柚木野山荘の惨劇 柴田よしき

●柚木野山荘の惨劇 柴田よしき

 猫探偵正太郎シリーズの第1作。正太郎は同居人(飼い主)の作家桜川ひとみとともに、桜川の友人であり作家の鳥越祐奈と白石淳弥の結婚式を行う地方の山荘に呼ばれ出かけていく。他にも作家仲間が編集者とともに山荘にやってくる。

 桜川は新婦鳥越から、自分のデビュー前の作品が盗作されたことを打ち明けられ、犯人探しのために夜のパーティで一芝居打ってくれと言われる。

 夕方山荘への道でがけ崩れが起こり、招待客が車で巻き込まれ怪我をする。仲間たちの救出で車の中にいた作家は助け出される。しかしその夜の山荘でのパーティで、桜川たちが一芝居打っている際に、その作家に毒物と思われる中毒の症状が発生、なんとか一命を取り留め、山荘に来てから口にしたものなどについて証言するが、夜になりその作家は死んでしまう。同じ車で来た編集者も同じような症状が出て死亡する。

 新郎への脅迫状も見つかる一方、死亡した編集者が最後に残した言葉から、3年前に自殺した同業者の死に関する疑惑も発覚。天候不良のため、警察に連絡してもヘリも山荘に来られない状況の中、新婦である鳥越が山荘裏の崖から転落死しているのが発見される。

 翌日やっと警察がヘリで山荘へ乗り込んでくるが、その時浅間寺は真相を見抜いていた。

 

 Amazonのお勧めでこの作家さんの別の本が上がって来て、知らない方だったのでその著作の中から、「猫好きならぜひ」と書かれているのを見て選んだ一冊。

 猫探偵と銘打ってあるが、探偵役は別に存在、ただ探偵役にもわからなかった事実を猫探偵正太郎が見抜く、という展開。

 

 非常に目新しいのは、猫目線で小説が書かれている点。それだけなら他にもあるだろうが、ミステリであるため、登場人物たちも知り得なかった事実を猫だけが知っているという描写があり、読者は登場人物よりも多くの情報を得ながら読み進めることができる。しかしここにもトリックがあり、新婦に届けられた脅迫状の内容がラストで明かされた時に驚きが待っている。見事な仕掛けだと思う。

 ミステリとしては、クローズドサークルもの〜がけ崩れで陸の孤島となった山荘で起こる連続殺人という形だが、トリックや動機を含めこの点はあまりレベルが高いものではない。犯行?に使われる毒物が非常に珍しいものなのが、話を複雑にしているだけ。

 

 それでも猫目線で語られる正太郎をはじめとするペットたちの会話が可笑しい。飼い主がそうだとペットまで関西弁になるのか(笑 そしてこのペットたちが人間の探偵役すらも見抜けなかった事実をラストで明らかにするのも目新しく、一種のどんでん返しとなっている。

 

 ミステリとして読むと物足りないが、「猫探偵もの」として読めば面白さは十分にある。そして本作にも使われたあるトリックのネタバラシを著者があとがきで書いているのには大笑いさせてもらった。

 この後もシリーズ化されているらしい。だいぶ古い作品だが読んでみる価値はありそうだ。