が気づき肝煎に話すが、遠藤はそのうち穀田屋たちの企みを知る。そして皆が集まっているところへ出向き自分も一枚噛ませてくれと500貫を2口出すと話に乗る。これで集まった金は3500貫となった。
1769年。飲み屋で男たちが穀田屋たちの企みの噂話をしていた。中町の旦那衆が行っていることであり、上町や下町は加わっていないことから、バカにされる。噂は両替屋遠藤にも漏れてしまい、儲けが出ない話であることがバレてしまう。遠藤は話から降りると穀田屋に告げる。穀田屋たちは噂話があることを知り、誰に話したかを調べ始める。飲み屋の女将から善八にも話したことがわかり、穀田屋は善八も自分も男やもめであり、女将への結納金だと勘違いしていないかと心配する。女将はそれならば、と穀田屋に自分をもらってくれと話す。菅原屋は浅野屋にも話を聞く。ケチで有名な浅野屋だったが、兄である穀田屋が500貫出したと聞き、1000貫出すと話す。
菅原屋からその話を聞いた穀田屋は、自分への当て付けだと怒り、浅野屋が仲間に入るならば自分は降りると言い出す。菅原屋は穀田屋の家族への思いがわからず話を聞くことに。穀田屋は長男でありながら浅野屋から穀田屋へ養子に出されていた。子供の頃から父である先代浅野屋に小難しい本を読み聞かせられていたが、自分は逃げたが弟はそれを受け入れていたと話す。穀田屋は金はそのままで良いから自分の名前を外してくれと話す。
1770年。両替屋遠藤は寺に寄進をした際、和尚から穀田屋たちの企みの話を聞く。遠藤は企みが上手く行くかどうかと尋ねるが、和尚はうまく行くかどうかではない、自分はこの話を後世まで伝えて行く、これは街の誇りだと答える。
穀田屋たちは集まっていた。新たに集まった額も含め4000貫となっていた。そこへ和尚からの話を聞いた両替屋遠藤がやってきて500貫を出すことに。残りは500貫となり、浅野屋はさらに500貫を出すと言い始める。それを聞いた遠藤は浅野屋に食ってかかる。大肝煎は皆に慎むように言い、用意していた書「慎みの掟」を読み上げる。今後全てにおいて慎み、今回の件を口外しないというものだった。皆で連判し、5000貫が用意できたことを街の皆に口頭で伝えることに。
大肝煎が城へ書状を持って行く。代官の八島はそれを読み、相役の代官橋本へ持って行くように話す。大肝煎は山を越えなんとか橋本の屋敷へ。聞いたことのない願いだと橋本は話すが、すぐに口添書を書いてくれることに。しかし出入司の萱場は訴えを却下してしまう。
返事は大肝煎に伝えられる。彼は菅原屋にもそれを伝え、集まった金の利息を村へ還元すればと話すが、菅原屋は目的はお上をも助けることだと話す。
1771年。ある夜、善八が浅野屋へ侵入しようとしている男を発見、泥棒だと騒ぎ、村の皆で泥棒を捕まえる。しかし泥棒だと思った男は15年前に夜逃げをした忠兵衛だった。忠兵衛は夜逃げをしようとしていたのを先代浅野屋に見つかり、借金は棒引きにしてもらった上、さらに金をもらいこれまでよく頑張った、悪いのはお上なのだと話してもらった、と打ち明ける。忠兵衛は仙台に出て金ができたため金を返しにきたが、今の浅野屋も金を受け取らなかったため、密かに金を置いて来るつもりだったと話す。話を聞いた皆は浅野屋のことを勘違いしていたと気づき、浅野屋へ向かう。
そこで浅野屋は先代である父が甕に銭を貯めていたことを話し始める。自分の食事などを節約しその分を少しずつ貯めていた。それは村の伝馬を軽くしてもらおうとお上に訴えるためのお金で、全ては宿場町のためだった。先代は死に際に冥加訓の教えを息子に伝えていた。穀田屋は子供の頃その話を聞いていなかったと話すが、母きよは父と同じことをしている、やはり父に似ていると穀田屋に伝える。
菅原屋は大肝煎にもう一度訴えをするべきだと言い、浅野屋へ連れて行く。そこで穀田屋は弟である浅野屋が目が見えていないことに気づく。浅野屋はこんな自分を養子に出すことはできないと父は考えたのでしょうと話す。
