八つ墓村

●671 八つ墓村 1977

 1566年、落ち武者がやっとの思いである村へたどり着いていた。

 現代。空港で誘導員として働いていた寺田辰弥は上司から新聞の尋ね人の欄に自分の名前があることを知らされる。それに従い辰弥は大阪の法律事務所を訪ねる。そこでこれまでの身の上話などを聞かれる。辰弥は母鶴子の連れ子で新しい母とはうまくいかず高校卒業とともに家を出て、11年前の父の死とともに東京で暮らしていた。辰弥は弁護士に背中の傷を見せるように言われる。事務所には辰弥の母方の祖父井川丑松と名乗る老人が同席しており、辰弥に岡山へ戻ってきてほしいと言われる。その丑松が突然苦しみ出し死んでしまう。

 岡山から美也子がやってきて辰弥は丑松の葬式に参加するため八つ墓村へ行くことに。辰弥は死んだ母鶴子から本当の父は遠い所にいると聞かされていた。駅に着き、辰弥は美也子とともに実家へ向かう。途中、美也子は村には多治見家である東家と美也子の実家である西家がある、この村は八つ墓村と呼ばれていたと辰弥に教える。車で実家に向かっていたが、その車の前に濃茶の尼という老婆が出てきて、八つ墓明神の祟りじゃ、丑松だけでなく8人が殺されると騒ぐ。

 多治見家では辰弥の儀姉である春代が出迎える。辰弥は大叔母さまである双子の姉妹、小竹と小梅に挨拶し、義兄である久弥は病状が良くないこと、春代は出戻りであること、などを聞かされ、辰弥だけが頼りだと言われる。辰弥は昔住んでいた頃のままの離れで寝ることに。一人になった辰弥は母鶴子が、自分が生まれた場所は竜のあぎとと呼ばれるところだったと言っていたこと、赤ちゃんの頃に背中に火の棒を押し付けられたことを思い出し、起きてしまう。その時双子の小竹小梅が庭の蔵に入って行くのを目撃する。

 翌日丑松の葬式が行われる。そこにも濃茶の尼が現れ呪いだと話す。辰弥は美也子に連れられ八つ墓明神へ。そこで400年前に起きた落ち武者殺しとその時の落ち武者たちが語った末代まで呪ってやる、という話を聞く。そこへ金田一と名乗る探偵もいた。落ち武者たちを殺した村人だったが、総代で多治見家の祖先に当たる庄左衛門はその後狂ってしまい、村人8人を殺したと伝えられていた。それを聞いた金田一は村の小学校の校長である工藤に、総代以外の3人について尋ねる。

 辰弥は美也子に連れられ東家へ。そこで親類縁者たちを紹介されるが、皆多治見家の金をあてにしていた。病床の久弥にも会うが彼も多治見家の財産を奪われないようにと辰弥に話す。その久弥が激しく咳き込み、小竹小梅が薬を飲ませるがその直後に久弥は血を吐いて死んでしまう。

 久弥の葬式が行われるが、その場に警察が来て久弥の死体を解剖することに。それを警察の磯川警部に進言したのは金田一だった。その夜、辰弥はまたも双子の小竹小梅が蔵の中へ入って行くのを目撃した。翌日辰弥は一人で蔵の中へ。そして隠し扉を発見、鍾乳洞へ通じる通路を見つけ中へ。そこで鎧武者を発見、驚いた辰弥は春代に知らせ、二人で鎧武者を見に行くが、それを見た春代はそれが彼らの父、要蔵だと話す。春代は要蔵が28年前に狂い、春代の母をはじめとする村人32人を殺戮した話を辰弥に聞かせる。おそらく小竹小梅が逃げ戻って着た要蔵を鍾乳洞に匿い、毒殺したのではと話す。さらに要蔵が狂った原因は辰弥の母鶴子が辰弥を連れて逃げたためだと話す。

 本当の父のことを聞いた辰弥は恐ろしくなり村から帰ることに。しかし警察に捕まり事情聴取を受けることに。丑松、久弥の死亡時に辰弥がその場にいたためだった。怒った辰弥は駐在所を飛び出しバス停に向かうが、そこで金田一と出会う。金田一は辰弥に彼の本当の父は要蔵ではないと話す。

