鍋奉行犯科帳 田中啓文

鍋奉行犯科帳 田中啓文

 大邊久右衛門(おおなべくうえもん)が大坂西町奉行として赴任してくる。彼は大食漢で美食家で大酒飲み。若い同心村越勇太郎はその様子に驚くが、勇太郎の母は昔芸子文鶴として名を馳せており、久右衛門とも知り合いだった。久右衛門の大食漢に振り回されながら、勇太郎をはじめとする同心たちが事件を解決していく。4編からなる短編集。

 

フグは食ひたし

 勇太郎配下の役木戸の蛸足の千三が行方不明になるが無事発見される。彼が目撃した男たちの怪しい行動が、千鳥屋の主人が行方不明になった事件と結びつき始めるが…

 料理は、文鶴のおはぎとフグ刺し。

 

ウナギとりめせ

 残虐で知られる盗賊くちなわの飄吉が現れ次々と殺人を犯す。同心たちの捜査はなかなか進展しない。勇太郎は菟念寺に墓参りに行くが、そこで和尚が夏痩せしていると聞く。久右衛門にそのことを話すと彼は寺に見舞いに行くことになるが…

 料理はうなぎを冷めずに食べる手段とウナギもどき。

 

カツオと武士

 辻斬りが連続で発生する。勇太郎が通っていた岩坂道場に大熊平蔵なる浪人が道場破りにやって来たが、その後道場に居座ることに。大熊が仇討ちの旅をしていると知った勇太郎だったが、その大熊が辻斬りと出会っていた…

 料理は鰹節の効用。

 

絵に描いた餅

 勇太郎は使いで菓子屋玄徳堂へ行き、主人の太吉が何者かに襲われているところを助ける。太吉は京都の菓子屋と菓子戦をすることになっていた。京都からの知らせで事情を知った久右衛門は太吉の味方となり、勝負に挑む。

 料理は上菓子。

 

 新しいシリーズものを探していたところ、ネットで評価が高かったので、約1年ぶりに田中啓文氏の作品を読むことに。

 氏の作品なので一筋縄でいかないのは十分承知。本作もタイトルに「犯科帳」とあるが、ミステリとしてや事件探索としては読まない方が良い(笑 タイトルの「鍋奉行」とある奉行久右衛門の大食漢としての迷走ぶりを楽しむお話であり、時代小説としては珍しく舞台となる大坂の事情などを知るお話である。

 ただ同時期にみをつくしシリーズを読み始めており、こちらも大坂出身の澪が江戸に来て大阪と江戸の食の違いに困惑する話だったので、内容的にはモロ被りで新鮮味にかけてしまったのが残念。それでも食以外で、これまで読んできた時代小説が江戸が舞台のものがほとんどだったので、大坂の時代背景などはなかなか面白かった。

 一応「犯科帳」であり、著者の食についてのウンチクもあり、著者得意の落語がらみの話も少しあり、さらに主人公?勇太郎の恋の話も出てくる。ただシリーズ最初の作品のためか、これらがごちゃごちゃしている感は否めない。この後もシリーズは続くようなので、気楽に読んでみようかと思う。