うちのカレー 食堂のおばちゃん7 山口恵以子

●うちのカレー 食堂のおばちゃん7 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

うちのカレー

 万里が作るカレーが常連客に好評となる。店に中条先生がやって来てメイのことを話す。二三が近所のノラ猫に手を引っかかれてしまう。はなが祖母の巡回医をしている山下先生を店に連れてくる。翌日曜日、二三の手が腫れ、緊急対応をしてくれる山下先生に連絡を取り診察してもらうことに。月曜無理して働こうとする二三のために万里は助っ人としてメイを連れてくる。

 

ぶっかけ素麺で行こう!

 常連客山手が不機嫌な様子で店に来る。息子に免許返納を言われたためだった。さらに高齢者が事故を起こす事件が起こりニュースとして流れる。山手の立場は悪くなるばかりだったが、山手の息子が酒を飲んで足をくじいてしまう。山手は息子の代わりに豊洲仕入れに行くことに。しかし後日山手は車で軽い接触事故を起こしてしまう。店に来ない山手の代わりに息子が店にやって来て免許返納を勧めるのは取りやめることにしたと話し、今後も父のことをよろしく頼みますと話す。

 

漬丼の誓い

 万里の調理師免許の試験が週末に迫る。店の皆や常連客が心配する中、メイが万里にお守りを渡す。その後にやって来たはなもお守りを持って来る。その夜、要も万里のためにお守りを買って来る。試験当日、試験会場に向かう電車の中で万里は横暴な老人が若者を叱責する場面に遭遇す、その若者が去り際に老人のステッキを蹴飛ばすのを目撃。会場でその若者に会った万里は若者に同情しつつも行動を諌める。数日後、店に来たはながブランド立ち上げが頓挫したとグチる。店の皆や常連客ははなにアドバイスを送る。

 

豚汁を止めるな!

 山手が店にやって来て、中条先生が事故にあって入院していることを告げ、メイにも知らせるようにと話す。それを聞いたメイは毎日見舞いに行く山手に味噌汁を作って届けてもらうことに。パン屋を営む宇佐美姉弟が店に来て、葛西にできた人気パン屋に行って店の方針を考え直そうとしていると話す。メイは味噌汁を作るだけではなく、右手が不自由な中条のために味噌玉を作る。調理師免許の合格発表があり万里は無事合格する。一子と二三はお祝いに高い店に行こうと万里を誘う。店に中条がやって来て、メイへの感謝と謝罪の言葉を話す。万里は自身の合格祝いにメイの店風鈴に皆で行こうと提案する。

 

危険なモンブラン

 12月初旬の土曜日、店を休んで万里の合格祝いのパーティが行われる。その後皆で風鈴へ。そこで中条先生とメイが和解する。店に万里が試験会場であった若者、円谷志音がやって来る。志音の故郷は台風被害にあった須賀川だった。一子と二三は名画座リバイバル映画を観に行く。帰りに日比谷のケーキ屋に行きお茶をしていたが、入って来た男性客が店員に悪態をつき始める。驚く二人だったが、そばにいた老婦人が男性を撃退する。老婦人は棒術の心得があったのだった。

 

 毎回書いているが、シリーズが進むにつれて本当にレベルが上がって来ている。本作はタイトルにもなっているカレーが全編を通じ店で話題となる。様々な人たちが自分の思い出のカレーについて語る。

 ストーリーとしては、メイと中条先生の和解と万里の調理師免許試験の2つがテーマ。どちらも無事に幸せな結末で終わる。特にメイと中条先生の件は、1話目で前フリがあり、4話目5話目で見事な大団円となる。特に5話目の風鈴での二人の会話は感動的。まさか本シリーズで泣かされるとは思わなかった(笑

 

 これらメインのテーマの他にもサブエピソードもあり。山手の高齢者免許返納問題はまさにタイムリーな話題。結局山手は免許返納をしないで済みそうな展開だったが、現実問題としてもこれで終わりとなる問題ではなく、今後も続きそうな話題。他にもさりげなく須賀川の台風被害も話題としているところが憎い。

 

 前作で登場したパン屋の姉弟もバーのマスターもすっかりレギュラーメンバーとなった。さらに万里が試験会場で出会った円谷志音も新たなレギュラーになりそうな予感。

 

 個人的には、生海苔の煮物に興味を持った。今度手に入れたら自分でも作ってみよう。