まんぞく まんぞく

●まんぞく まんぞく 池波正太郎

 堀真琴は見舞いの帰り道で浪人に襲われる。供の山崎金吾は殺され、真琴も犯されそうになる。そこを医師で剣士の関口元道が通りかかり浪人の鼻を切り捨て真琴を助ける。関口に呼ばれた御用聞きの友治郎は浪人のことを調べる。後日真琴に呼び出され、敵討ちがしたいと相談されるが、浪人たちの手がかりは何もなかった。

 9年後、真琴は女剣士となり、伯父の元中間万右衛門とその姪と暮らしていた。真琴は伯父である堀内蔵助の養女となり腕を磨いていた。伯父内蔵助は真琴に婿をとり家を継がせる考えだったが、真琴は自分を打ち負かす男でないと承知しなかった。婿候補が何人も真琴に挑んだが、いずれも打ち負かされていた。

 父の顔を知らない真琴は実父のことを内蔵助に尋ねるが内蔵助は答えをいつもはぐらかしていた。そのことや9年前のこともあり、真琴は男性に不信感を持っていた。そして夜侍をからかい、髷を斬るなどのいたずらまでしていた。

 そんな真琴にまた織田平太郎という婿候補が現れる。しかし織田は真琴の立会の場で「このような女抱く気もせぬ」と話し去ってしまう。屈辱を味わう真琴、またも侍相手に鬱憤を晴らそうとするが、その姿を以前髷を切った侍の仲間井戸に見つかってしまう。井戸は髷を斬られた戸田に知らせる。戸田は真琴への復讐を誓う。

 ある夜万右衛門の家が悪漢に襲われる。寸前で気がついた真琴が彼らを追い払う。彼らは戸田に雇われた男たちで、真琴の腕が立つため、万右衛門たちを人質にしようと考えたのだった。万右衛門誘拐を失敗した戸田は、新たに剣士を雇うことに。その男滝は9年前、真琴を襲い鼻を斬られた男だった。

 内蔵助は病気が悪化していた。一刻も早く後継を得たい内蔵助は、織田のことを聞きつけ対面する。その頃真琴は9年ぶりに関口に出会い話をする。関口は真琴に養女となったのは家を継ぐ覚悟ができたからではないのかと問いかける。

 関口と話した真琴は伯父の見舞いもしないでいた自分を悔い改める。しかし伯父の使いの者から織田を新たに養子として迎える、真琴が望むなら養女の縁を切る、と言われてしまう。その頃、御用聞きの友治郎は仲間から鼻のない浪人を見つけたと知らせを受け、その男のことを調べ始めていた。織田は養子の件を受け入れたが、真琴と一緒になることが内蔵助の本当の願いだと感じており、真琴と話す必要があると考えていた。

 万右衛門の家に使いが来て、万右衛門の妹が病で倒れたと知らせる。万右衛門と姪が家を空けた後、滝たちが真琴を襲う。強襲された真琴は滝に斬られそうになるが、そこへ織田が助けに入り、滝を討ち取る。織田の活躍により、戸田たちの悪行が明かされ罰せられることに。

 内蔵助の病状が悪化、真琴は会いにいき最後に話をした後、内蔵助は亡くなってしまう。年が明け真琴は男装を解き、織田の妻となる決心をする。その頃万右衛門は発作で倒れる。自らの寿命だと悟った万右衛門は、山崎との約束を思い出していた。それは真琴の父佐々木兵馬のことだった。佐々木は山崎の友人で、内蔵助の妹と恋仲になってしまいそれを知った山崎が佐々木にこの地を去るように訴えたが、斬り合いになり山崎が佐々木を斬ってしまっていた。山崎と万右衛門は他の誰にもわからぬように佐々木のことを始末、しかし内蔵助の妹はすでに身ごもっており、それが真琴だった。真琴の母は佐々木が行方不明になったことを嘆き真琴を産んだ後間も無く亡くなってしまっていたのだった。

 

 年末にNHKBSで放送されたドラマの原作。ドラマはそれなりに面白かったのだが、どうも納得できないことがあり、原作を読んでみることに。

 ドラマのストーリーの大筋は原作と同じであるが、大きく異なる点が何点かある。

 まず冒頭襲われた真琴を救った関口という医師がドラマには登場しない。この関口は、真琴を救うことの他に、終盤自分勝手に生きてきている真琴の心を動かす、という大事な役どころがある。この関口が登場しないため、ドラマでは真琴の改心が描かれず中途半端な形で、伯父内蔵助と最後の面会をすることになる。

 また本作のメインとなる戸田と絡みだが、ドラマでは夜道で女性を襲っている戸田を真琴が助け、その際に髷を斬ったことになっていたが、原作では、真琴がいたずらに侍を相手に戦いを挑んだ結果として髷を斬っている。つまり、原作では真琴の方に非があるのだ。

 さらに、ドラマでも触れていた、真琴の実父の件。真琴は実父のことを話してくれない伯父に不満を抱くのだが、ドラマはそれで終わっており、真相は明かされない。原作ではラスト万右衛門が死を迎え、その真相が語られる。この真相があるからこそ、山崎金吾は誠意を持って真琴に接してきたのだ。この点が不明なため、ドラマでは真琴がなぜそこまで山崎金吾のための敵討ちをしようと考えたかがハッキリとしていなかった。

 そして最大の違いは、問題の敵討ち。ドラマでは負傷した真琴が助けに入った織田を退け、自ら滝を討ち果たすが、原作では助けに入った織田が見事に滝を討ち取っている。読者からすれば、危険な自分を救ってくれただけではなく、自分の代わりに敵討ちをしてくれた織田に真琴が惚れたのだ、と感じたのだが、ドラマではそれがない。だからかもしれないが、ドラマではその後、織田が改めて真琴に結婚を申し込むという場面が挿入されている。しかもその後の場面では、やはり真琴が織田よりも剣については強いということを示すシーンまで。うーむ、これでは話が全く違うことになってしまう。

 

 ドラマは1時間半であるのに対し、原作は約200ページの長編なので、アレンジは必要だったのだろう。女剣士が活躍する、という池波正太郎お得意のパターンを今風にアレンジしたのかもしれない。

 まぁおかげで池波正太郎の隠れた名作を原作で読めたから良しとしようか。