菜の花食堂のささやかな事件簿 木曜日のカフェタイム 碧野圭

●菜の花食堂のささやかな事件簿 木曜日のカフェタイム 碧野圭

 前作に続く、菜の花食堂シリーズ5作目、以下の5編からなる短編集。

 

こころを繋ぐお弁当

 店が駅前フェスティバルに参加、弁当を売ることに。イベント後、店に男性客が来て、毎日弁当を売って欲しいと頼む。その男性が弁当屋の主人だと気づき、事情を聞くことに。靖子先生は奏太という少年に店で手伝いをさせる代わりに料理を教えることに。

 

木曜日のカフェタイム

 食堂の近所の店で空き巣が頻発する。犯人は事前に客として様子を見に来ていたと聞く。優希は店に来て奏太に無駄に話しかける男性を怪しく思い始める。靖子先生の家へ浄水器の訪問販売がやって来た翌日、無事空き巣が捕まったが、客の男性は犯人ではなく、奏太の父親だと思われた。

 

キャラ弁と地味弁

 料理教室の生徒岸田さんが、娘が好きだったキャラ弁をもう作らなくていいと言って来たと先生に相談に来る。岸田さんは母として心配だと話すが、先生は大した問題ではないと考えいくつかのアドバイスをする。岸田さんの相談を聞いていた奏太の父がそれをバカにするが、先生は男性に厳しい言葉を投げかける。

 

インゲンは食べられない

 料理教室の生徒園田さんが婚活をし結婚が決まり、パートナーと食事に来る。その園田さんの愛犬が行方不明になり、相談に来る。そこへ奏太の母親が現れ、二人が同級生だったことがわかる。愛犬は見つからず困っている園田さんに先生は犬の譲渡会を調べるようにアドバイスする。

 

大根は試さない

 園田さんと奏太の母が店で結婚について話をしていた。優希もその話に巻き込まれる。後日優希はいつも通り川島の家へ料理を作りに行く。川島の母が送ってくれた野菜を料理していると、季節外れの大根が入っており苦味が強かった。その大根の料理を家に持ち帰り作り直したところ、川島が優希の家に花を持ってやって来る。

 

 シリーズ5作目。3作目までは毎年発刊、4作目で3年があいたが、本作も無事その翌年に発刊された。

 ストーリーはいつも通りの日常の謎系だが、新しく少年奏太が登場しレギュラーになりそうな予感。その奏太が登場する「こころを繋ぐお弁当」は、弁当屋の主人が菜の花食堂に弁当を頼みに来るという謎。

 「木曜日のカフェタイム」はその奏太に無駄に話しかける怪しい男性が登場、近所の空き巣話を持ち上がるが、先生が見事に犯人を捕まえる話。

 「キャラ弁と地味弁」は料理教室の生徒の娘が突如キャラ弁を作らなくていいと母親に話す謎。続く「インゲンは食べられない」も料理教室の生徒に起こる愛犬行方不明事件。ラストの「大根は試さない」は主人公である優希の恋が進展する話で、川島さんが持って来たバラの花束がキーワード。

 本作は「情けない男性」というのが裏テーマなのかも。奏太の父親、園田の婚約者などあまりにヒドい男性像として描かれる。最近小津作品を続けて見たので男性の情けない姿が描かれるのに敏感になったのかもしれないが。でもまぁ昔から男は弱い者だったという証拠か(笑

 

 これまでこのシリーズは、それぞれが独立した話となる短編集だったが、本作は1話目から3話目までが、奏太がキーとなる役割を果たす連作のような形となっており、4話目5話目も、料理教室の生徒園田さんの結婚話が優希にも影響をしそうな形になっており、ちょっと珍しい展開。

 1話目の弁当屋の主人が別の店に弁当を発注する、という謎は新鮮。ホームズ物にありそうな話で面白かったが、2話目以降の「空き巣」「キャラ弁」「愛犬行方不明」「花束の本数」はいかにも、な話であり展開は予想できてしまった。ただ本シリーズはそこが売りではないので問題ないが。

 

 食堂の様子と同様、静かに展開するシリーズだが、やっと主人公優希の恋に大きな進展があった。これがシリーズの今後にどのように影響していくのか。4作5作と毎年発刊されたので、次も近い機会に読めることを期待しよう(笑