あなたとオムライス 食堂のおばちゃん8 山口恵以子

●あなたとオムライス 食堂のおばちゃん8 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

菜の花と婚活

 店で結婚のことが話題となる。その翌日辰波康平の両親が店にやって来て、息子康平の代理婚活を始めるつもりだと話す。瑠美は康平に日本酒に合うスイーツの企画の件で相談を持ちかける。康平はお見合いの相手と合うことが決まる。

 

牡蛎よ、さらば

 康平がお見合いの相手と会い、デートを重ねるようになる。また康平の両親が店にやって来て、康平の結婚話が進んでいないと愚痴る。話を聞いた二三たちは康平にお見合い相手を店に連れてくるように話す。康平が土曜日にお見合い相手の横井栞を連れてくる。それを見た瑠美は寂しそうだった。翌週、康平はまた栞を連れて店にやってくるが、男が栞に会いに来て二人は喧嘩を始める。翌日康平が店にきて、男は栞の不倫相手だったことを告げる。

 

いつも心に豆ご飯

 瑠美が店にうすいえんどうを持ってくる。それを使ったメニューが評判となる。久しぶりに円谷志音がやって来て、職場の上司高倉について愚痴る。その場にいたメイたちは仕事が嫌ならば自分たちの店で働けばと話す。その日の夜、警察から万里に電話が入る。志音が喧嘩をし捕まったとのことで身請人として万里が迎えに行くことに。万里は店に帰りづらいという志音をメイの店に預けることに。3日後、志音が店にやって来て職場に戻ると話す。メイの店風鈴で厳しい中で頑張るメイたちを見て、反省し考え方を変えたのだった。

 

椿油で縁結び

 コロナが日本を襲う。6月、はじめ食堂は金曜土曜を連休とし、店の慰安旅行に行くことに。熱海伊東への旅行には康平と瑠美も同行することになる。しかし瑠美は待ち合わせ場所に現れず、康平が瑠美を待つことにし、他の皆は先の熱海へ。遅れた瑠美たちと合流し、皆は熱海での観光や宿での時間を楽しむ。要が今の職場に採用された時のエピソードを語る。翌朝皆で来宮神社へ行き、おみくじを引く。

 

あなたとオムライス

 康平の瑠美のレシピ作りの手伝いが続き、店に来られない中、後藤がオムライスを注文、オムライスにまつわる亡き妻との思い出を話す。コロナでメイの店や中条先生のダンス教室も影響を受ける。暑い日が続く中、山手が一人で店にやってくる。いつも一緒の後藤は銭湯にも来ていなかったとのことだった。翌日開店準備をしていると山手がやって来て、後藤が亡くなったと話す。通夜が行われる。悲しむ後藤の娘、渚に一子が声をかけ、後藤は楽しい晩年を過ごしたと話す。通夜の後、皆で店に集まり後藤を偲ぶ。

 

 シリーズ8作目。最近のこのシリーズは、1冊を通したテーマが存在するが、本作のそれは康平の代理婚活。40歳を過ぎて結婚をしない息子康平を心配した両親が代理で婚活を始めるのだが、それを聞いた瑠美が寂しそうにするのが印象的。しかしその後、瑠美のレシピ作りを康平が手伝ったり、康平のお見合い相手に不倫相手がいたことが発覚したり。4話目では、はじめ食堂の慰安旅行になぜかその二人が同行する(笑

 二人が良い雰囲気となり迎えた最終話、コロナの影響がジワジワといろんな場所に出始めるが、突然後藤が亡くなってしまう。その直前、店でオムライスを頼んだ後藤が亡き奥さんとの結婚の決め手となったオムライスの思い出を語ったばかりなのが、逆に強烈な印象を残す。

 店の一子、常連客の山手と後藤、それから三原も高齢者であることはわかっていたが、まさか突然その中の一人が亡くなってしまう展開になるとは、チョー驚いた(笑 いや笑い話ではないが。ここ最近シリーズのレベルが上がって来ていたが、ここまでするとは。

 このシリーズは書かれた時期とリアルタイムを一致させているので、コロナも話の中に登場。本来であれば、飲食店であるはじめ食堂は大打撃を受けるはずだが、そこは小説ということで、ほぼ通常営業で済んでいる。後藤が亡くなったのはその代替えとも思えないが、衝撃的だった。本作が康平と瑠美の新たな恋が始まる予感がしていたので尚更。良いことがあれば悪いこともあるというバランスを取ったのかしら。

 

 

 このエピソードとは別に、印象的だった言葉があったのでメモ。

 

 誰にも青春があった。誰もそれを取り戻すことは出来ない。

 二つの文をつなぐ接続詞は「そして」もあれば「しかし」もある。二三は「そして」を選ぶ。一子もまた「そして」を選ぶだろうと、素直に信じられた。

 

 確かに接続詞をどちらにするかで文章全体の意味合いが微妙に異なる。私もできれば「そして」を選びたいと思う。