ハドソン川の奇跡

●276 ハドソン川の奇跡 2016

 USエアウェイズ1549便がハドソン川に不時着する。乗客155名の命を救ったとして同機のサレンバーガー機長は英雄とされる。事故の調査が国家運輸安全委員会(NTSB)により行われ、機長とスカイルズ副操縦士に対し、人的要因がなかったかどうかの取り調べが行われる。委員会のメンバーは、残されたデータから、飛行機が空港に引き返すことができた可能性を示唆する。

 サレンバーガーは調査のため、家に帰れなかった。彼が英雄扱いされ彼の家族もマスコミに追われることになる。サレンバーガーも妻もその生活に疲れていた。

 サレンバーガーとスカイズルはTV番組にも出演、英雄扱いは相変わらずだったが、委員会の調査も継続される。委員会メンバーはデータから左エンジンが作動していたと話す。サレンバーガーは両エンジンとも故障していたと反論するが、該当のエンジンは消失しており、証明できなかった。委員会はデータからコンピュータシミュレーションを繰り返し、飛行機の空港への着陸が可能だったとの結論を出していた。

 サレンバーガーは妻と電話で会話をするが、2人とも不安を隠せなかった。

 USエアウェイズ1549便離陸前から事故までの過程が描かれる。機長室の会話、客たちの様子、客室乗務員の様子、そして鳥衝突、管制室とのやりとり、操縦席の対応、など。

 サレンバーガーは夜の街を走りながら、昔のことを思い出していた。そしてバーに行き、酒を飲みながら、事故の様子を映し出すTVを眺める。

 また事故当日の様子が描かれる。今度はハドソン川を運行する船、NY市警航空隊、川への不時着、不時着後の機内の様子、客や乗務員の対応、船や航空隊の救助の様子、事故を伝えるマスコミ、事故直後のサレンバーガーと妻の電話での会話、そして事故後にサレンバーガーとスカイルズがホテルで休むまで。

 場面はバーでTVを見ているサレンバーガーに戻る。彼はTVキャスターが言った「タイミング」という言葉に引っかかり店を出る。そして同僚に電話をし、2日後音声記録を聞く前に操縦士によるシミュレーションを見たいと相談する。

 そして公聴会が開かれる。操縦士によるシミュレーションでもコンピュータのシミュレーションと同様の結果、つまり飛行機は空港に戻ることが可能だったとの結果が出る。しかしサレンバーガーは、事故当時の自分たちとシミュレーションを行った操縦士との違いを指摘する。その結果35秒の考慮時間を設定し、再度シミュレーションが行われる。その結果、シミュレーションでは空港へ引き返すことはできなかった。

 続いて当日の音声記録を聞くことに。その結果、委員会メンバーはシミュレーションと実際が異なることを認め、また左エンジンが発見され故障していたこと、データが誤りであったことを認める。そして奇跡の要因を機長だと発言する。しかしサレンバーガーはそれを否定し、副操縦士、客室乗務員、救助に駆けつけた人々、管制官たち、フェリーや潜水班をあげ、全員が力を尽くしたからだと話す。

 

 実話の映画化。この事故は知っていたし、映画化されたことも知っていたが、もっと異なるものを想像していた。もっと映画らしくドラマっぽくするのかと思っていたが、実に淡々と事実を並べることで、この「奇跡」を映画としていた。

 wikiには委員会の調査は映画ほど酷くなかった、と書かれているが、映画の中の委員会の調査もさほどひどいとは思わない。怖いのは、シミュレーションが完全だと思う人の考え方である。数字だけが真実ではなく、その数字の向こうに人間がいる場合は、数字だけを見てもダメだ、という至極当たり前のメッセージがこの映画のラストに込められた思いなのではないか。

 それにしてもラストのトム・ハンクスの冷静なセリフは泣かせる。さらにその後本物の機長と乗客たちが登場するのも粋な演出だと思う。また1本イーストウッドの傑作を観た。