物書同心居眠り紋蔵 隼小僧異聞 佐藤雅美

●物書同心居眠り紋蔵 隼小僧異聞 佐藤雅美

 南町奉行所の物書同心藤木紋蔵は勤務中でも居眠りをする奇病を持つ。そんな紋蔵が様々な事件に関わることになる。以下の8編からなる短編集。

 

 

落ちた玉いくつウ

 油屋河内屋が火事になり全焼。生き残った一人娘お喜代を引き取った夫婦が駕籠訴をする。河内屋の土地を伊勢屋が買い取ったが、河内屋の地下に150両が埋めてあると聞かされていたお喜代の話を訴え出たが、その後夫婦は罰せられお喜代は一人になってしまう。そんな中河内屋の跡地の呉服屋が火事となりお喜代に放火の疑いがかかる。


沢瀉文様べっ甲蒔絵櫛

 牢屋見廻りの松原新三郎が仕事で失態を起こし50日の押込となる。松原の様子がおかしいのは妻との離縁が原因だと忠告があり、紋蔵は離縁の原因ともなった松原の母に話しに行くが、押込でノイローゼ気味の松原に襲われてしまう。


紋蔵の初手柄

 紋蔵は小伝馬町の牢に証文もなく入っていた男が誰であるかを調べるように命じられる。失踪した人間を記す欠落帳を調べ始めた紋蔵は、男と似た人相の石松という男にたどり着くが…


罪作り

 陸奥藩の藩士岡野誠一郎は女好きで手当たり次第に女遊びをしていたが、彼の言葉を信じた加代という女が岡野に結婚を迫り毎日屋敷を訪れるようになる。紋蔵は加代を何とかして欲しいと頼まれ本人に会うが加代は一歩も引き下がらない。紋蔵は奔走するが、そのうち岡野が加代との婚姻を受け入れたという話が聞こえてきた。


積善の家

 捨吉の紹介で紋蔵は材木問屋飛騨屋和助と会う。和助はお上から預かったお金で理を稼いだことを咎められ死罪となりそうなのを紋蔵に口を聞いて欲しいと頼んでくる。奉行所で紋蔵の息子紋太郎が御用御側の横田の息子と一悶着を起こし紋蔵は屋敷へ謝罪に行く。そのことがきっかけで和助は罪を受けずに済む事に。


隼小僧異聞

 砂糖問屋の手代文吉が店の金10両を盗んだ疑いをかけられクビになる。紋蔵は子供達が通う手習塾の師、市川初江から前の奉公先で30両を盗んだ疑いをかけられたと相談を受ける。そんな時世を騒がせていた泥棒隼小僧が捕まり、紋蔵は初江の疑いを晴らすために30両を盗んだのは隼小僧の仕業だとしようと考える。隼小僧が盗んだ金の一覧が出来上がり、その中に砂糖問屋10両とあったのを紋蔵が発見するが…


島帰り

 紋蔵の父を訪ねて島帰りの源次という男が訪ねてくる。源次は30年前叶伊勢屋に100両の金を預けていたがその証文を失くしてしまっていた。しかし紋蔵は父からそのような話は聞いていなかった。紋蔵は旗本駒井家の息子が大小二本を奪われたので探せと上司に命じられる。駒井家を訪ね事情を聞いていた紋蔵は、駒井家の屋敷で源次と出くわす。


女心と秋の空

 紋蔵が古くから知る畳屋の娘お喜代が妾奉公に出る事になった。紋蔵はそのお喜代から旦那の奥さんが火つけをしたと話したと相談を受ける。紋蔵は旦那である㫪米屋の重蔵を訪ね事情を聞くが重蔵は逆にお喜代の様子を疑う。重蔵に関して調べを進めても奇特な人だという評判だった。紋蔵は重蔵の前の勤め先だった店の火事について調べ始める。

 

 前作に続くシリーズ第2作。前作を初めて読んだ時には、あまりにもこれまでにない時代小説で驚いたが、本作は2作目ということもあり最初から楽しんで読むことができた。

 前作では世の中の不条理をそのまま小説にしたような話が多かった。本作1話の「落ちた玉いくつウ」2話の「沢瀉文様べっ甲蒔絵櫛」もその流れを汲んだ話だったが、3話目以降、紋蔵が活躍をするスカッとした話になっていく。

 3話目では紋蔵本人が大手柄を立て、4話目は紋蔵の調べが元となり同僚大竹が手柄を立てる。5話目はそんなツキにつきまくっている紋蔵に捨吉が乗っかり、その通り死罪でもおかしくないと言われていた和助が助かる。ここまでこれまでの話と異なり、勧善懲悪とも言える話の展開が続く。

 そんなツキまくっていた紋蔵にお灸をすえるかのような6話目。紋蔵のちょっとした行動の遅れで、一人の若者を悪の道へ踏み込んでしまうのを止められなかった。7話目は、そんな紋蔵だからこそなのか、紋蔵は罪を犯した人間をそっと見守る立場に。

 そして最終8話目また不条理の中、紋蔵は奔走するがオチはやっぱり女は恐ろしい、といったところか。

 

 相変わらず他の時代小説では知ることのできない事柄の説明も多かった。武士が支給される米が金に変えられる仕組み、敲き刑、闕所品の取り扱い、妾奉公など。本当にこの作者の知識には恐れ入る。

 紋蔵の長男、長女も家を出て行き、藤木家も少し寂しくなった。一方で事件を通じて義父の子供に対する気持ちを改まるなどの変化もあった。大活躍で定廻りの目も出てきたようだが、今後どうなるのか。まだまだ楽しみなシリーズである。