●劇場の迷子 戸板康二
歌舞伎界の老優中村雅楽シリーズの4冊目にして最後の短編集。前作よりも多い28話の短編が収められている。作品発表は1977年から1991年まで。
前作よりさらに多い28話もあるが、中には数ページの超短編もある。全体的にこれまでよりも1話1話が短くなったようにも思う。それでも小説としての切れ味は変わらない。事件性のある話が少なくなっているため久しく登場していなかった江川刑事が本作では少し活躍の場を見せる。
「いつものボックス」では、刑事になりたい少年が登場、雅楽たちがいる前で発生した不思議な事件?をその彼が解決するが…というストーリー。しかし雅楽が見事にその謎を解くのだが、その後に江川刑事が雅楽の謎解きに関係するある事柄の真実を見事に見抜き、雅楽を真っ赤にさせる。ラストの江川刑事のセリフがまた痺れさせてくれる。
もう一つ大きな特徴は、「日常の謎」シリーズと言われているこの中村雅楽シリーズであるが、本作ではその後半で謎そのものがあまり扱われなくなってきていること。「謎」というより、雅楽が仲間たちや友人たちのために一肌脱ぐという、どちらかと言えば「人情噺」に近いものになっている感じがする。27話目にあたる「むかしの弟子」などは不覚にも読んでいて涙ぐんでしまった。
余談だが、youtubeで中村雅楽作品が40年ほど前にドラマ化されたものを観た。原作とはかけ離れたラストの展開には驚いたが、40年前なら仕方なしか。このドラマで江川刑事役をしていたのは山城新伍さんなのだが、本作のある1編で、「山城新伍に似た江川刑事」という表現があり、さすがに笑った。
これで短編集は終わり。残っているのは長編1冊。読みたいような、読んで終わりにしたくないような。
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