 辰弥は丑松の子で、大阪にも来た勘治の家へ。そこで母鶴子が要蔵に拉致されたことを聞く。辰弥は勘治に自分の父が要蔵なのかと尋ねるが、勘治は丑松が大阪に出向く前日に、辰弥が生まれた100日目鶴子がお宮参りをする姿を見たことを丑松が語り、辰弥が本当は誰の子か、は校長である工藤が知っていると言っていたと話す。

 辰弥は美也子に会いに行き、工藤と会う約束を取り付ける。工藤は昔の写真を見せ、辰弥の父については岡山へに出張から戻ったら全てを教えると話す。その頃、金田一は28年前の殺戮の被害者について調べていた。磯川警部と会った金田一はしばらく村を離れると語る。金田一はその後、和歌山、大阪、滋賀、京都、兵庫を訪ね歩いていた。

 村では祭りが行われ、久弥の初七日法要が行われる。その場に工藤が戻って来ており、辰弥に明日3時に学校でと話すが、その後工藤は法要の場で苦しんで死んでしまう。警察は3人の死がいずれも毒殺であったことから久野医師を疑い、久野診療所へ向かうが久野は行方不明だった。

 しかし村人たちは辰弥が来てから一連の事件が起きたことから辰弥を犯人だと決めつけ駐在所に辰弥を捕まえるように訴えかける。その頃辰弥は法要の場のことを思い出し、工藤の膳があらかじめ決められていたわけではないことから、犯人は工藤を狙ったのではなく、誰でも良かったのだと気づく。その時暴徒と化した村人たちが東家を襲い辰弥を探そうとしていた。春代は辰弥を蔵の抜け道から鍾乳洞へ逃そうとする。そこへ小竹がやって来て、鍾乳洞で小梅が襲われたと話す。小竹を春代に任せ、辰弥は一人鍾乳洞へ。そして金田一と遭遇、二人は鍾乳洞の中を歩き回り、小竹の遺体を発見、さらに磯川警部たちとも遭遇、そこでは久野医師が殺されていた。磯川警部は、身辺保護のため辰弥に鍾乳洞から出ないように命じる。村人たちは東家の中にも入り込んで辰弥を探していた。

 金田一は美也子に会いに行き、辰弥を支えてくれるように話す。美也子は辰弥に食事の差し入れに行き、一緒に竜のアギトを探しに鍾乳洞の中を探し歩く。久野医師や小竹の遺体を見つつ、二人は竜のアギトを見つける。そこは辰弥の母鶴子が恋人と愛しあった場所で、辰弥と美也子も同じように愛しあう。

 金田一は警察とともに村人たちへ鍾乳洞へ入ることを禁じると命令を出す。もう少しで全てが解決するというのが理由だった。その頃一人だった辰弥は女性の悲鳴を聞く。春代が何者かに襲われていた。死の直前春代は自分を襲った犯人の指を噛んだことを辰弥に告げ、辰弥は本当の弟ではない、以前血液型を調べ要蔵の子ではないことを久弥、小竹小梅、春代は知っていた、鶴子もそれを知り逃げ出した、久弥は辰弥が多治見家と血の繋がらないことを知った上で、辰弥に全てを継がせることを言っていた、と話す。

 金田一は村人たちと鍾乳洞の出入り口で待機していた。そこへ村人がやって来て2時間ほど前に春代が鍾乳洞へ入って行ったこと、その後悲鳴が聞こえたことを告げる。そこへ金田一に依頼された諏訪弁護士がやって来て、美也子が経営している会社の経理状況の書類を金田一に見せる。その頃辰弥の元に美也子が現れ、春代で被害者は7人目だと話すが、辰弥は美也子の指が怪我していることを目撃、犯人だと悟る。金田一は村人たちに今回の犯人は美也子であり、動機は経営不振に陥った会社を立ち直すために多治見家の財産を狙ったものだと話す。多治見家が絶えると財産は久野医師へ、その後は西家のものになるため、祟りを利用し関係者を殺害したものだった。久野診療所の毒薬を使うことで久野医師へ嫌疑を向けていた、とも。

