焼肉で勝負! 食堂のおばちゃん10 山口恵以子

●焼肉で勝負! 食堂のおばちゃん10 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

 

食育は豆腐ハンバーグ

 店に佃小学校の児童の母親3人がやってくる。その中の一人、徳井はPTA副会長をしており、3人は通級指導学級に通う発達障害がある子供たちの親だった。彼女たちははじめ食堂に、夏休み食育教室を開く手伝いをして欲しいと言ってくる。二三たちはそれを引き受け、料理研究家の瑠美も手伝うことを約束する。二三の高校時代の同級生保谷京子がアメリカから帰国、同窓会を開く。後日保谷は食堂にもやって来て話をする。彼女は帰国し日本に住むことを考えていたが、住む場所について悩んでいた。

 

空き家とタコライス

 万里が亡くなった後藤の家の前に車が止まっていたことを店で話す。その事を山手に話すと彼は何も聞いていないと答え、後藤の娘渚にも確認。おかしいと思った山手が後藤の家へ。後藤の家は空き巣に入られていた。店に警察の児嶋が事情聴取にやってくる。大阪に住む渚も来京、店にもやってくるが、後藤の家の取り扱いに困っていた。その後近隣で強盗事件が発生、同じ犯人だと思われ児嶋が再度店に来る。保谷京子が店にやって来て住む家のことを話す。二三は後藤の家が条件ぴったりであることに気づく。

 

おにぎり、ふしぎ

 後藤の家を保谷に貸す方向で話が進む。佃小学校での食育教室を開かれる。順調に進んだが、試食の段階になり、日渡親子の息子秋が食べたものを吐き出してしまう。両親卓人とむつみは怒るが、一子は優しく秋に語りかけおにぎりを食べさせる。後日、日渡親子がはじめ食堂を訪れる。一子や二三、瑠美などが日渡夫婦に食事はもっと気軽に考えれば良いとアドバイスする。

 

焼肉で勝負!

 はながしばらく店に顔を出していないと話題になる。その時はなが上司丸橋課長と同僚の女性2人の4人で店にやってくる。その日の夜、万里のスマホにはなから後日会いたいと連絡が入る。はなはストーカー被害にあっていると万里に相談、警察にも行くが犯人はわからなかった。しばらくしてまたはなが同じメンバーで店にやってくる。丸橋課長が出されたカニ雑炊にガラスが入っていると騒ぎ怒り出す。しかし店にいた瑠美がそれはカニ缶に入っているストラバイトと呼ばれる物質で危険はないと諭す。丸橋はそのまま店から出て行くが、瑠美はそのガラス片を取って置いて欲しいと言い残し店から出て行く。戻って来た瑠美はそれが本当のガラス片で丸橋の仕業だと言い出す。彼の様子を見ていた二三たちも同意し、はなのストーカーが丸橋ではと話す。翌日、丸橋がはなの家に侵入しようとしたところを捕まり、他にも余罪があることがわかる。

 

運命のスコッチエッグ

 週刊星雲がはじめ食堂の取材をしたいと店にやってくる。サラリーマンに人気の週刊誌に取り上げられるのは良いことだと取材を受け入れる。後日ライターとカメラマンを同行し取材が入る。客として来た瑠美がライターの片桐を見て愕然とする。店が終わった後、取材に疲れた一子と二三はバー月虹へ。その時瑠美と片桐の二人が店から出て行くところだった。翌日瑠美は店にやって来て、片桐が学生時代に付き合っていたカレだったこと、その別れのきっかけが瑠美が作ったスコッチエッグをバカにしたこと、バーで会っていたのは仕事がない片桐から仕事を紹介して欲しいと言われたことを話す。

 

 シリーズ10作目。2021年夏から秋にかけての話。前作がとっ散らかった話だったが、本作は少し前、6,7作目あたりと同様、2つのテーマがある展開。

 1話目は、近所の小学校に通う発達障害を持つ児童に料理を教える話。2話目は、亡くなった後藤の家に空き巣が入る話。3話目は、小学校での料理教室の件。4話目は、はなのストーカー事件。最終話は、店の取材に来たライターが瑠美の昔のカレだった件。

 2つのテーマのうち一つはは、小学校での料理教室の話。普通の児童相手ではなく、発達障害児が相手というのがミソ。ちょっとしたトラブルが起きるが、一子の行動や言葉がそれを解決する。もう一つは、上述しなかったが、二三の同級生保谷京子が帰国し住宅を探す話。結果的に2話目の空き巣事件がきっかけとなり、京子が後藤宅を借りる話に落ち着く。

 前作同様、パワーが落ちたように感じられるのは仕方なしか。元々、パワー云々よりも、店で語られる常連客と従業員たちの会話と料理が本シリーズのウリであり、なぜかシリーズを読み続けることになる理由でもあるから。

 

 本シリーズを通じたテーマは高齢者問題だと思うが、本作でも亡くなった後藤宅の空き家問題、それに関連するオレオレ詐欺、海外で住んでいた日本人が老後を日本で暮らそうとした時に起きる問題、などいくつか触れられている。店での他愛もない会話も楽しいが、そんな中でこのような問題がさらっと書かれているのも魅力のひとつだろう。