1772年。大肝煎は代官の橋本へもう一度頼みに行く。そして浅野屋の先代が行なっていたことを話す。それを聞いた橋本は感動し嘆願書を書き直し、出入司の萱場に会いに行く。萱場は会おうとしなかったが橋本は粘る。そして大肝煎から聞いた先代の浅野屋のことを話す。萱場はやっと話を受け入れるが、5000貫の銭ではなく、1000両を持ってくるようにと話す。
橋本は吉岡宿へ行き話をする。皆は喜ぶが、お上が金を作った関係で、1000両の相場は5800貫になっていた。800貫が足りないことに気づき皆落ち込むが、穀田屋はこれは命綱だと話す。萱場は部下に本音を漏らす。5000貫では足りないことに気づいていたのだった。
足りない800貫をどうするかを浅野屋で話し合っていた。穀田屋は酒屋の蔵人たちの唄が聞こえないことに気づき店の奥へ。そこには酒もなく蔵人たちもいなかった。浅野屋は店はすでに潰れていると話す。それでも父の教えのため、500貫を出させて欲しいと話す。穀田屋たちはそれを受け入れる。
残りの300貫を巡って皆は300貫しか出していない早坂屋を飲み屋で問い詰める。しかし早坂屋はそれ以上出そうとはしなかった。早坂屋の子供が泣いたのを見て女将が私が出すと言い始める。店の客のツケを集め、50貫ができる。残りは250貫。
穀田屋の息子が仙台の店へ奉公に上がり、10年分の給金を前借りし250貫を送ってくる。これで5800貫が揃う。
1773年。1000両が萱場の元へ届けられる。そこで浅野屋が潰れたことも報告され、萱場は百姓にしておくのは惜しい男だとつぶやく。穀田屋たちは皆で萱場の屋敷へ。1人ずつ褒美金が出されるが、浅野屋はその場にいなかった。萱場は馬や駕籠を差し向けたはずだがと話すと、穀田屋は先代浅野屋の冥加訓の教えだと答える。それは馬や駕籠に乗ってはいけないというものだった。萱場は藩で一番駕籠に乗るのは誰だと思うのかと尋ねる。
褒美金を浅野屋へ渡しに行くが、村の人々に分けるべきだと浅野屋はそれも固辞する。皆はやはり思った通りだと話していると店の外が騒がしくなる。店に藩主がやってくる。藩主は馬にも駕籠にも乗らないと聞いたためこちらから出向いてきた、萱場のことは許せと話す。そして書を書く。それは3つの酒銘であり、それを作るように命じ、浅野屋は潰すことまかりならんと言って去って行く。
その後利払いが始まり、吉岡宿の伝馬の負担は減り、浅野屋の作った酒は飛ぶように売れ潰れずに済んだ。穀田屋は現在も営業中である。
歴史学者の磯田さんの原作と知って鑑賞。現在NHKBSで放送されている歴史バラエティを見て以来の磯田さんのファン。タイトルから江戸時代のお金がらみの話と思って観ていたが、物語としても非常に良く出来ていた。
宿場町に課せられた伝馬の役割の負担を減らすために、藩にお金を貸して利息を取る、という大胆なアイデアを実行しようとする庶民たちの、本当にあった話。結果的に必要なお金を集めるのに足掛け6年掛かっているのがリアル。フィクションの小説ならば、金持ちが出てきてあっさりと金が集まるのだろうが、5000貫を集めるのに四苦八苦する主人公たちも見もの。一方で、最も金を出すことになる浅野屋についてのエピソードも秀逸。幼い頃に養子に出された穀田屋の話と浅野屋が代々秘密にしてきた話が終盤明かされる展開は見事としか言いようがない。原作の小説は読んでいないが、ここまでが原作通りの物語だとしたら、磯田さんの小説家としての腕も一流だと思う。
物語としては、冒頭の先代浅野屋のシーンが見事な伏線となっているし、度々登場する飲み屋(エンドロールでは「煮売り屋」となっていた)の女将が最後にツケを提供するエピソードも面白い。萱場が冷酷な態度を取り続けるのは実話なのだろうか。それに対し、ラストで藩主が登場し大団円に終わるのは実話なのか創作なのかと考えてしまうが、そんなこちらの気持ちを吹き飛ばすような藩主の羽生くんの登場。羽入くんの出演は地元仙台のために、という志だったようで、これも見事。
磯田さんが小説にしなければ地元の一部の方しか知らなかったであろうエピソードが見事な映画として観ることができたことに感謝。