 そして金田一は美也子すら知らない事実を語り出す。28年前の要蔵に夜殺戮で一家が絶えた3家族は、祖先を辿ると落ち武者殺しの時の総代の3人だったこと、残る総代が多治見家であり、その多治見家により残る3家族が絶えたことになる。さらに美也子の家系を辿ると島根の武士にたどり着き、それが400年前に殺された落ち武者の家系だったこと。

 その頃辰弥は美也子に追われ逃げ続けていた。絶体絶命の危機が訪れるがその時地震が起き、鍾乳洞が崩れ始め美也子はその下敷きになってしまう。さらにそれが原因で鍾乳洞から多数のコウモリが飛び立ち、東家を襲う。お経をあげていた小梅だったが、コウモリがろうそくを倒し東家は火事になってしまう。鍾乳洞から抜け出た辰弥は東家が火事になっているのを目撃するが、同じように落ち武者たちが笑いながらそれを見ていた。

 事件後、辰弥は空港でこれまで通り働いていた。金田一は諏訪弁護士を訪ね話をする。辰弥の実の父は実業家として成功していたが、金田一はそれを辰弥には告げなかった。

 

 今年NHK吉岡秀隆金田一シリーズの再放送があり、2回目となったがその中の八つ墓村を観た。本放送の2019年にも観ているが、どちらの場合でも、この渥美清版の八つ墓村とは全く異なる印象を持ち、逆に本作をまた観てみたいという欲求が高まっていた。で、BS東急松竹で放送があったので鑑賞。

 

 子供の頃に金田一映画のブームが起こり、石坂金田一シリーズとは異なる本作ももちろん観たことがあったが、ラストの小川真由美さんのバケモノのような姿が恐ろしいのと、石坂金田一のラストにある、名探偵が関係者を集め事件の謎解きをする名場面がなかったことで、本作はその後しっかりとは観ていない。何度かテキトーに観た記憶はあるが、ストーリーをしっかりと把握しながら観たのは、今回が初めてかもしれない。

 

 結論から言えば、本作は原作の事件解決に関する推理シーンを大幅にカットし、ただただ恐ろしい映画、誤解を恐れず言えば単なるホラー映画を作ろうとしたかのような作品になってしまっている。確かに先行して大ブームを起こしていた石坂金田一は、その殺人発覚シーン=遺体発見現場の異常さや映画全体が醸し出す恐ろしさが一つのウリだったのは間違いなく、多くのパロディが作られた。本作も松竹が全力を挙げてそのブームに追いつこうと作られた作品であるのは想像に難くなく、そのため本作のようなホラー映画のような出来になってしまったのだろう。

 NHKによる吉岡版金田一では、「八つ墓村」は8組の二人組の名前が書かれたメモ、というのがこの事件のキモであることを示していたが、本作ではそのメモは一切登場しない。代わりに、辰弥が終盤で校長工藤が殺された場面を思い出し、犯人は工藤を狙ったわけではなく誰でも良かったんだと気づくシーンがあるだけだ。

 事件のキモとなるメモを省き、後半立て続けに殺人が起きる一方で、それに関する説明があまりないため、推理小説(映画)としての面白さは全くと言って良いほどなくなってしまっている。

 それでもラスト、渥美金田一が事件の裏に潜んでいた、祟りを裏付けるような説明をする場面はさすがに面白かった。単なる財産目当ての良くある犯行だと思いきや、犯人も知らない裏があった、というのが本作のせめてもの救いだったように思う。

 

 ストーリー展開は上記の通りあまり面白くなかったが、出演している俳優陣は超豪華メンバー。渥美清さんが寅さん以外のキャラクターを演じていることが注目される作品だが、寅さんつながりで言えば、校長はおいちゃんだし、辰弥の幼少の頃は吉岡秀隆だし、吉岡くんはこれが映画デビュー作品らしいし。それ以外にも脇役が登場するたびに、あぁこの人まで出てるんだと思うような人ばかり。冒頭や回想シーン、ラストでも登場する村人に殺されてしまう落ち武者に田中邦衛さんまで使っているのには驚いた。

 

 今回、本作を調べているうちに、本作から約20年後に石坂金田一市川崑監督で八つ墓村が製作されているのを知った。トヨエツ金田一らしい。あぁそう言えばそんな映画も観た記憶が少しあるなぁ。そちらは原作にどれだけ忠実に作られているのかしら。ちょっと観てみたいなぁ。